これはもう、書かずには寝られ―ん!
こんばんは、渋谷です。
朝井リョウさんの「何者」を読んだよ。直木賞受賞作。いやー、なんせ今子供がインフルエンザ真っ最中なんです。もう熱は下がったんだけどね。
図書館で借りた本全部読んじゃって、困ったなーと思ってたの。子供ほったらかして図書館だの本屋だのに行くわけにはいきませんから。だから夫の本棚を漁ろうと思ったんですが、夫の蔵書はほぼミステリーのみ。違うんだよなー、という感じ。
眺めてるうちに朝井リョウさんの「何者」を見つけた。これってたしか「桐島が部活をやめたんですけど」だか何だかいう人のやつだよなと思ってググってみた。すると「何者」は直木賞受賞作だという。
林真理子信奉者の私としては、直木賞受賞作を読まぬわけにはいかん。というわけで読んでみた。やっべえ、ちょー面白かったあ……!
そもそも私、朝井リョウさんは「桐島、部活やめるってよ」の印象しかなくて、しかも映画でしか見たことなくて、しかもその映画がつまんなくて、途中で寝入ったって記憶しかないんですよね。開始30分ぐらいで寝て、エンディングの高島優さん?の曲で目覚め、「最後の最後までなんやねーん!」という感想を持った記憶しかない。こう言ってしまっては申し訳ないんですが、何が面白いのかさっぱり理解できなかった。元々私は映画が苦手なタイプなんですが。エンディング曲も悪夢の残像みたいな印象しかなかった。朝井リョウ、謎でしかない、と思っていた。
やっぱり私のような見識の狭い人間は、「桐島、部活やめるってよ」も小説で読んでみるべきだったのかもしれません。そう思うほどに面白かった「何者」。今現在私が思う「はあ?」を見事に解き明かしてくれる作品だったんです。
主人公の拓人くんは就活生。ルームメイトの光太郎くん、光太郎くんの元カノ瑞月さん、瑞月さんの友達理香さん、その彼氏隆良くんの5人が主要登場人物。5人は就活を駆け抜けていく同志としてちょこちょこ集まります。拓人くんと光太郎くんが住む部屋の一階下に、理香さんと隆良君が住んでるんですね。みんなで飲み会なんかしながら情報交換したり。今どきっぽくSNSでつながってみたり。
私、就活ってしたことがないんですね。だからそういう世界を知らないんだけど、いわゆる目で見える断罪をされる世界なんだなというのがよくわかりました。自分がいかにへりくだってすり寄っていっても、不採用のひと言で己を否定をされてしまう。厳しいですね。決してそれは人格否定ではないはずですが、傷ついてしまう気持ちはよくわかります。22歳でそういう壁にぶち当たるって辛いんだろうな。
登場人物たちは、そういった思いをSNSにぶちまけていきます。けれどそれは、他者の目を気にして取り繕ったもの。
本音は裏垢で出るんですね。そのお互いに可視化できるアカウントと裏垢の間に、背筋がぞくっとする違和感が潜んでいるのです……!
私ね、ついこの間ここでも書いたんですが、ほんとあのSNSというものが難しくて。難しいって何なんだって話なんですが、理解しがたくて。
でも、面白いって言うのはよくわかるんです。自分が興味ある事柄の最新情報を手に入れるには、こんなに便利なツールってない。受信する側としてはとても面白い。でも、発信する側に立った時、あれって何なんだろう、と思うんです。
「私」という人間に、まわりに周知徹底ししてもらわなければいけないような重要事項、あったかしら?
私のこんな些末事、いちいち世の中に知らしめる必要性、あるのかしら?
そう思うと何にも発信することなんてない。主人公の拓人くんも、「成しえていないものを声高に叫ぶことに何の意味がある?」と考える青年なんです。就活の様子をつぶさにアップしてく仲間を俯瞰して。「出来上がったものにこそ意味があるじゃないか。中途半端に努力の痕跡だけ叫んでなんになる?」
わかるわかるよ拓人くん。「途中だから完成するために応援して!」とか「頑張ってる私を見て!」とか、なんか痛いなって思っていた。すごくうなづける思想でした。でも、後半で拓人くんは虚飾に彩られたような女の子、理香ちゃんにこう言われ気付くのです。ざっくりいうと、ですが。
「必死な姿をさらすこともできないあんたは何をなしえてるって言うの」
「高いところから俯瞰で見下ろして採点して、それで自分の手の中に何が残るって言うの!」
「私たちは何者になんかなれない、自分にしかなれない!」
……ううう、うん。
まあ……そうやな。
そういわれてみれば、そうやな。
そっか、SNSで一生懸命叫んでる人たちって、何か得ようと力を振り絞ってる状態なのか。
その先で臨むものを得ようと、頑張ってる状態なのか。
私ね、なんかほんとにこの拓人くんという主人公と同じような思考を持っていたんですね。「出来てないことを夢みたいに語るのかっこ悪い」「不完全な自分の日常をさらすことに何の意味があるんだ」ぐらいに思ってました。
まあ「作家になりたいなりたい」は言いますが、別になれないなんて思ってないからね。私はなれると思ってるから。でもそのために「これやりました!」「あれやりました!」は言わない。と言うか言えない。だって作家になれてない今はそれってものすごく中途半端な努力だもん。かっこ悪いなと思っていた。でも、恥ずかしいね。私、間違ってました。
「出来上がってる自分」になる必要はないんだね。途中でいいんだ。途中の自分を、「みてみて!」ってアピールしてもいいんだ。
このお話はこれだけがテーマじゃなく、色々含蓄を含んだお話でした。でも、今の私にリンクしていた部分ばっかりがクローズアップされてしまった。他の部分も、とても面白かったです。
とくにお友達の光太郎くんの描写は面白かったなあ。こういう子、いる。憎めないお調子者で底が知れない男。でも描写が難しい。すごく魅力的でした。女の子たちもギラギラしていて、すてきだったな。
朝井リョウさん、「桐島、部活やめるってよ」もちゃんと読んでみたいと思います。なんたってすばる新人賞受賞作だ。読まぬわけにはいくまい。読まねばなるまい。とても面白い作家さんですね。「それを言いたかったんだけど、言葉が見つからなかったの!」を教えてくれそうな方です。面白かった!
また今日も面白い本に出会いました。あー良かった。じゃあ寝よう。
ではまたー。