読書感想文49 窪美澄 ふがいない僕は空を見た | 恥辱とカタルシス

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作家志望、渋谷東子と申します。
よろしくお願いします。

うーん、驚いた!

 
こんにちはー渋谷ですっ。
 
 
 
窪美澄さんの「ふがいない僕は空を見た」を読みましたよー。山本周五郎賞受賞作、本屋大賞2位。
 
短編集で、収録作は
 
ミクマリ
世界ヲ覆フ蜘蛛ノ糸
2035年のオーガズム
セイタカアワダチソウの空
花粉・受粉
 
となっております。
 
「ミクマリ」が女のためのR18の大賞受賞作なんですね。それは面白そう、と思って読み始めたのですが、しょっぱつで私はドン引きしてしまいました。
 
「ミクマリ」、私の大大大嫌いな世界……!
 
 
 
斉藤くんは高校1年生。そこそこ綺麗な顔をした、何ごとにも気だるげな男の子です。お母さんが助産院を営むおうちに育ち、お父さんは斉藤くんが小さいときに出ていってしまいました。
 
そんな斉藤くんはある日友達に誘われコミケに連れて行かれます。そこで「なんとかいうアニメのなんとかいうコスプレ」をした小太りの女誘われ、女の家に通うことになります。
 
そこで「なんとかいうアニメ」の「むらまささま」なるキャラのコスプレをさせられる斉藤くん。女が書いた台本通りに、「ドSキャラむらまささま」を演じる斉藤くんとコスプレ小太り主婦のセックスが繰り広げられるわけです。捕らえられた小太り主婦を痛ぶる男子高校生。「むらまささまあ、イッてしまいますうう!」
 
きっもいわあああああ!
 
……いや、フィクションなんですよ。わかってますよ。わかってるけど、本気でキモい。ない。あり得ん。なんかねじくれた世界がそこには広がっています。倒錯なんて言葉は当てはまらない、異様な世界。
 
斉藤くんには言い寄ってくる女の子がいっぱいいるんですよ?なのにこのキモい主婦をなんか好きになっちゃう。キモいセックスしたくてしょうがなくなっちゃう。なんで?理由があるのかも知らんけど知りたくない。それぐらい嫌悪感しかないセックス描写でした。これが大賞?ってほんとに思った。この本読むの、もーやめよかなーって。
 
でも読み進めてみた。まあ結論から言えば小太り主婦はちょっと頭が痛い人な訳です。2話目の「世界ヲ覆フ蜘蛛ノ糸」は彼女が主人公でどこまでも気持ち悪い彼女の思考が書き連ねられていきます。
 
能力が低くなにやっても怒られるから働きたくない。だからストーカーとして有名なマザコン男と結婚しちゃう。家でだらだらしてマンガやアニメの世界に浸っていたいわけです。
 
若い頃言い寄る男みんなとやっちゃったもんだから性病になってて妊娠できない。孫よこせ姑に突かれて不妊治療しますが妊娠しない。それで家に高校生連れ込むって!コスプレさせてバカなエロゲの再現って!
 
ストーカー夫にすべてバレ、斉藤くんのハメ撮り画像が流出しちゃいます。人生半分終わったも同然。小太り主婦は体外受精しにアメリカに行っちゃうし。失意の斉藤くんはすっかり引きこもりに。まーそらそやな。
 
ここまではほんま何が面白いんかわからんかった。きもっ。ないわー。ぐらいしか感想なかった。でも後半が良かった。斉藤くんのお友達、良太くんのお話と斉藤くんのお母さん、助産院の先生のお話。
 
 
 
引きこもりになった斉藤くんを気遣う良太くんは、貧しい家庭が集まる団地に住んでいます。痴呆症のお祖母ちゃんと二人暮し。お父さんは借金苦の果てに自殺、お母さんは彼氏と同棲中で家に帰ってきません。
 
高校に通いながらバイトに明け暮れる良太くんは、人生になんの希望も持っていません。勉強も嫌いだし。なんにもいいことなんかない。
 
でもバイト先のコンビニに元進学塾講師の男性、田岡さんがいて、良太くんを明るい場所に戻してくれようとする。勉強を教えてくれてごはんを食べさせてくれて。良太くんの成績はぐんぐん上がります。それで良太くんは自分のしていたことを恥じます。優しいお母さんに守られている斉藤くんに嫉妬して、良太くんは斉藤くんのハメ撮り画像をご近所さんにポスティングいたんですね。……なにやってるんでしょうか。
 
良太くんのお母さんは良太くんの貯金を全額引き出して逃げちゃったんですが、そんなことがあっても田岡さんのおかげで良太くんはひねずにすみました。でもその田岡さんは小児性愛者。しかも男児限定。
 
捕まっちゃう田岡さん。良太くんはそれでも、最短であの団地から抜け出すべく努力を続けていくのでしょう。環境にひねて他者を羨むだけだった良太くん、大きな成長です。
 
 
 
斉藤くんのお母さんのお話、「花粉・受粉」は壮大な命のお話。助産院で繰り広げられる命のドラマ。それとお母さんの今までの人生と、ハメ撮りを垂れ流されて引きこもりになった息子への愛と苦悩が絡みます。要はこの話に至るために、他の4篇はあったんですね。
 
お母さんは助産師さんなので、赤ちゃんをとりあげることはしますが、外科的な処置が必要だったり胎児に危険が迫ると産婦人科に頼ることになります。「自然なお産」を望んで妊婦さんたちは助産院の扉をたたきます。でも、お母さんは「自然なお産」という観念に疑問を持ってるんですね。
 
「自然なお産」っていうのは、つまり淘汰される命もあるってことよ?っていう。外科的処置がなければ昔は難産で死んだ妊婦さんも赤ちゃんもたくさんいた訳でねえ。分かるわー。私も妊娠中に3ヶ月入院した。
 
西洋医学に助けられなければ、うちの子供は死んでました。今横でぴんぴんしてますけど。でも西洋医学が助けようとしても死ぬ赤ん坊は死ぬ。
 
斉藤くんのお母さんは、「どーやったって死ぬ子は死ぬ」っていうのが身に沁みてるのかなと思います。自分がなにやったって大きな力の前では無力だって知ってる感じ。だからエライことになった息子にもぎゃんぎゃん言いません。一歩引いたところから見てる。もちろん心配はしてますが余計な口は出さない。自分が何言ったって大局は動かないって知ってるから。でも誰より深く息子を愛していて、ひと言だって責めようとはしない。
 
うーん、こんなお母さんって素晴らしいなあ。私もこうありたい。母として、と言うか、人間としてデカイ。「じたばたしたってどうにもならん!腹据えとけ!」的な強さ。そうしてるうちに、「オセロのように状況が変わる瞬間がくる」んだって。お母さんが通ってる漢方の先生のセリフなんですが。確かに。明けない夜はないし、止まない雨はないね。
 
そんなわけで最後には少し元気になった斉藤くん。5話目まで読んでやっと、この本の素晴らしさが分かりました。途中でやめなくて良かった。1話目との落差に驚いたよー。
 
他の本も読んでみよ、窪美澄さん。
 
ではまたー。