恥辱とカタルシス -12ページ目

恥辱とカタルシス

作家志望、渋谷東子と申します。
よろしくお願いします。

溶連菌、だってさ。

 

こんにちは、渋谷です。

 

 

 

今日から子供が学校に行き始めましたよー。

 

週末の高熱は溶連菌だったそうで。

 

溶連菌、てなんなんやと思いきや、子供が良くかかる病気なんですってね。喉にきて高熱が出て、ほっといたら発疹が出たりして猩紅熱に発展したりするんだって。猩紅熱。なつかしい。ベスがかかったやつですね。ご近所さんの赤ちゃんからもらってきて。

 

なんかたいそうな病気なのかと思いきや、薬を飲んだら2日ぐらいで学校行ってもいいんだって。翌日には平熱に戻ってたし。1週間抗生物質を続けないといけないらしいんですが、薬さえのんどきゃなんてことない病気のようです。

 

うちは初溶連菌だったので驚きましたが、そういやご近所の子供さん5人いるご家庭は、よく「家庭内で溶連菌が蔓延してるのよー」とか言ってたや。薬を途中で投げ出すとリウマチの原因になったりするらしいので、それだけは気をつけなくちゃというところですね。

 

お休みの間、子供は珍しく甘えっこになっていたのでみちみちごにごにとラブラブで過ごしました。もうお腹いっぱい。やっぱり一人は風通しがいいわあ。

 

と、いうわけで今日は120冊目の読書感想文。塩田武士さんの「氷の仮面」を読んだお話です。

 

 

 

主人公は翔太郎君という男の子。小学4年生です。とても可愛らしいお顔をした男の子で、性格は少し引っ込み思案。でも幼馴染の健二や耕三とわんぱくに遊ぶ一面も持っています。この翔太郎君、好きな漫画が「ときめきトゥナイト」。うーん……世代。私も小学生の時にドはまりしたよ。知ってます?ときめきトゥナイト。折しもついこないだ、子供が私の本棚にあるこの作品を見つけて読み始めてたんです。

 

大人になってから再読したくて、文庫版の物を買っておいてあったんですね。うちの子小学一年生ですが結構漢字が読めるので、ハマってどんどん読み進めていました。それを見て母は思った。ガラスの仮面も読ませて沼にはめてやろう。酷い母親ですね。

 

話が逸れたぞ。とにかく翔太郎君はそういうのが好きな子だったんです。ひらひらのスカート。リボンやフリル。ときめきトゥナイトは真壁君というちょっと不良っぽい男の子を、魔界からやって来た蘭世ちゃんという女の子が好きになって……というお話なんですが、翔太郎君のクラスには偶然にも真壁君という名前の男の子がいまして、翔太郎君は彼を好きになってしまいます。そう、翔太郎君は性同一性障害だったのです・・・・・・。

 

この翔太郎君という男の子が、いかにして性の不一致を乗り越えていくかという物語です。小学4年生だった翔太郎君の中学時代、高校時代、成人したのちを、丁寧に追った作品。真壁君との初恋、中学時代に経験したいじめ、高校時代に流れで付き合わざるを得なかった彼女、親バレからの家出、おかまバーで夢を追ったり、手術して女の身体になっていくことへの喜びと恐怖をかみしめたり。

 

もうね、一人の元男性だった女性の一代記として、すごい迫力なわけですよ。翔太郎君は蘭と名前を変え、おかまさんのショーパブでダンサーをしながら少しずつ女性の身体を手に入れていきます。睾丸を摘出する手術を受け、「これでもう自分は子孫を残せなくなったんだ」と愕然とするシーンがあったのですが、こんなの、私にはまったく思い至らなかった感情で驚きました。

 

女性になりたい方って「子供を産みたい、母になりたい」って考えるんだろうなって思ってたんですよ。でもそうじゃなくて、精子を作ることができなくなったことで、「人間として子孫を後世に残すことができなくなった」。これは……深い。男とか女とかいう問題の先に、そんな生物的な空虚感が待っているなんて。なんと切ない描写なのでしょう。

 

そして蘭ちゃんは恋も思い通りにはできないんですね。男の人を好きになることはあるんですが、保険証の名前から男だとバレてダメになっちゃったり。ここにも象徴的な場面があったんですが、ショーパブのママさん(元男性)が蘭ちゃんと恋バナの最中、「その相手の男の人は、蘭ちゃんの身体のこと知ってんの?」と口にする。

 

彼女たちははっきりと「自分は女」という認識なんですね。その上で、「身体に中途半端に男性的な部分が残っている」という認識。私いわゆるニューハーフの人って、そういうタイプの人、って認識だったんです。だっておかまさんって自分のこと「おかま」ってはっきり言うじゃないですか。でも違うんだ。あの人たちは「女」なんだ。身体にちょっと男っぽいところがあるだけ。本人は自分がどうしようもなく女だということを突き付けられて生きている。それって、とてつもなく辛いことじゃないですか。私も自分の股になんかついてる状態で生きていけって言われたら、もう宦官になっちゃいたいと思うでしょう。今更ながらに性同一性障害という状態で生まれてきた人たちのことを考え、胸に迫るものがありました。

 

 

 

蘭ちゃんはずっと心の中で真壁君を思い続けて生きてきました。真壁君は結婚して二児の父になるんですが、最後の最後、蘭ちゃんは真壁君に秘めていた思いを伝えるチャンスが与えられます。そこで明かされる真壁君の思い。ううう……あたしゃ泣いたよ。蘭ちゃん良かったね。家族と反目しても自分を貫いた蘭ちゃん。完璧な女性の身体を手に入れ(私は知らなかったんですが、手術でないところに女性器を作ることができるらしい)、戸籍上も女になることができました。……この後どうすんだ?まさか真壁君と不倫?いやいや……でもありそうなラストだったけど。

 

なんにせよ、すごい迫力で最初っから最後までを熱っぽく走り抜けていくお話です。面白かった!なのにひとつだけ気になったのはタイトル。「氷の仮面」。これ、このお話の熱が全然伝わってこない!なんか「氷の微笑」みたいでぱっと手に取りたいと思えない!

 

あたたかい人の思いによって溶かされる、氷の仮面をかぶって生きてきた蘭ちゃん、ということを表現したようですが。「翔太郎と蘭」で良かったんじゃないかなあ。最後の一文だった、「桜は、始まりの花」でもいい。とにかく「氷の仮面」じゃ、この作品のいいところが何ら伝わってこない気がする。

 

好きだからこそ勝手にずーずーしく案まで練ってしまいましたが。私、この作品好きだわー。塩田武士さん、すごい人かも。他のも読もう。ああ、楽しかった!

 

というわけで、次は吉本ばななさん。ではまたっ!

 

まさかのインフル……(-_-;)?

 
こんにちは、渋谷です。
 
 
 
昨日、午後からこんなとこに行ってました。
 
 
 
 
 
 
 
 
動物いっぱーい。
 
子供が動物大好きなので、ねだられて近所の生き物ふれあいなんちゃらみたいな店。
 
私もここ、好きなんですね。インコ手に載せられるし。ハムちゃん触れるし。カメレオンってなんであんな奇抜な色選択しちゃうんでしょうかねー。全然保護色になってないと思うんですけど。
 
なんせ入場料がひとり500円。安い。子供とふたりで行ってたんですが、なぜかやつのテンションが低い。そう言えばお昼ご飯も残しがちだったなーと思い、ソフトクリーム食べさせながら額に手をやってみると……激熱。
 
急いでとって返して熱を測ってみたら9度4分ですよー!びっくりした!9度超えるのなんか久しぶりでめっちゃびっくりした!とりあえず頓服飲ませて今日の学校はお休み。11時から病院の予約とったんだけど……まさか、インフルじゃあんめえな?
 
なんかうちの県にはまだぽつぽついるらしいんですよねー。もしインフルだったら1週間カンヅメだよ。子供がいるとなかなか小説書けん。ひとりでいられない子なので、買い物にも行けない。図書館も銀行にも行けん。
 
ま、しょーがないですけどね。しんどいのは子供だし。子供は熱を出すもんだ。でも、インフルじゃなかったらいいなあ。
 
そんなわけで今日も今日とて読書感想文。加藤元さんの「十号室」を読みました。小説現代長編新人賞の「山姫抄」がとっても面白かった加藤さん。
 
今回は……んー、やりたいことは分かるのだけど……という感じでした。やっぱり新人賞を獲る作品っていうのは熱がすごいんですね。それを期待して読むと、ちょっと何かが足りないかな、という感じがしてしまいました。
 
 
 
舞台はとあるマンション。マンションとはいっても、戸数8世帯の古い小さなマンションです。4号室と9号室がないので、満室で8戸ですが10号室まであるんです。その10号室に住んでいた森下悠子さんというおばあちゃんが死んだことから話は始まります。
 
その森下さんの姪っ子、詩乃ちゃんがそこを引き継ぎ遺品の整理をしています。そこで、自分にあてられた手紙が残されていることに気付く。心残りをつづった内容である模様。悠子おばちゃんは生前詩乃ちゃんにとてもよくしてくれました。だからおばちゃんの無念は私がはっきりさせる、と誓って、詩乃ちゃんはこのマンションに引っ越してくるんです。
 
このマンションには、月に一回持ち回りで自宅を解放して、お茶会を開くという恒例行事があります。めんどくせっ。とうぜんそこはマウンティングや噂話に花が咲くイヤーな場所になります。築30年以上のマンションですから、古参が幅を利かせて新参者が気を遣って、みたいな構図もあります。もちろんみんな大人ですから、表立ってやりあったりすることはほとんどないのですが。
 
前回読んだ「よるのふくらみ」の商店街もそうですが、狭く濃いコミュニティがそこに出来上がっているんですね。私もマンションに住んでるのでよく分かりますが、もうひとつの村なんだよね。うちは80戸ぐらいの中規模マンション。築年数も古いので、大体どこの誰がどうなってるのかが分かる。あそこは離婚して父ちゃんが出てっただの、子供が仕事辞めて帰って来て一緒に住んでるだの、別に知りたくもないのに耳に入ってくる。
 
そんな狭いコミュニティのなかで、詩乃ちゃんは消えた一人の少年の行方について探します。悠子おばちゃんが未婚のまま産んだ、息子のたかくん。失踪という扱いになっていますが、悠子おばちゃんは殺人を疑っていたんです。犯人は7戸の住人の中にいる。さあ、たかくんはどこに消え、犯人は一体誰なのか……!
 
 
 
……というお話なのですが。
 
如何せん、登場人物が多い。
 
いや、推理もので登場人物が多いのは当然のことなんですが、なんせみんな「住人」なので。サラリーマンのA、刑事のB、記者のC、ホステスのD、てな具合に人物像が別れているんなら頭の中で処理もしやすいんですが、みんな「住人」。しかも、苗字がありふれてる。
 
藤沢、池上、柴田、中里、山岡。そんな感じの苗字なんです。おばちゃん率高いし。登場人物の整理が最後まで出来ない。何度もページをめくって「あ、この人は例の腹の中で何考えてるか分かんない人か」とか確認しなきゃいけない。まあ、私の頭の方が問題だと言われればそれまでなんですが。
 
鴻上、とか池之端、とか妙な名字を織り交ぜてくれると、整理がしやすかったんですが。それと、各人のエピソードをもっと掘り下げて書いても良かったんじゃないかと思う。事件に至るまでのそれぞれの視点だったり、その人たちがどうしてそういう考え方の人間になったかっていうのが各章で描かれているんですが、エピソードが薄い。大長編になっちゃいますが、もっとじっくりページを使って書いてもらえたら、もっと読みごたえがあって「……えーと、これ誰?」なんてことにはならなかったんじゃないかと思うんですが……。
 
 
 
お話のつくりとしては、面白いミステリーでした!犯人はうすうす気づいてましたが、そこに至るまでに恋物語や人生について深く考えさせられる逸話が散りばめられていて、「面白い話を書くなー」とうならされました。
 
とにかく、私があほなだけかも知れませんが、話の本筋に没頭できないぐらいに登場人物がごちゃごちゃしていました。やりたいことは分かるんだけど、やり方がちょっと……うーん、という感じ。どうしても「山姫抄」と比べてしまうのであれー?と思ってしまいますが、面白いか面白くないかといえば確実に面白かったです。やはり加藤元さん、好きです。
 
他のも読んでみたいと思います。次は「盤上のアルファ」が面白かった塩田武士さん。楽しみだわ。
 
ではでは、またっ!
 
ふくらんじゃってますね。

こんにちは、渋谷です。



窪美澄さんの「よるのふくらみ」を読みましたよー。なんか週末がっつんがっつん本読んでますな。「中の人」愛護月間なので、やりたいことをやらせてあげることにしたら、パンケーキ食べてチーズのデニッシュ食べて本を読む、というリビングで完結する地味な活動にばかり終始しています。いいんだ。このリビングは私の楽園なのです。

平日は自分のやりたいことを貫けますが、休日はどうしても家族を優先してしまってるんですね。でも、自分愛護を優先すると、夫は映画見てるし、子供は勝手に公園行くし。なーんだ、別に私が気張らんでもみんな勝手にやってんじゃん。じゃあ本でも読むか!ということで。

窪美澄さんの「よるのふくらみ」。なんか……タイトルがエロいよね。この言葉のチョイスが好きだわー。窪さんのセンスって、ほんといちいち私に刺さります。

で、中身ですが。これが珍しく「ぎょっとしない」窪美澄。おそらく、窪さんこの作品を「なるべく大衆的に書こう」としたんじゃないかな。大衆的、という言葉が正しいのかは分かんないけど、多くの人に理解してもらえるものを、と考えて書かれたんじゃないかと思います。

なぜなら、起こっていることは突拍子もないんですが、登場人物たちがその出来事をちゃんと社会常識内で収めようと努力しているのがこのお話だから。窪さんと言えば、事件が起きて、それが起因する欲望通りに育って、こじれてこじれてこじれて、もーいやんなっちゃってバーン!みたいなお話を書く方だというイメージがありましたので。

今回の作品は、所謂「社会的な不謹慎」を犯すまい、犯した罪から逃げまいとする真摯なお話。バーン!にならない分、内包するエネルギーが熱かったです。窪さんが切ない気持ちを味わわせてくれるなんて、「ミクマリ」の時には思いもしませんでしたよ……。



この「よるのふくらみ」は短編連作で、収録作が

なすすべもない
平熱セ氏三十六度二分
星影さやかな
よるのふくらみ
真夏日の薄荷糖
瞬きせよ銀星

となっております。

とある商店街の文房具屋の娘、みひろちゃんと、幼馴染の酒屋の兄弟、圭佑と裕太の三角関係を描いたお話です。イケメンエリートキャラの兄圭佑と、人好きする野生児キャラ裕太。みひろちゃんはミニマムなかわい子ちゃんキャラです。商店街という狭く濃密なコミュニティの中で、彼らはひとつの家族のようにして成長していきます。

みひろちゃんちはお母さんが若い男と蒸発しちゃった過去があります。3年ぐらいしてひょっこり帰って来て、その後何事もなかったかのように家庭に治まっているお母さんのことがみひろちゃんは許せません。

対して、圭佑裕太のお父さんは浮気者。商店街の顔として信頼を集めた人物でしたが、あちこちに女を作り、終いには女に子供ができたから認知してくれなんて言い出すあほ親父です。

あほ親父は胃がんであっという間に死んでしまいます。狭い商店街、噂は筒抜けで周囲の好奇心や哀れみなどを背負いながら3人は成長します。そして高校生になったある日、圭佑がみひろに告白をする。

それでふたりは付き合い始めるわけですが、裕太もこっそりとみひろちゃんに恋心を抱いていました。まあこれぐらいはよくある話なんですが、みひろちゃんが性欲旺盛なのに対して、圭佑くんがEDなものだから話はややこしくなるのです……!



窪さんのお話で何度か見かけた、女性の性欲に端を発するお話ですね。窪さんはきっとやりたいタイプの人なのでしょう。

やりたいみひろちゃんですが、すんなりと圭佑くんに「しようよ」なんてことを言えるわけもなく苦しみます。よくあるケースですよね。ほんと、配偶者(婚前含む)としかセックスしちゃ駄目ってルールがなければいいのにね。男の人には風俗があるんだから、女の風俗だってもっと一般的になったっていいはずだ。でも女って、やった相手に情が湧いてきちゃうからビジネスライクに金払って終了、とはなかなかいかないかも知れませんが。

作中でも、「昔は祭りの夜は誰とやっても良くて、その夜に出来た子供は地域みんなの子として育てていたらしいですよ」なんて話を後輩に聞いたみひろちゃんが、「いいなー、私も商店街の子として育ってきた。そんな慣習今でもあれば……」なんて考えます。そして、もう卵子の叫びが無視できなくなったみひろちゃんは、自分に好意を抱いている裕太のアパートを訪れ、ふたりはそんな関係になってしまうのです。



商店街というか狭い共同体。あまりに親しい幼馴染の3人が、周りの目にさらされながら、身体の声と本音との間で苦しむお話です。結局、最終的に話は落ち着くところに落ち着くんですが、性欲ってなんだろう、家族ってなんだろうと考えさせられる作品でした。ねー、女の性欲とか、ついこないだまで見ちゃいけないものとして扱われてたものですから。

いやそれがさ、私も多分したいほうの人だったと思うんだけど、なんか40を越えたからか、最近あんまりしたいと思わなくなってきたんですよね。だから閉経が近いのか?とか思っちゃう笑

そういう気、がなくなると女としてつまんなくなっちゃいそうな気がするし、こういう生々しい世界を描くこともできなくなってしまいそう。プラセンタでも飲むか。社会的に適切な人間でいることも素晴らしいことですが、牙も色気もないんじゃ私の書きたい小説が書けない気がする。

性欲という形のない、ある意味馬鹿馬鹿しいものに振り回されて、でもそんな自分に誠実にあろうとしたみひろちゃん。兄弟も両方いい男だった。圭佑、頑張って生きていくんだ。君は若い、転職すればEDはきっと治るよ!

というわけで窪美澄さんでしたっ。さー昼ごはんに汁なし担々麺食べてこよー!

一瞬で読破でした。

 
こんにちは、渋谷です。
 
 
 
予告通り「KAGEROU」を読みましたよー。齋藤智裕さん、水嶋ヒロさんですね。
 
この「KAGEROU」が受賞した頃のポプラ社の賞は、なんと賞金が2000万だったのだとか!2000万……。今のポプラ社新人賞は賞金200万ですので、10倍ですよ10倍。
 
「このミス」が1000万ですっけ?あ、1200万か。あの賞は影響力がすごいですから、それに対しての2000万は破格と言えると思います。で、受賞したのが有名人ともなれば、当然出てくる八百長説。
 
今さらながら、どーなのかなーと思って読んでみました。……うーん、これは、八百長呼ばわりされちゃっても仕方ないんじゃないかなあ……。
 
 
 
主人公は40歳独身男性、ヤスオ。金なし職なし借金ありで、今まさに自殺しようとビルの屋上に佇んでいます。フェンスを乗り越えようとよじよじ登るヤスオを、止めるのが美青年キョウヤ。
 
キョウヤはヤスオに、「どうせ死ぬなら臓器を売りませんか?」と持ちかけます。タダで死ぬより、「全日本ドナー・レピシエント協会」なる団体に献体すれば、遺族に大金が入りますよ、というんですね。死に方も麻酔で眠るような安らかなものだと聞いて、ヤスオは一も二もなく「やる」と決断しちゃう。
 
ここまでで、もうすでにもったいないんだよなあ。ヤスオが死にたい理由があまりにも薄い。
 
リストラされて再就職できなくて借金作って、だから死にたいっていうんです。でも彼、ダメ人間的尺度で見ると、まだなにもしてないも同然なんですね。これで親に大迷惑をかけて、以前勤めてた会社に泥棒に入って、逃げるついでに老婆のバッグをひったくって骨折させて、なのにその金を全額落としたぐらいの前段階があれば、まだ読んでる方も納得するんですが。ヤスオったら実家の親すら頼ってない。齋藤智裕さん、死にたいと思ったことなんかないんだろうなあ。金に困ったこともないんだろう。
 
しかも、ヤスオは就職してから延々会っていない親に金を残すためにドナーになると決めるんです。まあ、楽に死にたい、最後ぐらい人の役に立ちたいって気持ちもあるんでしょうが。
 
このお話の大前提である、「臓器提供をするために死ぬ」という選択を、ヤスオがする理由があまりに希薄なんです。週刊連載のマンガの中ならアリ、むしろ絵での表現で興味深い導入になるかも知れないんだけど。齋藤智裕さんの文体では表現しきれていない気がする。
 
序盤の文体が、どうしてもぎこちないんですね。中盤からはノッてきたのか、自然に流れるように読めるんですが。ヤスオはキョウヤに導かれ、とある施設を訪れます。そこで、自分の心臓がこれから移植される予定の美少女と出会う。死ぬつもりだったヤスオは、その死に抵抗する少女と出会ったことで、生きること、死ぬことを初めて真剣に考え始めるのです……。
 
 
 
うん、テーマは面白いと思うんです。死にたいヤスオが、死にたくない少女アカネに恋をして生きたいと願う。
 
でも自分が死ななきゃアカネは助からない。死にたくないような気もするし、でももう死んじゃいたいような気もするし。……私も今こんなのを書いてる。死にたいとか死にたくないとかうじゃうじゃ言ってるやつ。
 
ラストには希望も見えます。読後感はとてもいいです。ただ、序盤のつまずきが尾を引くなあ。そして何より、2000万という金額がこの作品には釣り合わないんですね。齋藤さんは賞金をご辞退されたそうなんですが。
 
これが、賞金100万の賞ならアリだったと思うんだ。作品としては面白いし。でも1時間ちょいで読める、ほぼ中編でこの感じだと、「に……2000万は言い過ぎでしょ⁉」ってなる。だから、八百長とか出来レースとか言われても、仕方がない……。
 
 
 
ゴーストライター説も根強い齋藤智裕さんですが、ご本人が書かれてるんじゃないかなあ。ゴーストライターが書いたら、序盤もっと上手く書くと思う。だってゴーストってプロの人がやってますしね。
 
おそらくご自分がキョウヤを演るつもりで、映像化ありきで書いた話なんじゃないかな。水嶋ヒロさんにぴったりの雰囲気でしたし。だからぜひ執筆を続けて欲しいと思います。2000万の価値まであるかはビミョーですが、作家としての力はある人なんじゃないかなあ。
 
結局、一番儲けたのはポプラ社ってとこですかね。2000万は返ってくるし。本は売れるし。まあ商業活動ですから、それももちろんアリではありますわね。
 
さー次は窪美澄さん!「トリニティ」が直木賞候補に!おめでとうございますー!でも、次に読むのは違う本。
 
「トリニティ」も読みたい。夫にねだろう。肩でも揉んで。ゴマすりすりすり……。
 
ではでは、またー!

なんかもう煙草臭い……。

 

 
こんばんは、渋谷です。
 
 
 
小説現代長編新人賞、受賞作探しはこれにて終了。今日で8冊目ですかね。大賞受賞作と、たまにある奨励賞受賞作を読みました。この小説現代の賞、時代小説が受賞することが多いんですね。
 
私、今んとこ時代小説を書きたいという志は持ってませんので、現代のお話で手に入るものを読んでみました。あ、1冊「幕末ダウンタウン」は時代物だったけど。いや、あれはコメディだから別か。とにかく、小説現代の傾向と対策は本日で終了です。8冊読んでみて思ったのは……、暴力的なエネルギーを持ったものが求められてるって感じかな。ほのぼの、とかほっこり、とかは蹴散らすようなものばっかりだったように思います。
 
「表面だけきれいに整えた恋愛小説」なんかは1冊もなかったな。オフィスラブもお仕事物も遠い世界のお話だった。泥臭く、痛々しいお話ばかりでしたね。でも私はそういうの好きだから、楽しい探索期間でした。で、最後の「東京駅之介」よ。
 
これは!泥臭いどころの話じゃなくて、私、もう辛くて読み進めるのもしんどかった……!
 
 
 
まず何がどうってね、本が煙草臭いのよ。図書館で借りたんだけど。予約までして待って待って借りた本なんだけど。
 
紙って匂いを吸い込むんだよね。前の読者―、どんだけ煙焚きしめた部屋で読んでんだよ!くっさくて、ただでさえ気が重くなるのに気分まで悪くなったよ!私は8年前までヘビースモーカーだったんですが、その私でも臭かったんだから全然吸わない人は部屋に置いとくことすら嫌だろうよ!借りたものなんだから気を遣えっつーの!お前の本じゃないんだよっ。
 
と、いい具合に怒ってみました。ファブリーズ降るわけにもいかんしなあ。とりあえず今日はベランダで風に当ててみたいと思います。次の人、ごめんね。私が焚きしめたわけじゃないの。前のやつが悪いのよっ。
 
そいで中身ももうしんどい。作者の火田良子さんは1975年生まれ。第二回……ですから、2007年の奨励賞受賞作です。この方の詳細は、ネットで探しても出てこないんですね。他の著作も見つかりません。だからこれ一冊なのかな。でも読んでみて納得。あまりに、あまりに特異な世界を描いたお話なんですもの……。
 
 
 
時代は戦後すぐ。主人公は東京駅之介という少年です。5歳。東京駅に捨てられていた孤児です。智恵子さんという慈悲深い女性に拾われ、のちに養子になります。でも、智恵子さんところの旦那の亨てーのがいかん。
 
飲む打つ買うの三拍子に、暴力を振るうわ駅之介を邪険にするわ。絶望した智恵子さんは、実子ふたりと服毒自殺で帰らぬ人になってしまいます。
 
智恵子さんを慕っていた駅之介は、絶望の果てに自分が捨てられていたという東京駅に向かいます。そこで、戦災孤児たちのホームレスの集団に混じって生きていくことになります。舵さんという元締めのもと駅之介は、オッペイという年長の少年に守られながら、立派ないっぱしのごろつきとなるべく命がけで生きていくことになるのです。
 
――このあたりで、私が思い出したのは月影先生ですかね。あの方、「幼い頃はスリ、かっぱらい、なんでもやったわ」とか病床でおっしゃってましたよね。ガラスの仮面。まさにああいう少年窃盗団の一味だった駅之介。もうねー、汚いのよ!もちろん風呂なんか入ってないし、糞尿まみれの虱まみれ、少年たち同士の友情、みたいなものも描かれていますが、それより圧倒的に汚いわ絶望的だわ!同じ年ごろの子供を持つ親として、もう他人の話として受け取ることができませんでした。実際こういう戦災孤児というのはいたのだろうし哀しい話ですが、目の前に突き付けられるとしんどいわあ……。
 
駅之介は風体は汚らしいですが、もともとのお顔が可愛らしいのですね。そして頭がいい。あっという間に少年たちに倣って立派なゴロツキになります。けれどそんな駅之介を闇から救い出そうとした人がいました。駅之介が東京駅で智恵子に拾われた時、対応した駅員。偶然にもその男が、肺炎を患って死にかけていた駅之介を拾い、看病し、養育してくれようとします。
 
そのままいれば幸せに生きていけるはずの駅之介。でも、生みの親に捨てられ、智恵子に捨てられ、もう何も信じられない駅之介はその救いの手すら振りほどいてしまう。人買いのハンチングに目を付けられ、首根っこ掴まれ売り飛ばされそうになる駅之介は、最後どうなってしまうのでしょうか……!
 
 
 
あー……、疲れた。なんか、とんでもなく疲れる話でした。闇金ウシジマくんとか、カイジとか、ああいうしんどさをもたらすお話です。しかも、「悪人だったんだから追い込まれてもしょーがないね」みたいな逃げを許してくれない作品です。「時代だから」「弱いものが潰されるのは仕方ない」、そういう納得の仕方しかできない。
 
しかも被害者が子供なんだよ。私は子供がいるので、子供が泣く話が嫌いです。泣いてもいいけど、最後にはちゃんとハッピーエンドを用意しておいてほしい。なのに最後も微妙な結末なんだよなあ、バッドエンド、とは言わんけど。
 
確かに読みごたえはある話でしたが、読後感……どころか、読んでる最中から気分悪かった。まあ、鼻が曲がるぐらい煙草臭かった、て言うのもありますけどねえ……。
 
 
 
そんなわけで、小説現代終了!あとは気になる本を読んでいこうかな。今日図書館で塩田武士さんと加藤元さんの本借りた。今回の受賞作チャレンジで知った作家さんです。楽しみ。あと、窪美澄さんと吉本ばななさんも借りたし。
 
その前に、あれも読んどこうかと思っている。「KAGEROU」。綾香の旦那さんが、ポプラ社新人賞を獲ったやつですね。話題になった本、ていうのも追いかけると楽しそうですよね。話題になった理由はなんなのか。そこに本当に輝きがあるのか、ただの商業的な都合なのか。
 
あっ、今日も明日がきそうだ!もう寝よう。あーまた週末。一週間早い。風のようだわ。
 
というわけで、おやすみなさい!