こんにちは、渋谷です。
窪美澄さんの「よるのふくらみ」を読みましたよー。なんか週末がっつんがっつん本読んでますな。「中の人」愛護月間なので、やりたいことをやらせてあげることにしたら、パンケーキ食べてチーズのデニッシュ食べて本を読む、というリビングで完結する地味な活動にばかり終始しています。いいんだ。このリビングは私の楽園なのです。
平日は自分のやりたいことを貫けますが、休日はどうしても家族を優先してしまってるんですね。でも、自分愛護を優先すると、夫は映画見てるし、子供は勝手に公園行くし。なーんだ、別に私が気張らんでもみんな勝手にやってんじゃん。じゃあ本でも読むか!ということで。
窪美澄さんの「よるのふくらみ」。なんか……タイトルがエロいよね。この言葉のチョイスが好きだわー。窪さんのセンスって、ほんといちいち私に刺さります。
で、中身ですが。これが珍しく「ぎょっとしない」窪美澄。おそらく、窪さんこの作品を「なるべく大衆的に書こう」としたんじゃないかな。大衆的、という言葉が正しいのかは分かんないけど、多くの人に理解してもらえるものを、と考えて書かれたんじゃないかと思います。
なぜなら、起こっていることは突拍子もないんですが、登場人物たちがその出来事をちゃんと社会常識内で収めようと努力しているのがこのお話だから。窪さんと言えば、事件が起きて、それが起因する欲望通りに育って、こじれてこじれてこじれて、もーいやんなっちゃってバーン!みたいなお話を書く方だというイメージがありましたので。
今回の作品は、所謂「社会的な不謹慎」を犯すまい、犯した罪から逃げまいとする真摯なお話。バーン!にならない分、内包するエネルギーが熱かったです。窪さんが切ない気持ちを味わわせてくれるなんて、「ミクマリ」の時には思いもしませんでしたよ……。
この「よるのふくらみ」は短編連作で、収録作が
なすすべもない
平熱セ氏三十六度二分
星影さやかな
よるのふくらみ
真夏日の薄荷糖
瞬きせよ銀星
となっております。
とある商店街の文房具屋の娘、みひろちゃんと、幼馴染の酒屋の兄弟、圭佑と裕太の三角関係を描いたお話です。イケメンエリートキャラの兄圭佑と、人好きする野生児キャラ裕太。みひろちゃんはミニマムなかわい子ちゃんキャラです。商店街という狭く濃密なコミュニティの中で、彼らはひとつの家族のようにして成長していきます。
みひろちゃんちはお母さんが若い男と蒸発しちゃった過去があります。3年ぐらいしてひょっこり帰って来て、その後何事もなかったかのように家庭に治まっているお母さんのことがみひろちゃんは許せません。
対して、圭佑裕太のお父さんは浮気者。商店街の顔として信頼を集めた人物でしたが、あちこちに女を作り、終いには女に子供ができたから認知してくれなんて言い出すあほ親父です。
あほ親父は胃がんであっという間に死んでしまいます。狭い商店街、噂は筒抜けで周囲の好奇心や哀れみなどを背負いながら3人は成長します。そして高校生になったある日、圭佑がみひろに告白をする。
それでふたりは付き合い始めるわけですが、裕太もこっそりとみひろちゃんに恋心を抱いていました。まあこれぐらいはよくある話なんですが、みひろちゃんが性欲旺盛なのに対して、圭佑くんがEDなものだから話はややこしくなるのです……!
窪さんのお話で何度か見かけた、女性の性欲に端を発するお話ですね。窪さんはきっとやりたいタイプの人なのでしょう。
やりたいみひろちゃんですが、すんなりと圭佑くんに「しようよ」なんてことを言えるわけもなく苦しみます。よくあるケースですよね。ほんと、配偶者(婚前含む)としかセックスしちゃ駄目ってルールがなければいいのにね。男の人には風俗があるんだから、女の風俗だってもっと一般的になったっていいはずだ。でも女って、やった相手に情が湧いてきちゃうからビジネスライクに金払って終了、とはなかなかいかないかも知れませんが。
作中でも、「昔は祭りの夜は誰とやっても良くて、その夜に出来た子供は地域みんなの子として育てていたらしいですよ」なんて話を後輩に聞いたみひろちゃんが、「いいなー、私も商店街の子として育ってきた。そんな慣習今でもあれば……」なんて考えます。そして、もう卵子の叫びが無視できなくなったみひろちゃんは、自分に好意を抱いている裕太のアパートを訪れ、ふたりはそんな関係になってしまうのです。
商店街というか狭い共同体。あまりに親しい幼馴染の3人が、周りの目にさらされながら、身体の声と本音との間で苦しむお話です。結局、最終的に話は落ち着くところに落ち着くんですが、性欲ってなんだろう、家族ってなんだろうと考えさせられる作品でした。ねー、女の性欲とか、ついこないだまで見ちゃいけないものとして扱われてたものですから。
いやそれがさ、私も多分したいほうの人だったと思うんだけど、なんか40を越えたからか、最近あんまりしたいと思わなくなってきたんですよね。だから閉経が近いのか?とか思っちゃう笑
そういう気、がなくなると女としてつまんなくなっちゃいそうな気がするし、こういう生々しい世界を描くこともできなくなってしまいそう。プラセンタでも飲むか。社会的に適切な人間でいることも素晴らしいことですが、牙も色気もないんじゃ私の書きたい小説が書けない気がする。
性欲という形のない、ある意味馬鹿馬鹿しいものに振り回されて、でもそんな自分に誠実にあろうとしたみひろちゃん。兄弟も両方いい男だった。圭佑、頑張って生きていくんだ。君は若い、転職すればEDはきっと治るよ!
というわけで窪美澄さんでしたっ。さー昼ごはんに汁なし担々麺食べてこよー!