なんか、お久しぶりです。
こんばんは、渋谷です。
なんだかお久しぶりになってしまいました。本読めなかった。読めなかったというか、時間なかったというか。
小説を書いてたんですね。書きたいことがすらすらと文字になったので、悩むことなくがっつり書いてました。すると読む方には気が回らなくなっちゃって。気持ちいいぐらいに書き進められて楽しかった。原稿用紙で223枚まで進みました。半分……かな。最後まで詳細にエピソードも詰めることができたので、あとは文字にするだけです。
そんなこんなで夢中になってましたが、どうにか1冊読み終わりました。時間かかったなあ。それって、実はこの作品が全編大阪弁で進められているから、というのもあるのよね。
先日亡くなった田辺聖子さんの作品を読んでみました。初期の短編を集めた作品「うたかた」です。
田辺聖子さんと言えば、うちの伯母さんが好きだったんですよね。
その昔、うちに大量の文庫本を送り付けてきた伯母です。瀬戸内寂聴、渡辺淳一、田辺聖子さんの著作が多かった。だから子供のころに田辺聖子さんの作品は読んでたと思うんです。でも記憶に残っているのは、「おせいさんの○○」みたいなエッセイだったような気がする。だって私、大人になってもこの田辺聖子さんという方はエッセイストだと思っていたぐらいですから。
亡くなって初めて、「乃里子三部作」なる代表作があることを知りました。こちらも必ず追いたいと思います。でもとりあえずは初期作品。今回の「うたかた」は、昭和32年から39年までが初出の、60年近く昔の作品たちが収められた短編集です。
収録作品が
うたかた
大阪の水
虹
突然の到着
私の愛したマリリン・モンロウ
となっております。
「うたかた」という表題作に続いて、どの作品も一瞬の輝きの後味を追うような作品です。「うたかた」って、あっという間に消えてしまう水面の泡を差すんだってね。
まだ日本に戦争の痛手が残っていた頃から、高度経済成長で今以上にエネルギーに溢れていた時代まで。それぞれの時代で、泡のように消えてしまう切ない恋の記憶が収められています。まず響いたのは「うたかた」。これ、今すぐにでも私が書きたい世界だった。
主人公は卓ちゃんという尼崎のゴロツキ。ゴロツキ、というと十羽一絡げな感じがしますが、当時のヤンキーは環境に足を引っ張られているところが大きいのでしょうね。私は尼崎に行ったことがないのですが、ダウンタウンの出身地でめちゃくちゃな土地だったということだけは聞いたことがあります。
卓ちゃんは男前だし頭もいいんですが、アマに育ったばかりにヤンキーとして生きざるを得ません。一応ヤクザ以外の道で生計を立てようとしていますが、周りが悪いからねえ。その真ん中で生きてきた卓ちゃんはやっぱりどうやったってヤンキーです。そんな卓ちゃんが、ある日見知らぬ女をナンパします。
これが美人で身なりの良い上品な女。卓ちゃんは自分のテリトリーである、アマのヤンキー仲間の家に能理子を呼んでだらだらとデートを重ねます。次第に能理子に本気になっていく卓ちゃん。一緒に旅行に出たりして。理知的な能理子に似合う自分ではないことを拗ねたりします。そうこうしているうちに、突如姿を消してしまう能理子。
必死で能理子を探す卓ちゃん。仲間の情報網で遠方までおっかけたり。結果的に能理子は大阪の小学校の先生でした。しかも既婚者らしい。なにか鬱屈があって、違う自分になりたかったんでしょうね。
卓ちゃんは能理子に毒づきアマに帰ります。17歳のパンパンが病気を抱えながら街頭に立つ街、尼崎。「人間なんてものは、うたかたみたいなもんだ」――卓ちゃんの最後の一言が重い。社会的弱者の鬱屈。その中にある希望。……これは。ええわあ。その希望が削がれた時の卓ちゃんの絶望に身をつまされました。やっぱり田辺聖子さん、純文学の人やったんやね。
あと、何とも言えぬ迫力だったのが「虹」。これは重いぞ。主人公は足に障害のあるかや子ちゃん。先天性の脱臼を矯正されなかったことによりびっこを引いています。
そんな彼女はOLさんをしていたのですが、その会社がかなりなブラック企業なのですね。そこで、人の良い青年、卯之助が担ぎ出されて労働争議を起こすことになりました。しかし社長はワンマン。「辞めたい奴は辞めたらええんやで」と言われてきょどる周囲。けれど卯之助は強く、その姿に惚れちゃったかや子ちゃんも賛同しちゃってふたり揃ってくびです。でも卯之助には弟妹が6人。反骨心のある卯之助に男気を見た社長は彼を慰留します。でも女の子の偉そうなのなんかいらなーい!それで路頭に迷うかや子ちゃん。お母さんとふたり暮らしで、生活は貧しく、就職することもままなりません。
このあたり、世界的に恐慌でもあったんですかね。受けても受けても就職できないかや子ちゃん。卯之助は自分のせいで窮地に追い込まれたかや子ちゃんに憐憫を感じています。かや子ちゃんは卯之助のことが大好き。でも、社長に気に入られた卯之助には、高給といいとこのお嬢さんとの縁談が待っている。貧しさと、愛と。かや子ちゃんは時代に流されそこに埋もれてしまうのか。いや、それだけでは終わらせない田辺聖子さんの筆力があるんだよなあ。これはもう、はっきりと衝撃を受けた短編だったと確実に言うことができます。
……しかしね。
この短編集、面白かったのよ。田辺聖子さんというひとの、裸の出自が表されているようで面白かった。しかししかーし、読みにくかったのも事実なのよね。
なんせ、大阪弁なんですよ。しかも、古い、聞いたこともないような大阪弁。なんか京都弁に近いような……はっきりと核心を突かないような変な言い回し。言いたいことがいまいち伝わらない。映画の字幕を読んでるようでした。「マンハッタンには?」を、「あなたは以前マンハッタンに来たことがあるの?」と頭の中で訳さなければならないような混乱。だから読むのにも時間かかったんだよねえ。
一応私大阪生まれなんですけどね……。翻訳に時間がかかった。初期作品だからこそなのかも知れませんが。
でも中身はギラギラしたエネルギーに溢れていたぞ!あの気の良いおばちゃんキャラだと思っていた田辺聖子さん。さすがは芥川賞作家、しかもここまで長く人々に愛されているという事実には秘密があったのね!これからも、追っかけていきたいと思います。
というわけで、女性作家を追う旅を続けていきたいと思います。
ではでは、またっ!