[蝶短編0円小説] しようもないしんじつのしととき|としべえ@ぷち作家しあうことで、しあわせられる。 それがすべてなのだとジローは思った。 そのとき実は、思う、と打とうとして、えもう、と打ち間違えそうになった。 エモいという言葉はキモいと思っているジローではあったが、それがすべてなのだとえもうことこそが、細胞に染み渡るほどの実感を得るためには必要であるのだとふと感覚されたもので、横道にそれることなど厭わず、そのことを書いてみ…note.com
[0円小説] ある作家志望者の作文的日記|としべえ@ぷち作家・秘密基地 東京高尾の秘密基地で、ジローは小説を書こうとしている。 秘密基地と言っても実際には、中学の時からの友人が所有している空き家なのだが、その友人のお父さんというのがなかなかの怪人物なのである。 なにしろドイツ人の血を引き、満州育ちなのだが、大陸では化学を専攻したのに、敗戦で日本に戻ってからはインド哲学をさらに専攻したもので、中村元氏を始めとして日…note.com
[0円小説] 忘却の彼方|としべえ@ぷち作家村上春樹にタイのことを書いた短編なんてあったっけ? どこの誰のものだったか、さっぱり思い出せないが、その文章には春樹がタイを舞台に短編を書いている、とあったもので、ジローは首をかしげながらも、その作品「タイランド」の内容を確認した。 主人公の女医がタイで休暇を過ごす話だというがまったく覚えがない。 けれども、その小説は短編集『神の子どもたちはみな踊る』…note.com
[0円小説] 海は入り組みながら大地と出逢った|としべえ@ぷち作家ようやく秋らしくなった十一月の初め、ジローは三重県志摩市に訪れていた。 東京世田谷に生まれ育ったもので、日本の西の方にはうといが、三重県を訪れるのは実質初めてのことだった。 ずいぶん前、もう三十年近い昔に、一度知人との旅行で奈良の方から伊賀辺りを通る列車に乗り、名古屋まで抜けたことがあった。そのとき初めて三重に足を踏み入れたのだった。 田んぼの広がる日…note.com
[0円小説] 海は入り組みながら大地と出逢った|としべえ@ぷち作家ようやく秋らしくなった十一月の初め、ジローは三重県志摩市に訪れていた。 東京世田谷に生まれ育ったもので、日本の西の方にはうといが、三重県を訪れるのは実質初めてのことだった。 ずいぶん前、もう三十年近い昔に、一度知人との旅行で奈良の方から伊賀辺りを通る列車に乗り、名古屋まで抜けたことがあった。そのとき初めて三重に足を踏み入れたのだった。 田んぼの広がる日…note.com
[0円小説] 褒められたがり二千廿五|としべえ@ぷち作家その日ジローはセタガヤの実家にいた。長く置き去りにしてあった荷物の片付けのためだ。 物置に放り込んである段ボール箱の山を一つ一つ引っ張り出して、中身を確かめる。いらないものは少しでも処分して身軽になりたかったのだ。 しかしジローは鈍い決断力の持ち主だった。どうせ使わないはずのものがいくらもあるのに、手放す決心がなかなかつかない。 おまけに、すっかり忘れ果てて…note.com
[0円小説]二千廿五年十月八日、鎌倉行き|としべえ@ぷち作家インドから日本に戻って二週間が経ち、ジローは世田谷野沢の実家で片付けものをしていた。 二日間それなりに物を整理して、三日めの朝、ジローは実家を出て、横浜方面へ向かおうとした。 素直に行くなら、最寄りの駒沢大学駅から渋谷経由で東横線に乗るところなのだが、家を出てすぐ、そうだ、学芸大駅まで歩こうと思いついた。 少し遠いが気候もよい。散歩にはもってこいだ。 駅へ…note.com
[0円随想小説] 七色の橋投げかけて稔るころ|としべえ@ぷち作家・ベンガル菩提樹の木陰にて インドの首都デリーから北方へ二百キロと少し、ヒンドゥー教の聖地ハリドワルの中心部に位置するマヤデヴィ寺に、ジローと妻のムーコは滞在していた。 九月に入って雨季のピークは過ぎているはずなのに雨が多い。が、それはむしろ暑くないからありがたいくらいの話だ。 問題は滞在している巡礼宿の部屋だった。 知り合いの行者のお陰で無料で貸し…note.com