私の耳は底ぢから -27ページ目

奥田英朗『延長戦に入りました』

奥田 英朗
延長戦に入りました

お勧め度:★★★☆☆

直木賞作家の奥田英朗が贈る痛快エッセイ。

一見して普通のスポーツ・エッセイと思いきや、

なんとも形容しがたいテーマが並んでいる。


曰く、「レスリングのタイツは乳首を出すのか

出さないのかはっきりしろ」

曰く、「スピードスケートの女子選手はスター

ト時にがに股になることについてどう思ってい

るのか」

曰く、「ボブスレーの前から2番目の人は何を

しているのか」

など、普通の人は考えもしないような事をよく

もまあずらずら書き連ねる事ができるものだ。



もちろん、だからといってスポーツや音楽を

楽しんでいないわけではないので誤解しない

ように。ただ、みんなが100パーセントの意識

を傾ける中でも、私は90パーセントくらいにし

ておくから、残りの10パーセントで人とは別の

ものを見てしまうのである。(本文27頁)



つまり、面白い文章を書こうとするなら人と違う

視点で物を書け、という事であろうか。

島田雅彦『僕は模造人間』

島田 雅彦
僕は模造人間

お勧め度:★★★★★


あるところに、亜久間一人(あくま かずひと)という

少年がいた。その玄妙な名前に影響されてかどう

かは知らないが、彼は小学生のじぶん、必要以上

に周囲の和を乱す問題児であった。


中学高校と成長するにつれ彼の破壊願望は程度

を増し、友人と女の子の初エッチをセッティングし

ておいて直前になって女の子に告白して、全てを

ぶちこわしにするとか、恋人といざコトに及ぼうと

いうときにベットの上で突然マスターベイションを

おっぱじめるとか、理由も無いのに高校を中退し

てみるとか、常軌を逸脱していく。


やがて彼は自分の中に、他人の模造品になって、

道化を演じようとする亜久間一人という人格を自覚

するようになる。


芥川賞落選。'80年代文学の金字塔。

絶望先生人物ファイル

絶望先生人物ファイル05

小節 あびる (こぶし あびる)

2のへ組の生徒。

生傷が絶えないため、DV疑惑がある。糸色先生

が調査をしてみると、実は彼女は無類の動物好き

で、動物園で猛獣の世話をしているため生傷が絶

えない、というオチであった。自宅には無数の動物

のしっぽコレクションがあり、糸色もタヌキのしっぽ

の装着を強要された。


木津千里、新井智恵らと共に、作中のツッコミ役を

確立しつつある。


絶望先生人物ファイル06

木村 カエレ (きむら かえれ)

2のへ組の生徒。

すぐに訴訟を起こす外国人的性格の「カエレ」と、

和をもって良しとする大和なでしこの「楓」の二つの

人格を持つ帰国子女。カルチャーショックに遭遇し

てテンパると二つの人格が入れ替わる。この設定

は第六話で彼女が初登場した際出てきたきり、現

在まで全く活かされていないので、無かったことに

されている可能性が高い。


音無芽留に「オマエどーせパンツ見せキャラだろ」

と揶揄されたのを契機に、実際パンツ見せキャラ

になる。ただし、パンチラシーンのカットは回を重ね

るごとに小さくなり、彼女のパンチラがどこに描かれ

ているかを見つけるのは、まといの登場シーンと並

んでファンの日課となっている。


こんな感じでパンチラ。


最近はそれ以外の登場シーンは殆ど無い。個人的

に好みのタイプなので、一層の噴気を望むところで

ある。


絶望先生人物ファイル

栗山千明さん、お誕生日おめでとうございます。


絶望先生人物ファイル02

小森 霧 (こもり きり)

2のへ組の生徒。

糸色先生に惚れた女生徒その一。

かつてはセメントな引きこもり少女だったが、糸色

先生に説得されて外に出る。しかし今度は学校の

開かずの間に引きこもってしまい、不下校少女と

なる。前髪を開ければスウィーティーな美少女。


ペリーさんに前髪を開けられて、「先生にしか開け

られた事なかったのに」と誤解を生むような嘆き方

をするシーンは、多分確信犯(間違った使い方の

方の)だろう。


絶望先生人物ファイル03

常月 まとい (つねつき まとい)

2のへ組の生徒。

糸色先生に惚れた女生徒その二。

元彼のたかしをストーキングして、警察沙汰になる

ほどの問題児。付き合う男によって、ファッションが

コロコロ変わる。糸色先生に心中を勧められたのを

きっかけとして、現在は彼をストーキングするように

なる。以降、話の表舞台にはあまり出なくなったが、

糸色先生の登場するコマのどこかに毎回必ず隠れ

ているという、「ウォーリーを探せ」的な扱われ方に

なっている。


こんな感じで登場。


糸色先生とは半同棲状態になっているらしく、何の

説明も無く彼の家にいたり、郵便物をチェックしたり

している。

みうらじゅん『カスハガの世界』

みうら じゅん
カスハガの世界

お勧め度:★★★☆☆

全国各地(あるいは海外)のひなびた観光地

から送られてきた、しょーもない絵はがきが

多数掲載されている。


徳島市立動物園


オーストラリア・シドニー


ほらね、しょーもない。


こういう不可解な写真に、みうら氏が「この絵

はがきの中の人物たちは、何をやっているん

だろう」と独自の解釈をして、オチを作っている。


みうら氏の著作は全部そうだが、彼は日常の

何気ない一こまに「あ、これってヘンじゃない

か!?」と面白い解釈をすることによって、何で

もない背景を「作品」として浮かび上がらせる

という、そういう能力を持っている。


ロックンロール・スライダーズ 」なんかを観て

いると、その過程がよくわかる。


つまりみうらになりたけりゃ審美眼を鍛えろと、

そういう役に立たないお話でした。

カズオ・イシグロ『日の名残り』

カズオ イシグロ, Kazuo Ishiguro, 土屋 政雄
日の名残り

お勧め度:★★★★☆


他とはまた違った意味で「バカ」な男の物語。


舞台は1956年のイギリス。

この作品の主人公は執事である。執事という

職業はイギリスでは今でも権威ある立場とさ

れているが、昔に比べれば斜陽産業である。

これは第二次世界大戦後、一気に落ちぶれた

イギリスという国を象徴してもいる。

ブッカー賞受賞作。


※以下あらすじ


主人公は執事のスティーブンス。ダーリントン・

ホールという大きな屋敷に、住み込みで働いて

いる。この屋敷はかつて、ダーリントン卿という

貴族の持ち物だったが、その一家が引き払い

現在は在英アメリカ人の手に渡っている。


物語は、スティーブンスが人手の足りなさを何

とかするために、かつての同僚、ミス・ケントン

を再び呼び寄せようと、休暇を利用して、旅行

がてら彼女に会いに行こうとするところから始

まる。


フォードを走らせながら、スティーブンスは戦

前のダーリントン卿が健在であった頃を回想

する。当時、ダーリントン・ホールは各国の要

人たちが集まる外交交渉の場であり、ホテル

であった。ホールでは多くの人間が忙しく立ち

回り、スティーブンスは主人の職務に忠実な

優秀な執事として、その風景の中にいた。

スティーブンスは、主人に忠実で、私情を挟

むことなく職務を遂行できる人間が、執事と

して必要な条件であるのだと力説する。


話のもう一つの主軸になっているのがミス・ケ

ントンについての回想である。彼女はホールの

メード長であった。彼女はスティーブンスに淡い

恋心を抱いており、幾度となく彼にモーションを

かけるのだが、鈍いスティーブンスは「職務が

忙しい」と言い訳して、それに気づかない、ある

いは気づかない振りをする。やがて彼女は諦め

て、郷里に帰って地元の人間と結婚してしまう。

それでもスティーブンスは頑固に、ダーリントン

の動向に忠実であろうとする。


しかし、旅行の途中で出会った人たちは、ダー

リントン卿の話題が出ると「?」という反応をす

るのである。「そんなはずはない、誰が何と言

おうと、卿は立派な人間であったのだ」と、ス

ティーブンスは自らに言い聞かせ、記憶を都

合よく捻じ曲げ、言い訳を繰り返す。

そして終盤ではその虚像がゆっくりと崩れ去っ

ていく。そして、私が今まで敬愛していたダー

リントン卿は(結果からいえば)、ナチスドイツ

に迎合したアホ外交官に過ぎなかった、それ

ばかりか自分はケントンの恋心に気づいてや

ることも出来ない朴念仁だった、ということに

気づかされるのである。自分の人生は何だっ

たのか、とスティーブンスは夕焼けの花火を

バックに大泣きする。


私は、主人公が泣くシーンがあるような作品

は大嫌いだが、この作品は別である。壮大な

カタルシスを感じさせてくれる。


雄大なイギリスの自然を背景に、読者をミス

リードさせるなど多彩な手法を用い、遠い日

の記憶を描いている。あまり悲劇という感じ

はなく、爽やかな読後感を与えてくれる。

清水義範「人間の風景」

清水 義範
国語入試問題必勝法
講談社文庫

清水義範のユーモア短編集は、あたりはずれが

無く、全てが高水準で面白い。

そこで今回は、氏が吉川英治文学新人賞を受賞

した『国語入試問題必勝法』の中から、私が特に

好きな「人間の風景」を紹介する。


主人公の佐伯義成はポルノ作家である。真面目

な文芸雑誌の新人賞にも応募しているのだが、

そちらではまだ芽が出ていない。

そんな彼がある日、老人会の有志四人が書いた

リレー小説を頼まれて校正することになった、と

いうお話。


まず、佐伯は小説のタイトルに感心させられる。

表題と同じ「人間の風景」というタイトルなのだが、

彼は「何という広い題名だろう。(中略)どういう内

容になるかわからないリレー小説にこういう題名

を付けるとは、なかなかの知恵者がいるようだ」

という感想を持つ。そうやって持ち上げておいて、

彼は本文を読んでずっこけるのである。


リレー小説「人間の風景」を執筆しているのは、

元サラリーマンの森末正義氏、元八百屋経営

者の青木誠一氏、元警察官の佐藤悦夫氏、元

新聞記者の新見陽之助氏の四人。


素人の書く小説だから、あまりうまくないのは当

たり前である。面白いのは、執筆者が変わるご

とに作風ががらりと変わり、各人が前に書いた

人の世界観を完全にぶっ壊しているという点だ。

そのカタルシスやすごいものがある。それぞれ

が自分の経験則に基づいて勝手な事を書くの

だから、話の筋はあっちへ飛び、こっちへ飛び、

恣意的に翻弄される。リレー小説を思いっ切り

皮肉った、大爆笑間違いなしの珠玉の短編。


なんだか、ちぐはぐな紹介文になってしまった

が、とにかく面白いから読んでくれとしか言え

ない。

文学を志したこともあった人の書く会話がこれ

じゃあな、と佐伯は意地悪く思った。年寄りの

中に、恋愛とかロマンスとかに対して妙にうぶ

で、心から賛美しちゃうのがいるけど、気持ち

悪いんだよな。(本文27頁)

うすた京介『すごいよ!! マサルさん』

うすた 京介
すごいよ!!マサルさん―セクシーコマンドー外伝 (1)

お勧め度:★★★★★

(100点)

私の最も好きな漫画(2番目はかってに改蔵)。

95年~97年まで週刊少年ジャンプに連載。

「セクシーコマンド」なる格闘技の使い手である

花中島マサルが、ライバルたちと熾烈な戦いを

繰り広げるギャグ漫画。


この作品は、一般的に「不条理ギャグ」にカテゴ

ライズされている。ジャンプを変えた、革命的な

作品とも呼ばれている。何が革命的だったのか。


うすた以前にも、不条理を売りにしている漫画家

は大勢いた。赤塚不二夫、吉田戦車、中川いさみ、

などなど。しかし、それらは4コマ漫画や一話完結

型のショートストーリーというのが殆どだった。

「マサルさん」が画期的だったのは、

主人公覚醒

山で修行

仲間を集める

部の設立

強敵との戦い

トーナメント戦……

という、ジャンプ漫画のテンプレートに沿った続

き物の作品で、不条理ギャグをやったという点

にある。


5巻の中盤辺りから絵が荒れ、大丈夫かこの作

者と思っていたが、じきに持ち直した。ジャンプ

ではギャグ漫画がバトル漫画に転身することは

良くあるが、そういったことも無く、最後の最後ま

でギャグ漫画であり続けた。


その後連載された『武士沢レシーブ』は、マサル

さんと同系統の続き物の作品だったが、不人気

で短期打ち切り。その後連載が開始された『ピュ

ーと吹く!ジャガー』は一話完結型の要素が強い

ショートギャグ。これはおおむね好評で、現在も

連載が続いている。


「マサルさん」の影響は凄まじく、当時ジャンプに

載った新人賞の佳作だかは思い切りマサルさん

のパクりだった(記憶があいまいなので、連載終

了後かも知れない)。そのようにしていろんな人

がマサルさんのネタを参考にしていったため、今

読むと思い切り古臭く見えるかもしれない。

だが、一読の価値はありだ。

今週のさよなら絶望先生

週刊少年マガジン2005年45号

第二十三話「一人の文化人が羅生門の下で雨やどりをしていた」



今週は時節柄、文化祭ネタです。久米田先生は何か、

文化的なモノに恨みでもあるのか、背景の箇条書きネタ

がいつもより跳んでいます。


次週は休載だそうです。48号の「もうしま 」で事情が分か

るらしいのですが……西本先生が取材に来るのかな?


関連リンク
ガンダーラ

元ネタ解析はこちらがベンリ。

絶望先生のほか、「かってに改蔵」などの話題も。



絶望先生人物ファイル02

風浦 可符香(ふうら かふか・ペンネーム)


2年へ組の生徒。

糸色先生と対極をなすスーパーポジティブ生徒。

どんなに絶望的な状況下でも、ポジティブシンキ

ングを崩さず、「いやだなあ首を吊る人なんている

わけ無いじゃないですか。あれは身長を伸ばそう

としているんですよ」などと、強引な解釈をする。


親が自殺未遂を繰り返すなど、複雑な家庭環境で

育ったらしく、現実から逃避し自己を防衛するため

にポジティブな性格が形成されたのではないか?

と思われる。うーん、深い話だ。

ときどき制御がきかなくなるのか、突如電波を発信

したりする。


本名は不明だが、ファンの間では赤木 杏(あかぎ

あん=赤毛のアン)ではないか、という説が有力。

東野圭吾『名探偵の掟』

東野 圭吾
名探偵の掟

お勧め度:★★★★★


ギャグ、泣きもの、巧緻なトリックと何でもござれ

の東野圭吾の出世作。

名探偵、天下一大五郎の活躍を描く。


この短編集には、密室トリック、フーダニット、首

なし死体、消えた凶器、時刻表トリック、ダイイン

グメッセージ、2時間ドラマなど、本格推理によく

使われるモチーフが殆ど登場してくる。

各章の最後に示される真相は全部「ブレアウィッ

チプロジェクト」並みの糞展開なので、居合わせ

たギャラリーから座布団が飛んでくるという趣向

である。


この作品の面白いのは、こうして使われるモチー

フが、全てそれぞれのセオリーに丁寧にのっとっ

て使われる点だ。そうする事によって、主人公た

ちは本格推理小説について回る「矛盾点」を読者

の前にさらけ出し、嘆息をつくのである。


中でも笑ったのは、時刻表トリックの章で「鉄道も

のに〔名探偵〕が登場するのは無理があるから」と

いう理由で天下一が鉄道警察に変身したところと、

二時間ドラマの章で「綺麗どころが必要だから」と

いう理由で天下一が女の子に変身した場面である。

ミステリーのウィークポイントを、実によくついている。


ミステリファンには別の意味でお勧め。