佐藤泰志の「大きなハードルと小さなハードル」を読んだ! | とんとん・にっき

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佐藤泰志の「大きなハードルと小さなハードル」(河出文庫:2011年6月20日初版発行)を読みました。


映画「オーバーフェンス」が公開されるというので、「オーバーフェンス」が収録されている「黄金の服」(小学館文庫:2011年5月15日初版第1刷発行)を読み直しているときに、文庫本で「大きなハードルと小さなハードル」があるのを知り、ネットで購入して読んだというわけです。


「大きなハードルと小さなハードル」は、佐藤の死の翌年、1991年3月に刊行された短篇連作集で、第一部に5篇、第二部に2編がまとめられています。第一部がほとんどスケッチというか素描のような短篇で、第二部の2篇がやや小説らしく纏まっています。


本のカバー裏には、以下のようにあります。

「彼は憎しみでも怒りでも何でもいい、身体に満ちることを願った。・・・大きなハードルも小さなハードルも、次々と乗り越えてみせる」危機をひたむきに乗り越えようとする主人公と家族を描く表題作をはじめ80年代に書き継がれた「秀雄もの」を呼ばれる私小説的連作を中心に編まれた没後の作品集。最後まで生の輝きを求めつづけた作家・佐藤泰志の革新と魅力をあざやかにしめす。


「オーバーフェンス」の主人公は、以下のように設定されていました。育児ノイローゼにかかった妻と離婚し、故郷の海峡の街で、職業訓練校の建築科に通う男が、元妻を追いつめた自分を責めつづける。そんな生活を見かねた建築科の同僚から、前の男との間にできた子どもを堕ろし、小心のサトルを紹介され、2人は付き合い始めます。


解説は堀江敏幸、小説家らしく「美しい夏」の最初の8行を取り上げて、ややくどいくらいに詳細に、作中人物の視点や人称を解説しています。以下、堀江の解説による。

「鬼ガ島」は、高校の同級生の妻だった子連れの女性との同棲を通じて、「僕」は父親の役割を3年8ヶ月演じて別れたあと、養護学校の教師をしている女性と暮らしている。彼女はかつて兄と禁断の関係にあって、兄の子を堕した過去を持っている。


「夜、鳥たちが啼く」は、同様に疑似家族としての人物関係が持ち込まれています。子持ちの女性と、結婚をしないまま家庭内離婚をする。そんな冗談混じりの設定を包んでいた緑色の光は、やがて夜空に打ち上げられた四色の鮮やかな花火に塗りかえられる。虚構の家族にしかない弱々しい光が、夜を打ち消す強い光になって広がるのだ。


全篇を読み終えると、怒りも腹立ちも安っぽさもいやらしさも抱えたままで、みな顔をあげて前を向きはじめる。無理にハードルを飛び越えなくてもいい、それしかできないのであれば、ハードルとハードルのあいだの空間を、ただまっすぐ、架空のゴールまで歩いていけばいいと思えるようになるのだ。


目次

美しい夏

野栗鼠

大きなハードルと小さなハードル

納屋のように広い心

裸者の夏

鬼ガ島

夜、鳥たちが啼く

解説
陽の光は消えずに色を変える 堀江敏幸


佐藤泰志:
1949年、北海道・函館生まれ。國學院大學哲学科卒。高校時代より小説を書き始める。81年、「きみの鳥はうたえる」で芥川賞候補になり、以降三度、同賞候補に。89年、「そこのみにて光輝く」で三島賞候補となる。90年、自ら死を選ぶ。他の著書に「海炭市叙景」「黄金の服」「移動動物園」「大きなハードルと小さなハードル」などがある。


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