カズオ・イシグロの「忘れられた巨人」を読んだ! | とんとん・にっき

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カズオ・イシグロの「忘れられた巨人」(早川書房:2015年4月25日初版発行)を読みました。長編としては「わたしを離さないで」以来、10年ぶりの作品です。イシグロの作品は、なんと言っても、イギリスの執事の物語を描いてブッカー賞を受賞した「日の名残り」(1989)でしょう。つい先日も、保存してあった映画「日の名残り」を、再び観ました。何度観てもよくできてる映画です。

ジェームズ・アイヴォリー監督の「日の名残り」を(再び)観た!


「キングアーサー 」という映画を観た時に、以下のように書きました。

「アーサー王伝説」、岩波書店の1990年発行の「漱石文学作品集 」全16冊揃いを開いてみたら、第2巻「倫敦塔・幻影の盾、他5篇」の中に入っていました。「アーサー王伝説」を枠組みにしたと言われている、漱石にしては珍しい騎士道もの「薤露行」です。「百、二百、簇がる騎士は数をつくして北の方なる試合へと急げば、意志に古りたるカメロットの館には、ただ王妃ギニヴィアの長く牽く衣の裾の響きのみ残る。」と、「薤露行」は始まります。サー・トマス・マロリーの「アーサーの死」と、テニソンの長詩「ランスロットとエレーン」、「シャロットの女」に基づいていると、解説には書いてあります。明治38年に発表された「薤露行」、僅か30ページの短編ですが、全体が古文調で旧仮名遣い、そう簡単には読めません。グウィネヴィアとランスロットの不倫の恋を描いていると言われています。叙事詩を元にしたこの作品、夏目漱石も「アーサー王」については大いに関心を持っていたようです。漱石とアーサー王伝説との関係については、江藤淳が「漱石とアーサー王伝説」(講談社学術文庫)に書いてあるようです。

「キングアーサー」を見ましたが・・・


カズオ・イシグロの「忘れられた巨人」、ときは6世紀か7世紀頃、舞台となるのは伝説のアーサー王が姿を消した後のブリテン島です。アーサー王は、円卓の騎士たちとともにローマ人やサクソン人を撃退したとされる人物です。主人公のアクセルとベアトリスの老いた夫婦はアーサー王と同じブリトン人だが、周囲の住民との間はうまくいってない。そのせいか、アクセルとベアトリスは、さほど遠くない村に住むという息子を訪ねることになります。しかしブリテン島は、かつてブリトン人と戦ったサクソン人たちも住んでいます。この台地は、人身に影響を及ぼす「奇妙な霧」に覆われています。さらには悪鬼、妖精、竜といった超自然的存在までもが徘徊しています。アクセルとベアトリスは、偶然出会った戦士や少年を道連れに旅をしますが、次々と試練が襲い掛かります。果たして二人は息子と再会できるのでしょうか。


と、ここまではおおむね、早川書房編集部による「解説」に拠っています。「忘れられた巨人」、ことあるごとにアクセルがベアトリスを「お姫様」と呼ぶところは、微笑ましくもありながら、やや煩雑です。読むには読んだけど、はやい話、奥が深くて、とても僕の手に負えるような小説ではありません。イシグロは、「忘れられた巨人」は“本質的にはラブストーリー”であると、繰り返し述べているという。アーサー王伝説を下敷きに、古典的なファンタジー的な要素を道具立てにした、ある老夫婦の冒険と愛を描いた普遍的な物語、だと言えます。



カズオ・イシグロ(Kazuo Ishiguro)氏
1954年11月8日長崎生まれ。1960年、五歳のとき、海洋学者の父親の仕事の関係でイギリスに渡り、以降、日本とイギリスのふたつの文化を背景に育つ。その後英国籍を取得した。ケント大学で英文学を、イースト・アングリア大学大学院で捜索を学ぶ。一時はミュージシャンを目指していたが、やがてソーシャルワーカーとして働きながら執筆活動を開始。1982年の長編デビュー作「遠い山なみの光」で王立文学協会賞を、1986年発表の「浮世の画家」でウィットブレッド賞を受賞した。1989年発表の第三長編「日の名残り」では、イギリス文学の最高峰ブッカー賞に輝いている。その後、「充たされざる者」(1995)、「わたしが孤児だったころ」(2000)、「わたしを離さないで」(2005)、短編集「夜想曲集」(2009)(以上、すべてハヤカワepi文庫)を発表。2015年に発表した本作は第七長編にあたる。これまでの作品とは大きく異なる時代設定で話題を呼び、ニューヨーク・タイムズ・ベストセラーに発表直後からランクインしたほか、英「ガーディアン」紙や「タイムズ」紙で絶賛された。


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