カズオ・イシグロの「私を離さないで」を読んだ! | とんとん・にっき

カズオ・イシグロの「私を離さないで」を読んだ!

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カズオ・イシグロの「私を離さないで」を読みました。去年の暮れに、お正月の間に読もうと思って、この文庫本を買っておきました。すぐに読み始めたのですが、96ページ、第5章までで読むのを中断して、そのままになっていました。思い直して7月に入ってからまた最初から読み始め、文庫本で439ページの長編を何とか読み終わりました。カズオ・イシグロの作品は、前に映画にもなった「日の名残り」を読みました。抑制の効いた文章で、大人の恋を描いた作品でした。それに対して、今回読んだ「私を離さないで」は、まだるっこしい少年・少女の淡い恋の話だったので、途中で読むのを止めてしまったわけです。でも読み終わって初めて、それは大きな勘違いだったことに気がつきました。しかし、心理描写が延々と続くこのミステリー仕立ての長編、要約するのが非常に難しい。


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とりあえず、アマゾンから「Book Description」を以下に引用しておきます。


『日の名残り』『私たちが孤児だったころ』で高い評価を得た作家が送る、感動的な小説。心に残る友情と愛の物語の中で、世界と時間を巧みに再創造してみせる。現在31歳のキャシーは、イギリスの美しい田園地方ヘールシャムの私立学校で、子ども時代を過ごした。そこでは子どもたちは外界から保護され、自分たちは特別な子どもで、自分たちの幸せは自身だけでなく、やがて一員となる社会にも、非常に重要だと教えられていた。キャシーはこの牧歌的な過去とはずいぶん昔に決別したが、ヘールシャム時代の友人二人と再会して、記憶に身をまかせることにする。


ルースとの交友が再燃し、思春期にトミーに熱を上げた思いが恋へと深まりはじめる中、キャシーはヘールシャムでの年月を思い返す。外界から隔絶された穏やかさと心地よさの中、少年少女がともに成長する幸せな場面を、彼女は描写する。だが、描写はそんな場面だけではない。ヘールシャルムの少年少女育成のうわべに隠れた、暗い秘密を示唆する不調和や誤解。過去を振り返ってはじめて、3人は自分たちの子ども時代と現在の生き方の真実が見え、それに対峙せざるを得なくなる。『Never Let Me Go』は単純に見える物語だが、そこに徐々にあらわにされていくのは、驚くべき深さで共鳴する感情だ。カズオ・イシグロの最高作にあげられるだろう。

ここまで書いて、(続く)としてしばらく書けないでいましたが、というのは「提供」とか、「介護人」とかが頻繁に出てくるからです。それがなんと驚いたことにキャメロン・ディアス主演の「私の中のあなた」 という、10月公開の映画を見つけてしまいました。「シネマトゥディ」によると、以下のような作品です。


チェック:アメリカの人気作家ジョディ・ピコーのベストセラー小説を、『きみに読む物語』のニック・カサヴェテス監督が映画化。白血病の姉のドナーとなるべく遺伝子操作によって生まれた妹が、姉への臓器提供を拒んで両親を提訴する姿を通し、家族のありかたや命の尊厳を問いかける。主演のキャメロン・ディアスが初の母親役に挑み、両親を訴える次女役を『リトル・ミス・サンシャイン』のアビゲイル・ブレスリンが熱演。シリアスなテーマながら、主人公一家の強い家族愛が胸を打つ。

ストーリー:白血病の姉(ソフィア・ヴァジリーヴァ)に臓器を提供するドナーとして、遺伝子操作によって生まれた11歳のアナ(アビゲイル・ブレスリン)。彼女はこれまで何度も姉の治療のために犠牲を強いられてきたが、母サラ(キャメロン・ディアス)は愛する家族のためなら当然と信じてきた。そんなある日、アナは姉への腎臓提供を拒否し、両親を相手に訴訟を起こす。


どうして驚いたのか?まさにカズオ・イシグロの「私を離さないで」と同じテーマ、「臓器を提供するドナーとして作られてこの世に生まれてきた」という箇所です。「私を離さないで」は、31歳の女性(キャシー・H)が、少女時代を過ごした施設について回想するという形式で進められます。その施設の名は「ヘールシャム」、全寮制の学校のようなもの。そこに暮らし学んでいる少年・少女を描いていますが、はっきり言ってしまえば、そこに暮らし学ぶ人たちはクローン人間、まさにドナーとして生まれてきた人たちなのです。小説という都合上、最初は「臓器を提供する」ということはあからさまには出てきませんが、「提供」という言葉でうすうす分かってきます。


やがてある女性教師が生徒たちにこう言います。「あなたがたは教わっているようで、実は教わっていません。それが問題です。形ばかり教わっていても、誰一人、本当に理解しているとは思えません」と。ルーシー先生とエミリ先生の言うことは、それぞれ異なります。トミーは「ルーシー先生が正しいと思う。エミリ先生じゃない」と言います。「ネバーレットミーゴー・・・オー、ベイビー、ベイビー・・・わたしを離さないで・・・」、本のタイトルはここから来ています。その姿を見た女性は。、後に次のように語ります。


「新しい世界がやってくる。科学が発達して、効率もいい。古い病気に新しい治療法が見つかる。すばらしい。でも、無慈悲で、残酷な世界でもある。そこにこの少女がいた。目を固く閉じて、胸に古い世界をしっかり抱きかかえている。心の中では消えつつある世界だとわかっているのに、それを抱きしめて、離さないで、離さないでと懇願している・・・」。子どもたちは織りのような施設の中ですくすくと育っていきます。自分たちの未来がどういうものであるかも知らないで・・・。


実はこの作品「私を離さないで」は、映画化されることが決まっていて、主役はキーラ・ナイトレイ のようです。撮影はもう始まっているようです。全米公開は2010年。物語の内容からして、ちょっと想像もつきません。


下にカズオ・イシグロの最新作を載せておきます。


とんとん・にっき-kazu1 「夜想曲集

音楽と夕暮れをめぐる五つの物語」

著者:カズオ・イシグロ

訳者:土屋政雄

発行:早川書房










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