町田康の「浄土」を読んだ! | とんとん・にっき

町田康の「浄土」を読んだ!

 

町田康の「浄土」(講談社文庫:2008年6月13日第1刷発行、2021年12月23日第5刷発行)を読みました。

 

早い話が、町田康の「私の文学史・・・」を読んだことによります。

その中にこの本のことが出てきたので、すぐにも読もうと思っていたのですが、ついつい後回しになってしまいました。

 

奇想あふれる破天荒なる爆笑暴発小説集!

 

目次

犬死

どぶさらえ

あぱぱ踊り

本音街

ギャオスの話

一言主の神

自分の群像

解説 松岡正剛

 

「犬死」

さんざんな一年が暮れようとしていたある日、私は豚田笑子の訪問を受けた。夏以来ろくなことがないと私がこぼすのを酢を飲んだような顔をして聞いていた豚田笑子は、そんなだったらジョワンナ先生のところを訪問すればよい、と言ったのである。

「どぶさらえ」

先ほどから、「ビバ! カッパ!」という文言が気に入って、家の中をぐるぐる歩きまわりながら「ビバ! カッパ!」「ビバ! カッパ!」と叫んでいる。・・・

なぜ俺がビバ! カッパ!になったかというとそれは町内を流れるどぶが原因である、というのもまあそうなのだけれども、なにもどぶが俺をビバ! カッパ!にしたわけではない。

「あぱぱ踊り」

「俺はけっこう凄いんですよ」「凄いっていうと」「俺は凄い人間なんですよ」「ああそうなんですか」「そうなんです。相当、凄いんです。だけどただ普通にこうしていると普通の人間とかわらないように見えるでしょ」「すこしも変わらないように見える」「そうでしょ。あなたみたいな普通の人にもこうして普通にしてたら俺が凄いということがわからんでしょ。ところがこうして普通にしていたら俺自身も本当に俺が凄いかどうか分からなくなってくるんですよ」

「本音街」

久しぶりに本音街にいきたくなった。毎日、あほやうどんにまみれて生活をしているとたまに本音街に行きたくなる。

女はへたりこんだ男を黙って見下ろしていたが、やがて「さよなら」とだけ言って立ち去りかけた。男は女の足に取りすがって言った。「さよならというのはどういうことですが」「もうあなたと別れるということです」「なぜですか。僕は少しふざけただけです。別れないでください」「いえ。私はあなたと別れます。なぜならあなたが途轍もない馬鹿だとわかったからです。私はあなたのことがほとほと嫌になりました。足は臭いし、チンポが臭いくせにフェラチオしろと言うし」

「ギャオスの話」

たいへんなことになってしまった。あろうことか中野区に恐ろしい生物が出現したのである。まったくもってとんでもない獣であった。まず恐ろしく背いが高く、65メートルもあった。とてつもない身長である。太古の恐竜にもこんな巨きいのはいなかった。頭は平べったい三角で目つきが凶悪、全体の印象は蝙蝠に似ていた。黒っぽい身体にはコールタールが凝固したようなごつごつした無数の突起があった。奇怪な生物はギャオスと命名された。

「一言主の神」

使者は根の臣というもので、出かけて行った根の臣は大日下に言った。「わたいは天皇の使いですけどね、あんたの妹さんをね、天皇の弟はんの大長谷はんの嫁はんにもろだらどやちゅわれましてね。ほいでやってきたんだっけど、どないなものだっしゃろ」。言われた大日下は激烈に喜んだ。そらそうだろう、大長谷は天皇の同母弟である。その大長谷のところに自分の妹が嫁に行くということはこれは間違いなく出世の糸口で、喜ばないわけがない。大日下は「いやあ、もう、全然全然」と言った。

「自分の群像」

方原位多子は椅子に座ったまま上体を90度横に曲げてこぼれ落ちた資料の本を拾い上げ、起き直りざま時計を見た。位多子は、今日も雑用ばかりでまとまった仕事ができなかった、と思って溜息をついた。ひどく肩が凝っていた。自分の責任において形にしなければならない仕事の期日が目前に迫っていた。そう思った位多子が山積みになった資料のなかから必要な資料を選び出しにかかった、ちょうどその時、外出先から向かいの席の玉出温夫が戻ってきた。気配で目を上げた位多子と突っ立った温夫の目が合った。

 

松岡正剛は「解説」で、以下のように言う。

最も異なるのは、町田が思想や文学や芸術の担い手の言説をゼッタイに持ち出さないで文章が書けている、ということだ。シオランもぼくも町田も、「無用性」や「呪詛」や「時間の関節」についてはやたらに熟知していて、できるかぎりの「間投詞的思考」をしているところまではほぼ同じなのだけれど、だからといって町田はそれを難度の高い反哲学や宇宙観などには金輪際つなげずに、徹底して周辺事情との切り結びですべてを済ませるのである。つまりは丹念に学術用語の大半を排除する。それでいて私小説の伝統をぶっちぎる。このフェノタイプ(表現型)は真似できない。

 

町田康:

作家・パンク歌手。1962年大阪府生まれ。高校時代からバンド活動を始め、伝説的なパンクバンド「INU」を結成、81年に「メシ喰うな!」でレコードデビュー。92年に処女詩集「供花」刊行。96年に発表した処女小説「くっすん大黒」で野間文芸新人賞、ドゥマゴ文学賞を受賞。2000年「きれぎれ」で芥川賞、01年「土間の四十八滝」で荻原朔太郎賞、02年「権現の踊り子」で川端康成文学賞、05年「告白」で谷崎潤一郎賞、08年「宿屋めぐり」で野間文芸賞をそれぞれ受賞。他の著書に「人間小唄」「この世のメドレー」「猫にかまけて」シリーズ、「常識の路上」「ギケイキ 千年の流転」「記憶の盆をどり」「しらふで生きる」などがある。

 

探したら町田康の本、以下の2冊がでてきました。

まだ、あと数冊あると思いますが…。

ブログを始める前のことです、読んだのは。

 

「くっすん大黒」

平成9年3月30日第1刷

著者:町田康

発行所:株式会社文藝春秋

 

「きれぎれ」

平成12年7月10日第1刷発行

著者:町田康

発行所:株式会社文藝春秋

 

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