町田康の「湖畔の愛」(新潮社:2018年3月20日発行)を読みました。
以下、町田康の略歴です。
1962年大阪府生まれ。1996年に初小説「くっすん大黒」を発表、翌年ドゥマゴ文学賞、野間文芸新人賞を受賞。2000年「きれぎれ」で芥川賞、2001年『土間の四十八滝』で萩原朔太郎賞、2002年「権現の踊り子」で川端康成文学賞、2005年『告白』で谷崎潤一郎賞、2008年『宿屋めぐり』で野間文芸賞を受賞。他の著書に『夫婦茶碗』『パンク侍、斬られて候』『人間小唄』『ゴランノスポン』『ギケイキ 千年の流転』『ホサナ』『生の肯定』『猫にかまけて』シリーズ、『スピンク日記』シリーズなど多数。
僕も、以前、町田康は、一時期、よく読みましたね。思い出すままに、「くっすん大黒」、「へらへらぼっちゃん」、「きれぎれ」などが思い浮かびます。もっとあるかもしれないけど、探したけど見つからない。
ブログに書いたのは、下の3件です。
最近、映画化されて話題にないっている町田康原作の「パンク侍斬られて候」、評判はかなり上々のようです。僕は読んでいない。時間があったら、観に行こうっと。
それはさておき、 町田康の「湖畔の愛」、書店の案内には、以下のようにあります。
龍神が棲むという湖のほとりには、今日も一面、霧が立ちこめて。創業100年を迎えた老舗ホテルの雇われ支配人の新町、フロントの美女あっちゃん、雑用係スカ爺のもとにやってくるのは――。自分もなく他人もなく、生も死もなく、ただ笑いだけがそこにあった。響きわたる話芸に笑い死に寸前! 天変地異を呼びおこす笑劇恋愛小説。
そうそう、この小説「湖畔の愛」は、「湖畔」、「雨女」、「湖畔の愛」、の3章に分かれています。全編、創業100年にもなる由緒ある九界湖ホテルの出来事です。とはいえ、数年前から稼働率が低下、経営はいつつぶれるかわからないという状態になっています。支配人新町と、若くてかわいい従業員圧岡さん、そしてホテル内をいつもうろうろしている雑用係のスカ爺によって繰り広げられます。
「湖畔」では何を言っているのかわからない初老の客と、スカ爺がわけのわからない言葉を連発して、二人の間で会話が成り立っています。「雨女」は雨を降らしてしまう雨女と、彼女を好きになってしまった男のロマンスです。そしてやく半分を占めるのが「湖畔の愛」、新町は支配人から降格され、ホテルの雰囲気は以前とは違っています。大学の演劇研究会の面々がやってきて、美女に振り回されての、てんやわんやの大騒動です。
「湖畔」で、初老の客太田とスカ爺の会話が成り立っていました。「真心だけで意味のない言葉がどこまで通じるか」と太田は旅に出ます。その結果は惨憺たるものでした。「やはり真心をつかむのは難しいのだな。と思い、同時に、言葉を持たぬものはかくも苦しく悲しい境遇に立たされるのだと思った」。「木の枝に刺さった贄のように、そのとき真心は言葉であり、言葉は真心です。意味のない真心だけの言葉。素晴らしいじゃないですか」。「それは孤悲のなかにすくっと立つ。…すっごいホテルだよ、ここ」。そして太田様の出資話がまとまります。
こうしたてんやわんやを名調子で描きながらも、さすがは町田康、ぐいぐいと読者を引っ張っていきます。
朝日新聞:2018年5月19日