西村賢太の「雨滴は続く(未完)」を読んだ! | とんとん・にっき

西村賢太の「雨滴は続く(未完)」を読んだ!

 

芥川賞作家の西村賢太さんが5日、東京都内の病院で死去した。54歳だった。

芥川賞作家の西村賢太さんが5日、東京都内の病院で死去した。

 

西村賢太の「雨滴は続く(未完)」(文芸春秋:2022年5月30日第1刷発行)を読みました。連載最終回の執筆途中に著者が急逝したため、本作は未完の遺作となりました。

 

”最後の私小説作家”が、

生命を賭して紡ぎ続けた

畢生の大作1000枚。

仰ぎ見る師・藤澤淸造に少しでも近付くべく、時に女たちに心奪われながらも、寛多は作家への道を歩み始める――。

 

2004年暮れ、北町貫多は37年の人生においてはじめての高揚を味わっていた。同人誌に発表した小説が、大手文芸誌「文豪界」に転載されたのである。にわかに訪れたチャンスをものにして、”輝かしき新進作家”になるべく、苦悩しながらも奮闘する作家前夜の日々。

 

始まりはこうである。

このところの北町貫多は、甚だ得意であった。元来、と云うか、生まれついてこのかたの不運続きで、37歳と云う年齢を虚しく経(た)ててきた彼にとり、それはかつて味わったことがない昂揚であり、覚えた様(ためし)のない心境でもあった。――ことの起こりは、二箇月近く前に届いた一通の葉書である。文豪春秋の文芸誌「文豪界」編輯部から届いた一通の葉書である。編輯者によるところの短文は、寛多の作品が2004年下半期の<同人雑誌優秀作>に決定したことを伝えるものであり、ついては該作を「文豪界」の12月号に転載するので、追ってゲラを送付、訂正箇所を手直しした上で早急に戻してほしい、との意の文言が続いていた。

 

それからが苦難の道、「文豪界」とか「群青」とかの商業誌にはさすがの貫多もそう簡単には食い込めません。

 

そして終わりはこうである。

一応の習慣になっている階下の集合郵便受けを覗きに行った貫多は、・・・一通の茶封筒があることに気付いた。裏面を返すと、差出人として<日本文学振興会   

 芥川賞直木賞係>と印字されている。・・・予想通りに、その文意は今期の芥川賞候補にあがったとの知らせであった。・・・ヘンな云い草だが、何か呆気ない感じもしていた。芥川賞と云うとその候補になるのも茨の道かと思っていたが、こんなに簡単に、こんな手易くなれるものかと拍子抜けがした感じであった。それが故、このとき貫多の口から洩れたのは、「うわ・・・本当に候補とか来ちゃったよ。さすがは、ぼくだな」との、まるで抑揚のない、吐いたそばから消え去る空虚な独言であった。

 

これからという時に、この小説は485ページで<未完>となり、この続きは永遠に目にすることができなくなりました。こんな終わり方ってあるんですね。

気になるのは、〇〇新聞の記者葛山久子と、おゆうこと川本那緒子とのその後についても。不思議なのは、貫多が困った時に助け船を出してくれる12歳年上の落日堂店主新川です。

 

西村賢太: 
1967(昭和42)年7月、東京都江戸川区生れ。中卒。新潮文庫版「根津権現裏」「藤澤淸造短篇集」、角川文庫版「田中英光傑作選 オリンポスの果実/さよなら 他」を編集、校訂、解題。著書に「どうで死ぬ身の一踊り」「暗渠の宿」「二度とはゆけぬ町の地図」「小銭をかぞえる」「廃疾かかえて」「随筆集 一私小説書きの弁」「人もいない春」「苦役列車」「寒灯・腐泥の果実」「西村賢太対話集」「小説にすがりつきたい夜もある」「一私小説書きの日乗」(既刊7冊)「棺に跨がる」「疒(やまいだれ)の歌」「下手に居丈高」「無銭横町」「痴者の食卓」「東京者がたり」

「形影相弔・歪んだ忌日」「風来鬼語 西村賢太対談集3」「蠕動で渉れ、汚泥の川を」「芝公園六角堂跡」「夜更けの川に落葉は流れて」「羅針盤は壊れても」「瓦礫の死角」などがある。2022年2月、急逝。「夢魔去りぬ」

 

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