演説妨害罪の判例 | 下関在住の素人バイオリン弾きのブログ

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1 前置き

 

公職選挙法は、選挙に関し、演説を妨害した者には、選挙の自由妨害罪が成立するとしている(公職選挙法225条2号)。

 

この選挙に関し、演説を妨害した場合に成立する犯罪は、「演説妨害罪」と呼ばれる。

 

この演説妨害罪の成否に関して、重要な判例が3つある。

 

いずれも、ネット上で公開されている。最下部にリンクを貼っておく。

 

2 判例の内容(要約)

 

判例(1)

 

大審院判決昭和7年5月17日大審院刑事判例集第11巻635頁

 

選挙運動は、主として演説又は文書で所見を発表するという手段でされる。

したがって、演説による選挙運動の自由は、厳確(厳格かつ確実)に保障する必要があり、演説に対する一切の支障を排除する目的で、演説妨害罪が法律に定められた。

候補者又はその選挙運動者が演説をしている際、その演説を妨害する意思で行われ、かつ、現に妨害の結果を生じさせた一切の行為が、演説妨害罪を構成する。

その行為の結果が、演説の継続を不可能にするほど重大だった場合はもちろん、演説に支障を来たし、その続行を困難にする程度だった軽易な場合にも、演説妨害罪が成立する。

選挙に関して演説が行われている際に、演説をしている者を罵倒し、約1分間連続して拍手をした行為は、演説の続行を困難にしたといえるので、演説妨害罪にあたる。

ましてや、それ以上の行為(格闘)をした被告人らに演説妨害罪が成立するのは、明白である。

 

判例(2)

 

最高裁判所判決昭和23年6月29日刑集第2巻第7号752頁

 

演説の妨害とは、その目的意図の如何を問わず、事実上、演説することが不可能な状態に陥らせることによって成立するのであって、判示Aの演説の継続が不可能になったのは、被告人とAとの口論にその端を発したものであるとはいえ、結局は、被告人のAに対する暴行によって招来されたものであるから、被告人として固(もと)よりその罪責を免かれることはできない。

 

判例(3)

 

最高裁判所判決昭和23年12月24日刑集第2巻第14号1910頁

 

被告人は、候補者の政見発表演説会の会場において、応援弁士の演説に対し大声で反駁怒号(はんばくどごう)し、弁士の論旨の徹底を妨げ、さらに被告人を制止しようとして出て来た応援弁士Aと口論の末、罵声を浴せ、同人を引き倒し、手拳でその前額部を殴打し、全聴衆の耳目(じもく)を一時被告人に集中させたというのであるから、被告人に演説妨害罪が成立する。

演説自体が継続されたという事実があっても、聴衆がこれを聴き取ることを不可能又は困難にするような行為があった以上、これはやはり演説の妨害である。

又、被告人の行為の原因や意思が所論の通りであったとしても、演説妨害の行為があった以上その責任を問われるのは当然である。

 

3 「演説を妨害し」の意味

 

行為者の意図、目的、動機のいかんを問わず、演説の続行を不可能にするか、演説は続行されても聴衆がそれを聴きとることを不可能又は困難にした場合に、「演説を妨害し」たことになる。

もちろん、故意として、自らの言動によって演説を妨害することになることを認識し、少なくとも、「そうなってもかまわない。」と思ったことを必要とする。

なお、演説の遂行に困難を来たさない程度の野次をとばすとか、賛成又は反対の意見を表示する極めて簡単な言葉を発することは、演説妨害罪にはならない。

以上から、拡声器やマイクを使わず、いわゆる地声(肉声)で野次をとばした場合には、一切演説妨害罪に当たらないということはできない。

それが大声で、連続してされた場合には、近くにいる聴衆が演説を聴き取ることが困難になることがありうるからである。

 

判例(1)

https://ameblo.jp/tokuichi39/entry-12497393269.html

判例(2)

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=55260

判例(3)

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=55281

 

追記

 

大阪高等裁判所の判例が引用されることもあるので、リンクを貼っておく。

 

最高裁判所の判例がある場合、高等裁判所の裁判例は、参考資料の位置づけである。

 

大阪高判昭和29年11月29日高等裁判所刑事裁判特報1巻11号502頁

http://www12.plala.or.jp/tokuichi/enzetubohgai.pdf

 

なお、道警のヤジ排除に対して、自由法曹団が声明を、東京弁護士会が意見書を公表している。

 

いずれも、判例理解に問題があると思われるので、記事にした。

 

自由法曹団の声明について

https://ameblo.jp/tokuichi39/entry-12504642789.html

 

東京弁護士会の意見書について

https://ameblo.jp/tokuichi39/entry-12525224111.html

 

また、このたびの排除行為の適法性について論じた。

https://ameblo.jp/tokuichi39/entry-12509854678.html