1月のとある日、チューリッヒで環境の国際学術会議が開かれる。
チューリッヒ湖に栄えるこの街の人はドイツ語を話す。
チューリッヒ湖畔はスイスの高級別荘地である。私の親友の教授は、アインシュタインの物理学教室の後任教授であり、粒子物理学をする。原子核などを研究する量子物理学ではない。粒子とは塵のことだという。かれはドイツから来て、この対岸に別荘を有するちょび髭のリッチマン。
今夜の晩さん会はこの城の中です。ヨーロッパでは、古城をパーティーにしばしば使用する。
市長の許可があれば、公共施設として利用できる。日本の城も公共目的には貸し出すべきです。
その晩のパーティーは午後7時に始まる。
参加者は正装で、蝶ネクタイの紳士に化ける。
古城の室内の広間での団欒は様になっている。
パーティーはテープル方式で、私らは例の物理学者夫妻や米国マサチューセッツ工科大学の教授陣と同席する。皆、研究仲間だ。スイスの美味しい肉料理とワインの味は、そこらの一流ホテルでも味わえない。今夜のスポンサーはスイス大財閥なので、彼の屋敷の料理人だろう。ご列席の挨拶が長々と続く中、われわれは黙々と平らげる。
と、例の物理学者の婦人が、私に防寒帽子をくれた。私が頭が寒いと言っていたので、昼間に街で購入したとのことである。なんと、真っ青な毛糸で、どはでである。彼女は米国サンフランシスコから来て、彼と結婚する。彼はドイツ人だが元々サンフランシスコのIBM研究所に若い時働いていた。そこで見染めたのかもしれない。夫人は西部の女よろしく、明るく、にぎやかで、元気者だ。私は、せっかくもらった帽子は使用できていない。
ご臨席のあいさつが過ぎたのは9時過ぎである。かれこれ、2時間がたっており、宴も終わりかと、参加者のほとんどがワインをばんばん飲み干す。
と、今度は学生代表2名が壇上に招かれ、スピーチをおずおずとする。参加者は教授陣であるので、二人とも緊張している。まず1名の女子学生が環境がいかに大切かのスピーチを始める。拍手が時折起きる。
しかし、多少長いなあー、と思っているうちに午後10時が過ぎる。彼女は1時間以上スピーチをしている。だれも止めに入らない。止めようとすると、周囲が制止する。やらせておけ!! どうやら、最も優秀な学生2名のスピーチだそうである。しかし、もう10時過ぎていますよ。参加者の数名は、テーブルに伏せて、いびきをかき始める。それにしても、よくまあ1つのテーマで1時間以上も話せる。感心した。
2番目の男子学生が壇上に招かれ、スピーチを始める。環境が大切であるという似たような内容だ。弁論大会じゃないのか。
午後11時がすぎる。半分以上の参加者はテーブルに伏して、グースーと寝ている。まだ、スピーチが止まらない。午後12時近くになり、ほぼ全員は寝ている。まだ演説している。補佐の先生もくたびれて寝てしまった。
例のサンフランシスコ生まれの教授夫人が目が覚めて、周囲と時計をキョロキュロみまわす。と、彼女は彼の前にずかずかと近寄り、演台を足で蹴飛ばし、「演説辞めろ、何時だと思っているのだ。いい加減にしろ」と大声で制止させる。さすが、西部のヤンキー女だ。鉄の塊だあー。彼女の大声によって、大勢の人が一斉に起き上がっる。とぼとぼと、1月の寒い夜空を歩いて帰るころは、1時を過ぎる。
後日、あの学生たちの演説の意味が推測できた。1つのテーマでどれだけ長時間話せるか、それには膨大な準備も必要である。こういう教育もあるようだ。ローマ帝国時代からの人材育成方法だ。それにしても、気長な、我慢強い試験です。日本でもやれるかな???
チューリッヒ郊外には名城がいくつかある。
ここはチューリッヒ郊外の里村。お勧めの場所です。