ブラティスラバ市はウィーン鉄道駅から国際列車で100キロにも満たない短い距離である。
ウィーン市に面する国際河川のドナウ川をまたぐ。
美しきドナウ川の橋をわたるとすぐに、チェコスロバキアに入る。
当時チェコスロバキアはソ連を中心とする共産圏に属する。
列車は国境の寂れた検問所で停車する。
車内は3畳くらいの個室で、対面式のソファーがある。
客は私一人だ。英語は全く通じない。
カチューシャのロシア大地にあこがれがある私は、共産圏の風景を早く見たいと思いが早やっている。
待つこと小一時間。
検察官2名が私のドアをガラッと開け放つ。
30歳台の小柄な女性検察官の後ろを見ると、年配の大柄な男子検察官が立っている。彼は硬い顔つきで右で拳銃を構えている。彼れらとは言葉がまったく通じない。私は比較的立派な背広を着ていたが、こんなところに来るのはスパイか何か、怪しげな奴と考えたらしい。列車の窓際に後ずさりして、両手を挙げた。一巻の終わりかなあー。
パスポートとビザを見せて、国際会議の英語のパンフレットを見せた。彼女はそれを男性の部下にみせた。彼は笑顔になっている。日本からの客は初めて見たのだろう。
彼女の顔も少し穏やかになるが、まだ表情は硬い。英語のパンフは理解できない。
次は旅行カバンの検閲だ。あけたカバンの1つ1つの品物めずらしそうに見つめている。
2台の日本製カメラを見つけると、男子の部下としげしげと触っている。と、彼女の顔つきは
「これは何だ。これをくれれば通してやる」
私は言葉の通じなく、意味がわからないふりをしてみた。5分間ほどの緊張が漂う。
彼らは私が何もくれないとあきらめて、立ち去る、検閲には20分ほど要している。列車が国境検問所から動き出すには、4時間ほど待たされた形だ。
車窓の外をみると、道路に自動車の国境検問所があり、長蛇の列である。ワイロの取引で時間がかかっているのだろう。共産圏の一部を垣間見る。
国境を出発すると、のろい列車でもほどなくブラティスラバ駅に着く。石造りの小さな駅である。
写真の駅の奥左側の広場に1台のポンコツタクシーが待っている。さびて穴だらけ。車修理工場がないのだろう。ドイツ語を話す初老の運転手には、ホテル名だけを告げる。ロシア語も通じるというので、日本から来たと、ロシア語で話す。彼は助手席にすわれという仕草だ。フロントガラスは埃だらけであるが、後部座席眺めはよかった。しかし。道路は石畳でデコボコしており、彼の運転もへたくそで、路面電車の間を走り抜け、死ぬのかとひゃひゃする。信号はほとんどない。
ほどなく、市内の大きく、豪華なホテルに着く。ホテルのフロントではまたドイツ語かロシア語だ。私はドイツ語を勉強をしていない。(その後の旅の数々で。ヨーロッパでいちばんたいせつな言語と知る。)
困っていると、奥から一人の若い女性が出てきた。なんと英語がしゃべれる上。映画007「ロシアより愛をこめて」のヒロインとそっくりの美人さん。どこで英語習ったのか。とにかく、英語を使う客などめったにない上、日本から来た事に驚いている。4-5日このホテルに滞在するのだが、ホテルで話が通じるのはこの人ひとりだけ。どうなることやら。・・・・

