60歳代前半、ルミナルタイプ、多発肺転移の方が来院されました。
おそらく(私の勝手な想像ですが)標準治療を提案される場合、
「ルミナルタイプ、直ぐに命に関わらない遠隔転移。」
と言うキーワードから、
「もう治りません。
あとは延命治療になります。
順番に薬を使っていって、使える薬がなくなったら、あとは緩和治療になります。
転移しているので、原発巣は切除出来ません。
平均余命は4-5年です(相対5年生存率およそ38%)。
残りの人生を如何に有意義に過ごすかを考えましょう。」
と言う様な説明をされておられる様です。
中には、
「今のうちに死に場所を探しておいて下さい。」
と言う様な事を言われる方もおられる様です(すべてセカンドオピニオン外来受診の方々より)。
日本全国で、ほぼこの様な説明は多かれ少なかれされている様です。
私はその様な説明がいけないと言っているのではありません。
これらの言葉は、標準治療を日々行っておられる専門医の先生方の御経験から発せられている、正直な言葉だと理解しています。
ですので、セカンドオピニオン外来を受診される方々からこの様な事をお伺いする事で、いわゆる標準治療では、ほとんどの方でこの様な状態になられると言う事を、間接的に改めて知る事が出来ると言う事です。
「治りたい。
根治したい。」
と願われている方にとって、
「比較的大人しいがんです。」
とか、
「まだ今直ぐ命に関わる状態ではありません。」
とか、
「使える薬はまだまだ沢山あります。」
と言う言葉をかけられても、中々気持ちが晴れて、前向きになる事は難しいそうです。
以前にも書いた事がありますが、長く治療に携わらせていただいた方が居なくなられる事の喪失感は、私にとって決して小さな事ではありません。
もちろん人はいつか寿命を迎えます。
でもその時の気持ちとは、やはり少し違います。
出来れば乳がんに罹られたすべての方に、天寿を迎えられるまで、乳がんから解放されて(中々100%解放される事は難しいかもしれませんが)、元気に幸せに過ごしていただきたいですし、皆様の心からの笑顔、心からの笑い声を聞きながら、私は過ごしていきたいと願っています。
かなり話が逸れてしまいました。
私がこの方を診させていただいて、考えた事は、
「肺転移の数は多いが全てまだ小さい。
それ以外に遠隔転移は無く、原発巣、腋窩リンパ節転移は最終的に何とかなる。
ルミナルタイプ乳がんの肺転移は、初期治療をしっかりやる事で根治する可能性がある。
肺転移をすべて消してから、原発巣・腋窩リンパ節転移を根治切除すれば、治る可能性はある。」
と言う事でした。
片田舎の病院で、進行乳がんの患者さんを診させていただいても、私の考える事は同じでした。
ただ、いつも居る病院と、こちらの病院とで、人も設備も異なります。
でも、変わる事は、そこにある物を如何に有効に使うかだけで、やるべき事に大きな違いはありません。
私は頭に描いた戦略を、具体的に治療に落とし込んでいきました。