60歳代前半、ルミナルタイプ、多発肺転移の方が、片田舎の病院に来られました。
出来ればそちらの病院で、根治を目指した治療を受ける事を望まれました。
あれから5年の月日が過ぎました。
治療前の原発巣のCT画像です。
少しだけ広範囲に皮膚が肥厚し、皮内リンパ管へのがんの進展が疑われます。
治療開始から5年後のCT画像です。
再発兆候は認めません。
治療前の左腋窩リンパ節転移(レベルⅠ:小胸筋外縁よりも外側のリンパ節)のCT画像です。
その5年後のCT画像です。
再発兆候は認めません。
治療前の腋窩リンパ節転移レベルⅠ(向かって右側の矢印)とレベルⅡ(小胸筋の背面のリンパ節:向かって左側の矢印)への転移のCT画像です。
治療開始から5年後のCT画像です。
こちらも再発兆候はありません。
乳癌診療ガイドラインでは、Stage Ⅳ乳がんの原発巣切除は、行わない事が強く推奨されています。
検討の元となった論文をすべて読みますと、遠隔転移巣が遺残したままの状態での原発巣切除では、全生存期間を改善しない様です。
残念ながら、遠隔転移巣がすべて消えてから(完全寛解してから)の原発巣切除に関しての臨床試験は行われた事が無い様です。
私は、必ずしも転移乳がんの原発巣切除は否定的に考えていません。
乳癌診療ガイドラインの抜粋です。
「転移乳がんだから原発巣切除は出来ない(やれない)」
と言われた、他院で治療中の患者さんの言葉をしばしば耳にします。
しかし、ガイドラインには、転移乳がん(Stage Ⅳ乳癌)の原発巣を切除してはいけない、とは何処にも書いてありません。
切除しない事に、46人の投票者のうち41人が、切除しない事に賛成し、5人が反対である、と書いてあります。
また、Stage Ⅳ乳癌の局所制御のための原発巣切除に関しての記載です。
47人中47人すべての投票者が、転移乳がん(Stage Ⅳ乳癌)であっても、局所制御のための原発巣切除には賛成されています。
「すでに転移乳がんだから原発巣は切除出来ない。」
と言う言葉が何処から出てきたのかは分かりません。
ただ、遠隔転移巣が残っている状態で原発巣切除しない事には基本的に賛成です。
ですが、局所制御のための原発巣切除には、このガイドラインのCQ4作成に携わられたすべての方が賛成されているのですから、転移乳がんの原発巣切除が必ずしも出来ないとは言えないのでは無いか、と私は単純に考えます。
私個人としては、
「転移乳がんの原発巣切除は、そのタイミングがとても大切であり、必ずしも否定されるものではない。」
と考えています。