『ドント・ルック・アップ』 (2021) アダム・マッケイ監督 | FLICKS FREAK

FLICKS FREAK

いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

ミシガン州立大学大学院生ケイト・ディビアスキーは、新しい彗星を発見する。天文学者ランドール・ミンディ教授と共に彗星の進路が地球に向かっていることに気づき、地球衝突までわずか6か月と14日と割り出した2人は差し迫った危機を国家に伝えようとする。彼らの話を聞いたNASAのオグルソープ博士の対応は早かった。科学者は科学を信じる。3人はホワイトハウスで大統領との面会までこぎつけるが、そこからが悪夢の始まりだった。支持率しか頭にない大統領は「静観し、精査する」とだけ言ってまともに取り合おうとしない。業を煮やしたケイトとミンディ教授はテレビに出演して、迫り来る危機を伝えようとしたが、陽気な朝の人気番組キャスターは深刻な訴えをジョークで受け流す。その状況に取り乱したケイトはあっという間にSNSでミーム化されて嘲笑の対象となり、反対にミンディ教授はセクシーな科学者と持てはやされ、テレビの人気者になっていく。

 

監督のアダム・マッケイは『サタデイ・ナイト・ライブ』のライター、ディレクター出身。映画監督としては、ウィル・ファレル出演のコメディ作品が多いが、近年はよりシリアスな(そして彼らしいユーモアのセンスが盛り込まれた)良作を作っている。『マネー・ショート 華麗なる大逆転』 (2015)しかり、『バイス』 (2018)しかり。前者は金融業界、後者は政界を揶揄した作品であり、ヘビーな題材を扱いながら良質のエンターテインメントにしていた。本作は、地球滅亡の危機を知りながら知性のあるはずの人類が愚かな選択をするという警句に満ちたコメディ。

 

やはり笑いのツボは人によって違うと思われる。コメディは一番難しいジャンルだろう。自分にとって、この作品は『マネー・ショート』や『バイス』ほどには面白いと思えなかった。それは全体を通してはであり、面白いところも多々あったのにという印象。予告編を見る限り、面白くないはずがないのにと感じさせる。その面白さが2時間18分という尺は持たなかった。

 

面白い小ネタを拾えばいくつでも拾えるが、特によかったのは女性大統領と女性キャスターを完全にコケにしていること。利己的で愚かな大統領と出演者を性の対象としてしか見ないキャスターは、実は現実のものであり(但し、性別は男なのだが)、それを女性が演じているのはかなり際どいところだが、深い演出だと思った。ただ、メリル・ストリープ演じる大統領はやり過ぎ感があり、それは少々残念だったところ。

 

出演者でよかったのは、ジェニファー・ローレンス演じるケイト。常に良識を保つ役回りの彼女は、作品に安定感を与えていた。お笑い系では、なんといってもマーク・ライランス演じるピーター・イッシャーウェル。世界で第三位の資産家の彼は政治にもその財力で圧倒的な影響力を持ち、人類を破滅に導く直接的な原因を作った人物。特定のモデルはいないのだろうが、「あるある」感のあるキャラクター設定。レアメタル採掘を狙った彗星爆破計画が失敗しそうになるや、トイレに中座にするところは最高だった。彼がアカデミー助演男優賞を受賞した『ブリッジ・オブ・スパイ』 (2016)での演技よりも個人的にはよかったと思えるほど。

 

地球滅亡の危機は彗星衝突によるものだが、アダム・マッケイと主演のディカプリオの頭にあるのはグローバル・ウォーミングによる危機的状況だろう。ディカプリオが、気候変動の緩和や生物多様性の保全を目的とした「レオナルド・ディカプリオ財団」を立ち上げたのは、『タイタニック』が公開された翌年1998年のこと。2016年に『レヴェナント:蘇えりし者』でアカデミー賞主演男優賞を受賞した際のスピーチでもかなりの時間を割いて気候変動について訴えていた。

 

知性豊かなはずの人類がその知性を正しく行使しないと人類存在すら脅かす、そしてそれが今まさにこの世界で起こっているという危機感がこの作品制作のモチベーションになっていることを察すれば、おバカなお笑い作品でないことは理解できる。あとは好みの問題。

 

エンドロールの最後まで観ること。ジョナ・ヒルは安定の面白さ。

 

★★★★★ (5/10)

 

『ドント・ルック・アップ』予告編