『マネー・ショート 華麗なる大逆転』 (2015) アダム・マッケイ監督 | FLICKS FREAK

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いやぁ、映画って本当にいいもんですね~



オープニングのタイトルの前に、3分ほどでアメリカのモーゲージ(住宅ローン証券化)市場の歴史が足早に映し出される。そこで出てくる米インベストメント・バンクの名前は2社。ソロモン・ブラザーズ(モーゲージ証券市場の生みの親)とベアー・スターンズ(サブプライム危機で最初の破綻)。その2社共に働き、21年のキャリアのほとんどの期間をモーゲージ証券のトレーダーであった私が楽しめないわけはない映画。

さすがマイケル・ルイス原作(彼は元ソロモン・ブラザーズのモーゲージ・セールスで業界暴露本の『ライアーズ・ポーカー』の著者)だけあって、考証は驚くほど正確。業界のインサイダーだった私が言うのだから間違いない。

サブプライム危機の本質は、証券化を前提にした犯罪的与信によるモーゲージ貸出(例えば、本作の中でもストリッパーの女性が5軒も家を持てるだけのローンを借りられたり、「NINJA(No Income, No Job and Asset)ローン」という用語が出てくる)と見られがちだが、それらのメルトダウンは単にトリガーであり、サブプライム危機の本質は、それら「クソのような資産」を「素晴らしい金融商品」に造り変えるウォールストリートの錬金術であり、「レバレッジ」である。そのことが正しく本作で描かれていることに感嘆した。しかし、それら本質を理解していない者(つまり大多数の人々)がこの映画を観て、"What the fxxx is this movie talking about?"となることは否めない。

驚くなかれ、映画では、「ISDA」「シンセティックCDO」や「CDS」といった金融用語が飛び交うのである。それを一般人に理解せよという方が無理であろう。

勿論、さすがに用語の解説めいた挿話が入る。例えば、「CDO(Collateralized Debt Obligation)」とは何かというシーンでは、レストランのシェフが「(CDOとは)3日前から残っているhalibut=カレイをシーフードシチューにぶち込むようなものさ」と言うのだが、当たらずとも遠からず、とは言えやはり相当遠い説明でしかない。

つまり、この映画を真に楽しめるのは、金融業界限定でしかもサブプライム危機の真っただ中で、何が起こったかを身を持って知る者だけではないだろうか。

その点では、マイケル・ルイスの前作『マネーボール』は、ベースボール業界の人間でなくとも楽しめたと思う(少なくとも自分はそうだった)。

個人的には、2008年3月14日の金曜日、ベアー・スターンズの株価がどうなったかをリアルで見せてくれたのは感慨深かった。また、同じ年の9月15日のリーマン・ブラザーズ破綻の後、映画に描かれた、社員が会社から去っていた後のオフィスの様子はどれだけリアルなのだろうという興味もあった。

ということで、あの時代を過ごした業界の人間は"Must-see"であり、その期待を裏切らないことは確約するが、そのごくごく一部の人間を除けば、「ふーん」で終わってしまいそうなもったいない映画。

残念ながらオスカー作品賞は取れそうもないが、脚色賞(脚本がオリジナルの「脚本賞」とは別に、原作が別にある場合の賞)は是非取ってほしい作品。

★★★★★★ (6/10)

『マネー・ショート 華麗なる大逆転』予告編