『Mr.ノーバディ』 (2021) イリヤ・ナイシュラー監督 | FLICKS FREAK

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いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

普通ないしむしろサエない中年男が、実は元特殊部隊兵士か何かで格闘技ほかの特殊能力を身につけており、何かをきっかけに(多くは家族に危機が降りかかる)悪の組織に単身立ち向かうという設定はもう手垢がついていると思われる。この作品もまさにその路線。観るまではあまり期待していなかったというのが正直なところ。ところが観始めてからはどんどん引き込まれ、そのテンションが最後まで下がることはなかった。近年のアクション映画の中では最良の一本と言えるだろう。

 

シリーズ化しているアクション映画の中で、近年最も評価できるのは『ジョン・ウィック』シリーズだろう。特に一作目の『ジョン・ウィック』 (2014)は傑出したアクション物だった(続編の『チャプター2』『パラベラム』は、ストーリーが大掛かりになった分、テンポが悪くなったのが惜しいところ)。この作品が、アクション映画ファンから注目されているのは、脚本が『ジョン・ウィック』シリーズのデレク・コルスタッドであることが多分にあるだろう。確かに雰囲気は似ている。

 

この作品のよさは、一にも二にもアクションの質の高さ。主演のボブ・オデンカークはアメリカ本国ではコメディアンとしての方が有名らしいが、この作品のため、2年間も本格的なフィジカルトレーニングをしたらしい。確かに還暦一歩手前(1962年生まれ)とは思えないほどのアクションの切れ味だった。そして、そのアクションもかなりリアル。超人的ではなく、自分もダメージを受けながらというリアルさがよかった。序盤の彼が覚醒するバスでの乱闘シーンは、ベアナックルファイトでは『イースタンプロミス』のヴィゴ・モーテンセンと『ジョン・ウィック:チャプター2』のキアヌ・リーヴスと並ぶ、アクション映画史上ベアナックルファイト・ベスト3ではないだろうか(『ドラゴンへの道』のブルース・リーのコロッセウムでのチャック・ノリスとの死闘は別格として)。

 

サエない男が超絶強いというギャップでは、過去最大の振れ幅。ストーリーはいたってシンプルで(彼の素性は最後まであまりはっきりしない、まさに「Nobody」)、その分アクションを追求した作品。彼がファミリーマンであるがゆえの中年男の悲哀を感じさせる設定もよかった。難を言えば、悪役のロシアのマフィアのボス。登場の仕方は華々しかった(ステージで変なダンスを披露)割には、最後のアクションシーンでの活躍がショぼかったのが残念。『ホーム・アローン』ばりに仕掛をこらした倉庫でマフィアを迎え撃つ、主役の父がクリストファー・ロイド(『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のドクと言った方が通りはいいだろう)、義兄弟がRZAと華があるメンツが揃ったから仕方ないのかもしれないが。

 

とにかくアクション映画が嫌いでなければ、見逃すべきではない作品。是非、シリーズ化して続編に期待したいところ。

 

★★★★★★ (6/10)

 

『Mr.ノーバディ』予告編