ジェイソン・ボーン・シリーズがパワーダウンしてしまった今、最も楽しめるシリーズ物のアクション映画は、MIシリーズとこのジョン・ウィック・シリーズだろう。前者は、プロデューサーでもあるトム・クルーズが、旬の監督を抜擢し惜しみなく資金を投入して自分を主役とする大エンターテイメント作品を作ろうとしているのに対し、後者は、『マトリックス』制作陣営がもっと趣味的なアクションで見せる作品を撮ろうとしているもの。監督は第一作目から引き続きチャド・スタエルスキ。彼は『マトリックス』ではキアヌ・リーヴスのスタントマンであり、このシリーズ第一作目で監督デビューをしている。
第一作目の大ヒットにより、トリロジーとなることが決まっていた本シリーズ。それゆえ、前作『ジョン・ウィック:チャプター2』のレビューでは、完結編でもある第三作目と合わせて評価すべきと述べたが、フタを開けてみると、トリロジーどころか第四作目も用意されているということになっていた。
前作ではアクションの過激度は増してはいたが、ストーリーが大掛かりになり、少々消化不良の部分があった。それに比して本作は、ストーリーはほぼないに等しい。殺し屋界の聖域であるコンチネンタル・ホテル内では殺しが許されていないが、その禁を破ったジョン・ウィックが多くの殺し屋から命を狙われるというだけのストーリー。
出だしからアクション全開。作品のオープニングから約25分間の、投げナイフと馬のシーンは最高だった。「シリーズ2作目以降の出来は1作目の出来を越えることはない」という映画の常識を覆すかと思われるほど、高密度のアクションシーンで幕を開けた本作。しかし、その後が頂けなかった。
先に述べたストーリーの脆弱さは敢えて問題にはしない。例えばブルース・リーの作品は、ストーリーの面白さを期待せずとも十分に楽しめるのは彼のアクションが魅力にあふれているから。ジョン・ウィック・シリーズにはそれに通じるものがあるはず。その売り物のアクションが、この作品の後半ではイマ一つ切れ味に欠けていた。
ハル・ベリーのアクションは迫力不足ではあるが、彼女が使うベルジアン・マリノア(シェパードに似たベルギー産の牧羊犬で、現在では警察犬としてよく使われている犬種)によるアクションは小気味よかったからよしとしよう。問題は、コンチネンタル・ホテルに送り込まれた「High Table」組織の最強の刺客というのが、ただ単に防弾装備をしたSWATもどきの特殊部隊というのがかなり興ざめだった。
マーク・ダカスコス演じるゼロは、『キル・ビル』の千葉真一のオマージュだと思われる寿司職人として登場。この作品のクライマックスである彼との死闘は、『燃えよドラゴン』の鏡の間で対決を思わせるが、これまた切れ味に欠けるものだった。ゼロの最期はこだわりを感じたが。
シリーズ完結編となるであろう次作に乞うご期待(と前作でも思っていたが)という少々残念な出来だが、期待しないで観る分にはそれなりかも。
★★★★★ (5/10)