『愛しのアイリーン』 (2018) 吉田恵輔監督 | FLICKS FREAK

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いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

42歳になる農家の息子はいまだ独身で、年老いた母と認知症の父と暮らしていた。彼は大失恋をきっかけに、貯金していた300万円をはたいてフィリピンでの嫁探しツアーに参加する。彼は、そこで出会ったアイリーンを連れて帰郷してみると、父はすでに亡くなっていて、実家はその葬儀の最中だった。

 

吉田恵輔監督との出会いは、彼のデビュー作『なま夏』。蒼井そら主演のエロティック・コメディを、当時住んでいたバンクーバーのレンタルDVDで借りたのが、2010年代の初めの頃だった。バンクーバーには2008年に移住し、10年住んでいたのだが、当初あったレンタルDVD屋は次々とつぶれ、残ったのはかなりマニアックなラインナップを揃える小さなレンタルショップだった。日本映画もそこそこあったが、エログロのカルトっぽい作品がほとんどで、外人のマニアックな邦画ファンがいかにも好きそうな(例えば、タランティーノが好みそうな)作品群だった。『なま夏』はそうした1本だった。

 

吉田恵輔の作品には二系統あるように思える。「毒のない作品」と「毒のある作品」。2013年に発表した『麦子さんと』(主演:堀北真希)や『ばしゃ馬さんとビッグマウス』(主演:麻生久美子)は前者。悪くはないのだが、若干予定調和的であり、あざとさが見えないでもない。そして、2015年発表の『ヒメアノ~ル』で、彼は覚醒したかのように思える。勿論それは後者の「毒のある作品」。そして2017年『犬猿』、2018年の本作とグレードアップしてきた。「毒のある」系三作でベストは本作。

 

非モテ男が金でフィリピンから嫁をもらうという設定自体、かなりスキャンダラスなのだが、人種差別、性差別というかなり際どいテーマにするどく切り込んで、秀逸なエンターテイメントにしているところが吉田恵輔のセンスだろう。観客の中には、こうした差別に敢えて批判的な態度を取らずにリアリティとして突き付けるところに嫌悪感を持つ人も少なからずいるであろう。

 

アイリーンがフィリピンから嫁いでくる理由は勿論打算的なものであり、主人公岩男の動機もほめられたものではない。それでも彼らの間にも時には純粋な瞬間があり、そのシーン(「おめえ、きれいだな」の後のキスシーンや、「私が岩男さんを守る!」の後のセックスシーン)は実に美しい。淀んだ水面からぽっかりと浮かび上がった透き通った水泡を見るためだけでも価値があるような鑑賞感だった。

 

役者の演技はいずれも素晴らしい。主役の安田顕、アイリーン役のナッツ・シトイは言うに及ばず。母親役の木野花の姥捨ての選択を言葉が通じないアイリーンに訴える切実さには心を打たれた。また「あるよっ」の田中要次、やくざの伊勢谷友介もいい味を出していた。個人的には、最近観た『偶然と想像』の印象が強い河井青葉のギャップにはやられた感があった。

 

これまで観た吉田恵輔作品ではベストであり、『ヒメアノ~ル』『犬猿』の路線が好みであれば、強く推せる作品。ただ観る人を選ぶかもしれないことは断っておく。

 

★★★★★★★ (7/10)

 

『愛しのアイリーン』予告編