『偶然と想像』 (2021) 濱口竜介監督 | FLICKS FREAK

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いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

 

濱口竜介監督最新作。『寝ても覚めても』 (2018)は個人的には、近年の恋愛をテーマにした日本映画の中では出色の出来だった。その『寝ても覚めても』でも偶然が二人の運命を引き合わせるのだが、この作品は、その「偶然が二人の関係性を引き寄せる」というテーマで作られた短編(というより40分程度の尺なので中編)三篇からなるオムニバス。全七話となる予定のうちの三話で構成されている。濱口監督はエリック・ロメールを意識していると伝えられているが、この作品と同じく短編で構成されたロメールの『レネットとミラベル/四つの冒険』 (1987)に表れているような「ロメール的なエスプリ」が、濱口作品をしてヨーロッパで評価されている理由にあると思われる。この作品もベルリン国際映画祭で、金熊賞に次ぐ審査員グランプリ(銀熊賞)を受賞している。

 

三つの話で描かれている偶然は、かなりあり得ないレベル。三話を追うごとに、そのレベルが徐々に上がっていく構成なのだが、これが「ないない」と思いながら観ていても、その偶然がもたらす展開の面白さがこちらの期待の斜め上であり引き込まれた。よく練られた脚本とそれを演じる俳優の演技力がこの作品のよさ。

 

第一話の「魔法(よりもっと不確か)」は、面白さという点では断トツで「この先どう話が転ぶんだろうというドキドキが、三話続くとすればとんでもない」と思わせた。三角関係の「元カノ」を演じた古川琴音がハマり過ぎていて怖くなるほど。この「つかみはオッケー」の後の二話が、予想を裏切ってじわっとくる系。第二話の「扉は開けたままで」が、じわっと「なんかやだな」と思わせ、第三話の「もう一度」がじわっと「なんかいいな」と思わせるという三話の構成が絶妙だった。

 

第二話と第三話で核となっているのが、「不確かな自分」を他人に発見・肯定してもらうというテーマ。自分を見失っている人が少なくないこの世の中では、このテーマが刺さる人は少なくないだろう。特に、第三話のコンピューター・ウィルスが、バーチャルな関係を駆逐したというSF的仮想状況の設定は、バーチャルな関係がリアルな関係を駆逐しつつあるかのような、新型ウィルスがもたらした今日の現実の裏返しのようであり興味深かった。

 

突然のズームがあったり登場人物を正面から捉えたりといった特徴的なカメラワークや、登場人物が二人ないし三人という少人数で動きが少ない会話劇のような展開に、実験的な雰囲気も感じられ、「映画の文法」にチャレンジする監督の「芸術性」を、好きな人は好きなのではないだろうか。濱口監督の「インディペンデント性」が出た良作だと思われた。

 

★★★★★★ (6/10)

 

『偶然と想像』予告編