『ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男』 (2019) トッド・ヘインズ監督 | FLICKS FREAK

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いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

トッド・ヘインズ監督のこれまでの作品と言えば、『ベルベット・ゴールドマイン』 (1998)や『アイム・ノット・ゼア』 (2007)といったミュージシャンを題材とした作品や、自身がゲイであることをカミングアウトしていることもあり『キャロル』 (2015)といった同性愛を題材とした作品が思い出され、どちらかと言えばスタイリッシュで「きれい」なイメージを個人的に持っていた。劇場公開作品としては最新作となるこの作品は(ストリーミングではヴェルヴェット・アンダーグラウンドのドキュメンタリーがこの10月に全世界公開されている)、事実を基にした現在進行形の告発物であり、骨太なリーガル・ドラマ。

 

個人的には、最近かまびすしい「食の安全」流説にはトンデモ科学や量の概念が欠如していたり(極端なことを言えば水を飲んでも死に至ることはある。とてつもない量を飲めばだが)と眉唾が多く、懐疑的になることが少なくない。その自分でも、この作品を観て体外に排出されることなく蓄積していく化学物質の危険性についてはもう少し慎重に考えなくてはならないと思わされた。

 

この作品で扱われているデュポン社の「PFOA(ペルフルオロオクタン酸)」という化学物質は、日本においても2021年10月22日から第一種特定化学物質として製造・輸入が禁止されたもの。「第一種特定化学物質」とは「最もリスクが高い物質群であり、難分解性、高蓄積性、人又は高次捕食動物への長期毒性を有する化学物質」。PFOAと聞くとなじみは少ないが、「テフロン加工の過程で助薬として(かつて)使用された」と聞けば驚かざるを得ないだろう。この作品のエンディングロールの一文がこの作品が扱う題材の重要性をよく表していると思われる。

 

"PFOA is believed to be in the blood of virtually every living creature on the planet... including 99% of humans. Today, as a result of Rob's work, there are growing movements around the world to ban PFOA and to investigate over 600 related "forever chemicals"... nearly all unregulated. "

 

大企業の経済原理主義的悪に対し、弱者である一般市民が仕掛ける法廷闘争を題材にした映画であれば、その過程の困難さの結末としては胸のすく大団円を期待してしまう。しかし、この作品はPFOAの問題に限らず、環境問題という現在進行形の問題を間接的なテーマとして訴えている限り、「これで一件落着」というすっきり感のない重苦しさを抱えていた。作品の企画は主演を演じるマーク・ラファロがトッド・ヘインズに持ち込んだと伝えられるが、自らプロデューサーを務めるマーク・ラファロの問題意識の高さが反映した良質なリアル・ストーリーと言うべき作品だろう。特に、PFOAの影響により顔面奇形となった実際の被害者が登場し、一瞬だが印象を残すことで、その「リアル感」は十二分に高まっていた。

 

カタルシスがエンターテインメント性の重要なファクターだとすれば、この作品はそれは欠けているかもしれない。しかし、ずっしりと心に残る作品だった。使い古したテフロン加工のフライパンを直ちに捨てたことは言うまでもない。

 

★★★★★★★ (7/10)

 

『ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男』予告編