『DUNE/デューン 砂の惑星』 (2021) ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督 | FLICKS FREAK

FLICKS FREAK

いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

今年最も期待された作品であろう、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督最新作。原題の『Dune: Part One』が示している通り、フランク・ハーバート原作の全6作のSF小説シリーズ『デューン』の第1作目『デューン砂の惑星』を二部構成で映画化したものの前編。

 

原作の映画化は1984年のデイヴィッド・リンチ監督による『デューン/砂の惑星』に続き2回目だが、それ以前にアレハンドロ・ホドロフスキーが映画化を試みている。原作がSF小説の金字塔(ヒューゴ―賞とネビュラ賞の両方を受賞した「ダブル・クラウン」の作品)であること以上に、この原作の映画化が特別な意味を持つのは、ホドロフスキーの制作が頓挫したこと(その経緯をドキュメンタリー化した作品が『ホドロフスキーのDUNE』)と、デイヴィッド・リンチ版『デューン/砂の惑星』が大失敗だったことによるだろう。

 

ドゥニ・ヴィルヌーヴ版の『デューン/砂の惑星』は、デイヴィッド・リンチ版をリスペクトしつつ、リンチ版の欠点を補う出来となっている。リンチ版の最大の失敗は、複雑で重厚な物語を2時間強という映画の尺に合わせるため、NHK大河ドラマの年末ダイジェスト版のように、早回しの展開かつ説明に終始したこと。それにより原作のもつ独特の雰囲気が台無しになったことをヴィルヌーヴはよく理解していたと思われる。ヴィルヌーヴ版は、原作の世界観をヴィジュアルを通してよく伝え、観客を映像に没入させることに成功している。その反面、あまりの説明の簡素さに、原作のストーリーを知らない人にとっては話の展開が見えにくくなっている。つまり、「ストーリーはみんなが知ってるあれだよ」ということが前提となっている。

 

あらすじは以下の通り。

 

舞台は西暦1万年を超える遠未来の宇宙。レト・アトレイデス侯爵は、帝国皇帝シャッダム四世の命により、抗老化作用を持つ麻薬メランジを産する唯一の惑星である砂漠の星アラキスの統治を任ぜられる。しかし、その背景には前任者ハルコンネン男爵との確執から彼らが争うことで両者共の勢力を弱めようとする皇帝の思惑があった。レトはその任が罠であることを知りつつも、愛妾レディ・ジェシカと愛息のポールとその星に移住する。ジェシカは女性秘密結社ベネ・ゲセリット出身だったが、その秘密結社は、優生学的選別がいつしか突然変異を引き起こすことでクウィサッツ・ハデラックなる超人を作り、それを支配下に置くことを画策していた。レトはハルコンネン男爵の奸計による臣下の裏切りで命を奪われ、ポールとジェシカは惑星アラキスの荒野をさまよう。そして彼らは先住民フレメンと行動を共にし、帝国への逆襲を主導することになる。

 

かなり複雑なストーリーが全く説明なしで展開するため、この作品を楽しむためには予習が必要。リンチ版『デューン/砂の惑星』は、作品としてはリンチ本人が失敗作と認めるほど駄作なのだが、説明過多なところは本作の予習にはうってつけとなっている(『ホドロフスキーのDUNE』は、ドキュメンタリー作品としてとてつもなく面白いが、ストーリーの理解にはさほど役に立つものではない)。

 

そして、ストーリーを理解するハードルを失くした上で、映像美を堪能するのがヴィルヌーヴ版『デューン/砂の惑星』の正しい楽しみ方と言えるだろう。そのためには、2時間半の映像のうち約1時間あまりがIMAXカメラで撮影された本作は、劇場で鑑賞することがマストであり、それもIMAXシアターでなければ本来の作品のよさは体感できないだろう。そしてIMAXデジタルよりはIMAXレーザー、IMAXレーザーよりはIMAXレーザーGTの劇場で、音響も5chよりは12ch、そして画面の大きさも重要なポイント(できれば高さ10M以上のスクリーン)。ベストは日本に2館しかないIMAXレーザーGTでの鑑賞がお勧め。関東圏ではグランドシネマサンシャイン(スクリーンの高さは18.9M)、関西圏では109シネマズ大阪エキスポシティ(スクリーンの高さは18M)。砂漠の美しさと迫力がこの作品の売りであり、それを堪能するためには映像と音響の質は重要となる。

 

前編となるこの作品では、リンチ版の前半約3/4が描かれており、これから公開されるであろう後編で残りの1/4をじっくり描いていることが伺える。リンチ版では、後半、ポールがフレメンを率いるリーダーとなるストーリー展開がやたらと端折られ、実に唐突感があったが、それをこの続編でじっくり描いているだろうことは期待が持てる。前編だけでは評価しずらいが、後編に大きな期待が持てる出来であることは間違いない。

 

リンチ版と比して、キャラクターの掘り下げがドラマ性を増しているが、特にフォーカスされていたのはダンカン。彼の悲劇のヒーロー的なストーリー展開は盛り上がるところ。

 

また、後編にかけての橋渡しとして、チャニの重要度がリンチ版と比してぐっと増している。作品の性格は、父を殺された息子のビルドゥングスロマン(成長譚)なのだが、ジェシカが常にそばにいるところがヴィルヌーヴ版の特徴。それは、シャーロット・ランプリング演じるベネ・ゲセリットの教母の試練をポールが受ける扉の外で、我が身が切り裂かれるかのように苦悩するジェシカの姿だったり、アラキスの砂漠をフレメンを探し求めてさまよう時の着替えでの微妙な空気感に表れている。前編のマザコン少年が、後編では一人の男に成長する、そのパートナーとしてチャニが重要な役を担っているのだろうと想像する。

 

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作品としては、現時点では『ブレードランナー 2049』『灼熱の魂』に出来は譲るという個人的評価だが、それはまだ話の途中で「続きはこの後!」という状態だから。そしてそれらを越えるヴィルヌーブ監督最高作となる予感をさせるものだった。

 

★★★★★★★ (7/10)

 

『DUNE/デューン 砂の惑星』予告編

 

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督フィルムグラフィー

1998年 『August 32nd on Earth』 (未鑑賞)

2000年 『渦』 (未鑑賞)

2008年 『華麗なる晩餐』 ★★★★ (4/10)

2009年 『静かなる叫び』 ★★★★★ (5/10)

2010年 『灼熱の魂』 ★★★★★★★ (7/10)

2013年 『プリズナーズ』 ★★★★★★ (6/10)

2013年 『複製された男』 ★★★★ (4/10)

2015年 『ボーダーライン』 ★★★★★★ (6/10)

2016年 『メッセージ』 ★★★★★ (5/10)

2017年 『ブレードランナー2049』 ★★★★★★★ (8/10)

2020年 『デューン/砂の惑星』 ★★★★★★★ (7/10)