『浮雲』 (1955) 成瀬巳喜男監督 | FLICKS FREAK

FLICKS FREAK

いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

監督の成瀬と主演の高峰秀子にとって生涯の代表作。小津安二郎をして「俺にできないシャシンは溝口の『祇園の姉妹』と成瀬の『浮雲』だけだ」と言わしめた作品。

 

黒澤明の『七人の侍』と小津安二郎の『東京物語』と並び称される日本映画の名作だが、『七人の侍』に匹敵するとは思わないものの、(小津作品では『秋刀魚の味』の方が『東京物語』よりも上だと思っている自分としては)『東京物語』に引けを取らない作品。特に、黒澤も小津も描かないダメンズを描いた秀作と言える。

 

主人公の富岡兼吾は、不倫をしながらその相手を大切にしないかなり自堕落な男。妻の葬式を出す金がなく、愛人に借りるほど。そしてその相手の幸田ゆき子は、どれほど突き放されても結局は諦めきれずについていく女。男が妻と別れないと知ると米軍兵相手のパンパンになり、よりを戻した男との間に妊娠が分かると、堕胎の金を自分の貞操を奪った義兄に求める。共にかなり下品な役柄なのだが、それを森雅之と高峰秀子が演じると、不思議とそれほど品がないとは思わせない。ゆえに、最後にゆき子の死をもって完結する二人の関係も、ロマンティックな悲恋の雰囲気を維持している。

 

米兵相手のパンパン(オンリーさん)や新興宗教というモチーフは、今村昌平監督の『にっぽん昆虫記』を思い起こさせる。共に時代に翻弄される女性の波乱万丈の人生を描いていても、『にっぽん昆虫記』のとめはあくまで強く、『浮雲』のゆき子は気丈ながらも弱さを持っている。左幸子と高峰秀子のキャラクターの差かもしれない。高峰秀子は、この作品の前年に、木下恵介監督で名作『二十四の瞳』を撮っているが、真逆とも言える人物像を演じながら、共に素晴らしい演技。

 

南(フランス領インドシナ)で出会った二人が、南(屋久島)で死別するまでの波乱万丈の人生を描いている。時代の世相を反映し、現代では少々暗いと受け止められるかもしれないが、それでも最後には悲劇的結末の中にも希望が見出せる。

 

エンディングには「完」や「終」の文字はなく、その代わりに原作者林芙美子の短詩が流れる。

「花の命は短くて苦しきことのみ多かりき」

 

確かにその通りの内容なのだが、最後の時に一緒の時間を過ごすことができた二人はそれほど不幸だったのだろうか。リアリティあるほろ苦い恋愛物語として必見の作品。

 

★★★★★★★ (8/10)