君に逢いたくなったら…⑫
車を出すのに思いのほか時間がかかって…一瞬、見失いかけたけれど、
照らしたヘッドライトがその背中を見つけた。
雨の中、前だけを向いて、一心不乱に歩いている後姿。
…その一途な背中が、いつもいじらしいくらい愛おしくて…ずっと抱きしめていたかった。
後ろから、ゆっくりと車を近づけると、俺は運転席の窓を開けて、ジェジュンの腕を引っ張った。
振り向きもせず、俺の手を必死に振りほどこうと身をよじる。
「乗れよ」
「…!」
俺の声に振り返ったジェジュンは、これ以上ないくらい驚愕に目を見開いていた。
「俺の顔、忘れた?」
ジェジュンは無言で腕をさすりながら頭を振る。
「だったら、乗れって。歩いて帰れないだろ」
ジェジュンは俺に言われるのまま後部座席に乗り込んだ。
「家まで送るよ。家、どこ?」
「チャンミンが」
俺の声なんて耳に届いていない様子で、ずぶ濡れになって。
それでも心配するのは、マンネの事…自分の事じゃなくて。
「…なんであの子、こんなことしたんだろ」
ジェジュンの虚ろな声と、ハザードランプの点滅音だけが対照的に車内で響く。
「恨まれてるのかな…やっぱり」
「違うと思う」
その時、初めて俺に気がついたようにはっとして言った。
「あ、ごめん、ユノ…ってかなんで判ったの、
僕がここにいること」
「お前がどこで何してるかってくらい
いつでも判るっ…て言いたいところだけど、
あの子から連絡が有ったんだよ」
以前、まだチャンミンが天使のようにあどけないころ、
俺たち二人はチャンミンを『あの子』って呼んでいた。
お前、いつもあいつのこと、心配してたよな。
俺たちは、…知らない間にあの頃のように話していた。
君に逢いたくなったら…⑪
「チャンミン、馬鹿~っっっ!」
咽喉が裂けるほど、叫ばずにはいられなかった。
チャンミン…僕、何かした?
こんなどこだかわからないところに真夜中、しかも雨の中、
着のみ着のままで放置されるほど悪いこと、何かした??
叫んだり、落ち込んだりしたところで、現実は変わるはずも無く…とは言え財布、携帯電話、家の鍵さえ…そう言えば、チャンミンがさっそく鍵を使って戸締りしてくれてたっけ。
大事なものはすべて… 置いて出て来た。
どうしよう…仕方ないか。
怒りから脱力、そして諦め…。
…いつかに似てるな。
こんな感じ、いつか有ったような気がする…ああ、そうか。
逡巡するまでもない。
ユノに最後に合った日、僕の気持ちの移り変わりがそんな感じだった。
あんまり判ってくれないユノに腹が立って、泣いて叫んで。
判り合ってたつもりがそうじゃなかったって落ち込んで。
そして、もう会えないって諦めたんだ。
でも。
その後しばらくしたら、やっぱり会いたくなって。
逢えるにはどうしたらいいかなって、いつも考えてた。
それで合鍵を皆の分作って貰ったんだった。
そう言えば、キーケースも、なかなか良い色の5色の色違いって無くてて探すの苦労したな。
青は僕の。
黄色はユチョン。
白はジュンス。
黒はチャンミン…あ。
「チャンミンなんかに渡すんじゃなかった」腹立ち紛れに独り言ちる。
取り合えず歩こう。
大きな道に出て、taxi拾って、事務所に行って…歩き出した僕の右太ももに違和感が有った。
ポケットの中探ると…黒のキーケース…。
「チャンミンのばか」今度は小さな声で呟く。
要らないなら、要らないって言えば良いのに。
青は僕の。
黄色はユチョン。
白はジュンス。
黒はチャンミン…そして、赤…。
赤はユノの。
僕は土砂降りに近い雨の中、歩き出した。
君に逢いたくなったら…⑩
電話が鳴っている。
電話の子機を探してみたけれど、台本やら何やらが床に置いてあって、
どこに行ったかよく判らない…第一、子機の着信音は鳴ってない。
俺はため息をついて本体の受話器を取った。
「お留守かと思いましたよ」
「チャンミンか」
同居人からの電話だった。
「どうした?今日は帰ってこないのか」
「はい。今日は実家に泊まります。明後日の出発には間に合いますし。それよりユノヒョン」
「ん?」
「そこから窓の外…エントランスって見えます?」
「いや、本体の所で喋ってるから」
チャンミンが大きくため息をついた。何を言いたいんだ、こいつ。
「ユノヒョン、こちらも携帯のバッテリーが危ういので一回しか言いません。よく聞いてくださいね」
「うん?」
「エントランスのところに…ジェジュンヒョンがいます」
「は?」
ジェジュン?
「着の身着のままで拉致って…連れて来ました。ジェジュンヒョンに逢ってあげて下さい」
「お前、何言ってるの?」
「あの人のことだから、自分で何とかしようとして雨の中…あ、ヤバ…で」
一方的に電話は切れた。
ジェジュンが、ここに?
拉致って…連れて来たって?
電話を置くと、とりあえず、エントランスが見える窓際にいってみた。
窓の外から、叫び声…罵声が聞こえた。
この辺りは住宅街だから珍しい…酔っ払いか?
窓際から、目を懲らして外を見てみる。
とぼとぼと、エントランスからロータリーを横切る人影が見えた…。
土砂降りに近い雨の中、ロータリーの中心に有る街灯が、その人の後ろ姿を照らす。
どこかで見たことのある、痩せぎすで肩幅ばかりある後ろ姿…。
まさか。
…俺が見間違うはずはない。
ジェジュン…。