haruのブログ~争いはいらない ほしいのは愛だけ~ -210ページ目

恋蛍⑭

「桜が好きな人は誰?」



ユノの低い声が響く。

桜は答えない。












「答えてよ…俺は、桜が好きだよ」













その時、不意に、遠雷が響いた。


すっと、桜の顔色がなくなり、


その場に、耳を押さえてしゃがみこむ。






「…どうしたの?」

ユノもつられてしゃがみ込む。

「…だめなのよ」

「何が?」
「…カミナリ」
「大丈夫だよ、まだ遠い」


「ホ、ホントにダメなんだってば」








…さっきまでの落ち着きはらった顔とは別人のようだ、とユノは思った。




「落ちついた?」


「…なんとか」



ユノは立ち上がり、桜に手を差し出した。
桜はその手を借りて立ち上がりかけたが、ユノはそのまま抱きしめた。


「じゃあ、教えてよ」



何もかも、知りたいんだよ。

桜に、恋してるから…。







間の抜けた音で内線電話が鳴り出した。

恋蛍⑬

「好きだったのになぁ、この仕事」



桜は、何事もなかったようにユノに背を向けると、立ったまま、管理端末を操作しながら呟いた。
ユノは桜の背中をを見つめた。



「好きだったのは、仕事だけ?」
「どうして?」

振り向いた桜の表情は普段と変わらない様に見えた。
「…だって」
「何?」
「なんか…」
「…うん?」



ユノは言葉を探した。
上手い言葉は見つからなかったが、今の桜なら、本当の事を教えてくれそうな気がした。

「…好き、だったの?」
「え?」
「さっきの人」

ユノは管理端末を指差した。
桜は一瞬、きょとんとしたが、仕方ないな…と笑った。

「…好きって言うか…うーん」

ブゥンと小さく低い音がして、端末の電源が落ちる。


「そういう時もあったかなぁ…」
「…じゃあ、今は?」
「え?」
「今は、誰が好き?」

恋蛍⑫

E‐2ブロックは、0時で業務終了している、と予定表に記載が有った。
…何か問題が有ったんだろうか?


ユノは急いでE‐2ブロックに向かう。

E‐2ブロックは、Eブロックの中にある、管理端末1台、通常端末2台しかない個室だった。

最初はパーテーションで仕切られているだけのスペースだったが、

顧客情報管理に慎重なクライアントからのたっての願い…

クレームで、個室になっていて、なぜか回線トラブルも多かった。


「失礼します」

「お疲れ様です」


中で桜が待っていた。


「何か問題?」

「この…管理端末切忘れ、センター長なんだよね」

「…?」

「こんな人でも続けられるのになあ…」

「ログアウト出来ない?だったら…」


話が見えなくてユノはイライラと答えた。


「…私、10月いっぱいでここ辞めることになった」

「え?」

「契約満了になっちゃった…更新なくなった」