陸軍諜報33
千葉真一の話題は続く。千葉は67年頃から映画においても主役を得ることが増えていた。その中の一作が「陸軍諜報33」(68年)であり、「キイハンター」直前の作品である。諜報というくらいだからスパイの映画なのだが、本作は東映版・陸軍中野学校という感じなのである。かなり趣きは違うが大映で市川雷蔵のやった役を千葉真一がやったことになる。千葉扮する山本和夫(主人公なんだからもう少し考えてもと思う)を厳しく訓練するのが丹波哲郎。この直後「キイハンター」で長く共演することになるが、元々映画での共演は多い。千葉の同僚役が今井健二。今井が悪役に転じはじめたのは66年頃からで、意外といっては何だがデビューから10年は二枚目路線だったのである。他に吉田輝雄、根上淳、緑魔子など東映と大映と新東宝がいり混じったようなキャストである。千葉の妹役で萩玲子という人が出ているが、67年と68年の2年間のみ活動していた女優のようだ。
ところでタイトルの「33」だが、意味は不明である(しっかり見てればわかるのかもしれない)。この頃は前項の「鉄道公安36号」もそうだが、「特命諜報207」とか「秘密指令883」とか、タイトルの数字を入れるのがはやっていたようである。意味ありげに思えるが、特に意味のないことも多かったりするのだ。
鉄道公安36号
千葉真一が久々にレギュラー出演したテレビドラマが「鉄道公安36号」で、62年から67年まで続いた人気ドラマある。まあ後にヒットする西郷輝彦の「新幹線公安官」や石立鉄男の「鉄道公安官」のルーツとなる作品といっていいだろう。しかしこのドラマ個人的には一度も見た記憶がない。恐らく自分の住んでいた地域(北海道)では、再放送も行われていないかもしれない。
資料らしい資料もほとんどなく長く続いた番組のわりには幻の番組といった雰囲気がある。だいたい「36号」が何を意味するかもよくわからない。スタート時のタイトルが「JNR36号」で出演は影山泉、梶健司、須藤健、鳴戸洋二といったメンバーだったようだが、主役である影山泉が一番よくわからない。どうやら70年代に入るか入らないかといった時期には姿を消してしまったようである。梶健司も「バンパイヤ」や「非情のライセンス」で見かけたことのある程度だ。鳴戸洋二は新東宝最後の契約俳優で、新東宝解散の翌年に得た本作に5年間フルに出演した。翌年「鉄道公安36号」と改題され、60分番組にリニューアルされ、千葉真一が若手公安官としてレギュラー入りした。他にも千葉とは東映ニューフェース同期生の亀石征一郎、57年度の「ミスター平凡」である三田村元、鳴戸同様、新東宝出身の若杉英二(新東宝時代は天城竜太郎)と小笠原弘(新東宝時代は小笠原竜三郎)らも、時期とか期間とかはわからないがレギュラー入りしたようである。
私は鉄道オタクではないが、そういう人が見たら涙モノの番組ではなかろうか。まあ198話もあるのだから、少しはフィルムも残っているのではないだろうか。東映チャンネルに期待しよう。
恐怖の魔女
62年、千葉真一の唯一の主演映画となるのが「恐怖の魔女」である。タイトルだけ聞くとホラーものかと思ってしまうが事件記者ものである。この前年まで続いていた「特ダネ三十時間」シリーズの後を受けた作品である。特ダネの主演だった南廣や部長役だった神田隆なども同じような記者役で登場している。シリーズ化する予定だったのかは不明だが、結局は本作と翌年の「殺人鬼の誘惑」の二作品のみ制作されている。他の出演者は梅津栄、本間千代子、春日俊二、筑波久子などだが、多分筑波が「魔女」ということになるのだろうか。
千葉と新米記者コンビとなるのは石井淳で、この人はこの二作と、NHKドラマの「事件記者」そして映画版の「事件記者」と、つまり記者役のみで姿を消してしまった役者である。しかし最近同姓同名の石井淳という人がテレビや舞台などで活躍しているようだが、別人なのか同じ人なのか確認できなかった。まあ60歳越しているようなら同一人物の可能性があるし、明らかに若ければ別人であろう。まあ、当時の石井淳も現在活躍中の石井淳も顔がわからなかったりするけれども。
恋と太陽とギャング
62年、千葉真一は東映が再び一本化されたため、助演にまわることが多くなったがその中の一本が「恋と太陽とギャング」である。主演は高倉健で、デビュー時からほぼ主役の健さんの前では千葉も助演にまわるしかない。同じ高倉主演で「花と嵐とギャング」(61年)という作品もあってややこしいが、こちらには千葉は出ていない。
さて本作だが、高倉を中心としたギャングとなるのが丹波哲郎、江原真二郎、曽根晴美、新東宝の看板女優だった三原葉子、そして高倉の母役の清川虹子、女房役で小宮光江などである。他に千葉の妹役で本間千代子が出ている。
ここで注目すべきは小宮光江である。個人的にはあまり馴染みのない女優だがそれもそのはずで、実は本作が彼女の最後の出演作品なのである。というより映画が公開されたとき彼女は既にこの世にいなかったのである。
小宮光江は当時の俗に言う「肉体派女優」の一人で、50年代後半より活躍、千葉真一とも以前このブログで取り上げた「宇宙快速船」などで共演していた。しかし62年の1月突然のガス自殺を遂げた。その日の深夜「会いたい」と電話をかけた相手は当時、交際していたという東映フライヤーズの張本勲だった。遺書には「ケーリーごめんね。ミー子もうだめ」と書かれていたらしい。ケーリーとは、貿易商のケーリー・ヤマモトという青年のことで、前日一緒に食事をしたという。派手な交際で知られていたというが、原因は永遠の謎である。関係ないのだが、この6日後、以前ここでも取り上げたが、事故死した俳優高橋貞二の未亡人がガス自殺したという。とにかく合掌。
ファンキーハットの快男児
前項の「風来坊探偵」に続いて千葉真一が主演したのが、同じ深作欣二監督の「ファンキーハットの快男児」(61年)である。千葉の役柄は前作と同様に探偵なのだが、その役名は天下一郎。適当にもほどがある。まあ今回は親子探偵という設定で、その親父役は花沢徳衛。千葉の映画デビュー作である「警視庁物語」でコンビを組んでいたのが花沢であった。探偵助手役は岡本四郎。60年代前半は準主役級で活躍していたが、その後ぷっつりと姿を見なくなる。「ウルトラセブン」のメトロン星人の回でライフルをぶっ放していたのが彼である。他には中原ひとみ、八代万智子、そして初代七色仮面こと波島進などである。
本作にも二作目があり「ファンキーハットの快男児 二千万円の腕」(61年)である。こちらはプロ野球にスカウトされた高校生投手をめぐってのお話。出演者はほぼ一緒だが、この投手を演じるのは東映ニューフェース8期生の小川守。同期に「赤影」の坂口祐三郎などがいた。小川も60年代には活躍していたが、ぷっつりと見かけなくなってしまった役者である(正直顔がよくわからないのだが)。
とまあ順調だった千葉真一だが、ニュー東映はこの年限りで消滅し、東映は元通りに一本化された。千葉は翌年から助演にまわることが多くなったのである。続く。
風来坊探偵 赤い谷の惨劇
千葉真一のテレビデビュー作は「新七色仮面」だが、映画のほうのデビューはというと以前ここでも取り上げた「警視庁物語」シリーズの15作目にあたる「不在証明」の若手刑事役である。千葉は前項の「アラーの使者」が60年末に終了すると翌61、62年は映画に専念している。特に61年はニュー東映の存在もあり、東映が映画を大量生産していた時期である。千葉もそのニュー東映の主演俳優の一人となった。で、初の主演映画が「風来坊探偵 赤い谷の惨劇」(61年)で、西園寺五郎探偵を演じている。ちなみに「アラーの使者」では、鳴海五郎探偵であった。本作の監督は深作欣二で、これが監督デビュー作であった。他の出演者は宇佐美淳也、曽根晴美、北原しげみ、小林裕子、そして「ナショナルキッド」こと小嶋一郎などである。小嶋はヒロイン(北原)の兄で、セスナで墜落死したという役柄である。
この2週間後に「風来坊探偵 岬を渡る黒い風」が公開されたが、出演者もほぼ同じで当時はよくあった前作 の続編かなと思いきや、こちらはこちらで独立した話のようである。千葉は同じ西園寺五郎だが、他の出演者の名はみんな違っている。たとえば千葉の相棒役となる曽根晴美は「赤い谷」では”スペードの鉄”だったのが、「黒い風」では”ジョーカーの鉄”だったりする。ある意味ややこしい作品である。
アラーの使者
「ナショナルキッド」と同時期に東映が制作していたヒーローものが「アラーの使者」(60年)である。主演は千葉真一で、デビュー作である「新七色仮面」が終わった翌週にスタートした番組である。原作はその「七色仮面」「月光仮面」でお馴染みの川内康範という、有名なコンビのかかわった作品でありながら、今ひとつ知名度の低い番組である。私自身も実際に見た記憶はなく、東映お得意の1話のみフィルムが現存する作品のようである。
アラーというくらいだから舞台は中東である。今だったらタイトルにしただけで、テロでも起きそうな気がしてしまうネーミングだ。もちろん撮影は国内の砂丘や海岸を使って行われたのだろう。さて、ストーリーだが千葉扮する鳴海探偵は、カバヤン王国のココナツ殿下とその妹を助けながら、3枚1組の秘地図が示すカバヤン王国の財宝のありかをめぐって、紅とかげ団などを相手に戦いを挑むといったようなもの。ストーリー展開は昔のヒーローものにはよくあったパターンで、「仮面の忍者赤影」の卍党編とか(この場合は3つの鐘)、「隠密剣士」にもそういった話があった気がする。
この番組は千葉以外に馴染みのある役者がほとんどいないことも知名度の低い原因の一つかもしれないが、紅とかげ団の博士を演じるのは巨体とスキンヘッドでお馴染みの大前均である。カバヤン王国のココナツ殿下はスポンサーであったカバヤのココナツキャラメルから。「ナショナルキッド」のように番組タイトルにはなっていないものの、露骨なネーミングではある。現在もだがスポンサーの力は大きいのだ。ところで、このココナツ殿下を演じたのは金子昭雄という人らしいが、東映ニューフェースの4期生で、後に東京12チャンネル(テレビ東京)の社員に転身した金子明雄と同一人物なのであろうか。まあ殿下が少年であれば別人だが、青年であればその可能性は高い。まあ確かめようはないけれども。
ナショナルキッド
アラカンの新東宝映画が続いたので、この辺で話題を変えることにする。というわけで懐かしのテレビ特撮から「ナショナルキッド」(60年)を取り上げてみたりする。これはマイナーなようで結構有名な番組という感じであろうか。ご存知の方も多いと思うが提供はナショナル(松下電器)である。まあアニメでは「ハリスの旋風」とか、外国ドラマでは「ソニー号空飛ぶ冒険」とか、スポンサーをタイトルに組み込んでいる番組はあることはあるが、ヒーローものではこの「ナショナルキッド」くらいではないだろうか。東映が制作しているだけあって、当時としては割合出来の良い作品ではないだろうか。新東宝(「スーパージャイアンツ」)や松崎プロ(実写版「鉄人28号」「鉄腕アトム」)あたりが制作したものとはかなりの差がある。予算が違うのであろうか。
番組は全体で4部構成になっており、1,2部が小嶋一郎、3,4部は巽秀太郎がそれぞれ主役である旗竜作を演じている。旗は宇宙研究所所長というかなり大ざっぱなポジションである。小嶋一郎と巽秀太郎に共通している番組といえば「特別機動捜査隊」である。巽は第1話から登場する若手の内藤刑事、小嶋はレギュラーの誰かが休んだ時に出てくる村上刑事役であった。しかし小嶋は60年代半ば、巽も60年代の終わりにはその名を見かけることがなくなった。ヒロイン役は当時17歳の志村妙子、後の太地喜和子である。彼女は全話通して出演していたようだ。他にも室田日出男、八名信夫、本間千代子、潮健児などがゲストで登場している。ちなみに潮は火星人の役だ。この番組は1部はインカ金星人、2部は海底人、3部は地底人、4部はマゼラン遊星人といった異人類が登場するのだが、怪しい科学者ならこの人という片山滉はその全てを演じている(つまり4部全てに違う役で登場している)。
ちなみにこの番組は来月よりCS(東映チャンネル)で放映されるようだ。DVD買ってまで見る気の無い人(私もだが)にはよい時代になったものである。
危し!伊達六十二万石
嵐寛寿郎といえば、やはり時代劇。まあ世代的に戦前の「鞍馬天狗」など見てるはずもないが、というより自分は新東宝が潰れた後に生まれたのだが、アラカンは新東宝では天皇や東条英機ばかりやっていたわけではなく、当然時代劇もやっているのである。もちろんヒーローがほとんどなのだが、今回取り上げる「危し!伊達六十二万石」(57年)は違うようである。主役ではあるようだが、冷酷無比な敵役ということらしい。斬られても斬られても、起き上がり形相で襲い掛かってくるというターミネーターのような役どころということだ。他の出演者は、明智十三郎、中村竜三郎、沼田曜一、高田稔、中山昭二、女優陣は日比野恵子、魚住純子、北沢典子、そして若君役で当時10歳の太田博之が出ている。太田博之のデビューは実は新東宝作品で、この前年の「新妻鏡」という映画である。台詞覚えの早さで周囲を驚かせていたという。
いずれにしろ、アラカンが普通にヒーローをやるよりよっぽど面白い作品と一部では評判である。
大東亜戦争と国際裁判
さて嵐寛寿郎は新東宝で天皇ばかりやっていたわけではない。前項では東条英機との二役だった「皇室と戦争とわが民族」を取り上げたが、実は今回取り上げる「大東亜戦争と国際裁判」(59年)でも東条の役だったりするのだ。つまり、天皇兼東条俳優だったりしたのである。当時の宣伝文句は例によって「制作費二億円、登場人物五千人」というある意味お約束なものだったが、映画の内容はほぼ裁判シーンだし、戦争シーンは過去の作品からの流用やニュース映像がほとんどだったりと節約大作であることは明白である。
他の出演者だが広田弘毅には清水将夫。「ザ・ガードマン」のごく初期に宇津井健の上司として3回だけ登場していた人である。そして近衛文麿には高田稔、山本五十六に龍崎一郎、米内光政に板東好太郎、裁判の弁護士役で佐々木孝丸、沼田曜一、江川宇礼雄といった面々である。本作には女優も結構でている。東条夫人に高杉早苗、娘に小畠絹子、広田の娘に北沢典子、近衛夫人に若杉嘉津子、そして何故か東京ローズ役に高倉みゆきといったところである。ちゃんと若手男優陣も出ている。天知茂は大和の副長、丹波哲郎は特攻隊の司令、和田桂之助が近衛の次男といった役どころだ。
ちなみに本作は正月映画でそれなりにヒットしたようである。ショボ イ映画の多いイメージのある新東宝だが、自称大作も結構あったりするのである。