「どうぞ。 入って。」
「う、うん。 お邪魔します。」
誘われるままに来ちゃったけど、よかったのか?俺。
「つまみとパスタくらいしか作れないけど、
ちゃちゃっとやっちゃうから、そっちでビールでも飲んでてよ。」
松潤が冷蔵庫から缶ビールを出してくれる。
そう言われても、一人で先に飲むのはなんだか気が引ける。
カウンターに置かれた缶ビールの横には・・・、たこ?
「おっ、たこわさ?」
「ううん。 タコとホタテのセビーチェにしようと思って。」
「え? セビ・・何?」
「ふふっ、要はマリネだよ。」
「へ~。 たこでもそんなおしゃれな料理があるんだ。
俺なんていつも胡瓜と一緒にして本わさびと刺身醤油で食ってるもん。」
「それもうまそうじゃん。」
そういえば前にその話で盛り上がって、翔君にわさびを擦らせたことがあったな。
ふふっ、元はたこを切る話だったのに、なんであんなことになっちゃったんだろ。
「あ~、悪い。
やっぱちょっと手伝ってくれる?」
「いいよ。」
俺が言われるままにセビなんとかを作ってる間に、
松潤が手早く他の料理を準備する。
「よし、できた。」
プロみたいに手際がいい。
「じゃ、とりあえずシャンパンで乾杯しようか。」
華奢なグラスにバラ色の液体が注がれる。
「乾杯。」
チンッ!
グラスを軽く合わせる。
「ん~・・・美味しい。」
ロゼだけど辛口。
爽やかな発泡が喉をくすぐる。
「そ? よかった。」
半分ほど減った俺のグラスに、すかさずシャンパンを継ぎ足す。
テーブルに置かれた細長い皿には、料理が少しずつ盛られている。
「さっきのタコと、生ハム、カプレーゼ、ほうれん草のキッシュ。」
「すげぇ、お店みたい。」
「これは俺のプレゼン。
リーダーにシェアハウスを選んでもらうためのね。」
「え?」
「ライバル多いからさ。
アピールしとかないと。」
「ははっ、なんだ、それ。」
料理はどれもおいしくて、シャンパンも進む。
「パスタは、からすみと春キャベツのペペロンチーノね。」
「からすみ? って、あのからすみ?」
「そう。
で、これにピッタリなのは、樽控えめのシャブリ。」
ワインクーラーに入っていたもう一本のボトルを取り上げる。
「あっ、シャブリなら俺も知ってる。」
ワインをグラスに注いでもう一度乾杯。
チンッ!
「「うん。合う!」」
一口飲んで、二人で声が合う。
「ほんとはからすみの産地のサルディニア島のワインがいいんだけど、
これも合うでしょ?」
「松潤ってそういうのほんと詳しいよな。」
「まあ、色んな店に行ってるからね。」
「だから料理もオシャレなんだな。」
「どうよ。 俺とシェアハウスすれば、こういう食事もついて来るけど?」
「んふっ、それは魅力的だ。」
確かにこんな料理が家で食べられるのは悪くない。
「プレゼンは成功ってこと?」
「うむ。 まあ参考にさせてもらうよ。」
企画会議の部長みたいに厳しい表情を作る。
「ふふっ、それ何のキャラ?」
「んふふっ。」
「今度は赤ワインにする?」
「いや、そんなにいらないよ。」
「でも白はもうないからさ。」
松潤が空になったボトルをワインクーラーから取り上げる。
えっ? もう空いてたの?
そんなに飲んだっけ。
ま、気持ちいいからいっか。
美味しい料理と美味しいワイン。
最高~!! っと・・・、あれ?
グラスをテーブルに置こうとしてクロスに引っ掛けそうになる。
俺、酔ってる?
「ん? どうしたの?」
「ちょっと・・飲みすぎちゃったかも。」
ぐうっと視界が歪む感覚。
これはまずい・・・。
「水、飲む?」
「うん・・・。 なんか気持ち悪い。」
「えっ? 大丈夫?
泊ってく?」
「いや・・いいよ。」
「部屋は余ってるから大丈夫だよ。
だからシェアハウスを提案したんだからさ。」
「らい・・りょぶ。 ちょっと・・トイレ貸して。」
立ち上がろうとしたけど、膝に力が入らなくてぐらっとよろける。
「おっと。」
すかさず松潤が腰を支えてくれる。
「そんな状態じゃ危なくて帰せないよ。
ちょっと休んでいけば?」
Writing by リフ Special Thanks!