ムギの流転
うちのムギは今度の八日で10歳になる…といっても、これは勝手にこちらが付けた誕生日で、ほんとがいつなのか分からないばかりか、十歳くらいだろうと…
最初、彼女は國學院演劇研究会の とある男の先輩に飼われていた。その方が亡くなられてしまったのだ。葬儀が自宅で行われ、先輩の飼っていた他の猫ひとつはチョロチョロしていたが、もうひとつは人前が極端に苦手で、全く姿を見せなかったようだ。哀しみに暮れるご遺族は、それでも猫たちの 行先を決めていたが、隠れて出て来ないその一つはどうにもなりそうもなかった…先輩のために 久しぶりに30人が集まっていたが、それぞれに事情があり、その一つは、やはり貰い手がない…その席にいた私の先輩 橋本ゆきさんも 猫を二人飼っていて、しかしこれ以上飼うのは無理であった。が、保健所の匂いが漂い始めたその時、意を決して もう一つの 彼女を 引き取ったのだ。亡くなった先輩と三人暮らしだった 「ムギ」はこうして命を繋いだ…今でもそうなのだが、彼女はお高くとまっていて、気性の荒いところがある…永福町の新しい我が家では、先住人の ムーとミノが待っていたが、よくケンカして ムギは 相手の喉をかっさいた とも聞いた… 亡くなった先輩と暮らしていたときが二歳と想定して、お葬式が、その時点で五年前で、ムギが七歳…その後、ゆきさんの飼っていた先住猫が病気になった。新しい仲間とのストレスも大きいようだった。当時ムギは「チャー」と呼ばれて幸せに暮らしていたが(ゆきさんはだから ムギのことを 麦茶と呼んでいる)…チャーの新しい里親を探さなければならなくなった。私ら夫婦がゆきさんのところへ初めて遊びに行ったのもその頃、その日 「恥ずかしがりだからみられないだろう…」とゆきさんにおしえられたチャーは、やはり出て来なかった…ムーとミノに挨拶して 五人で 鍋をつついてお酒をやっていたら、3時間後、チャーは 台所の流しの上にいつのまにか…いた
鼻筋が通っていて 真ん丸目に綺麗に縁が入っている。お姫様といった風情。ゆきさんは 初めてのひとがいるのにチャーが出てきたのでビックリしていた。それでも 脅かさないよう知らんぷりしていたら、やがて台所から降りてきて、うちの奥さんの足元にやってきて、クンクンしはじめたのだ。これにはゆきさんもビックリして、「こんなの初めて
」 猫嫌いだったうちの奥さんが 猫好きになった瞬間でもあった。…かくしてチャーは 二年まえの11月八日、うちに来た。私の好きな丹沢山のピークの名前「ムギチロ」から 犬っぽい「チロ」をとって 「ムギ」となった。ムギが来た日、一緒について来てもらった橋本ゆきさんを西国分寺の駅まで送りに行くと、「よかった…幸せに暮らしてね…」と言ってくれたが ゆきさんの目に、ヒカルものがあった気がする…

誕生日プレゼントは、マタタビ…がいいかな…
最初、彼女は國學院演劇研究会の とある男の先輩に飼われていた。その方が亡くなられてしまったのだ。葬儀が自宅で行われ、先輩の飼っていた他の猫ひとつはチョロチョロしていたが、もうひとつは人前が極端に苦手で、全く姿を見せなかったようだ。哀しみに暮れるご遺族は、それでも猫たちの 行先を決めていたが、隠れて出て来ないその一つはどうにもなりそうもなかった…先輩のために 久しぶりに30人が集まっていたが、それぞれに事情があり、その一つは、やはり貰い手がない…その席にいた私の先輩 橋本ゆきさんも 猫を二人飼っていて、しかしこれ以上飼うのは無理であった。が、保健所の匂いが漂い始めたその時、意を決して もう一つの 彼女を 引き取ったのだ。亡くなった先輩と三人暮らしだった 「ムギ」はこうして命を繋いだ…今でもそうなのだが、彼女はお高くとまっていて、気性の荒いところがある…永福町の新しい我が家では、先住人の ムーとミノが待っていたが、よくケンカして ムギは 相手の喉をかっさいた とも聞いた… 亡くなった先輩と暮らしていたときが二歳と想定して、お葬式が、その時点で五年前で、ムギが七歳…その後、ゆきさんの飼っていた先住猫が病気になった。新しい仲間とのストレスも大きいようだった。当時ムギは「チャー」と呼ばれて幸せに暮らしていたが(ゆきさんはだから ムギのことを 麦茶と呼んでいる)…チャーの新しい里親を探さなければならなくなった。私ら夫婦がゆきさんのところへ初めて遊びに行ったのもその頃、その日 「恥ずかしがりだからみられないだろう…」とゆきさんにおしえられたチャーは、やはり出て来なかった…ムーとミノに挨拶して 五人で 鍋をつついてお酒をやっていたら、3時間後、チャーは 台所の流しの上にいつのまにか…いた
鼻筋が通っていて 真ん丸目に綺麗に縁が入っている。お姫様といった風情。ゆきさんは 初めてのひとがいるのにチャーが出てきたのでビックリしていた。それでも 脅かさないよう知らんぷりしていたら、やがて台所から降りてきて、うちの奥さんの足元にやってきて、クンクンしはじめたのだ。これにはゆきさんもビックリして、「こんなの初めて
」 猫嫌いだったうちの奥さんが 猫好きになった瞬間でもあった。…かくしてチャーは 二年まえの11月八日、うちに来た。私の好きな丹沢山のピークの名前「ムギチロ」から 犬っぽい「チロ」をとって 「ムギ」となった。ムギが来た日、一緒について来てもらった橋本ゆきさんを西国分寺の駅まで送りに行くと、「よかった…幸せに暮らしてね…」と言ってくれたが ゆきさんの目に、ヒカルものがあった気がする…
誕生日プレゼントは、マタタビ…がいいかな…
アドリブ
土曜日の台風…準備に疲れ果てたが、唐さんと 私は こういうマイナス要素が大きな時、ワクワクする…楽屋で二人きりの時「とりちゃん、前に井の頭で芝居やったとき、君 開演寸前に花道で丸太で テントに貯まった雨を落として、客にうけただろ?」「…はい…?」「今日も台風だから あれ、やってみようか!」「!!!」…唐さんは やけに嬉しそうだった。…やらざるをえない…そもそも私は人前に出るのが、実は苦手だ。しかし……やらざるをえない
台風の こんな状況でも来てくれる客には、それなりのサービスは、俺だって したい。「なんとかやりましょう…か…」 すると またニヤリと笑って「芝居は1時間だから、開演前以外にも あと二回は 落とさないとな…」と 急にマジな目線…かくして五場のシーンにて、芝居中に テントを突き上げるアドリブを 自分で考えて実行することになったのだ
芝居中に上を見上げたら雨が貯まってて、相手役の台詞を一度「ちょっと待て」と制止し 二秒かけて下手の袖に入り そこにアラカジメセットしておいた二間の丸太をかつぎあげ、あめを下から持ち上げるが あまだまりがオモ過ぎて独りでは持ち上がらない…ボーッと立っている相手役を観て、「こんにゃろ、手伝えーっ」… という粗筋を考えて、実践した。お客は最初キョトンとしていたが 手伝えーっのところで、どっと湧いた…この時点で バクバクしていた心臓はシメシメ に変わり、なんか、なんでもやっていい気になり、そのあと、台詞を忘れたアドリブなども考えつき、二三度立て続けに笑いが起こったはずだ。シーンが終わり汗だくになって楽屋に戻ると、アドリブ禁止で有名な唐組の座長は、クシャクシャな笑顔で、「とりちゃん、面白かったねぇ
」と握手せんばかりの勢い… 「ふたりの女」という珠玉の台本に割り込んだ とりちゃんという人間をそんなにも喜んでくれる このオッサンに、一緒に悪事を働く強盗仲間のようなシンパシーを感じて、何だか涙がでそう… 翌日、晴れ渡った楽日公演、味をしめた唐さんは「ねぇ とりちゃん、雨落とすの…今日も!…今日はやらなくていいか…?」と、玩具を取り上げられた子供の様な泣き面。なんたって晴天で、雨は貯まってないのである。「今日は…遣らなくていいですよ…」と笑顔で答えた。 楽日開演直前、Q出し寸前に思い立った私は、自然に丸太を持っていた…天幕を下から突き上げると、貯まってない雨は やはり流れない…おもむろに 開演を待つお客を凝視し…「今日は 貯まってねえな…」 どっとお客の笑顔
楽屋で、今のアドリブのことは何も知らず待っている強盗仲間への、私のお礼のつもりで…決行…した。

台風の こんな状況でも来てくれる客には、それなりのサービスは、俺だって したい。「なんとかやりましょう…か…」 すると またニヤリと笑って「芝居は1時間だから、開演前以外にも あと二回は 落とさないとな…」と 急にマジな目線…かくして五場のシーンにて、芝居中に テントを突き上げるアドリブを 自分で考えて実行することになったのだ
芝居中に上を見上げたら雨が貯まってて、相手役の台詞を一度「ちょっと待て」と制止し 二秒かけて下手の袖に入り そこにアラカジメセットしておいた二間の丸太をかつぎあげ、あめを下から持ち上げるが あまだまりがオモ過ぎて独りでは持ち上がらない…ボーッと立っている相手役を観て、「こんにゃろ、手伝えーっ」… という粗筋を考えて、実践した。お客は最初キョトンとしていたが 手伝えーっのところで、どっと湧いた…この時点で バクバクしていた心臓はシメシメ に変わり、なんか、なんでもやっていい気になり、そのあと、台詞を忘れたアドリブなども考えつき、二三度立て続けに笑いが起こったはずだ。シーンが終わり汗だくになって楽屋に戻ると、アドリブ禁止で有名な唐組の座長は、クシャクシャな笑顔で、「とりちゃん、面白かったねぇ
」と握手せんばかりの勢い… 「ふたりの女」という珠玉の台本に割り込んだ とりちゃんという人間をそんなにも喜んでくれる このオッサンに、一緒に悪事を働く強盗仲間のようなシンパシーを感じて、何だか涙がでそう… 翌日、晴れ渡った楽日公演、味をしめた唐さんは「ねぇ とりちゃん、雨落とすの…今日も!…今日はやらなくていいか…?」と、玩具を取り上げられた子供の様な泣き面。なんたって晴天で、雨は貯まってないのである。「今日は…遣らなくていいですよ…」と笑顔で答えた。 楽日開演直前、Q出し寸前に思い立った私は、自然に丸太を持っていた…天幕を下から突き上げると、貯まってない雨は やはり流れない…おもむろに 開演を待つお客を凝視し…「今日は 貯まってねえな…」 どっとお客の笑顔
楽屋で、今のアドリブのことは何も知らず待っている強盗仲間への、私のお礼のつもりで…決行…した。
ここ二三日
バラシが終ったのが六時半…もう真っ暗になり 気がつくとよこの駄菓子屋さんもユックリとかたずけ。
月曜日の夜はみんなで楽しく芝居の話をして、寝たのは朝5時頃…翌日10時過ぎから一台目の 四トンを降ろし 昼過ぎに一服。気が付くと バイケンサンがいない、しばらくして四トンで帰ってきたバイケンサンは、差し入れのガリガリ君を持っていた。
例のバイケンサン休暇が始まる…もういち台を降ろし終ったのが三時半…かくして山中湖をあとにした。
富士山は 八合目まで白くなっていた、猛暑の中での稽古がなつかしい…帰り道、谷村パーキングで最後の食事。人手が足りないので手伝ってもらった岩倉さんは 財布を持つのが嫌いなようで、食料保存用のビニール袋に 全財産を入れて持ち歩いている。彼はかなりの確率で カシャカシャ袋を持っているが、いつも物があふれだし 袋はパンパンだ。こういう人は 以外とものを落とさないのだろう…自分の管理できるものだけをみじかに集めているからだ…そんなやりかたもあるよな…

月曜日の夜はみんなで楽しく芝居の話をして、寝たのは朝5時頃…翌日10時過ぎから一台目の 四トンを降ろし 昼過ぎに一服。気が付くと バイケンサンがいない、しばらくして四トンで帰ってきたバイケンサンは、差し入れのガリガリ君を持っていた。
例のバイケンサン休暇が始まる…もういち台を降ろし終ったのが三時半…かくして山中湖をあとにした。
富士山は 八合目まで白くなっていた、猛暑の中での稽古がなつかしい…帰り道、谷村パーキングで最後の食事。人手が足りないので手伝ってもらった岩倉さんは 財布を持つのが嫌いなようで、食料保存用のビニール袋に 全財産を入れて持ち歩いている。彼はかなりの確率で カシャカシャ袋を持っているが、いつも物があふれだし 袋はパンパンだ。こういう人は 以外とものを落とさないのだろう…自分の管理できるものだけをみじかに集めているからだ…そんなやりかたもあるよな…









地面を あるだけの平台で養生し、十センチの溝を客席に一周