ご挨拶が遅くなりましたが、新年明けましておめでとうございます。


昨年はブログ開設以来の念願であった「3人でのクルマ旅行」を広島で実現し、ようやくあの2人にも「ブロガーの自覚が芽生えた」ような1年でした。引き続き私が活字でぎゃーぎゃー騒ぐことになるとは思いますが、昨年以上に2人を道連れにしてとことん楽しみたいと思います。どうぞ、引き続きお付き合いください。


さて、新年一発目のブログとしてお届けするのは、実は終わってなかった連載企画の最終回wwM2 Competition, RC FLC, 8Series, S-Class Coupe&Cabriolet , 90 Supraと現代のFRスポーツの注目車種を取り上げてきたが、今回取り上げるのはこちら。

モデル末期というより、もう新車は買えなくなってしまったC7 Corvetteである。今週末実施された東京オートサロンには今年投入されるであろうC8 Corvetteが展示されていたが、どうしてもこのタイミングでこのクルマの話をしておきたかった。私が運転したのは高性能版のZ06Coupe&Convertible2台だったのだが、この2台は私たちの始まりの記念すべき舞台にいた2台だったのだ。


というのも、ときは約5年前。私たちの記念すべき第1回のブログを飾った20155月の浅間ヒルクライムまでさかのぼる。その日C7 Corvetteに追加されるZ06のジャパンプレミアがこの会場で行われる予定だったのだが、当日午前中のレース中に起きたアクシデントにより予定時間を過ぎても一向に始まらない。Mr. マイペースと私がしびれをきらして裏道へ向かう最中、この2台がひっそりと私たちの前に姿を現したのだ。そして、この時に目撃した2台こそがのちに私が実際に運転することになる2台だったのである。

その当時の印象を振り替えると、当初このクルマに対して私は否定的な考えだった。というのも、そのさらに前のC6 CorvetteZ06のエンジンは7L V8 OHV NA!!!C6の世代くらいからGMの車両開発で「ニュル」というキーワードが登場するようになってはいたが、そんな高性能モデルにぶち込んだエンジンがまさにアメリカン。それを3ペダルMTで操るところも、発売当初は1000万円をわずかに下回る価格もバーゲンプライスとしか思えなかった。


しかし、C7へと進化した途端、その心臓はC6 最強モデルだったZR16.2L V8 スーパーチャージャー(S/C)をベースにしたものに置き換えられた。額面状のスペックは660PS, 0→100km/h 2.95秒はたしかにすごいと思ったが、それはZR1に任せておけばいいじゃないかと。C7-Rというレーシングカーを模したエアロもトゥーマッチにしか感じられなかったのだ。

とは言いつつも、こんなクルマに乗れるチャンスがやってくるとなれば私も黙ってはいられない。たしか某所でMclaren 650S Spiderに乗った直後くらいに、Z06 Convertibleに乗る機会がやってきた。ボディカラーも内装のレザーもレッドというビビッドな組み合わせは、Corvetteというクルマのキャラクターがあるからこそ着こなせるような気がした。

伝統のコークボトルが強調されるように感じるConvertibleに乗り込んでノロノロと市街地を走行すると、その脚まわりは思いのほかきちんと動くセッティングになっていることに気がつく。約900Nmという弩級のトルクをこれまた伝統のリーフスプリングで支えているというのに、脚まわりの硬さはAston Martinのようだ。瞬間的な入力で大きなショックが伴うことはあるものの、安っぽさは微塵も感じられない。というか、こういうセッティングでなければそのパワーが支えきれないということなのだろう。

そんな質感の高さを、ZF8速トルコンATの滑らかで鋭い切れ味の変速からも感じながら3車線の幹線道路へ。幸運なことに右折信号で侵入したこともあり、前方にクルマもいない。5種類用意されたドライビングモードは上から2番目のSportモード。お手並拝見とばかりにスロットルを踏み込むと、右折直後からのアクセルオンだったということもありテールが流れる!Sportモードであれば遅れながらESCが介入するものの、同乗者は肝を冷やすこと間違いなしだろう。


一旦テールスライドが収まるのを待って再度フル加速を試みると、約1.7tというスポーツカーとして決して軽くはないボディが弩級のトルクの塊によって強力に押し出される。実際に乗っていると1.5t級の軽快感が感じられるが、こうやってフル加速を経験すると加速時に体感するGの大きさはこの重さがあるから感じられるものだと思えてくる。今までの経験上0→100km/h 3秒以下のクルマのフル加速は実際に経験するとめまいがしそうになるが、このクラクラは過去最大級と言って間違いない。


この経験以来、C7 Corvette Z06は私の中で特別な存在になった。有無を言わせない速さをいかにもアメリカンなOHVエンジンとFRというレイアウトで成立させ、2倍の価格のスーパーカーと張り合える性能を実現させる。それはあたかも、赤々としたレアの牛肉の旨味が洪水のように押し寄せるハンバーガーのような味わいだ。でも、見た目ほどこってりしていないからペロリとたいらげることができる。決してヘルシーとは言えないけれど、たまに無性に欲してしまう味わいだ。


そんなZ06にはさらに究極の存在がある。Coupeのみには7MTの設定も用意されていたのだ。

この7MT仕様を日本でどれだけの人がオーダーしたかは定かでないが、その貴重な1台にも日を改めて乗ることができた。この時乗った個体はレーシングカー”C7-R”に似せたラッピングと大型リアウイング, 専用アルミというコテコテの仕様。

チョイ乗りならこんな仕様もありだけど、普段なら絶対選ばないなぁ。CorvetteCoupeはルーフの部分だけを脱着できるタルガトップにもなる。たしかC6Z06は完全に固定されたルーフだったと思うが、世代の進化でボディ剛性が上がった影響かZ06のパワーもルーフのピラーなしに受け止められるようになっていた。そうじゃなかったらConvertibleなんて出さないよね。


今までの記事をご覧になってもらえればお分かりいただけると思うが、私はマニュアルで運転できるクルマがあれば積極的に運転するようにしている。以前現行Roadsterのインプレッションをお届けした際にも言ったことだが、「キスがうまくなりたいならマニュアルに乗れ」が私のマニュアル車に対する信条である。そう言いながらマイカーはAT車なので、常にマニュアル車の運転に飢えているのだろう。それがこんなモンスターマシンでも味わえてしまうというのがなにより嬉しかった。


ただ、嬉しい気持ちとともに過去に乗ったどのクルマよりも緊張したドライブだった。5つあるドライビングモードを低μ路用にセットしておけば、いざという時に私自身が食いちぎられるようなことはないだろう。でも、660PS/900Nmという猛獣のパワーを乱暴に繋げてしまったら。ちょっとしたホットハッチだってクラッチミートをしくじるとプゥンと焦げた匂いがするというのに、それ以上のことが容易に起こるんじゃないか。この緊張感は絶対的な出力ではこれをさらに上回るスーパーカーの比ではない。

Coupeに乗った時の道路事情がConvertibleの時ほど空いていなかったこともあり、Convertibleの時のようにテールスライドを経験することはなかった。ただ、隙をみてアクセルを踏み込んだ時の加速感と達成感はそのスリルが伴うだけに格別だった。どちらもドライブモードのセットアップを間違えなければ現代のクルマとしての最低のマナーは担保されるようにはなっているけれど、「有り余るパワーを路面に叩きつけるFR」というキャラクターはしっかりと守られている。


そんな頑固でグラマラスなCorvetteに私は惹かれていたのだが、昨年発表された新型のC8はエンジンのベースはC7をベースに搭載位置をミッドシップへ変更してしまった。同じFRのクーペといえばChevroletにはCamaroという存在もあるだけに、「FRが欲しい方はCamaroをどうぞ」ということなのだろうか。Camaroというクルマも嫌いではないが、Corvetteに比べると走りに対する本気度に大きな差がある。

私が5回もかけてFRスポーツについて取り上げたのは、FRというパッケージが生み出す優美なフォルムに魅力を感じているからだ。エンジンをフロントに置く関係で前のオーバーハングは切り詰められ、フロントタイヤからAピラーまでが長くなる。そこにショートケーキの上にのる苺のようにキャビンが鎮座する姿は、麗しい女性の脚と上半身のようなのような美しいコントラストを描く。

C7 CorvetteのスタイリングはそれまでのCorvetteに比べるとヨーロッパ車のような「性能のためのディテール」という要素も感じられる。しかし、その圧倒的な性能を担保する機能性を確保しながらもあくまで”Corvette”のキャラクターを維持していた。その美しさや性能に魅了されていた私としては、「走行性能」という機能の追求の結果であるミッドシップ化を今でも素直に受け入れることができないでいる。


そういえば、かのEnzo Ferrari氏も熱狂的なFR信奉者だったということを聞いたことがある。彼が残した「馬は馬車の前に繋がなければならない」という言葉は、性能一辺倒に突き進む時代に対する彼なりのささやかな抵抗だったのだろうか。そんな彼が最後に手掛けたF40は皮肉なことにミッドシップだったけれど。