いよいよ年末にさしかかると、前ばかり見て突っ走っている私のような人間でも一応今年がどんな年だったのかに思いを馳せることがある。ここ数年は私自身で気になる新型車に乗りながら3人でブログネタになりそうな遊びを見つけてを繰り返しているわけだが、今年は広島を巡るツアーができて「やっとこのブログでやりたいこと」の1つを実現できたような気がした。


ところで、そんな2019年の日本カーオブザイヤーを受賞したのは

日本で復活を果たしたRAV4。受賞理由を読むと、「3種類のAWDシステムと最新プラットフォームに走りは快適性&楽しさともに秀逸」だというが、この文章を書いた方に申し上げなければならない。


このクルマの何が楽しいというのだ、と。


写真を掲載したとおり、もちろん私もRAV4には乗っている。これのベースとなったのは以前お届けしたCamryが使うGA-Kプラットフォーム。これに使われる2.5L ハイブリッドやLexus UXにも使われた発進用のギヤを持つガソリン車用CVTもハイライトの1つと言えるだろう。たしかに、同じToyotaでもHarrierなどとは動的質感は比べものにならない仕上がりにはなった。しかし、期待した新型CVTは私の「大好きな」ラバーバンドフィールを解消できておらず、それがわかった時には一瞬でアウトof眼中となった。


私が腹立たしく感じたのは、RAV4そのものに対してではない。どちらかというと、もっとクローズアップされるクルマがToyotaにはあるはずだと言いたいのだ。


ということで、長い前置きから始まる今回は

今年スポーツカー好きが最も注目したであろう新型Supraの話である。今回の90 Supra最大のハイライトは完全自社開発をやめたこと。BMW Z4と基本コンポーネントを共用しながら味付けを施していったことだ。その中でも最大のこだわりと言えるのがショートホイールベース&ワイドトレッド。

ホイールベースをトレッドで割った約1.5という数値は最新の992 Porsche 911にも匹敵し、現行86とこのSupraの開発責任者を務めるチーフエンジニアのこだわりの数値らしい。


当初はZ4と並べながら話を進めようと考えていたのだが、Z4, Supraともに全てのエンジンラインナップを運転する機会に恵まれて考えが変わった。

Z4も決して悪くはないのだが、運転の愉しさという点にフォーカスしていくとSupraにはいずれも及んでいないのだ。そして、そのSupraにラインナップされる3グレードのチョイスが想像以上に悩ましい。しかも、その悩ましさがネガティブな理由ではなくポジティブなものというのがいい意味でToyotaらしくない。その点においても、この車は今までのToyota車と一線を画している。


時系列に沿って3台のインプレッションを書くと、1台目として乗ったのがこちら。

東京モーターショーの2週間前というタイミングで、平日限定でプロドライバーの方の同乗走行+自分自身の運転でSupraを走らせるという機会に恵まれた。できればここで直6と直42台にと思っていたが、実際に乗れたのが直4で中間グレードのSZ-R90 Supraに乗られたことのない方は「直6じゃないスープラはSupraじゃないだろ」というツッコミが入りそうだ。実際乗る前の私もそんな印象を持っていたのだが、こいつの仕上がりが文句なしと言えるレベルだった。


というのも、その午前中に乗った直4のZ4と比べてエンジンパワーが約60PSも違う。Z4の直4ターボは約200PSで後述するSZと同じスペックなのだが、こちらはそのハイチューン版。トルクも80Nm増しと強力で、Z4よりも軽いボディをよりアグレッシブに加速させる。

しかも、嬉しいことにその脚まわりがガチガチではない。Z4がオプションの19インチホイールで武装していたのに対し、SZ-R18インチが標準。SZ-R以上はランフラットタイヤ(RFT)が装着されないからこちらも乗り心地に貢献しているのだろうか。GRとしてこういうセッティングができるとなると、以前お届けした86GRのやけに硬い乗り心地が仲間外れになっているような気がする。


ストレート石畳のランナバウトバックストレートと続いて、今度はS字のスラロームセクション。だいぶ前にアグレッシブに走りすぎてスタッフの人に怒られた記憶もあるセクションだが、今日はイベントだしお咎めもないだろう。そう思って1周目のプロドライバーの同乗走行とほぼ同じペースでターンイン。


ここで明らかになったのが、「何事にも動じるつもりはない」という意思を感じるほどの強靭なボディ剛性だ。アグレッシブなステアリング操作でボディが左右に振られるほどに、ねじれることを少しも認めないような反力が伝わってくる。特にリア周りのドシッとした安定感は86&BRZ2倍という数値以上の実力を感じるレベルと言っていいだろう。


その圧倒的なボディ剛性としなやかな脚まわりという想像以上の嬉しいギャップを受け止めるため、パイロンスラロームを終えた私はしばらくクルマを停めていた。たしかにその造り方やディテールに異論を唱える声も理解できるが、この仕上がりはミドル級スポーツカーのベンチマークになり得るレベルに到達している。

その実感は3周目の同乗走行でさらに深まった。パイロンスラロームの先にある狭いコーナーが連続するセクションを心地よいロール感を伴いながら、しなやかにしたたかに駆け抜けてみせたのである。細かいことを言えばエキゾーストがもう少し官能的だったらということも言えなくはないが、エンジンの仕様から考えれば十分以上。刺激に関してはオープンの開放感を得られるZ4をも上回るものがあると断言できる。


と、この中間グレード SZ-Rの仕上がりに私は思わず唸ってしまったのだ。今年前半に試乗して今でも強い印象に残っているAlpine A110のスパルタンな味も痛快だったが、グラマラスなスタイリングとGTカーとスポーツカーの乗り味の良いところを融合させたような乗り味は私の好みど真ん中。私の中でのCar of the yearSupraと思うが、A110も大好きなのでここは2台ということにしたい。


ここまでSZ-Rというクルマが仕上がっていたから、自ずと直6を搭載するRZへの期待が一気に高まった。開発メンバーはこのSZ-Rがベストだという声がよく聞こえてくるが、完全バランスのエンジンが生み出す言葉や数値に変えられないフィールは捨てがたい。どうにかしてこいつに乗れないかと探しているうちに、エントリーグレードのSZにも乗れるチャンスを得て、今回の企画が実現したのである。

そして、そのドライブが私の悩みを深くしてしまったのだ。


まず、3グレード最大の違いであるエンジンについてはそれぞれに良さがある。ベースのSZでも実用域では役不足な印象は全くなく、エキゾーストの演出も十分。

一方のRZの直6は私が求めていた直6ならではの「クウォーン」という共鳴音も聞こえてくる。

ただ、RZの音は想像に比べるとフェミニン。SZ-Rとの出力差を考えるともう少しパワーフィールにゆとりが欲しい気もした。

もうひとつ走行性能に大きな差が感じられるのが脚まわり。ベースグレードのSZ1番大人しい17インチホイールだが固定式ダンパー+RFT

対するSZ-R, RZは非RFT+可変ダンパーで、ホイールがSZ-R: 18インチ, RZ: 19インチという仕様になっている。

ホイールのインチ数だけを見るとSZ1番コンフォート寄りなのかと思いきや、脚の硬さを感じるのはRFTを履くSZ。走りに絡む内容で気になったことがあるとすれば、SZの旧世代的な乗り味だけだった。


全グレードに乗るまでは伝統の直6を搭載するRZ以外にはあり得ないだろうと思っていた。レッドレザーのアクセントが唯一入るグレードでもあるし、19インチタイヤはやっぱりカッコいい。

ただ、SZ-Rのドシッとしながらも軽快なドライブフィールは直4のノーズの軽さがあるからこそ生まれたもの。ホイールのスポークデザインだけでいったらSZ-Rの方が好きだったり。乗り味やボディカラーの選択肢が限られるSZは選びがいがないと思われるかもしれないが、チューニングの素材として考えれば脚まわりの硬さなどはどうとでもなる問題だ。旧世代的な乗り味ではあるが、十分実用に耐えられるようにチューニングはされている。

ということで、この90 Supra3グレードは想像以上に悩ましい選択だった。予算に余裕があればボディカラーの選択肢を増やす意味でもSZ以外の2台となるわけだが、RZに投資する分の金額をSZのカスタマイズに使うという選択も面白そう。そんな想像をさせてくれるクルマをToyotaが造ってくれるなんて。そして、そんな嬉しいサプライズが来年も続きそうだというのが嬉しい。



来年もこうやって面白いクルマに乗って、3人でガヤガヤ騒いでいたいなぁ…。


みなさん良いお年を!