先週お届けした東京モーターショーに関する記事をご覧になった方はきっとこう思われたのではないだろうか。「こいつ、またクルマの面白さ云々を語ってる」と。つい先日某新型車でハンズフリーの運転支援を体感し、ますます時代はその方向に進んでいくことを実感したばかりだ。でも、それだからこそこの面白さをせめて週末くらいは味わえる自由が残っていてほしい。

その想いを強くしたのは3人でモーターショーに行った日の午前中。モーターショーで満たされない気持ちを補おうと、私たち3人が一足お先にお台場にいたときだった。


向かったのは、日本最大級のショールームがあるBMW Group Bay Tokyo。私はオープニングイベント, M Driving Experienceなど数々の貴重な体験をここで味わってきたが、Mr. マイペース&ドリフト番長の2人はここを訪れたのことないチェリーさん。滝行のように強い雨に打たれながら、そんな2人を一皮向けたオトナに成長させようと「日本のビーエムの聖地」へ連れてくることに。


当日乗ったのは、Mr. マイペースは本家()とチョイスを合わせたなんちゃってMM850i Coupe

ドリフト番長は「禁断のドリフトスイッチ押し願望」を込めてM5

私はとにかく風をきりたくてi8 Roadster

いずれもBMWの中ではトップクラスの性能と価格を誇る3台。私たちがフツーでは満足できないことを改めて感じさせるチョイス。


当日はこんなハイエンドモデルに試乗できるかどうかも怪しい天候の中、コースは限定されていたものの無事試乗ができることに。私がi8に乗り遅れて3台が並んで走る場面はほとんどなかったものの、試乗を終えた2人からは「スゴい」という言葉が止まらない。いずれもその強大なパワーを確実に路面に伝えるためにAWDにしているとはいえ、本来の性能の半分も使うことができないシチュエーション。それでも私たち3人が楽しさを感じたのはなぜか。


それは、BMWが仕立てるクルマは「ドライバーとの高度のコミュニケーションが成立するクルマ」であるからに他ならないと思うからだ。私が乗っていたi8のようなハイブリッド車でも、トルコンATや豊富なドライビングモードが用意されることで新たな時代の「駆け抜ける歓び」を創出しようという気概が感じられる。


その一方で、東京モーターショーが提示しようとしたクルマの未来は多くの日本人が思う「クルマの運転に伴う苦痛をいかに取り除くか」という点に終始していた。でも、考えてほしい。テクノロジーによってクルマのドライバーが運転から解放されたとき、そのモビリティは果たしてクルマと呼べるのだろうかと。


そんなクルマが増えてくると、今のクルマのように思い立ったときにドライブに出かけるなんていう自由を味わうことができるのだろうか。共同所有だからいつも乗れるとは限らない。自動運転が増えればスピードのコントロールも思うようにいかないだろう。そんな自動車のエゴイズムがもたらしたネガを少しでも減らそうとする気持ちも理解できないわけではないが、それが自動車が持っていたずっと持ち続けてきた個性を自らどぶに捨て去ることとイコールではないか。その危機感と寂しさを感じながらも、その灯火を繋いでいこうとするBMWに強いシンパシーを抱いたのだった。


そんな想いから、今年もあと1ヶ月というこのタイミングでその想いを最も凝縮した怒濤のスポーツカー特集をお届けしようと思った。今年私が乗ったFRクーペはどれも印象に残るものが多く、その面白さを私なりに伝えられないかと考えたからである。


1回目の今回は今年のはじめ頃に乗っていたこちら

1SeriesFF化されてもなお、後輪駆動を頑なに守ったM2 Coupe。今回のモデルから正式には”M2 Competition”と名乗るようになった。M3以上のモデルでは更なるパワーアップや脚まわりの強化を実施して辛味を足したモデルに使われてきた名称だが、M2の場合はベースモデルの設定がない。


今回のモデルのハイライトは

M3/M4に搭載される3L ストレート6ターボを移植したことだ。これまでのM2M240iが使っていたエンジンをベースにしたものだから、Mを名乗りながらも「正真正銘」とは言えないような内容だった。とはいえ370PSのパワーをこのボディに与えていたわけだから、それでも十分だった。


最初このスペックを聞いたとき、私は若干不安な気持ちにさせられた。Competitionを名乗る前のM2以前お届けしたM4 Coupeとともに乗っていたのだが、乗ってみると「M4より面白い!」と思えるポイントがいくつもあった。M4に比べてコンパクトなボディから生まれる軽快感, ベースが古いからこそ感じられるクルマの動きのナチュラルさ。そして、このストレート6から聞こえる「クウォーン」というマルチシリンダーならではの気持ちいい吸気音。おまけにM2にはメインのDCT以外に3ペダルMTという選択肢も残されている。1000万円を超えるM4に比べて、小さいから値段も手頃でいいことずくめ。いつのまにかM2は私の中で「最高に楽しめるMモデル」という存在になっていた。

決して今のM4が楽しいクルマではないと言いたいわけではない。BMW Group Tokyo BayM Driving Experienceで乗った現行の前期型 M4 Coupe Competition packは「これがM4か」と思わせるほどの速さを持っていた。ただ、その速さを追い求めるうちに気持ち良さを感じにくいモデルになってしまっていた。Mモデルならではの切れ味はあるものの、タイトなコースではその大きさが気になる場面もあった。そして、Sportモード以上のエキゾーストはAMGのような破裂音が加わるようになって、私がMモデルに抱いていた「繊細にしてダイナミック」という魅力が削がれているようにも感じたのだ。


ということで、結論を述べよう。そんなM4のネガを引き継いでしまうのかと思いきや、これが前期型よりさらに痛快なモデルになっていた!


Competition化に伴う変更点は大きく3つ。


1つ目は内外装のブラッシュアップ。

特にインテリアは設計年度の古さゆえに新しさを感じにくいという苦しいところはあるものの、スタートボタンの色付けなど最新のMモデルの遊び心が加わって華やかになった。M5みたいにあちこちのスイッチを着色するとかえってガキっぽく見えるというネガもあるけれど、これくらいは遊びとして許容できるかなと思う。


2つ目は強化されたエンジンを支えるための脚まわり。

当然減衰力は高められたので、ゆっくり走っていると硬さを明確に感じる場面がある。M4のように可変ダンパーを持っていないのでその硬さがイヤならこのクルマを好きになれないだろうが、イヤなショックの残り方はしないのでスポーツカーに乗り慣れた方は不快に感じることはないだろう。むしろ、動力性能を考えたらこの脚は優秀な部類だと思う。


そして、3つ目はやはりこの新しいエンジン。記憶の中のM4 Competitionほど音を抑え込んでいる感じはなく、しかも爆音で驚かしてやろうというタイプの音でもない。低回転ではたしかに不気味な低音を発しているのだが、上に回していくとこの完全バランスのエンジンがターボチャージャーの存在を忘れさせてくれるかのように気持ちよく吹け上がっていく。これが3ペダルMTならと思わずにはいられなかったが、BMWのシフトフィールはあまり良好ではないしDCTの低速域でのシフトマナーも良好だからDCTでもいいかもしれない。

この3つが揃ったM2のドライブフィールは古典的だけれども痛快。コンパクトなボディが自分の狙い通りに動いていく様子は、まるでこのクルマの隅々に自分の神経が張り巡らされたような感覚。EVのスロットルを踏み始めた瞬間からの有無を言わせないトルクの凄みも理解はするが、こちらは泥臭くて汗臭い。その荘厳な轟音の盛り上がりとともに背中からGを感じると、この機械自身が魂を持っているのではないかと錯覚する。

そんな情が通うこのクルマも、”CS”が追加設定されたところを見るといよいよ終盤を迎えようとしている。素晴らしいクルマに乗れて嬉しいという感情とともに、またこんな素晴らしいクルマがもう新車で手に入れられないという寂しさが湧き上がる。そういえば、M2に乗った日も今日みたいに寒かったな。