M2 Competition, RC Fと今月からお届けしているFRスポーツモデルの特集。いよいよ12月もあと1週間…という今日お届けするのは
今年乗った「大トロクーペ」であるこの3台。
Lexus LC500, Mercedes-Benz S-Class Cabriolet, BMW M850i Coupeという各ブランドのフラッグシップクーペ3台だ。Coupeと言いながらS-ClassだけCabrioletにしているが、実は昨年S-Class Coupeにも試乗済。これまでずっとどこかでタイミングを見てS-Class Coupe&Cabrioletについて書こうと思っていたところ、今年改めてそのCabrioletやライバルとなるであろう8Seriesに乗ることができた。LCについては以前別にインプレッションを書いていることから、今回はこの2台を中心にお届けすることにしたい。
さっそく本題に入りたいところだが、ツッコミが聞こえてきそうだ。「おまえ大トロクーペってなんだよ」と。私の中での「大トロクーペ」の定義は、マグロの大トロのような希少性と舌に広がる濃厚な脂の旨味を持つ大型のクーペだ。このカテゴリーの難しさは、それを造れる技術力があれば成立するという世界ではないこと。そのクルマだけでなく、それを生み出すブランドの力も伴わないと魅力を訴求できないカテゴリーなのだ。
今回わざとこの3台をまとめてお届けするのは、そこにも理由がある。この3台は全て自らステアリングを握っているが、それぞれの味を重箱の隅をつつくように比較したいのではない。不満がないわけではないが、コストと手間を惜しまずに造られているからそれぞれに良さがある。だから今回はフラッグシップを通して、この3ブランドの立ち位置と今後を考えてみたいのだ。
今年乗った順でいくと、最初に乗ったのはLC500。
今回は日比谷のLexus meetsからクルマを借り出し、雨の都心を緩急をつけながら走らせてみた。以前インプレッションでも述べているように、Lexusもここまでのクルマが造れるようになったという歓びが感じられるモデルではあるが、今回のテスト車は致命的な問題を抱えていた。
ただ、大きな不満はそれくらいで実際にステアリングを握っているとそんなことが気にならなくなる。TOYOTA/Lexusの最新かつ最大の”T◯NGA”であるGA-Lプラットフォームを採用しながらも、先週取り上げたRC FやGS F由来の5.0L V8 NAという古典的なパワーユニットの組み合わせ。そのおかげで、乗り味はボディや脚まわりは洗練された印象を持ちながらパワートレインからは大排気量NA好きの琴線に触れる古典的で濃厚なフィールが味わえる。
このV8の控えめな爆音に包まれながらいつものようにお台場のベイエリアを往復するというルートを選択したのだが、時折現れる隙間を見つけてはこのV8を歌わせるという行為がたまらなかった。たしかにその加速感はターボというドーピングで補強された強大なトルクがあるというわけではないし、カーボンを一部に使いながらも車重は2t近くある巨体。目覚ましい加速は味わえないが、そのかわりトルクやエキゾーストノートに自然な盛り上がりが感じられる。
今年の東京モーターショーではこのカブリオレも展示されていたから、このV8をオープンにして味わえるのかと思うとこれが実際に発売される時が待ち遠しい。近年のLexusは私のような輸入車びいきでも安易にその魅力を否定できない実力を備えてきたが、LCはそのスタイルや造り込み含めて別格。この意気込みをエントリーモデルまで波及させることができれば、いよいよLexusも真のプレミアムブランドへの仲間入りが果たせるだろう。
続けてご紹介するのが、初夏の頃に乗ったこちら。
BMWのフラッグシップとしての意味合いを強めるべく、これまであった6Seriesのクーペ&カブリオレを8Seriesに格上げした。数字は一気に2つ大きくなってはいるが、実は3サイズを比べると全長は逆に短くなっているという。しかし、フロントマスクでロー&ワイドを強調しているせいか、クルマから発するオーラは数字のランクアップにふさわしい内容。ただ、そのオーラが威圧感でないのが嬉しい。フェイスリフトした7Seriesなどはグリルが縦に伸びたことで「控えめでスポーティ」という伝統的なキャラクターが損なわれてしまった。かつてクリス・バングルがチーフデザイナーを務めたときに同じような賛否両論が存在していたと思うが、それに比べると新しいディテールが子供っぽく見えるのが寂しい。
室内に目を移すと、新しい世代のインパネのデザインとクリスタルのシフトノブ。
エクステリアの流麗で洗練された印象に比べればデザインそのものに個性は感じられず、悪く言うとそれをクリスタルのシフトノブでごまかしているとも言えなくもない。ただ、そのとき乗ったクルマはネイビーとグレーのレザーが張られていたのが個人的なトピック。クーペやカブリオレのようなクルマこそ、査定など気にせずブラック以外のカラーを積極的に選びたいという気にさせられる。
先程のLCに比べるとデザインは古臭い印象が否めないが、メカの話にうつると印象が逆転する。NAのV8エンジン+FRという構成のLCに対し、8SeriesはV8ツインターボ+AWD&4WS。しかも、そのターボチャージャーはVバンクの中に収められる新しい世代のタイプで530PS, 750Nmという10年前くらいのスーパーカーに匹敵する出力を4.4Lから絞り出す。
そのパワーを青空の下で解き放つと、その圧倒的なトルクをAWDが無駄なく路面に伝えるからカラダにも前後Gの変化がガツンとやってくる。そこはドライバーの操作次第でジェントルにも振る舞うことはできるのだが、このエレガントな見た目にドライバーズカーとしての本性を忍ばせているあたりがなんともBMWらしい。
そんなドライバーズカーとしての一面が最も色濃く感じられるのはコーナリングの場面かもしれない。同じ日に乗ったFRモデルに比べると前後の荷重移動でのステアリングフィールの変化は少なかったが、4WSとの組み合わせでボディサイズを感じさせない身のこなしを披露する。今度はこいつのカブリオレを存分に走らせてみたいなぁ…できれば直6ディーゼルの840dで。
と、いつもオープンドライブへの思いが強い私にとって今年の「マイカー以外のクルマで最も幸せな時間だった」とも言えるのが
このMercedes-AMG S63 4MATIC+ Cabrioletを運転していたときだろう。これを運転したのは、私たち3人が今年1番がんばった広島&マツダツアーを終え私が大阪にいたときのこと。グランフロント大阪にあるMercedes me Osakaに配置されたばかりのクルマをテストしたのだ。
今年運転したクルマの中ではぶっちぎりの最高額の2899万円!その前の年にはS63 CoupeやS 560 Cabrioletに乗っていたから、ようやく私が最も気になっていた”AMGのカブリオレ”に乗れるという期待感に胸を膨らませていた。
昨年乗ったCoupeとCabrioletの印象を振り替えると、ハイパワーなエンジンを積んでいるはずの63 Coupeの方が乗っていると静か。ボディ形式の違いと低負荷時は控えめなエンジンの影響だろうか。もちろん、ここぞとばかりにアクセルを踏み込めば破裂音全開のAMGサウンドが轟くようにはなっているが、LCや8Seriesに比べると「肉の中に感じる脂身が多い」ように感じられる。
というのも、大きいなりにきちんと反応するレスポンスはもちろん持っているが、動き出しのクルマの動きが穏やかなのだ。他の2台が4シーターではあるものの2+2として全長を短くしているのに対し、S-ClassのCoupe&Cabrioletはサルーンに近い5mの全長を持っている。サルーンよりは締まった印象があるけれど、反応にタメを感じるところなどは目を閉じていてもS-Classと分かりそうな気さえするほどだ。
その心地よい反応は特にAMGでないCabrioletの方で感じられたのだが、これが今年乗ったAMGとなると印象が変わってくる。タウンスピードで走る分にはロープロタイヤのネガをボディの剛性とエアサスで抑え込んでいるから不快ではないけれど、ひとたび鞭を入れた瞬間の変貌っぷりが気持ちいい。私はAMGというブランドは完璧主義を謳うジキル博士が隠し持つ「誰が1番か教えてやろう」というハイド氏のようなキャラクターだと思っているが、このクルマはそのジキルとハイドの主張がどちらも濃厚。価格は飛び抜けているけれど、それ以上にそのギャップの凄まじさという点で私はますますこのクルマを気に入ってしまったのだ。
そんなS 63 AMG 4MATIC+ Cabrioletにも気になる点はある。それは、AMG専用にベース車のトルコンを湿式多板クラッチへ置き換えたミッションの変速ショック。油温が上がってくればタウンスピードでもギクシャクする印象はないのだが、ミッションが冷えているときにノロノロと走っていると変速ショックを隠しきれない場面があった。ベース車が使う9速トルコンATになんら不満を抱いたことなどないからそのまま使ってくれればよかったのに…。
なんて今の私では手に入らないクルマに文句もつけてみたけれど、この3台はそれぞれに見所がある素晴らしいクルマだった。ポジション的にはどれも大トロであることは間違いないが、その大トロにどう手を加えているかというところに各ブランドの個性が光っていた。これならEVになっても面白いクルマが出来そうな気がしたけれど、私がこの3台に魅了されていたのは大排気量ならではの咆哮にうっとりしていたからなんだと思う。
そういえばもうじきクリスマス。こんな時くらい、そんな反時代的なクルマたちに乗れることを夢見てもいいよね、サンタさん。