先週からスタートした、私が今年のったFR スポーツを取り上げる企画。仕事が落ち着いてきたこともあってようやくこうした連載を途切れることなくお届けできるようになったのだが、こちらもしばらく放置していたInstagramではこちらの画像がなぜか人気だった。

Lexusのイメージを牽引するLCLFA。今年の東京モーターショーのLexusブースも、一応全体のテーマに合わせたコンセプトカーを置きながらも人だかりができていたのは結局この2台だった。

その事実に私は嬉しさと同時に寂しさも感じていた。たしかにこの2台が素晴らしいことに異論を挟むつもりはない。ただ、この2台は今年発表されたクルマというわけではない。モーターショーにふさわしい華のあるクルマではあるが、クルマとしての鮮度には欠ける存在でもあるのだ。そうそうこんなクルマばかり作ってはいられない。たしかにそうだけどあるじゃないか。そんなネタが。


ということでお届けするのが

今年フェイスリフトが敢行されたRC Fである。これまでのRCで感じられたビジーな印象がリファインされ、私のような古典的なスポーツカー好きでも馴染みやすいデザインとなった。


このクルマの魅力は言うまでもなく

見る者の気持ちを先取りするように真っ青なインマニが眩しい5.0L V8 NA。私のような大排気量 NA好きにはたまらないエンジンだ。こんなエンジンを未だに搭載できるのは、他のモデルでCO2排出量を削減しているからこそできる芸当でもあるのだろう。


このエンジンについては後述するが、今回のハイライトはそこではない。このフェイスリフトとともに、LFAで培ったカーボン技術を盛り込んだグレードが追加設定されたのだ。追加されたのはボンネット, トランクリッドに備わる可変ウイングをカーボン化した”Carbon Exterior package”と今回取り上げる”Performance package”


価格としては最上位に位置する”Performance package”はひとことで言うなら「やる気MAX仕様」。カーボンのボンネットにリアウイングは固定式の大型のものに置き換えられ

ホイールも専用の鍛造ホイールに加えカーボンブレーキまで搭載した。

そんなやる気MAX RC F。フツーはこういうモデルを運転する機会などないだろうと思っていた。日比谷のLexus meetsでも通常のRC Fの用意はあっても”Performance package”ではなかった。ところが某所でこれに乗れるということが判明し、私は胸を躍らせてテストに臨んだのである。


しかし


これが乗ってみると少し落胆した。凄味がないわけではないのだが、ひとことで言ってしまうと「薄味」なのだ。

この見た目から多くの人が感じることは「コイツは獰猛なロードゴーイングレーサーなんだろうな」ということだろう。市販車だからリアに備わるウイングを車幅以上に広げることはできないにしても、その見た目はいかにもレーシングカー。ところが、実際に乗ってみると路面からの突き上げがコントロールされ、乗り心地は決して悪くない。記憶の中の前期型のRC Fより脚まわりが落ち着いているような印象さえある。


その理由はこんな見た目であるにも関わらず可変ダンパーを備え、軽量ホイールとカーボンブレーキによってバネ下が軽くなったからなのだろう。速く走るということは以前どこかでも述べていると思うが「タイヤをいかに路面に接地させるか」ということだから、こういう追従性の高いしなやかな脚まわりの方が速く走れるはずだ。

このあたりは今のLexusが実際にクルマを走らせてチューニングをしている様子が感じられて私は嬉しい。ただ、こういうバネ下の軽量化を標準モデルにも展開するような工夫があっても良かったかもしれない。今回の改良でサスペンションなどの設定も見直されていると思うが、せめてホイールハブのみをアルミ化してディスクローターをデュアルキャストにすればバネ下の追従性を上げることができるはずである。


そんな軽量化はこのPerformance packageでは随所に及んでいる。熱が加わることで妖艶な美しさを見せるチタンマフラー

内装も「らしさ」を盛り上げるレッド基調のインテリアにステアリングのチルト・テレスコピックを手動化。

こうした努力を積み重ねて、Performance packageはベースモデルに比べて50kgの軽量化を実現した。


ただ、その50kgのダイエットの効果が乗ってみるとそれほど感じられない。もちろん、481ps, 535Nmのエンジンが生み出すパワーはスロットルを踏み続ければあっという間に非合法なスピードへ到達するポテンシャルがある。でも、そこに至ろうとする過程が盛り上がりに欠けていて肩透かしを喰らってしまう。そこの盛り上がりだけなら前期型の方が良かったような気さえするほどだ。見た目に美しいチタンマフラーが発する音も控え目で、LCで感じた調律されたNAの爆音を期待した私の気持ちをもれなく落胆させる。

やんちゃな見た目やそこに投入した技術はどれも感心するものばかり。ただ、それを調律したら全体がバランスして刺激が感じられにくくなったような気がする。よく言えば「セットアップが決まったレーシングカーに近づいた」と言えなくもないが、世界中のライバルの中で比べるとその印象が霞んでしまう。


短時間のテストドライブではあったが、クルマとしての完成度が上がっていることは確認できた。ただ、今のLexusの実力を知る私からしたら「もっとできること」があったはずである。ひょっとして、今年のモーターショーでこのクルマの姿が見えなかったというのはそれを自ら認めているということなのだろうか。どうせやるなら、胸を張って自信作と言えるクルマ造りましょうよ。しんどい時代だと思いますが。