【縄張りコラム】使い込まれた時と場所 | 人生竪堀

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TEAMナワバリングの不活発日誌

 前回に引き続き、『STAR WARS』の話。一般にはあまり知られていないことなのだが、実は、1970年代後半から公開された『STAR WARS』(以下SW)は、プラモデルの世界に革命をもたらしたのである。というのも…。
 それまでプラモの世界で、汚し塗装(ウェザリング)を施すのは、戦車など陸戦モノ(AFV)のジャンルに、ほぼ限られていた。飛行機では、排気口や機銃まわりのススけた感じを表現するくらいで、全体はきれいに仕上げるのが基本だった。
 ところが、SWに登場するメカは、皆ものの見事に薄汚れていて、それがとてもリアルだった。ルークがモス・アイズリーで売り払ったランド・スピーダーは、中古車そのもの。同盟軍の戦闘機も、ススやオイルで汚れていて、ところどころレーザービームがかすった痕があった。ミレニアム・ファルコン号にいたっては、レイアに「あの難破船みたいな船で来たの? 勇敢なのね」と言われる始末。
 こうした手法が全面的にとられたのは、SFジャンルの映画では、おそらく初めてだっただろう。結果として観客は、制作者の脳内にある未来世界ではなく、それまでずっと存在していた別世界に導かれることになる。「A long time ago, in a galaxy far, far away…」の世界観は、ウェザリングによって実体化されたのだ。もう一度言うけれど、第1作の『SW/EP-Ⅳ』はアカデミーの美術賞を獲っている。
 とはいえ、なにせビデオもDVDもない時代のこと。SWの表現手法に衝撃を受けた当時の飛行機モデラーたちは、映画館に通ってスクリーンに目を凝らし、次に各地の基地祭などに通った。航空雑誌や写真集の見方も変わる。飛行機がどのように汚れるのか、徹底的に観察した。
 こうして彼らは、塗装の褪色やスレ、外板継ぎ目の黒ずみや、オイル漏れなどによる汚れを、リアルに模型に表現する研鑽を重ねた。飛行機(軍用機)のプラモは、リアルなウェザリングを施して完成させるのが、当たり前になったのである。
 僕が、城の復元イラストを監修するときに、建物の配置や人物の動き、各種の情景などを細かく指定しているのは、実は、こうした体験がベースになっている。天空のラピュタが竜宮城ではないように、戦国の城はおとぎ話の舞台なんかではない。権力と武力(暴力)が詰まったリアルな場所として、戦国の社会に存在していたのだ。
 だとしたら、それまでずっと存在していた場所として、戦国の城を視覚化したい。構造物の形状や様式が考証的に正しい、だけでは不満なのだ。城と戦国社会についての僕なりの知識をフル稼働させて、「使い込まれた時と場所」を具現化するには、どうしたらよいか。そのために、イラストレーターさんに何を描いてもらうか、知恵をしぼる。
 最近では、紙のイラストとは比べものにならないくらいのコストをかけて、精緻な3DのVRなども、作られるようになっている。でも、そこに「使い込まれた時と場所」は視覚化されているか。自分の監修したイラストの方がリアルだという自負が、僕にはある。

 

西股総生

 

(写真は小野路城)