1級技能士・成田の印刷技術 -11ページ目

1級技能士・成田の印刷技術

1級技能士・成田が、オフセット印刷技術を解説します~。

先日、沖縄の方からメールを頂きました。お名前は「北銘」さん(仮名)。

沖縄は難しい苗字が多いので、これも、チョッと読めないですよねぇ~。

そこで、改めてお伺いすると、「『銘』は、メイではなく、『メ』と読みます!」

 

・・・って、オイ!それだけかよォ~(笑)。なんで、全部、教えてくれないの?

普通さぁ「成田」ってどう読むんですか?って聞かれたら「ああ、成田空港の

成田ですから、普通にナリタって読みます」とか答えません?それをさぁ~、

「『田』は、デンではなく『タ』と読みます。以上。」 みたいな教え方します?

 

結局、「ホクメさん」なのか、「キタメさん」なのか、はたまた「ペイメさん」

なのか、未だに真相は謎のまま。 ・・・自分は分かっている事を、他人に

教えるのって、ケッコウ難しいですよね。自分にとっては普通の事なので、

他の人にとっても、普通なのだと思い込んだりしてしまいます。

 

でもね、初めて聞く私や、まだ若く、経験年数の浅い人にとっては、その

「普通」ってヤツが、決して「普通」では無いって場合が多いんですよ~。

教える側にとっては、普通の常識なので、そこの説明は省いて、次の

部分の解説をしてしまう。だけど、初めて聞く私や、初心者にとっては、

その省かれた部分が理解出来ていないから、先に進む事が出来ずに、

その場で、足踏みをしてしまう。

 

最初の部分が、まだ理解出来ていないのに、次の部分の解説をされても、

こりゃ全く理解不能ですよね。・・・私が、印刷会社さんに、お邪魔させて

頂いて、「技術セミナー」等をさせて頂く場合も、これと同じ事が、ケッコウ

発生してしまいます。受講者の方は、ベテランさんから、新卒の新人さん

まで、いらっしゃるワケですから、どこにレベルを設定するかが難しいです。

 

ベテランさんにとっては、「そんな初心者向けの話は、もうイイから~」とか

思ってしまうし、新人さんに高度な講義をしてもチンプンカンプンですよね。

そこで私が講義をする場合は、いつもターゲットを絞るようにしています。

 

「今日、この中で一番、若い人、手を挙げて~」とか言って、新人さんを

明確にし「今日は君の為に講義をするからね。いろいろ質問するけどさぁ、

君が答えられなくても何の問題も無いから安心して。質問に答えられない

のは、君が悪いんじゃなくて、それを教えていない、君の上司が悪いん

だからね (^^)v 」 なんて事を、よく言っています。

 

こんな前置きで講義が始まると、ベテランさん達もハラハラですよね~(笑)。

「おいおい、そこ教えただろう。キッチリ答えろよ~」とか、「ヤッベェ~、そこ

全く教えてないわ~(汗)」とかね。たまに、ベテランさんが、間違った事を

教えていたりすると、こりゃもう、そのベテランさんを徹底的にイタブリます。

 

あ~らら、そんな間違った事、教えちゃったの。あッ!そうか、新人さんに、

キッチリ教えて、新人さんが自分よりもメッチャ上手に成っちゃったらさぁ、

自分の印刷機を取られてしまって、自分の居場所が無く成ってしまうもん

ねぇ~。分かるッ!分かるわ~、その気持ち。職を失ったら、カミさんから

何を言われるか分からんもんねぇ。そりゃ、何としても回避せにゃねぇ~。

 

こんなメッチャクチャな冗談を言って、ギャハハハと笑って頂ける現場さん

ってのは、本当に良い現場さんだと思います。こう言う所ではね、講義に

対する質問も、たくさん頂けます。「先ほどのエッチ液の組成に関する内容

なんですが・・・」 あッ!あ~ッ!さっきイタブラれたんで、「オレは、こんな

難しい質問も出来るねんでぇ~」みたいな名誉挽回を狙ってるでしょう(笑)

「ありゃりゃ、お見通しですか~」 ギャハハハ~。

 

現場の人達が集まって、みんなで勉強するとか、みんなで同じ課題に

取り組むなんて事は、社内だけでは、なかなか出来ない事と思います。

私のような、外部の先生、みたいなのが一人居ると、そうした事が結構、

楽に出来たりします。コロナ禍で、出張も出来ず、大勢を集めたセミナー

の開催等も難しい状況です。しかし各会社さん単位ならば、まだそれも

出来るのではないかと思います。

 

12月の繁忙期が過ぎて、少しヒマに成って来たら、勉強会やりましょう!

「ウチは、人数が少ないからなぁ」って場合は、近隣の印刷会社さんも

誘っちゃいましょう。・・・ただしです。無料で講義をするワケにも行きません

から、講義の最後、30分位は、当社の製品の宣伝をさせて下さい。

こうすれば、当社製品の売り込みに行った。って事で、全てOKです(^^)v

あ、でも、出来ればウチの製品を購入して頂ければ、もっとイイです(笑)。

印刷機オペレータが、印刷機を担当するのは当然の話なんですが、例えば、

「いや、オレは刷版出力もしてるよ」 なんて人は、かなり少ないかと思います。

私は人員不足の会社に居た経験が有りますので、そこでは、印刷機とCTPの

出力も担当してました。つまり、自分で使う版を自分で出力してたんですわ~。

 

CTPの版出力で、ケッコウ問題に成るのが、トーンカーブの設定なんですよ。

印刷オペレータに、この話をしても理解している人が、かなり少ないんですが、

印刷機にとっては、ケッコウ重要な部分なので、軽く理解しておいて下さい。

 

凄く簡単に言うと、データ上で50%の網点を、刷版上では何%で出力するか?

って言う話なんですわ。「エエッ?なんで、そんな所を設定するの?」って言う

レベルの印刷機オペレータさんも、多い事と思いますので、まずは、そこから。

 

オフセット印刷機ってヤツは、「印圧」と言う圧力を掛けて印刷をして行きます。

圧力を加えるって事は、その圧力によって、網点が太ってしまう!って言うのは、

こりゃ簡単に想像して頂けるかと思います。いわゆる「ドットゲイン」が出るのが、

こりゃ当たり前だ。って言う話ですよね。

 

版⇔ブラン間と、ブラン⇔紙の間で圧力を掛けてるワケですから、こりゃもうねぇ、

網点が太るのも当たり前だ。って感じですよね。そこで、CTPの出力設定を少し

触って、50%の網点を、例えば45%で版面上に作ってやって、印刷機の方で

ドットゲインが出た時に、データ上の50%の網点が、キッチリ50%で印刷される

ように補正を掛ける。って言うのを、「トーンカーブの設定」でやっています。

 

ちなみに私の場合は、寒い冬の間は、50%の網点を、版面上でも50%で出力

する様に設定しておいて、これで、紙に刷った時に50%が再現出来るようにして

いました。・・・あまり環境の良い工場ではなかったので、夏場だと工場内の室温

が高く成ってしまい網点が太りやすく成ってしまうので、夏場は50%⇒47%と

版面上の網点を細くする事で、紙に印刷した時に50%に成るようにしてました。

 

これをシッカリやっておくとね、冬に刷った物の増刷が、夏場に来てもバッチリの

色調で楽に刷る事が出来るんですわ。ちなみに、この時、私が使ってた印刷機は

リョービ750(B2判) LED-UV の4色機でした。高感度UVのインキは、融通が

効かないので、工場内の環境変化を刷版で補正するって感じです。

 

基本的には、50%の網点を、版面上でも50%で出力して、印刷した時にも、

バッチリ50%で再現出来る。って言う設定が好きです。これ補正を全く掛けて

いない状態ですから、「リニア」なんて言う表現をします。まぁ1年中リニアで

刷れば、こりゃ楽なんですが、工場の環境が本当に悪かったので、暑い夏場

だけは、リニアから、3%だけ下げて対応してたってワケです。

 

いろんな印刷工場さんに、お邪魔させて頂いて、まぁそこでも、50%の網点を

ルーペで確認する事がクセに成ってしまっているのですが、「ん!こりゃCTPの

トーンカーブ設定が明らかに、おかしいだろ!」って言う工場さん、実はケッコウ

多いんですよ。「なんで、こんな設定で版を出力してるの?」って印刷機の人に

訊いても、まぁ、ほぼ100%、答えは返って来ません。

 

先日もね、50%⇒43%で、版出力されてる工場さんが有りましてね。しかもね、

その設定が、墨と藍だけだったんですよ。なんで、この設定?と刷版係りの人に

訊くと、「昔、CTPを導入した時に計測したら、墨と藍の網点の太りがヒドかった

ので、それを補正する為に、この設定に成ったと思います」 との事。

 

でもね、この工場さん、今では、その印刷機のオペレータも変わってしまっていて、

この人がシッカリ、印刷機の整備をするので、今はおそらく、版面50%の網点を

キッチリ、50%で印刷出来てるんですよね。しかし、昔のまま、50⇒43で版を

出力してしまっているので、どうしても藍が淡い感じに成ってしまう。こりゃアカンと

藍をメチャ盛り気味にして刷っているので、かなり悪いカラー再現に成ってしまって

いたんですわ~。藍を無理に盛ってるから、全体的に暗い画像ですね。

 

これ刷版のトーンカーブ、どんな設定です?って訊いても、印刷オペレータさんで、

その質問に答えられる人は、ほとんで居ないです。そこで、刷版係の人に訊いて

みると「昔、設定してそのままだから・・・」と、こちらも、シッカリと把握してる人は、

少なかったりします。・・・申し訳ないですが、今、刷ってる物を、リニアに変更して

版を再度、出力して頂けませんか~。

 

と、刷版係の人に、お願いすると、その約半数位は、「いや~CTPのメーカーに

やってもらったから、変更の仕方を知らないので・・・」ってな話に成ってしまいます。

しかしまぁ、何とか変更をしてもらって、リニアで同じ絵柄を刷ってみると、ケッコウ

驚かれる場合が多いんですよ。「刷り易いし、これキレイだ!」ってな感じです。

 

今時のCTPは、無処理版ですよね。無処理ではなく、現像した版だと、実際に版に

着いてる網点を測って、トーンカーブを設定する事が可能なんですが、無処理版は

絵柄が見えませんから、版面上での計測が不可能で、印刷物で計測する事に成り

ます。この時に印刷機の調子が悪かったりすると、その悪い状態が基準に成って

しまうので、メチャメチャなトーンカーブが出来上がったりしてしまうんですわ~。

 

印刷機の調子がイイ時に、テストチャートを刷ってみて、それの50%の網点を

見ながら、印刷オペレータと刷版係の人で話合ってみて下さい。両方共に知識が

無いと言うのであれば、刷版メーカーの人に立ち会って頂く事も有りかと思います。

 

カラー印刷の再現性は、その8割が、刷版、製版の良し悪しで決まります。

その8割の部分に関して、印刷オペレータが無関心を決め込む事は、こりゃ

決して良い事ではありません。是非、興味を持ってやって下さいませ。

例えば、大手印刷会社さんの下請けをしていて、その印刷物で、裏移りを

発生させてしまったとしましょう。それに気付かずに、印刷物(未加工品)を、

大手印刷会社さんへ納品し、そこで製本作業とかが始まった時に、裏移り

してる事が発覚すると、こりゃ、すぐに呼び出されてしまいますわね。

 

「今回、納品された印刷物に裏移りが発生しています。至急、検品作業をして

頂きたいのですが、現在、裏移りの為に、当社の製本ラインを停止させている

状態です。 納期が無いので、人員を集めて、至急、対応して下さい」なんて、

冷たく言われてしまいます。・・・こう成ると、下請け側は大変ですよね。

 

工場内で手の空いている者、事務所内で手の空いている者等を、かき集め、

大検品作業の始まりですわ~。・・・まぁねぇ、検品場所が、自分の会社の近く

なら、まだマシなんですが、これが遠方だったりすると本当に大変ですわね。

 

検品が終わって、例えば、不足に成ってしまった分を刷り増しして、なんて言う

後処理が、その後も続いたりするのですが最後の最後、大手印刷会社さんへ

提出する、「不具合発生報告書」なんてヤツが、こりゃまた大変ですわね。

 

不具合の発生状況、原因、今後の対応策。なんて事を文章にまとめて提出する

のですが、この時に最も重要なのが、今後の対応策、いわゆる改善策って言う

部分なんですよ。・・・国会議員さん達等が不祥事をすると、「今後この様な事が

無いよう、管理を徹底致します。」なんて言う文章が発表されたりします。

 

「管理を徹底します」・・・これ、大手印刷会社さんには、絶対に通用しない報告

ですよね。「徹底する?そう言う、曖昧な事を言ってるから、何度も同じ不具合を

発生させてしまうんです!どのように徹底するのか。これまでの管理状態をどう

改善し、不具合発生を抑えて行くのかを明確にして下さい!」・・・なんてね。

 

問題は裏移りの防止ですから、「パウダー量を、これまでより増やし、従来まで、

500枚で板取していたところを、300枚で板取を行う様に致します」・・・まぁね、

大手印刷会社の、担当さん向けならば、この対応策で充分に通る事と思います。

でもね、もしも私が相手だったら、こんな対応策は絶対に却下!ですわ~(笑)。

 

パウダーを増やす。細かく板取する。・・・こんなの全て、「対処療法」ですよねぇ。

印刷技術者にとって、対処療法ってヤツは、私に言わせれば「ゴマカシの手法」

以外の何ものでも無いんですわ。こんなゴマカシばかりしてて、技術力が向上

するワケが無いです。対処療法ではなく、諸悪の根源を断つ改善が必要です。

 

では、裏移りと言う不具合に対する根本の原因とは何か?「インキの盛り過ぎ」

って言うのが一番に浮かぶかも知れませんが、全国的な症例を検証して行くと、

インキの盛り過ぎよりも、「湿し水の多過ぎ」って言う原因の方が上なんですわ。

 

つまりね「湿し水を極限まで絞る」って言う、オフセット印刷の基本が出来てない

から、裏移りが発生してしまうんですよ。この基本がシッカリ出来てれば、板取り

なんて事は一切しなくても、全く大丈夫。完全な棒積みで、パウダーを、ほんの

少々振っておけば、裏移りの心配なんて一切しなくてイイんですよ。もちろんね、

ドライヤーなんて、不必要な物をインキに混ぜる事も、全く要りません。

 

「湿し水を極限まで絞る」ってのは、私に言わせれば、オフセット印刷の、1+1

なんです。この1+1をシッカリ理解していない、出来ていないのに、引き算とか、

かけ算とか、ましてや連立方程式みたいな事を理解出来るワケがないです。

 

今時の油性機で、高性能なプロセスカラーインキを使って、それでも板取を

しなければ裏移りするってのは、湿し水が多過ぎる証拠だと思って、今一度、

「湿し水を極限まで絞る!」って言う、基本をシッカリ身に付けるように様々な

チャレンジを行ってみて下さい。・・・1+1を理解する為に、様々なチャレンジ

ってのは、メッチャおかしな話なんですが、500枚で板取して裏移りが発生

してるって事は、本当に1+1から、やり直さにゃアカンのですわ。

仕事をしていて、一番「ありがたい!」と思うのは、本当に困ってる時の

先輩からの助言だったり手助けだったりしますよね。その助言や手助けで、

それまで必死に苦労していた事が一発で解消されちゃうと、その瞬間から、

その先輩は、後光が差した神様のように思えてしまいます~(笑)。

 

ただね、先輩達の頃と現在とのズレが有ったりすると、これ、ケッコウ大変

だったりしてしまうんですわ。とっても簡単な話だと、モルトン水棒を使って

いた先輩が、連続給水の使い方に関して、助言が出来るか?って言うと、

こりゃ、なかなか難しいものが有りますよね。

 

モルトン方式(スリーブ含む)は、呼出しローラーってヤツを使って断続的に

給水を行う方式です。・・・つまり、版面に湿し水を供給する水着けローラーを

中心に考えると、呼出しローラーが湿し水を持って来た瞬間、水着けローラー

の水量は最大と成り、次に呼出しローラーが水を持ってくる直前には、水量が

最少量に成っているって事ですよね。

 

水の量が断続的に、最大と最少を繰り返してしまうのが、呼出しローラーを

使ったモルトン方式の最大の欠点なんですわ。例えば、この方式で水の量

を調整する場合、汚れが出てはアカンので、最少の状態で汚れが、出ない

ように調整を行います。と言う事は、最大量の水の時は、過剰な水が存在

してしまうって事に成ってしまいますよね。

 

こうした事を緻密に見て行くと、モルトン方式ってのは、連続給水に比べて、

20倍の水量で印刷を行っている。と言う話も、有るくらいなのですよ。逆に

言うならば、連続給水は、モルトン方式の20分の1の水量で刷らなければ

成らない。と言う言い方も出来ますよね。

 

「別に、連続給水で水を多目にしたってイイじゃん」なんて言う人も居ますが、

これはアカンです。・・・モルトン方式には、凄い利点が有りましてね。それが、

素材の問題なんですわ。モルトンは、簡単に言えば、ケバ立った布地です。

モルトンの代わりに使う、ダンプニングスリーブも不織布の様な表面です。

 

この布地とかってヤツはね、少し無理をして、インキを盛り気味にしてもね、

布地に、余分なインキとかを保持する能力が有るんですわ。ですからインキ

を盛るって場合は、ケッコウ無理して盛ってもトラブルに成り難いんですよ。

 

それに対して連続給水のローラーは、ただのゴムです。インキを盛り過ぎて、

このゴムローラーが、インキでコテコテに成ってしまうと、水の供給が不安定

に成ったり、すぐにインキが乳化してしまったりして、簡単にトラブルを招いて

しまう事と成ります。つまり、連続給水は水とインキの量に対する許容範囲が

モルトン方式に比べて非常に狭いって事で、無理が効かない方式なんです。

 

そう言う事を知らない先輩さんから、「もっとインキを盛ればイイじゃん」とか

アドバイスされて、そのまま実行してしまうと、許容範囲が狭い連続給水は、

簡単に破綻を来して、乳化してしまい、飛んでもないトラブルに成ってしまう

ことが有ります。 許容範囲の差ってね、本当に大きな事なんですよ~。

 

先輩や年長者の方達からアドバイスを頂くのは本当に、ありがたいんですが

印刷のシステムや乾燥方式の違いで、その先輩さんが、そうした新しい物の

使用経験が無い場合には、せっかくのアドバイスが、逆効果に成ってしまう

ような事も有りますから、こりゃ、チョッと注意が必要ですね。

 

新しい事を勉強しようとしない先輩さん。昔の自分の経験値だけが全てで、

それ以上の事が分からない。こうした先輩さんが、工場の責任者さんだった

りして、その他の人達が、あまり知識の無い方達だったりすると、こりゃもう、

本当に大変です。間違った事ばかりして、苦労の連続ですわね。

 

先日、私の知人が、自分のブログで、「自分は金属アレルギーが有るので、

腕時計を25年以上もした事が無い。チタン製の物ならアレルギーも関係は

無いが、007のジェームスボンドじゃあるまいし、チタン製の時計なんて・・・」

てな事を書いてました。知人の腕時計に関する知識は、25年以上も前に、

停止してしまっているんですね。

 

ですから彼にとって、チタン製の腕時計は、ジェームスボンドがするような、

超高級品って言うイメージなんでしょうね。しかし現在は、カシオもセイコーも

チタンの腕時計を、安い物なら1万円程度で販売しているって時代なんです。

私自身も10年前位に買った、カシオのチタン時計を時々使っています。

 

「今を知らない」「勉強していない」「先入観だけでモノを言う」ってのは、こりゃ

かなりヤバい状態なのだと言う事を、我々、年寄りは、ましてや若手を教育

する立場の者はシッカリ自覚しなくては成りません。我々、年寄りの軽はずみ

な一言で、その間違った情報で、若手を迷わせてしまうんですわ。

 

こうした、年寄りからの、間違った情報発信と言うのは、今の印刷業界内でも、

非常に根強く残っています。我々年寄りはね、困った時に若手の手助けをする

人材に成らなきゃアカンです。若手の成長を、間違った情報で、遠回りさせて

しまう様な事が有っては成らないのだと、痛切に感じています。

4色カラー物の印刷をする場合、まぁ、各色の濃度値がOKならば、それで

色調としては、ヨシ!とする。なんて言う印刷現場さんも増えて来ましたが、

ごく普通の場合は、必ず「色調見本」なんて言うのが有って、その色調で、

お客さんからOKを頂いているので、それに刷り物の色を合わせ込むっての

が普通の、色合わせ作業ってヤツかと思います。

 

私がやってた、毛染め系の色調再現等は、非常にシビアな物だったので、

何色を、どうしようかケッコウ迷ってしまうんですが、私は古い人間なので、

新人機長(20歳)の頃は、2色機で、4色カラーを刷ってたんですよ~。

 

2色機でカラーを刷る場合の刷り順は、まず、藍⇒紅 を刷って、その後で、

ローラー洗浄をして、墨⇒黄 の順に刷って4色カラーの出来上がりです。

これが、単色機で4色カラーを刷る場合だと、紅⇒藍⇒墨⇒黄の順です。

 

4色機でカラーを刷れば、1発回答で、カラーの色が出るのですが、2色機

とか単色機で刷る場合には、まだ全くカラーに成っていない状態で、その

印刷物の色調の出来上がりを想像して行かなきゃ成らないワケなんです。

 

例えば、2色機でカラーを刷る場合なら、まず、藍紅の2色を刷るのですが、

この2色で刷った状態を見て、墨黄の残り2色を入れた状態までをも想像し、

藍や紅の印刷濃度を決めて行かなきゃ成らないって事なんですわ~。

 

藍と紅の2色刷りの状態。この時の色調を考える基準は、藍か、紅か?って

言いますとね、これは、紅なんですよ。単色機の場合は、紅から刷って行き

ます。って事は、紅の刷り加減で4色カラーの仕上がり具合が決まってしまう。

って感じなんですわ。紅が盛り切れず、淡い紅に成ってしまえば、最終的な

4色カラーの刷り上がりも、淡く眠たい物に成ってしまうんですよ~。

 

私にとっては、最初のカラー印刷が2色機で、それを3年以上やりましたので、

4色機を使うように成ってからも、カラー印刷の色調基準は、紅の仕上がりの

具合を基準に見るって言うクセが、浸み込んでしまっていました。

 

まず紅の諧調(グラデーション)が有り、それを藍で濁すか、墨で濁すか。

また、黄色は紅を抑える役目が有るので、黄色みが強い色調の場合は、紅を

より強く(濃く)刷っておいて、そこに黄を足して行ってやると、深みの有る色彩

を表現する事が出来る。なんて、事を想像しながら、印刷してました~。

 

実はこれね、非常に日本人的な思考なのだそうです。日本人は、赤浮きを

嫌う傾向が強いんですよ。例えばニュートラル・グレーは、少し青めの色調を、

日本人はヨシとします。これが欧米人だと、赤めのグレーを好むのだそうで、

日本人が好む、青めのグレーは、欧米人にとってはアカンのだそうです。

 

この、好みの差は、瞳の色の差だとも言われています。茶色の瞳を持った

日本人と、ブルーの瞳を持った欧米人とでは、色調に対する好みが違うの

だそうです。・・・例えば、チョッとエッチな映画の等の事を、昔の日本人は、

「ピンク映画」と表現しましたが、欧米人は「ブルーフィルム」と言ってました。

 

ブルーが、エッチな感じ。・・・こりゃ日本人には理解不能な領域かと思います。

ですからね、欧米の印刷物の色調を見てると、「ええッ?こんなのがイイの?」

と、首をひねりたく成ってしまう物が多々有ります。もともと狩猟民族で肉食が

中心だった欧米人と、農耕民族だった日本人の、感性の差なのかもですね。

 

狩猟民族は、獲物の血が滴る、赤系を好み。農耕民族は、

生い茂った青い葉の色彩を好む。・・・なんちゃってね(笑)。

 

ん~。 色調再現の話が、民族の違いの話に成ってしまいました~。

まぁ、それはそれでイイか~。(笑)

湿し水を使うオフセット印刷では、「湿し水を極限まで絞る!」ってのが、

基本中の基本であると、何度も書いて来ました。でもね、毎日、紙への

印刷をしている人達には、「極限まで絞る」って言う、その超シビアさが

イマイチ、ピンと来ていないかも知れません。

 

世の中には我々が普通に毎日、紙を刷っているオフセット印刷機と同じ

印刷機を使って、日々、フィルムを刷っている人達が居ます。これユポを

刷るってどころの話じゃないんですよ。フィルムを専門に刷ってる人達は、

「ユポ?ああ、あれは楽ですよね(^^)v」 って言います。つまり水の絞り方

って事だけで言うなら、ユポよりも、フィルムの方が、圧倒的にシビアで、

超~難しいって事なんですよ。

 

また、オフセット印刷機で、牛乳パックの印刷をしている人達も居ます。

牛乳パックですから防水加工は、絶対条件ですよね。紙の上に防水用の、

ラミネート加工をされた用紙に印刷して行きます。ラミネートの上に印刷を

して行くんですから、これもフィルムに印刷をしているのと同じですよね。

 

もっとスゴイのは、金属板に印刷をしている人達です。例えば一斗缶に

成る鉄板(鉄じゃないかもですが)に、一斗缶の中身の商品名等を印刷

して行くんですが、これもまた、フィルム並みに難しい印刷です。これは、

スクリーン印刷で刷ってると思ってたんですが、カラー絵柄も有るので、

これも、水有りのオフセット機で印刷してるんですよ~。

 

難しい。何が難しいのか?それがね、湿し水の量なんですよ。フィルムも、

ラミネート加工表面も、金属板も、一切、水を吸い込んではくれませんよね。

そんな物を相手にして、少しでも湿し水が多くて、その表面に湿し水が

着いてしまったら、もう、インキは、まともには乗ってくれません。

 

ですから、湿し水を極限まで絞るって言うのは、この人達にとって、こりゃ

もう、一番最初の基本中の基本。ごく普通にしている、超当たり前の事に

成ってしまっているんですわ。・・・普段、紙を刷っている人達が、たまに

ユポを刷ると、乾かないだとか着肉が悪いだとか言うトラブルを発生させ

てしまいます。でも、この人達は、ユポの印刷は楽だ(^^)v って言います。

 

湿し水を極限まで絞る!って言う技術レベルが、格段に違うんですわ~。

 

あっ、フィルムや、ラミネート加工や、金属板に印刷をしている人達に、

んじゃ、この「紙」に印刷してごらん。って、突然言っても、多分、出来ない

だろうと思います。「ええッ!こんなに水上げるの~ッ!」ってビックリして

しまうんじゃないかな。水を吸収する物(紙)と、一切、吸収しないフィルム

の印刷とでは、これほどまでに大きな差が有るって事なんですよ。

 

まぁ、こうした違いは有るんですが「ユポは楽だ(^^)v」って言う人達に対し、

「ユポは苦労するから嫌いだ~」って言ってる人の差は大きいと思います。

でもね、「極限まで水を絞る」って言う基本技術を、完璧に身に付ければ、

紙の専門家でもユポは楽勝に成るし、普段刷ってる、紙印刷の品質もね、

こりゃ、格段に良く成るんですわ~。

 

世の中の、オフセット印刷オペレータには、紙だけではなく、いろんな物を

刷っている人達がいます。でも、湿し水を使う印刷である以上、軽オフだ

ろうが、輪転機だろうが、特殊印刷だろうが、「極限まで水を絞る」って言う

基本中の基本に、何の変わりもないんですよ。

先日、ブラン選択の話で、「油性のベタ印刷は簡単だ~」と書きました。

湿し水を使うオフセット印刷の一番の基本「湿し水を徹底的に絞る!」

って事が確実に出来てれば、ベタを簡単に綺麗に刷る事が出来ます。

 

例えばですよ、ベタを刷る時って、水のローラーを着けない場合も有り

ますよね。昔で言う所の「め〇らベタ」ってヤツ。今は差別用語でコレは

使えないので、「ブラインド・ベタ」とか言ったりしてます。

 

このブラインド・ベタと、湿し水と版を使ったベタ。この両者をね、自分の

印刷機で刷って、見比べてみて下さい。多くの場合、ブラインド・ベタの

方が、湿し水を使ったベタより、キレイに刷れる事と思います。

 

この事から考えれば、キレイなベタにとって、湿し水が何らかの悪さを

しているって事が理解出来ますよね。と言う事は、ベタ印刷にとっても、

湿し水は、多いよりも、少しでも少ない方が良いって事が分かります。

 

ブラインド・ベタの時は、キレイに刷れてたのに、水ローラーをONに

したら、様々な目が出てしまったとか、極端な程に潰れが悪く成って

しまうなんて場合が有ります。・・・インキローラーだけの時は良かった

のに、水ローラーを着けたら、一気にダメに成ってしまった。

 

そう成ると、こりゃ水ローラーが悪い!って考えるの普通かと思います。

もちろん、それが正解の場合も多いので、水ローラー系のニップとか、

ローラーの劣化とかを疑う事も、当然のように必要なのですが、実は、

インキローラーが悪くても、水ローラーONで障害が出るんですよ~。

 

「いやいやいや、チョッと待てよ。インキローラーだけで刷ってる時には

良好で、水のローラーを着けたら、ダメに成ったんだから、そんなもん、

誰が考えたって、水ローラーの不具合に決まってるんじゃないのか!」

 

そこがね、「オフセット印刷は、物理ではなく、科学だ!」って部分なん

ですわ~。・・・例えば、ローラーグレイジングって症状が有りますよねぇ。

インキローラーの表面に、何らかの物が付着してインキの正常な転移を

妨げてしまうって言う症状です。ローラーストリッピング(ローラーはげ)

なんて言うのが、グレイジングによって、出る場合も有りますよね。

 

この、インキローラーのグレイジング、いったい何がローラーに付着して

起こってしまっているのか?って言うと、例えば、紙粉だとか、紙表面の

コーティングに使われいるコート剤、炭酸カルシウムなんてのが有ったり

するのでが、コイツらや、あと、版に塗布されたガム成分等も有ります。

 

紙粉、炭酸カルシウム、ガム。これら全て、水と仲良し(親水性)の物質

なんですわ~。ですからね、ブラインド・ベタで、ローラー上にインキ(油)

しか無い場合には、何ら問題無く、インキの正常な転移が可能なんです。

 

でも、湿しのローラーをONにすると、そうしたインキローラーへも湿し水が

入って来るんですわ。インキローラーに入って来た湿し水は、グレイジング

した親水性部分に「おおッ!オレと仲良しの成分が有ったッ!」とか言って

親水性物質と簡単に、くっ付きます。グレイジングした部分に湿し水が着く。

水と油は反発しますから、水が着いた部分にインキが乗る事は出来ません。

 

こうして発生するのが、ローラーストリッピング(ローラーはげ)なんですわ。

ローラーストリッピングが発生した部分は、良好にインキを運ぶ事が出来

ないので、印刷物としては、この部分だけ、淡い状態に成ってしまいます。

 

まぁ、これは最も極端な状態なんですが、インキローラーがチョッとだけ、

グレイジングしているって場合にも、やはり、そこに湿し水が付着する事で、

インキの正常な転移を妨げられる事に成りますよね。そうなれば、やはり、

湿し水によって、例えばインキが、マダラな状態で運ばれたりしてしまう

ので、こりゃ、ベタのツブレにも大きな影響を与えてしまう事に成りますね。

 

あと、インキローラーのニップ不良。水を使わない場合は、少々悪くっても、

まぁ、そこそこのベタを刷る事が可能なんですが、湿し水が入って来ると、

ニップ不良の部分で、湿し水が動き難く成ってしまうのでニップ不良による

ローラー目とかが、一気に発生する場合が有ったりします。

 

水を使うよりも、水を使わないブラインド・ベタの方がキレイ。・・・って事は、

湿し水を使う場合でも、湿し水を極限まで絞る。そうする事でベタの品質が

良く成るってのは理解して頂けたと思うんですが、どれほど水を絞っても、

インキローラーニップの不良やグレイジングが起こってしまってては、こりゃ

アカンって事も、充分に理解してやって下さい。

例えば、ベタの中の白抜き文字が有ったとしましょう。しかも、その抜き文字が

明朝体だったりすると、文字の細い部分が埋まってしまい易く、ケッコウ苦労を

する人も多いかと思います。ベタを淡めに刷れば、まだ楽なんですが、特色の

指定見本が有って、それが、濃い目のベタだったりすると大変ですよね。

 

文字が、すぐに埋まってしまうので、500枚ごとにブラン洗浄をしたりとかね。

こうした印刷物が苦手な人は、「明日、その印刷物を刷る」って言う予定表を

見ただけで、憂鬱な気分に成ってしまっている事も有ろうかと思います。

 

でもね、そう言う時こそ、「逆転の発想」なんですわ。つまりね、その苦手な物を

徹底的に研究して少しでも楽に刷れるように成れば、こりゃ憂鬱のネタが一つ

消える事に成りますよね。苦手だからと、何も考えずに苦労ばかりしていたら、

こりゃ、いつまで経っても憂鬱なばかりだし、その苦手も永遠に直りません。

 

苦手を徹底的に研究する。・・・こうして文字で書くのは簡単ですが、どうやって

研究したらイイの?って、まずそこからが問題ですよね。だけどね、今の時代は

ネット検索って言う、非常に便利なモノが有ります。いろんな方が、いろいろと

ネット上で解説して下さっているので、とても参考に成ります。(無料ですしね)

 

と言う事で、私も解説しておきましょうね。・・・チョッと逆転の発想をしてですね、

どうやったら、綺麗な抜き文字を刷れるか?ではなくて、どうしたら抜き文字が

埋まりやすく成ってしまうのか?って、まず考えてみましょう。

 

第一にインキの硬さです。ベタの中の細い白抜き文字、硬いインキと軟らかい

インキでは、どっちが埋まってしまいやすいでしょう?・・・こりゃ簡単ですよね。

軟らかいインキの方が埋まりやすいですわね。って事は、むやみに軟らかい

インキを使わず硬いインキでベタを綺麗に潰す方法を考えるのがイイですね。

 

それから抜き文字が埋まり易いからと、湿し水を上げ気味にしたり、エッチ液を

多目に入れたり。これって正しい対応か?・・・これがね、実は最悪にアカンの

ですわ~。湿し水が多いと、それがインキ中に入り込み、インキをダラダラに

してしまいます。軟らかいインキは抜き文字が埋まり易いんでしたよね。だから

基本通り、湿し水は徹底的に絞らなきゃアカンって事に成りますね。

 

何度も書いていますが、エッチ液の増量なんてのは、最悪にアカン事なんです。

エッチ液はインキを溶かします。インキが溶ければ、濃度が低く(淡く)成ってし

まいますから、インキを盛り気味にして対応しなくては成りませんわね。多過ぎ

るインキは汚れやすく、抜き文字も埋まり易いって、簡単に理解出来ますよね。

 

インキローラー等が古過ぎる。ニップの調整が不完全。こんなのも最悪な要因

ですわね。ローラー管理、手入れ、ニップ調整、メンテ。こんな事は、基本中の

基本ですわ。それが出来てなければ、抜き文字なんて簡単に埋まります。

 

そして、ブランケットの選択。細い白抜き文字の再現ってね、ブランによって、

メチャメチャ変わるんですよ。私は基本的に、網点重視でブランを選択します。

網点の細かさは、白抜き文字どころの話じゃないですから、網点をキレイに

再現出来るブランは、細い白抜き文字にも強いんですよ。

 

まぁ油性限定ですが、網点重視のブランでベタの再現に困った事は有りません。

だって油性のベタなんて簡単ですもん。基本通り、湿し水を極限まで絞ること。

これが出来てれば、何も考えなくてもキレイなベタを刷る事が出来ます。ただし、

これは、あくまでも油性での話。 高感度UVは、そう簡単じゃないですよね。

 

高感度UVの場合はインキの性質も悪いし、ブランの出来も、それなりですし、

網点かベタか、どちらかを我慢しなきゃ成らない事が多いかと思います。あッ

かなり高レベルな部分での我慢だと思って下さいよ。本当にウマい人が刷った

油性の印刷物に比べたら、我慢をしなきゃ成らないって位に、理解して下さい。

 

全ての事には、理屈や理論が有ります。基本から外れず、理屈や理論を

正しく理解して、正しく実行して行けば、たいていの事は楽に成ります。

「習うより慣れろ」と言う古い言葉が有りますが、今時の印刷技術に関して

言うのならば、とにかく、「まず、習え!まず、学べ!」だと思っています。

朝晩の冷え込みが、だんだんキツく成って来ましたね。朝一番で印刷機の

ボディを手で触ると、「うわッ!冷てッ!」ってくらい本当に冷たいですよね~。

鉄は、熱しやすく冷めやすい。なんて言われる通り、朝の冷え込みで本当に

シッカリ冷え切ってしまいます。

 

まぁねぇ、ボディが冷えるくらいでは、さほど印刷に影響が出るような事は

無いんですが、機械内部のギヤとか、稼働部分が冷えてしまうってのは、

こりゃチョッと要注意なんですよ。・・・冷え込むって事は、潤滑油も冷えて

しまって、充分な潤滑が出来ない状態かも知れんですよね。

 

鉄のパーツが冷えてしまっている。潤滑油も冷えて硬く成ってしまっている。

そんな充分な潤滑が出来ていない状態の朝一の時に、いきなり高速回転で

印刷機を回転させてしまったら、こりゃチョッとヤバいですよね~。

 

ギヤを痛めてしまうと、最悪の場合、印刷物に、変な「目」が出てしまうような

事も有りますし、1枚のギヤに問題が出ると、周りのギヤも、悪く成ってしまう

事が有るんですよ。ですから、寒い朝一は、ローラー等を暖める為ってのも、

もちろん重要なんですが、潤滑油を暖める為にも、印刷機を低速で空転させ、

暖気運転ってヤツを充分にしてやって下さい。

 

以前にも書きましたが、こう言う冷え切った朝一ってのは、「圧胴」ってのが、

何よりもヤバいんですわ。  ・・・印刷工場内を、あまり冷やしたくないので、

例えば一晩中、暖房を入れっ放しにしておいたとしましょう。こうすることで、

工場内の室温は、ある程度の温度を確保する事が出来ますよね。

 

でもね、印刷工場の床ってさぁ、普通の場合、コンクリート製ですよね。

寒い日の朝一、この印刷工場の床を触ってみて下さい。これね意外なくらい

冷た~く成ってしまっているんですよ。工場内の空気は、暖房で暖まるかも

知れませんが、床ってヤツは暖房では、なかなか暖まりません。

 

印刷機ってのは、その冷たい床の上に設置されています。そしてその床に

直接、触れているのは、熱しやすく冷めやすい鉄製のフレームとかベッドとか

言う部分なんですよ。床 ⇒ フレーム ⇒ と、冷気が伝わって来て、この冷気で

圧胴が、一晩で一気に冷え切ってしまうんです。

 

試しに、朝一番で、印刷機のステップのカバーを開けて、圧胴を素手で触って

みて下さい。これねぇ本当に冷たいですよ~。 ・・・例えばですよ。朝一番で、

印刷機の暖気運転をするにしても、これ、ローラーとかギヤとか他と接触して

いる部分は摩擦等で暖かく成りますが、圧胴は空転の場合だと、他のどこにも

接触せずに、ただ単に回転してるだけですから、普通の暖気運転では圧胴を

暖める事は出来ないんですよ。

 

暖気運転によって、他の部分が暖まったから印刷を開始した。確かにねぇ、

ローラーとかは暖まってますから、インキの流れはイイですよね。でもね、

印刷の一番の使命は紙にインキを着肉させる事ですよね。その紙ってのが、

この、超冷たい圧胴に巻き付いて印刷されて行くワケなんですよ。

 

ローラーやインキは暖まったのに、圧胴は冷え切ったまま。この状況、インキ

にとっては最悪なんですわ~。ローラー上のインキは、ある程度の厚みを

持っているので、まだイイんですが、紙の上のインキは1μって言う超薄い

被膜でしたよね。こんな超薄な被膜、圧胴の冷たさで一気に変化してしまう。

って、何となく理解してもらえると思うのですが・・・。

 

一瞬で急速に冷やされたインキは、転移能力が著しく劣化し、その結果

生じるのが、「エッジピック」ってやつです。例えば、ベタ部分などの咬尻の

部分だけが、毟(ムシ)れたように成ってしまうって言うヤツですよね。

 

これを解消する為には、圧胴の温度を上げてやらなきゃ成らないんですが、

何もせずに温度が上がるのを、ただ待ってたら、こりゃエッジピックだらけの

印刷物を作ってしまいます。 ・・・んじゃどうするか。実はケッコウ多くの人が

やってるんですが、朝一の暖気運転の時に、「胴入れ」状態で、印刷機を

回転させてやるんですわ。

 

胴入れの状態なら、圧胴とブラン胴が接触しますから、その摩擦によって、

圧胴表面の温度が、チョッとだけ上がってくれるんですよ。このチョッとって

言うのが、結構な効果を生んでくれます。エッジピックが出るからとインキを

異常なほど軟らかくするよりは、数倍、有効な手段ですから、是非やって

みて下さい。

私が印刷会社に就職した当時(43年前)、ブランケットと言えば、ゴムと布が

貼り合わされただけの、いわゆる「ソリッド・ブラン」ってのしか無かったんです。

・・・他にも有ったかも知れませんが、一般的では無く、私は知りませんでした。

 

このソリッドブランの下に、紙だけを入れる「ハード仕立て」。紙とラシャ等の、

薄い布状の物を入れる「セミハード仕立て」。あとは、コルクシート等を入れる

「ソフト仕立て」なんて具合に、ブラン下に入れる素材で、仕立ての性質を

いろいろ変えて、様々な印刷物に対応していました。

 

ハード仕立ては、網点の再現重視。ソフト仕立ては、ベタ品質の重視ですね。

そこから数年後に、「エアーブラン」と呼ばれる物が、急速に普及して来ます。

ゴムと布の間に、空気の気泡で、クッション層を作ったブランケットです。

 

このエアーブランを初めて使った時の、一番の感想は「凹み難くてイイなぁ」

でした(笑)。・・・ソリッドブランの場合、例えば、角が折れ曲がった紙などを

印刷してしまうと、その折れ曲がった部分のゴムが簡単に凹んでしまいます。

それに対して、エアーブランは、凹みに対して、少しだけ強かったんですよ。

 

それに当時は、ブラン下の素材で、網点重視かベタ重視かを決めなければ

成らなかったので、その中間的な、セミハードを選択するのが主流だったん

ですが、まぁそれでも、網もベタも、メッチャ良いと言うほどではありません。

エアーブランは、その点も優れていました。

 

・・・ブランってね、メッチャ難しい物なんですよ。版からもらったインキを紙に

転移させるってのが、ブランの仕事なんですが、実はそれと同じくらいに

重要な仕事として、「紙離れ」って言う性質を要求されるんですわ~。

 

版からインキをもらう ⇒ 紙にインキを転移させる ⇒ この、すぐ直後にね、

紙とブランが一瞬で離れなきゃ成らないんですわ。・・・「ええッ、そんな事が

難しいの?」と、思われるかも知れませんが、これがケッコウ難しいんです。

 

ブランから紙へとインキが転移する際、100%のインキが紙へ転移される

ワケでは無いですよね。もし全てのインキが紙に転移されるのであれば、

ブラン上にインキが残る事は有りませんが、印刷終了時にも、ブラン上には

インキが残っているので、ブラン洗浄をしてるワケですもんね。

 

ブラン上にインキが残るって事は、ブランと紙が接触してインキを紙に転移

させた直後、ブラン上に残ったインキと、紙に転移されたインキの間で、

ある意味、インキが接着剤のように成ってしまって、ブランと紙の表面で、

この接着剤(インキ)の、引きちぎりっこ、が発生してしまうんですわ。

 

この時、接着剤(インキ)の粘り気が強過ぎると、紙の表面が負けてしまって、

紙剥け(ピッキング)が発生してしまいます。・・・でもね、それがアカンからと、

インキをダラダラに軟らかくしてしまうと、今度は網点再現性がグチャグチャ

に成ってしまいますよね。そこで、そうした事を良好にするために、ブランの

表面加工等が、手助けをしてくれてるってワケなんですよ。

 

ブランの表面って、パッと見ると、凄くキレイな表面に見えますよね。でもね、

これが鏡のような、超凄い平面だと、ブランと紙が、完全に密着してしまって、

紙がブランに取られてしまうので、全く印刷に成らないんですよ。そこでです。

ブランの表面に、超細かな凹凸を付けて密着し過ぎないようにしてるんです。

 

こうした性質を「紙離れ」とか言って、「このブランは、紙離れが良い」等と

表現したりします。・・・この性質は、印刷機の印刷速度が速く成れば成る程、

重要に成ります。例えば、1時間あたり1万5千回転の枚葉機と、1時間で、

4万枚以上を刷り上げるスピードを持った輪転機とでは、より速い輪転機の

方が、より良好な紙離れ性能が必要に成るって事ですよね。

 

では、この紙離れ性能を良くする為には、どうするのか。一般的にはブランの

表面の凹凸を粗くしてやれば、紙離れが良く成ります。でもね、凹凸が粗い

って事は、網点やベタの品質が悪く成るって事ですよね。凹凸が細かければ

細かいほど、網点やベタがキレイに成るってのは、簡単に想像出来ますよね。

 

こうした点、今時のブランメーカーさんは、本当に色々、考えてくれています。

今、使っているブランに、少しでも疑問や、もっとこう成らんかなぁなんて言う

要望が有ったら、是非、ブランメーカーさんに相談してみて下さい。