印刷技術 困った(時の)助言 | 1級技能士・成田の印刷技術

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1級技能士・成田が、オフセット印刷技術を解説します~。

仕事をしていて、一番「ありがたい!」と思うのは、本当に困ってる時の

先輩からの助言だったり手助けだったりしますよね。その助言や手助けで、

それまで必死に苦労していた事が一発で解消されちゃうと、その瞬間から、

その先輩は、後光が差した神様のように思えてしまいます~(笑)。

 

ただね、先輩達の頃と現在とのズレが有ったりすると、これ、ケッコウ大変

だったりしてしまうんですわ。とっても簡単な話だと、モルトン水棒を使って

いた先輩が、連続給水の使い方に関して、助言が出来るか?って言うと、

こりゃ、なかなか難しいものが有りますよね。

 

モルトン方式(スリーブ含む)は、呼出しローラーってヤツを使って断続的に

給水を行う方式です。・・・つまり、版面に湿し水を供給する水着けローラーを

中心に考えると、呼出しローラーが湿し水を持って来た瞬間、水着けローラー

の水量は最大と成り、次に呼出しローラーが水を持ってくる直前には、水量が

最少量に成っているって事ですよね。

 

水の量が断続的に、最大と最少を繰り返してしまうのが、呼出しローラーを

使ったモルトン方式の最大の欠点なんですわ。例えば、この方式で水の量

を調整する場合、汚れが出てはアカンので、最少の状態で汚れが、出ない

ように調整を行います。と言う事は、最大量の水の時は、過剰な水が存在

してしまうって事に成ってしまいますよね。

 

こうした事を緻密に見て行くと、モルトン方式ってのは、連続給水に比べて、

20倍の水量で印刷を行っている。と言う話も、有るくらいなのですよ。逆に

言うならば、連続給水は、モルトン方式の20分の1の水量で刷らなければ

成らない。と言う言い方も出来ますよね。

 

「別に、連続給水で水を多目にしたってイイじゃん」なんて言う人も居ますが、

これはアカンです。・・・モルトン方式には、凄い利点が有りましてね。それが、

素材の問題なんですわ。モルトンは、簡単に言えば、ケバ立った布地です。

モルトンの代わりに使う、ダンプニングスリーブも不織布の様な表面です。

 

この布地とかってヤツはね、少し無理をして、インキを盛り気味にしてもね、

布地に、余分なインキとかを保持する能力が有るんですわ。ですからインキ

を盛るって場合は、ケッコウ無理して盛ってもトラブルに成り難いんですよ。

 

それに対して連続給水のローラーは、ただのゴムです。インキを盛り過ぎて、

このゴムローラーが、インキでコテコテに成ってしまうと、水の供給が不安定

に成ったり、すぐにインキが乳化してしまったりして、簡単にトラブルを招いて

しまう事と成ります。つまり、連続給水は水とインキの量に対する許容範囲が

モルトン方式に比べて非常に狭いって事で、無理が効かない方式なんです。

 

そう言う事を知らない先輩さんから、「もっとインキを盛ればイイじゃん」とか

アドバイスされて、そのまま実行してしまうと、許容範囲が狭い連続給水は、

簡単に破綻を来して、乳化してしまい、飛んでもないトラブルに成ってしまう

ことが有ります。 許容範囲の差ってね、本当に大きな事なんですよ~。

 

先輩や年長者の方達からアドバイスを頂くのは本当に、ありがたいんですが

印刷のシステムや乾燥方式の違いで、その先輩さんが、そうした新しい物の

使用経験が無い場合には、せっかくのアドバイスが、逆効果に成ってしまう

ような事も有りますから、こりゃ、チョッと注意が必要ですね。

 

新しい事を勉強しようとしない先輩さん。昔の自分の経験値だけが全てで、

それ以上の事が分からない。こうした先輩さんが、工場の責任者さんだった

りして、その他の人達が、あまり知識の無い方達だったりすると、こりゃもう、

本当に大変です。間違った事ばかりして、苦労の連続ですわね。

 

先日、私の知人が、自分のブログで、「自分は金属アレルギーが有るので、

腕時計を25年以上もした事が無い。チタン製の物ならアレルギーも関係は

無いが、007のジェームスボンドじゃあるまいし、チタン製の時計なんて・・・」

てな事を書いてました。知人の腕時計に関する知識は、25年以上も前に、

停止してしまっているんですね。

 

ですから彼にとって、チタン製の腕時計は、ジェームスボンドがするような、

超高級品って言うイメージなんでしょうね。しかし現在は、カシオもセイコーも

チタンの腕時計を、安い物なら1万円程度で販売しているって時代なんです。

私自身も10年前位に買った、カシオのチタン時計を時々使っています。

 

「今を知らない」「勉強していない」「先入観だけでモノを言う」ってのは、こりゃ

かなりヤバい状態なのだと言う事を、我々、年寄りは、ましてや若手を教育

する立場の者はシッカリ自覚しなくては成りません。我々、年寄りの軽はずみ

な一言で、その間違った情報で、若手を迷わせてしまうんですわ。

 

こうした、年寄りからの、間違った情報発信と言うのは、今の印刷業界内でも、

非常に根強く残っています。我々年寄りはね、困った時に若手の手助けをする

人材に成らなきゃアカンです。若手の成長を、間違った情報で、遠回りさせて

しまう様な事が有っては成らないのだと、痛切に感じています。