やはり回復期病棟勤務2-3か月を経過したあたりから、急性期診療、特にやはり手術室で働きたい気持ちが強くなってきました。回復期リハビリテーション患者を診ることは決して私にとってやりがいのない仕事ではありません。特に脳梗塞、脳出血、くも膜下出血などの脳血管障害の患者さんは、かつてよく診ていた悪性脳腫瘍の患者さんに比べてとても良くなります。また、認知症の患者は入院したら必ず悪化するのは常識です。全く認知症のなかった高齢者が入院したらその日の夜に急に不穏状態になり、仕方ないので翌日退院してもらって、1週間後に外来に来てもらうとまた普通の人に戻っている、ということを多く経験しました。認知症の治療に入院というのはあり得ないと考えていました。しかし、何と回復期病棟の患者さんは入院すると逆に少し認知症が回復する人がほとんどなのに驚きました。急性期病棟に入院している間に認知症は当然進行しますが、回復期に来るとむしろ30点満点の認知症のスコアは2-3点ぐらいよくなります。急性期病院に入院する前に戻るというわけではありませんが、やはり1日3時間も体を動かすのが認知症のどんな薬より有効なようです。

 

回復期病棟では実際の治療は理学療法士、作業療法士、言語聴覚士といったスタッフが行いますが、これに看護師、栄養士、ソーシャルワーカーなどの多職種がチームを作って治療にあたり、その中心に医師がいるという回復期リハビリテーション治療の構図は決してやりがいのない仕事ではありません。家族への病状説明や多職種が集まってのカンファレンス(会議)も頻繁に行われ、それらの中心になるのはやはり医師ですから、決して暇ではありませんしやりがいのある仕事だと思います。しかし、やはり脳神経外科医として回復期病棟勤務を続けながら、急性期外来や脊椎脊髄手術にかかわれる方法はないかといろいろ模索しました。今の病院に勤務しだしてから急性期病院に週1.5日非常勤で勤務していましたが、さすがに手術室に入ることはできませんでした。常勤先の病院を経営する法人がやっている病院で2カ所、整形外科が脊椎手術をやっている病院がありましたが、そちらの手伝いに行かせてもらえないかと相談しましたが、けんもほろろに断られました。

 

 それならばということで、回復期病棟と急性期病棟と両方ある病院で、回復期リハビリテーション病棟の患者も診ながら、脊椎脊髄手術のお手伝いや術中モニタリングをさせてもらい、ある程度の脳神経外科急性期治療を行うというような身勝手な条件で関東地方で勤務先を探しました。結局のところ自分が本当にやりたいのは術中モニタリングですが、モニタリングは行えば手術点数に3万円が加算されますが、実質的には臨床検査技師や臨床工学士が行うものであり、私はそれらを監督してデータをまとめて学会で発表したり、論文を書いたりしているだけです。いくら術中運動誘発電位モニタリングの経験が日本一であると言っても、だからといってどこの病院も雇ってはくれません。モニタリングでは決して食べてはいけないということです。

 

複数の業者に病院を探してもらいましたが、やはり64歳という年齢と自分ではもう原則として手術の執刀はしないといったようなことでは、なかなか見つかりません。話があり病院へ見学、面接に行って病院の自慢ばかり聞かされてから、結局断られるというようなこともありました。これまでにも多く経験してきたことですが。5月末までに業者の紹介でまだ確定ではありませんが2カ所、埼玉県と千葉県の比較的東京から遠い場所で候補の病院が残りました。また、4月から毎週1日、非常勤勤務している北関東の県庁所在地にある病院、ここは回復期病棟にも急性期病棟にも脳外科が診るべき患者がたくさん入院しているのにもかかわらず脳外科の常勤が不在で、かつ40歳前の若い整形外科の先生、私と同じ神奈川県の高体連サッカー部出身で補欠ながらも全国大会に出場したのち浪人して医学部に入ったという、まさに文武両道を地で行く先生が新しく脊椎手術を開始しようと計画している病院で常勤になってくれないかと言われていました。そんな中、運命の6月を迎えることになりました。