Pink Floyd の超有名アルバム、"The Dark Side Of The Moon" に収録されているアルバムのテーマ曲とも言える Brain Damage の最後に、こんな歌詞があります。

And if the band you're in starts playing different tunes
I'll see you on the dark side of the moon.

まあここで the dark saide of the moon というアルバム名が歌われているところに、ほとんどの人の関心が集まっているのだと思いますが、自分が強く惹かれたのが、 different tunes という言葉。

different tunes って、とても魅力的な響きで、想像力を掻き立てられる言葉だと思いませんか。

いったい、どんな音が鳴れば different tunes と呼べるのだろう、different tunes が鳴っている音楽が聴きたい!
自分が知らないだけで、ちゃんとした訳語があるのかもしれませんが、そこは勝手にイメージを広げます。

それ以降、この思いが自分の中に深く根差したことは間違いありません。

その時の自分は、Brain Damage のDのテーマフレーズに対して、まずはこれが different tunes だと思っていたのですが、今にして振り返れば、自分と音楽の関わり、その後の自分の音楽の好みの変遷は、多分にこの different tunes 探しだったと言っても過言ではありません。

音楽をウン十年聴いてきて、出会えた different tunes はたくさんあります。
最近は色んな音楽に慣れてきたせいか、驚くことも少なくなったけれど、一昨年は John Frusciante のソロアルバムには、different tunes を感じることができました。

で、今年も different tunes に出会った。

それが、 Julian Casablancas + The Voidz "Tyranny"

Tyranny [帯解説・歌詞対訳 / 国内盤] (MGNF1012)/MAGNIPH

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聴き始めたところから、ウオーーーてな感じでビンビン来ました。
端から端まで刺激的。

This Heat のファースト、The Pop Group のセカンド、Peter Gabriel のサード、Sparklehorse 、それらの強烈なインパクトにある種匹敵するかもしれません。
ちょっと毛色は違うけど、YMOのBGMも、中森明菜の不思議も、different tunes だと思ってます。

音そのものに different tunes を感じる場合もあれば、音楽の組み上がり方に感じる場合もあります。

このアルバムは、音楽の直感力へのインパクトかな。
Julian の脳の信号というか、感性が自分の脳に直結している感じ。







聴いている間、なぜかニヤニヤしてます。
これは John Frusciante のアルバムでもそうだった気がしますね。
たぶん、ほとんどの人が眉をひそめるような音楽なのに。

Different tunes への快感。

コマーシャリズムや周りへの迷惑など一切気にせずに、自分の表現欲求を絞りつくしていく。
そこにはアナーキズムというか、破壊的な存在感がある。

こういう出会いが、音楽を聴き続ける大きなモチベーションのひとつです。



ちょっと事情があって、しばらく更新が途絶えてしまいました。
まあ、どうしてもレビューしなきゃというアルバムがあったわけでもないけれど、音楽のことを語るエネルギーが出てこなかったもので。

なかなか再開のきっかけがつかめない中、U2 が5年ぶりのアルバムをリリースしました。
iTunes への5億人無料ダウンロードという手法で。

"Songs Of Innocence"
ソングス・オブ・イノセンス-デラックス・エディション/ユニバーサル ミュージック

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このアルバム、リリース方法の賛否ばかりが聴こえてきて、アルバムの中身をどう評価したのか、どういう思いで聴いたのか、ほとんど聴こえてきません。
真っ当な評価をされてるとも思えません。

こんなに素晴らしいアルバムなのに。
ほとんど黙殺されている状態。

自分は U2、好きです。
特に最近のU2が。

おまえにしてはずいぶんとメジャーなミュージシャンが好きなんだなと思うでしょう。
彼らは名声に奢らず、高いプロ意識で質の高い音楽を創りだしてくれる、数少ないミュージシャンだと思っています。

特に、前作 No Line On The Horizon のクオリティは半端じゃありません。
昔ながらのファンからは、けっこうボロボロに酷評されたりしてましたけど。

彼らの基本はエモーショナルなロックです。
一時期、自分たちの基盤から離れて、エレクトロに行ったり、いろんな方法論を試していました。
そして再び、自分たち本来の立ち位置に戻ってきたのが、All That You Can't Leave Behined 。
これまた素晴らしいアルバムです。
エネルギーと質感の両立。
動と静の両立。

そしてその静の部分が際立ったのが、前作です。
このU2の静を受け入れられるかどうかが、前作の評価につながっていると思います。
サウンドスケープの創り方が素晴らしかった。

そして最新作では、前作ほど静の部分のコントラストは強くありません。
それでも前作で掴んだ静の表現テクニックを取りこんで、エモーショナルなだけでない質感の高さと、精緻なサウンドスケープを創り上げているのだと思います。

アルバムの最初から最後まで、ダレることなく、過剰になることもなく、軽やかに疾走していくU2。
ボノの歌も、エッジのギターも、過剰になり過ぎない存在の確かさを見せてくれます。
書かれる曲も、ひとつひとつがアイデアに満ち、個性が際立つ。

プロデューサーがあれだけ変わっても全体の統一感に揺るぎもないのは、彼らがフィニッシュへの全責任を負っているからでしょう。

この全体を覆う完成度。
U2はどんどん孤高の存在になっていく。


そして、アルバムのリリース方法からはアイデアの派手さだけでなく、彼らの自信と責任感が感じられます。

限りなく多くの人たちに届けるという、クオリティを高めることへの妥協のなさ、責任感。
これだけのクオリティを実現した自信が、あのリリース方法を良しとしたのでしょう。

でもやっぱり弊害もあります。

リスナーの意思とは無関係にダウンロードされるという一面もあるけれど、自分のような初めからフィジカルリリースで買うと決めていた人間は戸惑います。

特に聴きたいとも思っていない人がタダで聴けているのに、対価をしっかり払って聴こうとする人間がすぐに聴けない。

もとからデラックスエディションを買う気だったけれど、このリリース方法で無料配信され、フィジカルが遅れてしか手に入らないのであれば、ネット配信には含まれていな曲が入っているデラックスエディションを買う、その選択肢しか考えられなくなった。

結局、音楽に意識的であろうとする人たちを失望させる結果になったこの方法は、彼らも反省しているように、やはりやるべきではなかったですね。


はや7月も最終日が終わりつつあります。

例年5,6月が1年で最も仕事が忙しい時期なのですが、今年はそれが7月まで及んで、音楽は聴いてもそれを言葉に落とし込むこむ時間的余裕がありませんでした。

ブログを書くために音楽を聴くのをやめ、自然に言葉が出てくるのを待つことにしたので、こうなってくると漠然と音楽を聴き散らかしている感じです。
やっぱり自分の感じた印象などを対象化して一旦レビューに落とし込まないと、一区切りついた感じがしませんね。

とはいえ、どんなに忙しくてもビビッときた音楽に対しては自然に言葉が溢れてくるものなので、それなりの印象しか残していない音楽が多いということもあるかも。

さて、先日アルバムがリリース済みの、Brian Eno と Karl Hyde のコラボレーション、 Eno・Hyde
早いものでもう2枚目 "High Life" がリリースされました。

High Life [帯解説 / セルフ・ライナーノーツ付 / ボーナストラック1曲収録 / .../Warp Records / Beat Records

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1枚目は期待もそれなりにしていたし、組み合わせに興味があったこともあり、結果的に想定内のデキだったため、むしろ失望する内容に近かった印象です。

だから2枚目リリースを聴いた時は、え、またアルバム出すの、しかもこんなに早く、というのが正直な気持ちだったことは否めません。

スティーブ・ライヒとフェラ・クティの音楽にインスパイアされた「ライクティ」というキーワードを持ってこのプロジェクトを始めたそうですが、前作にはその要素がほとんど見られませんでした。
だからこその想定内失望だったわけですが、このプロジェクトの中心は、むしろこの2枚目にあったようです。

たしかに「ライクティ」というのがわかります。
最近のロックリスナーには、スティーブ・ライヒもフェラ・クティもなじみのない名前でしょうが、1980年台を通過してきたおじさんには、ある種の憧れを感じる名前です。

ハイドのカッティングギターと、イーノの主導するミニマリズムとどこか第三世界的なチャントの融合。
あの傑作 My Life In The Bush Of Ghosts に比肩するなどと言う人もいますが、さすがにそこまでのエネルギー感は無く、それは過大評価だけど、しっかりとしたベクトルは描いているし、魅力的なコラボに仕上がりました。





この2曲はこのアルバムのベクトルを表していて、それはそれでいい曲なのだけど、本当は、他に貼りたい曲がありました。
それらの曲がこのアルバムの幅と深さを創っていると思ったので。
しかし、YouTubeに落とされてる曲が少なかったため、断念です。

アイデアは面白いし、彼らならではのサウンドスケープを創り上げられていると思うけれど、他のアルバムを聴くのを止めてでもこれを聴くぞ、と思わせる引力には乏しい。

とっても漠然とした印象なのだけれど、イーノはデジタル畑の人ではなく、アナログ畑の人と仕事をすると、とっても面白い音楽ができてくる気がします。

St.Vincent とのコラボなんて、面白そう。
今年は大物ミュージシャンが期待どおりの作品をリリースしてくれている年ではありません。

大物といっても、自分にとってはビッグネームやメジャーなビッグヒットをかます人たちのことを指すわけではなく、常に期待にたがわないクオリティの作品をリリースしてくれる、ややメジャーよりのミュージシャンのイメージ。

昨年はその基準にのったミュージシャンがこれでもかとリリースし、かなりがいい作品だったという当たり年でしたが、今年はその余波なのか、激減している印象。

まあそういう時もあるよな、なんて思っていたら、予想外のところからガツンと食らわしてくれるアルバムが登場してくる、というのもよくある現象。

今のヘビロテ、 The War On Drugs

フィラデルフィアで2005年に結成されたバンドのこれが3枚目なので割と寡作、でも最近では割とみんな寡作になっているからね。

"Lost In The Dream"

Lost in the Dream/Secretly Canadian

¥1,668
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このアルバムは、自分にとってロックの快楽的側面。

どこかドラッギーなエネルギー感とノリ。
スピード感とも違うし、グルーブ感ということばもはまりにくい、独特のノリ。

彼女との別れによる孤独感、喪失感がベースにあるようですが、不思議なことに全般的に陽性なトーンでおおわれています。

陽性といっても、幾多のメジャーミュージシャンが奏でる多幸感ではありません。
間違ってもロックが好きではない一般人が勘違して飛びつくことのない、陽性感。

インディであることの矜持(?)を忘れていません。

つかみのあるフレーズをどんどん繰り出すタイプのソングラインティングではないけれど、そのメロディラインは素晴らしいし、メロディを生かしてくれる味のあるボーカル。
ギター中心ではあるけれど、カート・ヴァイル的なサウンドではなく、意外にピアノを始めとしたキーボードが多用されています。

サウンドスケープのポイントは、全面を貫く、リヴァーブとリフレインでしょう。
基本的な音数は多くないけれど、音が響きます。
執拗なまでに、音を響かせながら繰り返されるフレーズ。
リフレインのために、長尺になっている曲もあります。
それらの曲を聴くうちに、脳がだんだんと痺れてきます。

音楽がもたらすドラッギー感。
ドラッギー感がもたらす、夢心地感。

Lost In The Dream とは、聴いている自分のことか。









サッカー選手が絶好調の時、キレにキレてるという言い方をする時がある。

トラップ、ドリブル、パス交換、シュート。
何をやっても自分の意図通りにぴったりとキマる。
タイミングも狙いも正確で、見ていてほれぼれするデキ。

サッカーとは全く違いますけど、この人の音楽の素晴らしいところはなんだろうと考えていたら、キレにキレてる音楽、という言葉が浮かびました。

St.Vincent の新作、 "St.Vincent"

St. Vincent/Republic

¥1,556
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これだけの才女がセルフタイトルを付けたアルバム。
まさにキレにキレてる、素晴らしいアルバムです。

葬式で踊るための音楽とかのたまってるらしいですが、そのリズム感、メロディ、音の感触、ムダのない音空間、そして彼女のボーカル。

彼女の頭の中に描かれたスケッチをベースに、おそらくかなりの楽器とフレーズが瞬間的な感覚で色付けされたものでしょう。

それとも完璧な設計図に基づいて描き出されたものなのか。

いずれにしても、尋常ではないセンスです。
前作、"Strange Marcy" もかなりのデキでしたが、今作の完成度は尋常じゃありませんね。
本質じゃないのかもしれないけれど、今作で完成度が飛躍的に伸びたのが、メロディラインであり、彼女のボーカル。
このメロディラインで歌うボーカルの後ろに、この音をこのフレーズで鳴らすか!!?

刺激的で過激なポップネスに、滑らかさが加わって、なんとも言えない魅力にあふれます。
彼女にしか創り出し得ない、アーティスティック・アバンギャルド・エキセントリック・ポップミュージック。

やっぱり、彼女の音への感覚が最大の魅力です。
ひとつだけだとペラペラで薄っぺらいシンセベースでも、構築されたサウンドスケープにはまると、なぜかこの音しかありえないと思える。

全般的に、けっこう軽い音で収録されている楽器が多いです。
通常の自分であればマイナスポイントになりがちだけれど、この音楽の中ではふさわしいと思えるほど。
それらがアバンギャルドに、エキセントリックに鳴り響く。
彼女に完璧にコントロールされながら。

明らかにUSインディ(すでに死語になりつつある?)の中だけでなく、ロックの世界で独特のポジションを勝ち得てきている彼女。

先行きが恐ろしいくらいの存在感です。







このアルバムをイヤホンで聴きながら記事を書いていたのだけれど、YouTubeを貼ろうとしてその曲の埋め込みコードをコピペしていたら、聴いている曲とYouTubeでの再生が重なって聴こえていました。

最初はそんなことになっているとは知らず、おおこんな面白いことをやっている個所もあったんだ、これもおもしろいなあと、まったく違和感を感じずに聴けてしまうのが彼女の凄さかもせれません。

しかしメディアがこのアーティストをセイント・ヴィンセントと呼んでいるのが気になるなあ。
これはフランス語読みで、サン・ヴァンサンでしょう、やっぱり。