この音楽の感触。
どこか脳の奥底の記憶にひっかかる。

80年代の New Wave 全盛期。
Rough Trade や 4AD といったイギリスのインディレーベルを漁りまくっていた時代に、耳になじんでいた音楽たち。

耳が、その記憶を呼び起こしてくれます。

The Flaming Lips の新作、"The Terror"

ザ・テラー(初回限定スペシャル・プライス盤 )/ワーナーミュージック・ジャパン

¥1,980
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ノイズと反復音の洪水の中で、キラリと輝く美意識。
流して聴くことなど許されず、その音にひたすら浸ることが求められる音楽。
荒々しく刺々しい音の流れから、不思議と感じる静謐感。
凶暴さの中に潜む、繊細さ。

まさしく、あの伝説のグループ This Heat を彷彿とさせ、ドキッとする時も。
This Heat ほどには凶暴でもアバンギャルドでもないけれど、金属の塊をかき鳴らしているかのようなギターが特にいい。

アルバム全体を通じて、ある種の精神性、瞑想性をもたらしてくれる音楽。







中盤からのギターカッティングがたまらん。


雑誌などを見ると、彼らが過去にカバーしたことがあるせいかこのアルバムをピンクフロイドの狂気になぞらえる人もいるけれど、自分にとってはアルバムを通したテーマ性の存在以外の共通点は見当たりません。

プログレへの期待感を土台に、聴き手の耳を捉えて離さないこれでもかと仕掛けられた過剰なサービス精神、エンタテイメント性が、ピンクフロイドの狂気の本質。
ビッグセールスを記録したのは結果論ではあるけれど、ミュージシャンが相応に意図していたものでしょう。

このリップスの音楽は、ファットなプログレとは対極にいる、研ぎ澄まされた時の流れ。
これは幅広く売れるはずもない音楽。
エンタテイメントや商業性に背を向けた、精神性と構造。

心が共振すれば深く食い込む音楽になり得る反面、一度聴いて二度と聴かない音楽になる可能性も持つ音楽。
さて、自分はどうなるか。

じわじわと、ずぶずぶと、その世界に取り込まれつつあります。


レビューを書いたのに、すっかりアップするのを忘れていました。

自分の中では、かなり思い入れの深いミュージシャンのひとり、 Peter Gabriel

世間的には、わりとマイナーな存在でしょう。
Genesis が人気バンドになって、ボーカリスト兼ドラマーの Phil Collins はさらにソロ活動で世界的に飛躍した時期には、Genesis をとっくに脱退していましたからね。
とはいえ、初期~中期 Genesis の事実上のリーダーであり、彼らを大きな存在にしていく立役者であったことは事実。

ソロになってからの彼は、常に新しい自分の音を求めていたために、音楽性がアルバムごとに変わっていきました。

ファーストはボブ・エズリンがプロデュースした、ポップな側面が際立ったもの。
セカンドは、ロバート・フリッププロデュース。
サードはニューウェイブムーブメントにも触発された、音が尖ったもの。
4枚目は、民族音楽に触発されてアフリカンリズムを多用しています。

その間、確実に彼の音楽は重く、強く、深みを増して行きました。

そして5枚目、 "So"

So: 25th Anniversary Edition/Real World

¥2,197
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Peter Gabriel の出したアルバムの中で最も好セールスを記録したアルバムでしょう。
5枚目のソロアルバム。
ジャケットもシンプルで、それまでのアルバムから重さが一気に抜け、明るくダンサブルな側面が強くなりました。

そして、初めてタイトルがついたアルバムでもあります。

それまでは、音楽性は大きく変わっても、アルバムには個別タイトルを付けず、全部 "Peter Gabriel" でしたからね。
雑誌などは雑誌タイトルがあって、それがロゴタイプも含め毎回変わらず表紙だけが変わっていく。
オレのアルバムもそんな感じだよ、などと発言してました。

ああなるほど、と思いましたが、他の人に教えるのがけっこう面倒でね。
あの指で空間を引っ掻いてる2枚目のヤツ、とか顔が溶けてる3枚目の、とかね。
タイトルが無いからジャケットの説明をしなきゃなりませんでした。

さて、さきほども書いたように、彼は言わずもがなの Genesis のボーカル兼コンセプトリーダー的存在でした。
Genesis の実質デビューアルバムから、Lamb~まで在籍していたわけですが、不思議なことにピーターがいた時期のアルバムは、総じて音が悪い。
どの楽器のレベルも低くて、解像度が悪くて、モコモコしてる。

それが彼が抜けた後の Trick~ からは音が非常にクリアになった。
ピーターがあえてそうしていたとしか思えないくらい。

その影響がピーターのファーストソロアルバム(雨の車中のヤツ)にも出ていて、プロデューサーがボブ・エズリンだったせいもあるのかもしれないけど、けっこうモコモコの音でした。

ところが、3枚目あたりから意識が変わったのか、音が鮮烈に、クリアになってきました。
それがピークを迎えたのが、この So だったわけです。

発売当初も、なんて音のいいアルバムなんだろう、リズムの切れ味抜群。
ある種彼らしくないかも、なんて思ってましたが、これが大ヒット。
Sledgehammer なんてもっとも世間的に知られている彼の曲でしょう。

そしてそのリリース25周年リマスター盤がリリースされました。

例によって豪華ボックスセットもあるけれど、自分はライブ音源付きのデラックス盤に踏みとどまることにしました。
たくさん入っていても、結局聴くのは良くて1回という盤が多くなるので。

そして恒例の音質比較です。

So はたしかリリース当初に、レコードなしでいきなりCDリリースされた(もしくはCDリリースがメインだった)世代のため、レコードは保有しておりません。
そして、CDも全アルバムがリマスターされた2000年ごろ?のリマスター版を買っていないため、今回の比較試聴は、オリジナルCDと25周年盤リマスターということになります。

オリジナル盤も、発売当初は音のいいCDという評判であり、リマスター盤もそれなりに苦戦するのではないかという予想を立てていました。

で、結果ですが。

25周年リマスター盤の圧勝です。
まず、明らかにダイナミックレンジが違います。

中高域の伸び、低域の広がり、どこをとってもリマスター盤が圧倒してくれます。
聴いたのは、 Sledgehammer と Big Time で、どちらもこのアルバムの中で、リズムのキレが優れている曲。

トニー・レヴィンのスティックの存在感、ギターのカッティング、ピーターのボーカルの伸び、そしてマニュ・カッツェやコープランドの叩きだすドラム音のインパクト。

それらが相まって、オリジナルで聴いていた音は何だったのかというくらいに、切れ味が増した音。

やはり機材や技術の進化というのは、あなどれません。
しかしそれを生かすも殺すも、ミュージシャン次第。

この勢いで、3枚目と4枚目をもう一回リマスターしてほしい。ぜひ。




Suede の、10年半ぶりになる復活アルバムです。
"Blood Sports"

Bloodsports/Ingrooves

¥1,462
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彼らのベストは、初期2枚という人と、バーナード・バトラーが抜けた3枚目だという人とに分かれますね。
逆に人気がないのは4枚目と5枚目。

自分にとっては、ベストは耽美色の強い1、2枚目と、明るくポップ色を増した3枚目が双璧だとは思うけれど、どれもそれなりに好きなアルバムです。
でもブレット・アンダーソンのソロアルバムは、あんまり好きじゃありません。
やはりブレットは、バンドで輝く人だと思っています。

そして、今回の再結成は、基本3枚目を創ったメンバーによるもの。
とはいっても、実質的にブレットによる、ブレットのための復活劇であることは明らか。
するとどうしても Coming Up の再現を求めてしまいます。
特に進化も成長もしていなくてもいい、あの時のあのロックを聴かせてほしい、と。

そしてブレットは、見事にその期待に応えてくれました。

我々が彼らに求めていたものと、ブレット・アンダーソンが再びやりたいと思った音楽の一致。
もしかしたら、ブレットが我々が求めているものがわかっていて、それを再現しただけなのかもしれない。

ブレットのボーカルも全盛期を彷彿とさせるものだし、ノイジーでエキセントリックなギターも健在。
メロディラインも、ブレットそのもの。

そして何よりも、ノスタルジックでナルシスティックで、明るく突き抜けた Coming Up 期の Suede のロックが満喫できます。
ほんのちょっぴり、初期の香りも添えて。

ちょっとあざとい感じがしないでもないけど、こんなハッピーな復活劇があってもいいじゃないか。

もったいぶって復活し、過去の栄光をチラ見せしながらも、創られた音楽の内容が乏しいミュージシャンはたくさんいるのだから。








自分のスタイルを変化させるのはなかなか難しい。
特に時間をかけて親しんだ、自分にもっとも合ったスタイルを変えるのは。

このアルバムを聴いてそう思った。

アイルランド・ダブリンのシンガーソングライター Conor O'Brien のプロジェクト、 Villagers
2010年にリリースされたアルバムは、僕もその年のアルバムベスト10に入れたし、イギリスのマーキュリープライズにノミネートされた秀作でした。

音楽の体幹にあるのは、彼の声・歌唱力・優れたメロディが見事にシンクロした歌です。
それを基本に、ギターに乗せて曲が創られていきます。
とはいえバンド形式なので、絞られた音数のピアノやベース、ドラムスがからんで行きますが、あくまでも中心にあるのは、アコースティックで独特の色彩感のある歌。

そんな彼がファーストアルバムリリース後のツアーで疲れ、ギターを持ってシンプルに歌うことに倦んでしまった。
ギターを持って歌うことを中心にするのはしばらく控えたいと。

それでこのセカンドアルバムでは、バンドとしての音楽が強まり、シンセやシーケンサーなども導入されていったということでしょう。

セカンドアルバム、 "Awayland"

{awayland}/Domino

¥1,463
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相変わらず、いい歌を創ってくれています。
ファーストにはなかったエレクトリック系のピコピコ音があったりして、最初は不安を感じたけれど、彼の声が出始めるだけで、彼の得意な鉄板メロディラインが出るだけで、空気感が変わる。

基本的に感じるのは、そういった幸せです。

レビューにも書きましたが、アイルランド出身の彼らしく、ファーストアルバムはどんよりとした曇り空が良く似合うサウンドスケープを持っていました。
希望とか、元気、よりも、憂いやかすかな悲しみを感じさせる音楽。

このセカンドでは、そこへの反省があったらしく、ポジティブに元気なサウンドを志向したかったというのが本人の弁。

彼のベーシックなスタイルをアルバム1曲目でやってくれてます。


グッドメロディ、グッドボーカルが生きたバンドスタイル。


テレビで見た東日本大震災の津波に衝撃を受けたそうです。
最初にピコピコしていても、ピアノが入ってきた瞬間に、彼の音楽以外の何物でもなくなります。



エレクトロニクスを加え、バンド色を強めた彼のセカンドアルバム。

このスタイルを否定するつもりはないけれど、やはり彼の音楽には歌とギターとピアノを中心にしたシンプルなバンド構成が一番心に沁みてきます。

彼の歌を中心に空気感が創られていく。
彼の歌に、音楽に、たっぷりと浸ることのできるスタイル。

やっぱりそれが好きだなあ。
サードアルバムは、そのスタイルに戻ってほしいです。


やはりこの音は彼らならではのもの。

The Strokes "Comedown Machine"

Comedown Machine/RCA

¥1,357
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決してべったりとせずに、さらりとした感触の音。
湿度感の低さは、彼らの音楽に独特の風通しの良さをもたらしてくれている。

壁をつなげて構造物を作っていくのではなく、ソリッドな柱の集積体が必要最低限の本数で、強靭な構造物を作っている、そんな印象の音楽。
だから柱と柱の間に隙間がたくさんあって、風通しがとてもよくなってる。

ギターが決して暑苦しく鳴らない。
ジュリアンのボーカルも重くならずに、さらさらと歌われる。
今回はファルセットも多用している。

これだけ書いてみて、なんでこれがロックとして鳴るんだろうと、とても不思議。
隙間の美学に立脚したロック、とでも言いますか。

贅肉なく、引き締まった音。
マッシブに構成された音たち。

この感覚が、彼らの音楽を優れたロックに昇華しているのでしょう。

やっぱりそうでした。
これらが、ボウイの新譜に足らなかったもの。
Heroes までのアルバムでは、音楽がマッシブだったのです。
見た目はシャープなのに、音楽にはぜい肉がついてややメタボになってしまった。


もとい。
そして今作のストロークスに顕著なのが、軽やかなスピード感。
もともと軽やかな彼らのロックだけれども、これと聴き比べてみると、明らかに次元が違ってきてます。
前作、Angles が重たく感じられてしまうほど。

ファーストにもなかった疾走感。
このアルバムは、いいなあ。
彼らのアルバムで、一番好きかも。

アルバム冒頭のこの曲、出だしの10秒を聴いて名盤であることを確信しました。




こういう味のある曲がたくさんあるのもいいです。