MAG2 NEWS:プーチンから「お前は馬鹿か」と嘲笑されること必至。石破氏「アジア版NATO」構想で露呈したウクライナ問題の歴史的経緯を知らぬ新首相2024.10.09より転載します。
 
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https://www.mag2.com/p/news/624416
 
th20241008
 

かねてから「軍事オタク」として知られてきた石破茂氏。そんな石破氏が首相就任直前、米シンクタンクに寄稿した論文が大きな話題となっています。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』ではジャーナリストの高野孟さんが、石破首相が論文内で主張する「アジア版NATO」構想について、「これが本当に防衛政策に強いと言われた政治家の言説か」と猛批判。その上で、論文内容がいかに誤謬に満ちたものであるかを詳細に解説しています。

※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:石破「アジア版NATO」構想の支離滅裂/それは一体誰を「敵」とし誰を「味方」として結集される軍事同盟なのか?

プロフィール高野孟たかのはじめ
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。

誰が「敵」で誰を「味方」か。支離滅裂にすぎる石破首相の「アジア版NATO」構想

石破茂内閣は発足早々ヨタヨタで、何よりも不味かったのは、臨時国会で所信表明演説とそれに対する各党代表質問だけでなくその後の予算委員会までじっくり議論に応じ(そこまでNHK中継が入る!)、「国民の皆様に充分な判断材料を提供した上で総選挙に訴える」かのようなことを言っていたのに、手の平を返したようにいきなりの9日解散、27日投開票の「戦後最速」とも言われるバタバタ政局を選んだことで、早速その無定見ぶりが批判に晒されることになった。

戯言に満ち満ちている「アジア版NATO」構想のお粗末

批判のしどころは色々あるが、私が一番酷いと思うのは、彼が長年温めてきてそれなりに自信を持っているかに言われている「アジア版NATO」構想である(文末にハドソン研究所への寄稿の和訳全文を掲載し、本稿で取り上げる最初の3パラグラフに〔A〕〔B〕〔C〕とアルファベットを挿入してある)。しかし、私に言わせれば「これが本当に防衛政策に強いと言われた政治家の言説か」と疑わざるを得ない、戯言(たわごと)に満ち満ちている。

第一に、〔A〕は、ウクライナがNATOに入っていなかったために集団的自衛権に基づく米国の参戦を得ることが出来ず、そのためロシアに侵略されたという石破の認識を示している。何のために彼がこれを強調するのかと言えば、「だからアジアにもNATOのようなものが出来て日本がその一員になれば盟主=米国の庇護を受けられるので、侵略に対する抑止力が一層強化される」と、アジア版NATOの必要性を説明するためだろう。

しかし、たったこれだけの短い文章の中にもいくつもの誤りや曖昧さがあり、これだけを見ても彼が「軍事オタク」かもしれないが(いや、そうであるが故に?)「国際政治オンチ」であることが窺い知れる。

「ウクライナはNATO未加盟ゆえ露に侵略された」の間違い

まずは、ウクライナ問題の由来とその結果としてのウクライナ戦争の本質についての余りにもお粗末な理解である。簡単に言えば、ウクライナはNATOに入っていなかったからロシアに侵略されたのではなく、話は逆さまで、ロシアが兄弟の契りで結ばれていると思ってきたウクライナを米国が何が何でもNATOに引き込もうとする挑発行為を繰り返したことがロシアの暴発を招く一因となったのである。順を追って言えば……、

(1)1989年に冷戦が終わり、ゴルバチョフが91年にさっさとワルシャワ条約機構を解散したにもかかわらず、米国(ブッシュ父政権)は「冷戦という名の第3次世界大戦に勝利し、ソ連を負かしてやった。これからは米国の天下だ」という“唯一超大国”幻想に取り憑かれ、仏独などの意向にも逆らってNATOを解消しなかった。

(2)そればかりか、米国(クリントン政権)は97年以降、ポーランド、チェコ、ハンガリーを手始めに、旧東欧諸国を順次NATOに加盟させる「東方拡大」策に着手した。同じ年、早くも「NATOウクライナ委員会」を設置し、加盟のための政治・軍事・財政等の問題の協議が始まった。

東方拡大の最大の狙いは、それら諸国に旧ソ連製の兵器体系を廃棄させ、米国製の最新兵器に置き換えさせることにあり、そのため米国最大=世界最大の軍需会社ロッキード・マーチン社が「NATO拡大のための米国委員会」というロビー団体を創設し、バイデン(現大統領)、強烈な反共主義者の故マケイン両上院議員ら当時の上院外交委員会の尻を叩いて政策と予算を動かした(詳しくは本誌22年7月4日号=No.1162「米軍産複合企業が推進した『NATOの東方拡大』/バイデンは上院議員当時からその手先だった!」を参照)。

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(3)2001年にブッシュ子政権が発足すると、その前から上述「NATO拡大のための米国委員会」などに巣食っていたネオコン活動家がどっと政権中枢に入り込み、アフガンとイラクで無益な戦争を始める一方、00年のユーゴスラビア「ブルドーザ革命」に続き、03年のグルジア「バラ革命」、04年のウクライナ「オレンジ革命」、05年のキルギス「チューリップ革命」などを次々に仕掛け、親ロシア派政権の転覆を図った。

ウクライナでは、04年の大統領選挙で当選した東部ドネツク地方のロシア系住民出身のヤヌコービチが不正選挙を働いたと糾弾する市民運動が起こり、再選挙となり、親欧米派のユシチェンコが大統領に就いた。そのためNATO加盟問題が再び浮上し、2008年にブカレストでのNATO首脳会議にブッシュ子米大統領が出席、ウクライナとグルジアのNATO加盟を推進する方針を正式に決めた。しかし2010年の選挙で親露派のヤヌコービチが返り咲いたので、またも協議は中断させられた。

(4)2013年秋にキーフのマイダン広場を舞台に、親欧米派の市民がEUとの経済関係を強める協定の締結を求めるデモを起こすと、米国(オバマ政権)はすぐさま行動を起こし、ネオコン活動家として知られるビクトリア・ヌーランド国務次官補=東欧担当〔後に国務次官、夫はネオコンの理論的支柱ロバート・ケーガンで、ケーガンの妹のキンバリー・ケーガンがネオコン系の拠点「戦争研究所」の所長〕を現地に送り込んで市民らを激励。またマケイン上院議員も乗り込んでウクライナ民族主義過激派やユダヤ系極右団体など反ロシア勢力の指導者たちと協議し、資金と武器の供与を約束した。

それで同国はたちまち内乱状態に陥り、14年2月のクーデターによりヤヌコービチは国外逃亡。親欧米派の政権が発足した(詳しくは本誌2014年3月3日=No.725「プーチン=悪者論で済ませていいのか?/ウクライナ・クリミア争乱の深層」を参照)。

プーチンに「お前、馬鹿か」と嘲笑されること必至の石破氏

(5)新政権は、東部及び南部のロシア語話者が8割以上を占める地域でロシア語を「地域公用語」とすることを認める法律を廃止した。これに対しドンバス地方のロシア系住民はウクライナ語による教育を段階的に廃止する措置を採るなど、対立が深まった。

そうした中で、キーフ政府とプーチンとの間で、ドンバス地方の住民にロシア語使用を含め一定の自治権を保証するためウクライナ憲法を改正し新たな法律を制定するという方向で合意がなされ、それを仏独首脳が言わば立会人として見届けるという「ミンスク合意」が成立したが、キーフ政府とドンバス住民の間のテロ合戦が激化し、同合意は吹き飛んでしまった。

その意味で、ウクライナ戦争の本質はあくまで東部ロシア系住民の自治権をめぐる内戦であり、それにロシアが軍事介入したのは確かに外形的には「侵略」に違いないものの、仮にキーフが「勝利」してロシア軍を撃退したとしても、そこでキーフが直面するのは、10年前と全く同じ政治問題――東部ロシア系住民の自治権を憲法的・法律的にどう保証するのかということでしかない……。

このような、ウクライナ問題の歴史的経緯について石破は恐らく無知で、「ウクライナがNATOに入っていればロシアは侵略しなかった」などというトンチンカンなことを口にしている。こんな認識で日露首脳会談に臨めばプーチンに「お前、馬鹿か」と嘲笑されるに決まっている。

もう一点、そのような(誤った)ウクライナ認識を踏まえて、だから日本もアジア版NATOの下に入れば米国の「集団的自衛権」で守られるに違いないと思っているらしいが、甘い。条約上で集団的自衛権が明記されていてもそれは「自動参戦義務」の規定ではなく、米国はその時の世界情勢や自国にとっての利害得失を判断して必要なら戦争に介入できる「選択的参戦権利」を持つというだけである。つまり、日本有事は自動的に米国有事ではない。

石破氏が犯した51条の完全な誤読

第二に、〔B〕の部分は、ウクライナはNATO非加盟だからNATOの集団的自衛権発動の対象とはならないが、国連憲章51条には国連としての集団的自衛権規定があるので、それに基づいて米国がウクライナに参戦してもよかったはずだが、米国はそうしなかったと言っている。が、これは51条の完全な誤読である。

石破に限らず、この51条を以て国連憲章が集団的自衛権を積極的に認めているかに論じる者が時折出てくるが、それは間違いである。国連の根本趣旨は、言うまでもなく、2つの世界大戦への痛切な反省に立って、すべての国際紛争は平和的に解決することを大原則とし、そのため個別国家による武力の行使及び武力による威嚇を禁止しようとするところにあった。しかしこの憲章の制定過程で、

  1. 53条に地域的安全保障体制が軍事的強制行動に出る場合には国連安保理事会の許可が必要であるとの規定が盛り込まれ、
  2. しかも常任安保理国に拒否権が与えられることになったため、

その安保理の許可に時間がかかったり、許可が出ない場合が増えるのではないかとの懸念が広がり、特に「米州相互援助条約」の締結を準備していた米州諸国から強い異論が突き出された。

そこで国連は、従来からごく自然に認められてきた「自衛権」について改めて議論して整理し、自衛権には個々の国家による個別自衛権と地域条約機構による集団的自衛権の2つがあり、そのいずれについても「安保理が必要な措置をとるまでの間〔に限って〕、行使することを害するものではない〔けれども〕その行使に当たってとった措置は直ちに安保理に報告しなければならない」というふうに限定条件付きでそれを認めることとし、憲章51条に盛り込んだのである。

つまり、51条はあくまでも、個別的にせよ集団的にせよ自衛権の行使は限定的・制約的に取り扱うという趣旨なのである。

国際法や国際関係論のゼミ卒論であれば落第確実

だから、大沼保昭『国際法』(ちくま新書、18年刊)はじめどんな国際法の概説書にも述べられているように、

▼「……害されるものではない」という規定の仕方から示唆されるように、自衛権は国連の武力行使禁止原則の例外として消極的に認められているにすぎない。国連はあくまでも武力行使・威嚇の一般的禁止と違反者への制裁を中核とする体制であって、自衛権は『安保理が必要な措置をとるまでの間』に限って認められるにとどまる(同書P.348~)。

▼しかも、ここで個別的自衛権の自明性・本来性をそのまま集団的自衛権にまで及ぼす構文になっているのは問題。……自衛権は国連の集団安全保障体制の例外であり、まして集団的自衛権は『鬼子』である(P.353)。

ウクライナ戦争の場合に戻ると、ウクライナがNATOに非加盟であるから米国がNATOの集団的自衛権を根拠としてウクライナで戦争をすることが出来ないというのはその通りである。ところが石破は、ウクライナはNATO加盟国でなくとも国連加盟国であるから米国は51条に基づいて集団的自衛権を発動できる(はずなのにそうしなかった)と捉えている。こんな馬鹿げた51条解釈は聞いたことがない。

51条は、繰り返すが、国連安保理が動き出せない間に限って、地域的軍事同盟を結んでいる国々がその同盟の規定する集団的自衛権に従って事態に緊急対処することを「妨げない」と言っているのであり、ウクライナとの間に同盟条約関係がなく、従って集団的自衛権発動の法的根拠を持たない米国が、国連の名の下にウクライナで戦争することなど出来る訳がない。これが許されるなら、米国に限らずどの国連加盟国も、ウクライナに限らずすべての国連加盟国に対して「集団的自衛権」を発動して軍隊を派遣できることになってしまう。

では安保理が動き出すというはどういうことか。それは憲章第7章「平和に対する脅威、平和の破壊及び侵略行為に関する行動」の39~50条に従って「国連軍」として防止ないし強制措置にとることであって、米国が国連の合意を抜きに勝手に軍事行動をとっていいとは、憲章のどこを読んでも書いてない。

このように、石破の「集団的自衛権」理解は、二重三重に間違っていて、これが国際法か国際関係論のゼミ卒論であれば彼は落第確実である。

ウソでしかない「今のウクライナは明日の台湾」というキャッチフレーズ

第三に、〔C〕で石破は、今のウクライナは明日のアジアであって、なぜならロシアを中国、ウクライナを台湾に置き換えるというアナロジーが成り立つからだという考えを示している。

ロシアがウクライナに侵略したからと言って、どうして中国が台湾に侵攻しようと思い立つのか。ましてや、上述のように、米国の1989年以来33年がかりで積み上げてきた挑発にプーチンがとうとう我慢しきれずに乗ってしまった挙句、今の泥沼状態に嵌っているのを見て、励まされて?じゃあ俺もやってみようかな?……とどうして考えるのか。

実際は真逆で、21年春にデービッドソン=米インド太平洋軍司令官が米議会で「6年以内に中国が台湾に侵攻する」と言い出して以来、主に米日両国内で大いに盛り上がってきた「台湾有事切迫」論に対し、習近平は周囲に「こんな挑発に乗る訳がないじゃないか」と語っていると伝えられる。当たり前で、米軍人が予算増額欲しさに根拠のない脅威論をばら撒いたくらいのことで、中国の指導者が14億の民の命と幸せをギャンブルに賭けることなどあり得ない。

しかも、ウクライナ問題と台湾問題は性格が違う。ウクライナ問題の本質は、上述のように、ウクライナ国内のロシア系住民の自治権をめぐる内戦であり、それに国外からロシアが介入したのは侵略だと非難されている。

たった1年半で誤った思考に嵌まり込んでしまった石破氏

さて台湾は、中国の主張ではもちろんのこと、米国や日本も国交正常化のための条約上で承認している通り(そしてかつて蒋介石時代までの台湾もそう言っていたように)、中国の一部であり「中国は1つ」である。従って、仮に中国と台湾の間で約60年ぶりに武力紛争が再発したとしてもそれはあくまで内戦であり、それに米国が軍事力を以て介入すれば外からの「侵略」に当たり、ウクライナ戦争におけるロシアと同様の非難を浴びるべき立場となる。

また日本の自衛隊が、拡大解釈された日米安保条約の下、米軍に対する「集団的自衛権」を発動して共に戦闘に加われば、それは他国に対する侵略となる。だから「台湾有事は日本有事」というのは安倍晋三と麻生太郎の幼稚な超短絡思考から出たキャッチフレーズで、本当は、

  1. まず何よりも台湾有事を起こさないようにするために何が出来るのか。
  2. 起きてしまったとして、それを米国が米台湾関係法に基づく判断として「台湾有事は米国有事」として軍事的に対応するかどうかを決める。台湾有事は自動的に米国有事となるのではない。
  3. それを見届けた上で、日本は新安保法制に該当する「米国有事は日本有事」の事態なのかどうかを判断する。米国が参戦したからと言って必ず日本が従う訳ではない、

という複雑極まりない、国家の生死を賭けた決断となる。

従って、アナロジーが成り立つのはキーフ政府と北京政府との間、

  1. ドンパス地方のロシア系住民と台湾住民との間、
  2. ロシアと米国との間、そして付け加えれば
  3. へっぴり腰ながら支援しようとしているポーランドと日本との間


――においてであって、そこをミソもクソもごた混ぜにして「今のウクライナは明日のアジア」と言うのは、国際政治のド素人にしか出来ないことである。

付け加えると、この件に関して石破は、23年2月15日の衆院予算委員会で珍しく代表質問に立ち、岸田内閣の「戦後安全保障政策を大転換し、防衛費の対GDP比2%、5年間43兆円達成へ」という方針について質している。

そこでは「確かに安全保障環境は大きく変わり、ロシアのウクライナ侵攻という誰も予測できなかったことも起きているが、しかし、今日のウクライナは明日の台湾、台湾有事は日本有事というような思考を余り簡単にすべきものではないと私は認識している」と正しいことを述べていた。

なのに1年半後の現在、その思考に簡単に嵌まり込んでいるのはなぜなのか(石破質問の全文とそれへの批判的解説は本誌No.1149=23年2月20日号「石破茂が10年ぶりの与党質問で24分間の防衛論独演会」を参照)。

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露骨に中国を挑発する同盟に参加する国はあるのか

石破が〔C〕で、(「ロシアを中国、ウクライナを台湾に置き換えれば」という、今述べたように間違ったアナロジーの上に立っていることは措くとして)「アジアにNATOのような集団的自衛体制が存在しないため〔中台〕戦争が勃発しやすい状態にあり、中国を西側同盟国が抑止するにはアジア版NATOの創設が不可欠」と言っているのは、つまり、アジア版NATOは中国を「仮想敵」とする西側の敵対的軍事同盟であるという考え方であることを示す。

しかも、この西側同盟国の台湾軍事支援を強力なものとするには、台湾自身がアジア版NATOに加盟して米日はじめ他の国々との間に集団的自衛権の相互行使を条約的に約束しておかなければならない。中国を仮想敵とする軍事同盟に台湾を入れるとすると、当然、その加盟国は皆、中国とは国交断絶しなければならないが、そんな合意をどうやって形成させることが出来るのか。

いや、だから台湾を加盟させるなんて無茶なことはしないで、米日はじめ東南アジア、インド、豪州などが取り囲んで台湾を見守る体勢をつくればそれが抑止力強化になるんだと言うのかもしれない。しかしそれでも露骨な挑発として中国を刺激することには変わりなく、一体どこの国が好んでその同盟に参加するのだろうか。米国とても、今更そのような巨大なゴシック建築のような冷戦型の建造物をアジアに構築したいとは思わないのではないか。

論理的には支離滅裂で、何より対中国の外交・経済関係をどう立て直していくのかの戦略と完全に切り離されてそことの何の整合性もなしに語られるこのような勇ましいだけの安保構想を、世界はどう受け止めるのだろうか。

蛇足】ハドソン研究所のホームページは、9月25日付、すなわち石破が総裁に選ばれる2日前に石破論文の英訳を掲げその下に日本語版を載せているが、この日本語版の日本語はいささかぎこちなく、ごく一部には意味不明のところもあるので、以下の引用では私なりの判断で最小限の修正を加えてある。ということは、おそらくこの日本語版は石破が書いたオリジナルではなく、上の英語版が先にあってそれをたぶん日本人ではない人が和訳したものではないかと推測させる。石破自身が書いた原稿はどこにあるのか?

ちなみに、第2次安倍内閣の発足時にも似たようなことがあって、同内閣が発足した翌日の2012年12月27日に、国際的な情報・論説ウェブサイト「プロジェクト・シンジケート」上に「アジアの民主主義国の安全保障ダイヤモンド〔四角形=米日豪印のQUADの意味〕」と題した英文の論文を寄稿した。なぜか和文が発表されることがなかったため、多くの人はしばらくの間、この存在に気がつかなかったが、ややもしてIWJ の岩上安身などが発見して騒ぎ立て、ようやく知られるようになった。

● 【岩上安身のニュースのトリセツ】
「対中国脅威論」の荒唐無稽――AIIBにより国際的孤立を深める日本~ 安倍総理による論文「セキュリティ・ダイヤモンド構想」全文翻訳掲載 2015.7.4

ここで安倍は、後の「インド太平洋戦略」という名の中国包囲網形成の考え方を述べていて、これがその後の彼の外交政策の基調となるのだが、ある関係者が安倍事務所に日本語原稿の提供を願い出たところ、どうもそのようなものは存在せず、では英文を翻訳して雑誌に掲載したいと申し出たがそれも不許可となった。

安倍がいきなり英語で論文を書ける訳がないので、この論文は最初から英語で書かれて安倍に与えられたものだったのかもしれない。そこは今も謎のままである。従属国ではこんなことは起こって当たり前ではあるけれども、それにしても……(安倍論文の全訳は本誌No.917=18年12月3日号「安倍首相の『インド太平洋』安全保障ダイヤモンド」)。

【関連】安倍首相最大の外交成果「インド太平洋構想」の甚だしい時代錯誤

(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2024年10月7日号より一部抜粋・文中敬称略。添付資料「石破のハドソン研究所への寄稿論文全文」を含む続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)


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