建築家 田口知子の日常をつづったブログ -46ページ目

「広い家」と「共同の家」~東京大学新領域の設計課題

今日は、東京大学新領域創成学科の最終講評会でした。非常勤講師として設計を教えています。出題は大野先生・清家先生の出題でタイトルは「広い家・共同の家」というテーマです。


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郊外の一戸建て住宅地にスポットを当て、これからの少子高齢化社会を迎える住まいとして、郊外の家を再認識し、共同で生活を支えあうシステムを提案することで、実際の郊外住宅地に新たな住民を呼び込むことができないか、という課題です。

実際に、柏市花野井「柏ビレッジ」に、区画も含め宅地全体を設計しなおす、という課題です。柏ヴィレッジに住まわれている住民も傍聴され、タイムリーのニーズのあるテーマだなあと思います。学生たちの課題発表をとても楽しみにしていました。


設計内容は、だんだんよくなっていましたが、一番問題なのは実体験としての問題意識です。東大生には、現代の郊外住宅地の状況や高齢化した住民の意識にはリアルな接点がないらしく、核家族形態を信頼していて、単なる世代交代の話になってしまう作品が多いのにはびっくりしました。彼ら学生が、おそらく恵まれた明るい家庭環境にいるせいなのかもしれません。


設計課題をやっていると、人の生きている世界によって、見える世界は本当に異なるもので、同じ世代の建築家でもその人の仕事の状況や環境によって見える世界がまったく違うんだなあ、と感じることがよくあります。正しい回答は無いですが、その中でも自分の立ち位置を決めて発言しないといけないのが難しくもおもしろいところでもあります。

私たち講師が試行錯誤しながら講評した後、最後に住民の方がおしゃっていた言葉がとても印象的でした。


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「私たちは、みなさんの提案しているようなすばらしい郊外住宅に住んでいますが、ずっと家にいると気がくるってしまう。私たちは非日常なものを求めています。六本木でストレス解消してます。」とか、「今町では、高齢者の独居老人が増えていることが一番の問題なんですよ。それをなんとかしてほしいということ、ここに若い人を呼び戻すアイデアを提案してくれればねえ」といった住民の方の意見は最高だなあ、かなわないな、と思いました。


設計にこういうリアルな意見を聞くことと、同時にゲリラのように、先生の期待や今ある現実を飛び超えて、意外性とパワーのある設計を提案してくれることを学生さんたちに期待しています。


有意義で、とても考えさせられる時間でした。

平均所得と中間所得~ 「暮らしの質を測る」ことは難しい

枝廣淳子氏の幸せ経済研究所の読書会に参加するようになってはや一年。今回はサルコジ元大統領が国の成長の指標を見直すために作成した報告書の翻訳で「暮らしの質を測る」 という本です。社会が、進歩しているのか、良くなっているか?ということを測る指標として、GDPや平均所得といった指標には欠陥があるのではないか、という直観的な疑いに対して、根拠を示して分析した本です。

政治や経済、なかなか難しい課題山積ですが、こういう本を読むと目からうろこな発見があります。今選挙選まっさかりでアベノミクスの是非について、既存の指標を持ち出して議論します。今のところ経済成長を目標として、GDPや平均株価、為替相場の上昇などが必要である、と多くの人が受け入れていると思います。


しかし、その数字の上昇が何を意味するのか?GDPが上がっても私たちの給料はずっと増えていないなあ?という疑問を持っている人は多いのではないでしょうか?

そのことについて、政治家でさえ厳密には答えられない、というのが事実のよう。現代のように、格差が増大し上部数%の人や企業が富を独占し、国民の90%以上の人の所得が30年間上がっていなくても、GDPが上がれば経済成長している、と判断されてしまう、現代の経済指標のいい加減さにあらためて驚かされます。


政治や経済の目標というのは、経済成長そのものではなく、多くの人々、少なくとも過半の人の暮らしの質を上げることである、というのは反論の余地がないでしょう。しかし、多くの人の生活を向上しているかどうか、測ることは、実はとても難しく、今のところは存在しないそうです。


今回学んだのは「中間所得」という概念です。100人いたら、上位から数えて50番目、ちょうど真ん中の人の所得を「中間所得」といいます。中間所得が上昇するための方策を立てることが、本来政治が目指す目標なのです。そして、所得上昇以上に大切なことは、「暮らしの質 Quality of Life の向上」でしょう。


合計でも平均値でもなく、ミクロなレベルでの「暮らしの質」の全体を向上させるための具体的なシステムや方法、指標を作りだすことは、難しいけれど大切なことだなあとあらためて考えさせられました。

 

 

「雪谷大塚の集合住宅」 実施設計が完了しました。

ここ1か月、ブログをお休みしてしまいました。季節はもう梅雨ですね。

設計に忙殺され、地下に潜っていましたが、やっとブログを書く余裕ができました。


さて、「 雪谷大塚の集合住宅」 は、実施設計図面が完成し、本日工務店への見積もり図渡しが完了しました。


アベノミクス効果か復興事業によるものか、工事費の高騰が懸念される昨今。工事単価が過去ものによって2倍近くにもなっているらしく、消費税の増税もあいまって発注するまでのハードルが予想されますが、なんとか無事に乗り越えていければと祈念しつつ、組合員の皆様の強運をお祈りします。 


建築家 田口知子の日常をつづったブログ コーポラティブハウス 組合の総会風景


このように住まい手が組合をつくって事業を発注するということは、事業の目的が「経済利益を上げること」ではなく、「自分らしい生活をより豊かにすること」です。事業の目的が建築を大きく左右します。事業主が建築の価値を大きく左右する中で、このような事業というもののおもしろさを実感します。


このような、住民主体の事業が、いろいろな場面で増えていくと良いなあ、と漠然と考えています。


同時に、大変な部分も見えてきました。日々、勉強しつつ、成長の糧にさせてもらっています。



建築家 田口知子の日常をつづったブログ 最終模型写真