67、認知症と思った患者が、実は…高齢者で増える、けいれん発作のないてんかん
2010年04月27日 ンチャ ミクシイ高齢者情報から
「全身のけいれんを引き起こす疾患」というイメージが強いてんかんだが、その発作には様々なタイプがあり、けいれんを伴わない発作も多い。特に高齢者においては認知症と間違われることもあり、鑑別が重要だ。本特集では、日常診療で遭遇する可能性のあるこうした“隠れてんかん”への対応や、ここ数年で増えている治療薬の特徴などについて紹介する。
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てんかんは、大脳の神経細胞が過剰に放電することにより、発作(てんかん発作)を繰り返し引き起こす慢性疾患。日本における有病率は全人口の約1%とされており、患者数は推定100万人と見られている。
小児の疾患というイメージが強いてんかんだが、実は、60歳前後からその発病率は急激に増加するといわれている。
産業医大神経内科講師の赤松直樹氏は「高齢人口の増加に伴い、てんかんを発症する高齢者も増加傾向にある。こうした傾向は非専門医の間ではあまり知られていないため、臨床現場で高齢者のてんかんが見落とされている可能性は高い」と話す。
高齢で発症するてんかんで注意すべきなのは、その多くが発作時に意識を失うことだ。
てんかん発作は、発作の開始時から大脳皮質全体で放電が起こる「全般発作」と、一部局所的に放電が起こり始める「部分発作」の2種類に分類される。高齢者のてんかん発作では、部分発作の中でも意識消失を伴う複雑部分発作が大部分を占めている。
具体的には、30秒ほど動きが固まってぼんやりするなどの行動のほか、口をぺちゃぺちゃと動かす、落ち着きなくうろうろするといった「自動症」と呼ばれる症状が現れる。発作の間、患者には意識がないため、転倒のリスクなどが高まり、大きな事故につながりかねない。
こうした複雑部分発作を生じた高齢者の中には、下の症例のように、認知症と間違われる患者も少なくない。一見、認知症が疑われる所見であっても、「長谷川式簡易知能評価スケールで異常が全く認められないのであれば、認知症の可能性は低い」と赤松氏は注意を促す。
アルツハイマー型認知症と診断されたてんかんの一例(提供:赤松氏)
高血圧と前立腺癌で治療中の、70歳代男性。2カ月前に、夜中にもうろうとした状態で目覚め、布団や枕を投げつけるという行動が20~30分続いた。しかし翌朝、本人は何も覚えていなかった。
近医の物忘れ外来を受診したところ、アルツハイマー病(認知症)と診断され、ドネペジルを処方されたが、その数週間後、再び同様の症状が一晩に4回生じたため、前医救急外来を受診。頭部CT像に異常は認められなかった。その翌日、産業医大病院を受診した。
詳しく病歴を聴取すると、2年ほど前から、日中にも1分ほどぼんやりして返事をしなくなる症状があると家族が申告した。その間、周囲にあるものをごそごそ触る自動症もあるという。最近では、1日に1~2回このような患者の行動が目撃されていた。本人には、意識がなくなったという自覚はなかった。
同院にて脳波を測定したところ、ビデオでの記録中に発作が認められ(図2)、右側頭部の律動性のてんかん放電が記録された。
病歴と脳波所見から、右側頭葉てんかんと診断した。発作型は複雑部分発作であると考えられた。ガバペンチン600mg/日で治療を開始し、その後、昼間および夜間の発作は完全に消失している。