この記事には映画およびブロードウェイ・ミュージカル「ディアエヴァンハンセン」のネタバレが含まれます。

またこちらは【ストーリー編】の後編です。前編はこちら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はい。というわけで後編です。

前回に引き続き引用は以下のシナリオブックからです。

 

 

前回はブロードウェイ版の第一幕の終了まで書きましたので、ここから休憩を挟んで第二幕です。

 

第二幕はエヴァンとアラナのコナー・プロジェクト第一回会合から始まります。

このときのアラナの役職がこちら。

ALANA: Hey everybody, it's me Alana, Connor Project co-president, associate treasurer, media consultant, chief technology officer, and assistant creative director slash public policy director for creative public policy initiatives for The Connor Project.

アラナ:こんにちは、私はコナー・プロジェクト共同代表、副会計、メディア・コンサルタント、チーフ・クリエイティブ・オフィサー、アシスタント・クリエイティブ・ディレクターかつクリエイティブ・パブリック・ポリシー・イニシアティブのパブリック・ポリシー・ディレクターのアラナ・ベックです。

日本語に訳すの諦めましたよね。最初はコナー・プロジェクト共同代表だけだったはずなんですが……。会計はジャレッドです。

ちなみに、これもオンラインで世界中に呼びかけています。

二人(主にアラナ)によって果樹園のクラウド・ファウンディングの開始が宣言されます。

 

次の場面ではジャレッドが偽メールを書いています。

なので”Sincerely, Me”のリプライズ(もう一度)をコナーとジャレッドで歌います。

これは余談なのですが、REPRISEをミュージカルの用法で使う場合、発音は「リプリーズ」になるらしいのですが、日本では慣例的に「リプライズ」になっているそうです。なんだかなぁ。

閑話休題。ブロードウェイ版の中で使われるリプライズについては【楽曲編】で詳しく書いていこうと思います。

この場面で、ジャレッドはエヴァンやコナー・プロジェクトに疎外感を感じ始めます。エヴァンにはもうメールは十分と言われ、会計の仕事もアラナとエヴァンで回してしまい、なんとなく蚊帳の外な感じです。

当然いつもの皮肉で返すのですが、どうにも切れ味がない感じ。

 

それからハイディがやってきて、フェイスブックでエヴァンを見たという流れが始まります。

映画と同じように進むのですが、ちょっとした会話がブロードウェイ版のみにあります。

Evan turns to leave.Heidi picks up a bottle of pills.

エヴァン去ろうとする。ハイディは薬の容器を手に取り。

HEIDI: You okay on refills?
EVAN: I'm not taking them anymore.
HEIDI (Surprised): Oh.
EVAN: I haven't needed them.
HEIDI: Really? So, no anxiety or...? Even with everything that's...?

EVAN: I've been fine.
HEIDI: Well, great. That's great. It's I'm proud of you. I guess those letters to yourself must have really helped, huh?
EVAN: I guess so.
HEIDI: Well. Don't stay up too late. It's a school night.
EVAN: I won't.

ハイディ:薬はまだ足りてる?

エヴァン:もう飲んでないんだ。

ハイディ:(驚いて)え?

エヴァン:もういらないんだ。

ハイディ:本当に? その、不安とか、他にも。

エヴァン:大丈夫。

ハイディ:ああ、よかった。よかったじゃない。よく頑張ったわね。自分への手紙が効いたんだね。

エヴァン:そうだね。

ハイディ:じゃあ……夜更ししちゃ駄目よ。明日学校だから。

エヴァン:わかった。

Evan goes. Heidi stands there, utterly at sea.

エヴァンは去る。ハイディは呆然として立ち尽くす。

いや~、自分の息子が精神科でもらってきた薬をもう飲んでないのを気付かないってのもなんだかですね。

しょうがないんですよ? ハイディは看護師やって夜間学校行ってもう必死なんですよ。お金稼ぐのって本当に大変なんです。

ただ、エヴァンは高校生でお金を稼ぐってことをほとんどやってないですしねぇ。若干ショックだったんじゃないでしょうか。

 

次の場はマーフィー家。野球グッズをラリーが出してくるシーン。

映画では書斎みたいな所でしたが、ブロードウェイ版はガレージです。アメリカ的。

そしてここでは映画でカットされたラリーとエヴァンの歌唱が入ります。”To Break In A Glove”グローブの慣らし方です。

曲調はコミカルで、ラリーはグローブの慣らし方を通じてエヴァンに人生哲学を教えます。

きっとコナーにも本当は教えたかったんでしょう。

いつ頃から息子とコミュニケーションを取ることを諦めてしまったのでしょうか。

順風満帆なキャリアの中で唯一、息子の教育に失敗した父親というレッテルというのは、かなり堪えていたのかもしれません。

 

場面は転じてエヴァンの部屋。もうゾーイと二人でいます。やったね。

ゾーイに作文コンテストについて聞かれたりしながら、エヴァンは話題を探してついついプロジェクトの話ばかりしてしまいます。そしてゾーイからこのように話しかけられます。
ZOE: We, um... can we talk?
EVAN (Crestfallen): Oh. Shit.
ZOE: What?
EVAN: No. Just. You're breaking up with me, right? That's why you came over. 

ZOE: Breaking up with you?
EVAN: God. Like, how presumptuous can I get? I don't even know if we're, like, dating officially or whatever, which isn't even... never mind, why am I even talking right now? It's fine. Don't worry, you can tell me, I'm not going to cry or start breaking things...

ZOE: I'm not breaking up with you.
EVAN: Oh. Well, Okay. Thank you.
ZOE: Don't mention it.
EVAN: That's really great news.

ゾーイ:えと、ちょっといい?

エヴァン:(悄然として)終わった。

ゾーイ:何?

エヴァン:いや。だから、その、別れようってことでしょ? ああ、だからこうやって家に来たんだね。

ゾーイ:え、別れる?

エヴァン:ああ、ごめん! 自意識過剰だよね。僕ら正式に恋人同士になったのかどうかもわからないし。気にしないで、あれ? なんで僕今喋ってるんだろう? 大丈夫。心配しないで。泣いたりしないから。

ゾーイ:別れたりしないよ。

エヴァン:ああ。ああ。うん。ありがと。

ゾーイ:もう言わないで。

エヴァン:いや、本当よかった。

エヴァンお前ちょっと落ち着けよ。劇場でもちょっと笑いの漏れるシーンです。あとエヴァンちょっと泣いてます。

そして”Only Us”へ。

 

次の日学校に行ったエヴァンはアラナに詰め寄られます。シーンの順番は違いますが流れは映画と一緒です。

 

次はマーフィー家のリビングの場面。

映画ではエヴァン視点なので帰ってきたらハイディがマーフィー家にいるというシーンになりましたが、ブロードウェイ版は大人たちだけで話すちょっと他とは毛色の違うシーンからこの場は始まります。

マーフィー夫妻はエヴァンがマーフィー家に来ることを自分の母親に伝えていると思っているので、ハイディに対してお隣さんのような接し方をするんですが、ハイディにしてみれば寝耳に水、居心地悪そうです。

弁護士補助員の勉強をしているハイディにラリーが自分の名刺を渡すのがこのシーンです。善意100%なんで。念の為。

エヴァンとゾーイが帰って来てからは映画の通り、ハイディが怒って出ていきます。

 

そしてエヴァンとハイディの喧嘩のシーンに繋がります。

映画で一つ気になったのがこのシーンの字幕でした。

映画の字幕というのはめちゃめちゃ縛りがきつく、1秒に対し最高4文字、一行13文字以内と決まっているらしいですね。

なのでどうしても翻訳が苦しくなるんですが、このシーンこういう台詞があります。

HEIDI: You are the only ... the one good thing that has ever happened to me, Evan. I'm sorry I can't give you anything more than that. Shit.

EVAN: Well, it's not my fault that other people can.

ここを字幕では、ハイディ「あなたは最高の存在よ/だけど余裕がないの」 エヴァン「他の人はそうじゃないよ」

みたいな感じだったと思うんですが(うろ覚え)、しっかり目に訳すとこんな感じになります。

ハイディ:あなただけが……、たった一つの最高の存在なのよ。こんな言葉しかあげられなくてごめんなさい。

エヴァン:別に。他の人から貰えるのは、僕のせいじゃないから。

この僕のせいじゃないからっていうのがスッゴイ意地が悪いですよねぇ。喧嘩のシーンなんでしょうがないんですが、「僕に当たらないでよ。母さんが悪いんでしょ」という割ととんでもない突き放しをして舞台から去るんですね。

そこでブチ切れたハイディが歌うのが映画でカットされた、僕が一番大好きな曲”Good For You”です。

曲のページには合成音声に歌ってもらった動画もあるので聞いてみてください。

 

ハイディ、アラナ、ジャレッドから散々キレ散らかされたエヴァンは絶望しコナーと話します。

もうやめにしたい。全部告白して楽になりたい。

そう叫ぶエヴァンにコナーは言います。そんなことをしたら、俺は、ゾーイは、俺の両親はどうなる。お前はみんなから嫌われる。振り出しに戻るぞ。友達ゼロ。一人ぼっちだ。

覚悟なら出来ていると答えるエヴァン。

それに対してコナーは残酷な現実を突きつけます。

CONNOR: If you really believe that, then why are you standing here, talking to yourself? Again? You think you're going to turn around all of a sudden and start telling everyone the truth? You can't even tell yourself the truth.
EVAN: What are you talking about?
CONNOR: How did you break your arm? How did you break your arm, Evan?
EVAN: I fell.
CONNOR: Really? Is that what happened?
EVAN (Less and less confident): I was, I lost my grip and I... I fell.

CONNOR: Did you fall? Or did you let go?

コナー:出来てるんなら、なんでまた独り言言ってんだ。いきなりみんなに真実を話せるとでも思ってんのか。自分自身に嘘を吐いているようなやつが。

エヴァン:何の話だよ。

コナー:どうやって腕を折った? エヴァン、どうやってその腕を折った?

エヴァン:木から落ちた。

コナー:本当に? 本当は何があった?

エヴァン (自信がなくなってきた):手を、手を滑らせた。

コナー:滑らせたのか? 放したのか?

エヴァンは遂に、最初から吐き続けてきた嘘を目の当たりにします。他ならぬ、自分自身の声によって。

 

エヴァンは決心します。コナーを消し去ってはいけない。自分はコナーの友達であり続けなければならない。そうでなくては、腕を折って10分間か、それともそれ以上か、誰も居ない森で誰かを待ち続けていたあの日の自分に戻ってしまう。誰にも顔向けできない、母親になんてとても見せられない、壊れていた自分に。

それでも現実は非情なもので、アラナからの信頼は既に地に落ちています。

アラナは告げます。

ALANA: Do you know how easy it is to create a fake email account? Backdate emails? Because I do.

アラナ:偽のアカウントを作るとか、日付をいじるとか、どれだけ簡単かわかる? だって私もやってる。

どうにも出来なくなったエヴァン、コナーとの友情を証明するためにアラナに遺書、自分への手紙を渡してしまいます。

一方アラナはプロジェクトの成功にこだわります。ようやく手に入れたリーダーの地位。寄付が集まらなければリーダー失格のレッテルを貼られてしまいます。彼女はプロジェクトに起爆剤を必要としていました。

だから衝動的に遺書をネットに上げてしまうんですね。

その後の炎上は映画の通りですが、ここで”You Will Be Found”のリプライズが流れます。

「あなたは見つけられるだろう」の歌に合わせ、ネット民たちはすぐにゾーイの学校を、ラリーの仕事場を、マーフィー家の住所や電話番号を「見つけ」ます。

 

エヴァンの告白”Words Fail”は映画版でも名シーンでした。流れも同じです。

そして舞台上にはコナーも現れます。ゆっくりとコナーの明かりが消えていき、とうとう、エヴァンは一人きりになります。

 

次は”So Big/So Small”のシーン。

ここも違いはありません。エヴァンが自分の過去の行いを告白し、ハイディが受け止める。

本当に必要だったのはただそれだけのことだったのかもしれません。

 

最終場が果樹園です。

ブロードウェイ版ではここで初めてマーフィー家が真実を告発しなかったことが語られます。

エヴァンがコナーが好きだった本を読んでいること、ゾーイがこの果樹園をエヴァンに見てほしかったこと、二人で話し、そしてゾーイは去る。

音楽がゆっくりと鳴り出す。

ここで流れるのはシナリオブックには”Finale”と表記されていますが、"For Forever"のリプライズです。

エヴァンの独白の後ろで一人ずつ登場人物たちが入ってきてコーラスをします。

エヴァンは自身に、そして客席にこう語りかけます。

Maybe some day, everything that happened... Maybe it will all feel like a distant memory.

Maybe some day no one will even remember about The Connor Project. Or me. 

Maybe some day, some other kid is going to be standing here, staring out at the trees, feeling so ... alone, wondering if maybe the world might look different from all the way up there. Better. 

Maybe he'll start climbing, one branch at a time, and he'll keep going, even when it seems like he can't find another foothold. 

Even when it feels ... hopeless. Like everything is telling him to let go. 

This time, maybe this time, he won't let go. He'll just... hold on and he'll keep going.
He'll keep going until he sees the sun.

いつの日か、全てが遠い昔の記憶になったとき、

誰もコナー・プロジェクトのことを覚えていないかもしれない。僕のことも。

いつか誰かがここに立って木を見つめて……孤独を感じる日が来るかもしれない。もっと良い世界が見られるかもしれないって、

たぶん、彼は登り始める。そして一歩ずつ登り続ける。足場が見つからないように思える時でも、

絶望して、全てが彼に手を放せと言っているように感じたときでさえも。

今回は、たぶん今回は、彼は手を放さない。彼はただ……しがみついて登り続ける。

太陽の光を、浴びるまで。

 

エヴァンは青空をずっと眺め、幕引きとなります。

 

映画版では新曲”A Little Closer”が入って、コナーについてフォローが入りました。初めて映画を見た時、少し安心したことも覚えています。

最後のメッセージにあなたがどう感じるかはわかりません。

ただ、エヴァンはこの物語を通して、ほんのちょっぴりだけ成長したのではないでしょうか。

エヴァンだけでなく他の登場人物も。(ネット民だけは変わらなそうですが)

 

僕はこの物語が大好きですし、確かに感動もしました。映画も3回見ました。

ただし、前向きな成長やハッピーエンドを感動作の条件に入れている人はこの作品に嫌悪感すら抱くかもしれません。

彼らはどこまで行っても生の人間臭さから逃れられていません。

エヴァンはこれからもふとしたことで塞ぎ込んでしまうかもしれません。また嘘を吐くかもしれません。

ハイディも忙しさにかまけて息子との関わりが少なくなるかもしれません。

マーフィー家はコナーの居なくなった穴にふとした瞬間気付いて、エヴァンを憎悪するかもしれません。

 

それで良くないですか? 何かあったらまたその時に解決するしかない。

みんなは末永く幸せに暮らしました。めでたしめでたし。で終わるおとぎ話はないのです。

だけど、太陽の輝きは、抜けるような青空は、ずっと続きます。

この物語は最後、青空を眺めて終わるのです。そう、ずっと。

 

 

 

長くなりすぎた……。バカか俺は……。

それでは【楽曲編】でお会いしましょう。さよなら。