リョウさんは・・・今から1300年程前に、現在の奈良県の農村に生まれました。
しかし・・・幼くして両親を亡くしてしまい、途方に暮れていたところを・・・お寺の住職である、カン和尚が保護してくたのです。
カン和尚は・・・リョウさんを自分の娘のように大事に育てながら・・・少しずつ仏教に触れさせ、学ばせていきました。
そしてリョウさんは・・・次第に修行の道を志し、尼僧として精進するようになります。
しかし当時はまだ、日本に仏教が伝来したばかりで・・・さまざまな軋轢があり、理解しない人達から批判され、敵対心を持たれることもありました。
カン和尚はそれでも、世に仏教を広めることをあきらめず・・・多くの人達に、できるだけ丁寧に、仏教の素晴らしさを説明していました。
その姿を、身近でずっと見てきたリョウさんは・・・どうしてもカン和尚に恩返しをしたくて、その気持ちから僧になったのでした。
つまり仏道に入ることで・・・自分もいつか多くの人達に仏教を伝え・・・カン和尚の想いに協力したいと考えたのです。
リョウさんは笑顔が優しく・・・時に人の警戒心を和らげ、仏教に対する誤解を解くことができました。
しかし、リョウさん自身は次第に悩むようになり・・・それは仏教の本質的な教えが、今一つよくわからないと感じていたからでした。
カン和尚に恩返しをしたい気持ちで僧となり・・・布教活動にも協力していましたが、本当はもっと仏教の素晴らしさを実感し、心を込めて説明したいと思っていました。
と言うのも・・・時々カン和尚がおっしゃる仏教の本質的な内容は、とても奥深く・・・美しい雰囲気が感じられるため、誰もがそれを聞くと感心していたからです。
リョウさんは、そのような雰囲気を届けることこそが布教活動で・・・自分もそうしたいと思っていましたが、それは簡単なことではありませんでした。
そんなある日、カン和尚はリョウさんの悩みを感じ取り・・・こう言いました。
「思い悩むことはないよ。
我々の師であるお釈迦様は、いつも微笑んで見守って下さっている。」
それを聞いた時に、リョウさんは衝撃を受けました。
それまでリョウさんの中で・・・「師」はカン和尚一人だったからです。
しかし本当は・・・お釈迦様こそが師で、しかも微笑んで見守って下さっている・・・。
カン和尚は口数の少ない人で、あまりリョウさんと雑談したことがありませんでした。
そのためリョウさんは、カン和尚に質問することを躊躇しましたが・・・とても気になって、聞かずにはいられず・・・翌日、質問をしました。
「和尚。
和尚はなぜ・・・お釈迦様が微笑んで見守っていらっしゃるのを知っているのですか?」
カン和尚は答えました。
「そなたのそばに・・・師はいらっしゃるのだ。
そなたが仏道に入ったということは、そういうことなのだよ。
私には師のお姿が見えることがある・・・。」
師がそばにいらっしゃる。
その言葉を聞いた瞬間・・・リョウさんも心の中で、清らかに光輝くお釈迦様のお姿が見えました。
まだぼんやりとしていて・・・ハッキリとは見えませんが、それでも優しく・・・慈悲深くこちらを見守って下さっているお釈迦様の輪郭と・・・その輝きが見えたのです。
自然とリョウさんの目からは涙がこぼれ落ち・・・こうつぶやきました。
「私はダメな弟子ではなかった・・・。
よかった・・・。」
その言葉を聞いて、カン和尚も優しく微笑んだのでした。
それからというもの・・・リョウさんは修行の道を、自分なりの心の感性で理解できるようになりました。
修行は型にはまったことではなく、師であるお釈迦様の奥妙な導きのままに生きることでした。
その奥妙な導きの中では・・・いつも師が微笑んで見守って下さっていて・・・その慈悲に触れると、どんな困難も苦しくはないと思えるほどでした。
リョウさんはますます修行が好きになり・・・より精進して、仏教に貢献しようと思いました。
しかしある日・・・国の偉い役人がお寺にやって来て・・・こう言いました。
「お寺に女人がいるとは・・・どういうことなのか?
国の中枢は全て・・・男性によって担われている。
心を清らかに保つために、女人を遠ざけているのだ。
仏教の教えは、清らかなものではないのか?」
カン和尚は・・・お釈迦様は女性にも平等に仏道を開いて下さったこと・・・それは自らの心を磨く道だということ・・・。
そのため仏教では、あえて女性を遠ざけていないと説明しました。
和尚の真摯な姿勢を見て・・・役人も半分は納得したようでしたが、半分は不服であるのも感じられました。
日本に伝来したばかりの仏教には、さまざまな反対意見があり・・・女性であるリョウさんの存在は、時にその矛先となることがあったのです。
しかしカン和尚は、当然であるかのように・・・その意見を全く気にせず、ずっと変わらずリョウさんに優しく接してくれました。
この出来事をきっかけに・・・リョウさんは心を落ち着かせて、じっくりと自分に向き合いました。
このお寺に残ることが、自分にとって本当によい道なのだろうか・・・?
過去の僧は・・・一定の修行を経てから、お釈迦様の元を離れ、個人で布教の旅に出ることがありました。
カン和尚にこれ以上迷惑をかけないためにも・・・自分はそうすべきではないだかろうか・・・?
リョウさんは、真剣にそう思い始めました。
ある日ついに・・・リョウさんは、お釈迦様のお導きを感じ取り・・・カン和尚に、お寺を離れたいと伝えました。
カン和尚は目を見開いて驚きましたが、すぐに理解して・・・こう言いました。
「そなたにはそなたの道があるのだな・・・。
寂しくなるな・・・。」
そう言って・・・カン和尚はこぼれ落ちる涙を隠すように、リョウさんに背を向けました。
その姿を見て・・・リョウさんも涙を押さえることはできませんでした。
「和尚・・・私は必ず・・・師と共に精進してまいります。
今まで・・・ありがとうございました・・・。」
涙を拭いながら・・・リョウさんは旅の支度を始めました。
他の僧達も、リョウさんとの別れを惜しみ・・・涙する者もいました。
リョウさんは、僧達のあたたかい心に触れて・・・励まされながら旅立ったのでした。
しかし・・・たった一人での布教の旅は、困難を極めました。
リョウさんは奈良から東へ向かい・・・物乞いをしたり・・・野草や木の実を食べて飢えをしのぎながら、ひたすらに歩き続けました。
当時は・・・ほとんど誰も仏道を知らなかったので、物乞いをする女性を理解してくれる人は、ほとんどいませんでした。
しかしそれでも・・・心優しい人はいるのもで、時にはリョウさんに食べものを恵み・・・話しを聞いてくれる人がいました。
こうして少しずつ、リョウさんは人々に仏教を伝えていったのです。
リョウさんが現在の岐阜県に辿り着いた時・・・人気のない山奥で、一人の男の子が木の上に登っているのを見かけました。
リョウさんが「そこで何をしているの?」と声をかけると・・・男の子は悲しそうに「家がどっちかわからなくなったんだ」と言いました。
リョウさんが・・・「私はたぶんあなたの村に向かっているから・・・一緒に行く?」と語りかけると・・・男の子は喜んでついてきました。
それからしばらく歩くと・・・無事に村に着き、男の子は喜んで家に帰っていったので・・・その様子を見て、リョウさんもホッと胸をなで下ろしました。
数時間後、リョウさんが村の外れで物乞いをしていると・・・男の子と一緒に父親がやって来て、微笑みながらこう言いました。
「息子がとてもお世話になりました・・・。
実は、亡くなった祖母が・・・『一人の女性の旅人がやってきたら、必ず丁重にもてなすように』と言っていたのです。
祖母は不思議なことを言う人でしたが・・・一度も間違ったことは言いませんでした。
今回・・・ウチの息子も大変お世話になりましたので、ぜひ自宅にいらして下さい。」
こうしてリョウさんは、男の子の自宅を訪れ・・・晩御飯をご馳走になり、そして仏教のことをご家族に伝えることができました。
ご家族は感心して、いろいろなこと質問してきたので・・・リョウさんは、まるでカン和尚のような尊い雰囲気で・・・心を込めて説明することができました。
翌日になると・・・今度は村長がリョウさんの元にやって来て、いろいろ話を聞いてから・・・「ぜひこの村に留まって下さい」とリョウさんに依頼しました。
こうして・・・リョウさんは、この村に留まるようになったのです。
それからしばらくすると・・・村に小さなお寺が立ちました。
リョウさんは、ついに自分のお寺を持ち・・・住職になれたのでした。
新しいお寺を見て・・・リョウさんが真っ先に思い出したのはカン和尚のことでした・・・。
「和尚・・・私も仏堂を得ることができました・・・。
この場所からきっと・・・お釈迦様の慈悲を人々に届けてまいります・・・。」
それからというもの・・・村はだんだんと活気づき、人々の顔も明るくなっていきました。
農作物は順調に育ち・・・人間関係の難しい問題も、少しずつ解決されていきました。
その肯定的な変化の背後には・・・確かに、お釈迦様とリョウさんのあたたかい慈悲の力があったのです。
ある日、リョウさんがお寺で座禅を組んでいると・・・突然、体からバーン!という大きな音が鳴り響きました・・・。
その瞬間・・・リョウさんの意識は広大になり・・・悟りを得たのです。
それは・・・これまで学んできた数々の経典の内容が・・・全て吹き飛ぶような体験で・・・。
多くの真実が目の前に開け・・・一瞬のうちに迷いがほどけ・・・自分はいなくなり・・・同時に・・・全てが自分となりました。
仏の光が届かないところはなく・・・全てに光が満ちていて・・・静けさが満ちていました・・・。
リョウさんは微笑み、自分の旅が終わり・・・そしてこれから・・・新たな人生が始まることを知りました。
最初から自分は・・・どこにも行くことはなく・・・何も失うこともなく・・・ずっと満ち足りていたのです。
そこからのリョウさんは・・・できる限りその満ち足りた心で村民に接し・・・さらなる慈悲を届けていきました。
その時・・・かつての修行の気持ちはなくなり・・・心からそうしたいことを、当たり前のようにしていたのでした。
長い月日が経ち・・・次第にリョウさんは、自分の役目が終わりに近いことを知りました・・・。
静かに横になり・・・お釈迦様のお迎えを待っている時・・・お寺には大勢の村民が集まり・・・みんな涙を流していました・・・。
リョウさんはみんなに微笑みかけ・・・最後の言葉を伝えました・・・。
「寂しくなるね・・・。
でも・・・いつもお釈迦様が・・・私達を見守ってくれているんだよ・・・。
だから・・・何があっても大丈夫だからね・・・。」
みんなが泣きながら・・・別れを惜しんでいる時・・・リョウさんはゆっくりと肉体から離れ・・・微笑みながら・・・みんなに別れを告げました。
天を見上げると・・・上空で神々しく光輝くお釈迦様のお姿が見えました・・・。
リョウさんが、お釈迦様の美しい微笑みを見た瞬間に・・・ずっと自分を見守って下さっていたこと・・・自分の心をよくわかって下さっていることが伝わってきました・・・。
その瞬間・・・リョウさんの目から涙が溢れ・・・「全てが報われた」・・・と感じました・・・。
こぼれ落ちる涙は・・・お釈迦様の慈悲に照らされて・・・リョウさんと共に・・・天へと昇っていくのでした・・・。
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関連サイト
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