******研修医MASAYA****** -4ページ目

カグヤ姫 (小説部屋投稿短編 その1)

満月の夜、奇妙な音を耳にした情太は、ふと窓の外をみると、竹藪が光っている。
不思議な力に導かれるように、ふらっと立ち上がり、竹斧を手に持ち外に出た。
月は青白く輝いている。
竹藪に入って行くと、奥から情太を呼ぶような妖しげな光が見える。
不思議な、温かみのある懐かしい気持ちにさせる光。

竹藪の奥に、見たこともない細長く金色に光る筒状のものをみつけた。

その筒の太さは、情太が両手を広げたほどもある。
その中央部分が明るく光っている。

上の方には焦げたような跡が見える。
恐る恐る近づくと、筒の中央の小さな丸い窓があることに気づいた。
そっと中を覗くと、首をうなだれじっとしている一人の女がいる。
(死んでいるのか?)
そう思ってじっと見ていると、女は首を少し動かし弱々しく目を開け、情太に助けを求めるような眼差しを向けた。
情太は手に持った竹斧を夢中でふりおろす。
その筒は、薄いのに頑丈にできていた。
中の女を傷つけないように、注意をしながらさらに斧を振り下ろす。
遂に、人が通ることが出来るほどに切り開くことが出来た。
女を抱え出し、竹藪の柔らかな場所にそっと横たえる。
見たことのない着物を身につけ、銀色に輝く髪をした美しい女。

「これ、女、どうした?」
返事がない。
(息をしているのか?)
「・・・・・」
女の方に両手をあて揺する。
思い切って、胸に耳をあて心の動きを聞く。
柔らかな胸の感触を頬に感じながら、耳を澄ますと心の臓は動いている。
なおも強く肩を揺する。
「これ、女、しっかり」
女は、弱々しく目を開け微笑んだ。
情太も微笑む。
女はゆっくりと両腕を差し出し、情太を招いた。
魅せられたように顔を近づける。
女の両手が首に掛かった時、情太は女を抱え上げた。
ゆっくりと持ち上げ家の方に歩き始める。
女の体からは良い香りが立ち上ってくる。
懐かしい香り!
一人暮らしの情太にとっては刺激が強すぎる。
やっと、家に着き、藁でつくった夜具の上にそっと寝かせる。

「大丈夫か?何処か痛むのか?」
かすかに女は微笑むと、また目を閉じた。
情太は一晩中、その女の寝顔を見ていた。
不思議な感覚が情太を襲う。

夜も明け、雀の鳴き声が聞こえてくる。
貧しい竹細工職人の家にはろくな食べ物も無いが、女の為に粟粥をつくることにした。
粥が出来る頃に、女は目を醒ました。

「起きたか、はら空いてないか」
女はじっと情太の顔を見ている。
情太は微笑みながら、粥の入った竹の碗を持ち、女の横に座った。
ゆっくりと女の体を起こしながら 「食べるか?食べんと元気が出んぞ」

女は周りをみて、他に誰も居ないことを確認すると、やっと口を開いた。
「ありがとう」まだ声は弱々しい。
「そうか、よかった、よかった」
竹でつくった匙で粥を掬い、ふうっと吹き冷まして口に運んだ。
女は素直に粥を口にした。
「さあ、ゆっくり食べて」
ゆっくりと冷ましては口に運んだ。
目の前に、若い女性を目の当たりにした情太は嬉しくてたまらない。
胸が熱くなり、心の臓が強く早くなるのを感じていた。

「おいしかった、ありがとう」
「あんたは、どこから来た?あの筒はなんだ?」
「・・・・・」
「いいよ、そんな言いたくなければ、言わなくてもいい」
「・・・・・」
「行くところはあるのか?」
女は黙って首を振る。
「そうか、こんな所だけれど、気の済むまで居ていい、いや居てくれないか。おら一人で寂しいもんな」
女は黙って頷いた。
「そうか、おら一生懸命働いて、もっと旨いもの食べさせてやる。もっと綺麗な着物着せてやる」
嬉しそうに女は微笑んでいる。

翌日、情太は町に竹細工を売りに行った。
しかし、思うようには売れない。
それでも、少しばかりの米と味噌と赤い珊瑚の簪を買って帰った。
(どうしてるのかな、似合うかな)
嬉しそうに、「いま帰った、だいじょうぶか?」
家の中に入ると、竹で編んだ籠と綺麗な花を作っていた。
情太にとって、これまで見たこともない形と色遣いの竹細工がいくつかできている。。

女は振り返り
「おかえりなさい」
その美しさに、情太は言葉を失い
「ああ・・・」としか声が出ない。
気を落ち着けて
「何て素敵な竹細工なんだ、おいらの細工などみすぼらしくて・・・・」
女はうれしそうに、微笑んだ。
「明日はこれを持っていってみてください」
そばへ行っ手竹細工を手に取ると、とても良い香りが漂ってくる。
見ていると、その竹細工の世界に吸い込まれるような気持ちになった。
しかも、その香りを嗅ぐと、体の奥底からめくるめく感覚が襲ってくる。
「おいらは、貴女のことを何と呼んだら良いのでしょう、名前は?」
「カグヤ」
「カグヤか・・・、とっても良い名前だ」
「おいらは情太」
「情太様、昨夜は、危ないところを助けて頂きありがとうございました。」
「そんなこと、気にしなくていいよ。で、カグヤはどこから来たんだ?」
「そのことは、いまは申せません。時が来ましたらお話し致します」
「そうか、そんなこともう聞かない」
「わがまま言って申し訳ありませんが、お言葉に甘え、しばらくここにおいてください」
情太は嬉しくてたまらない気持ちを抑え
「こんなみすぼらしい所だけれど、気の済むまで居てください」
カグヤは嬉しそうな笑顔で微笑んだ。

「今日は、米と味噌を買ってきたので、すぐ夕食を作るから待ってておくれ」
「ええ」
「それから」と言いながら香虞夜に近づき
「こんな物買ってきたので、使ってくれないか」
そう言って、懐から大事そうに赤い珊瑚の簪を取りだした。
「まあ、見たことがないくらい綺麗で素敵だわ」
情太は、簪をカグヤの髪に挿した。
情太は嬉しくて仕方がない、彼女の目を見ていると涙が出てくる。
こんな気持ちは初めてなのだが、何故か懐かしい。

夕食が済み、寝ることになったが。寝具は一組しかない。
情太は、寝具をカグヤに使わせ、自分は藁を集めてきてその上に横になった。
眠ろうとするが、興奮して眠られない。
体を動かすたびに藁がカサカサなる。
「情太?眠れないの」
「ああ」
「こちらへ来て、一緒に寝ましょう。」
「でも・・」
「・・・・」
しばらくすると、竹細工から漂ってきたのと同じ香りが、情太の鼻を擽る。
(何て良い香りなんだろう)
「ねえ、こちらにいらっしゃいな、淋しいわ」
そう言われると、先ほどまでの自分を抑えていた気持ちが薄らぎ、ふらふらと傍らに横になった。
香りはますます強くなり、夢の中を飛んでいるような感覚・・。
知らず知らずのうちに、顔をカグヤの顔に近づけ、唇を合わせた。
カグヤも素直に受け入れる。
おそるおそる、吸ってみる。
カグヤも唇を開き、合わせてくる。
なおも強く吸い、舌をそっと入れる。
待っていたかのように彼女も絡めてくる。
あとは、無我夢中で何がなんだか解らない。
激しい動きの後、全身が痙攣するほどの快楽が襲ってきた、同時にカグヤも全身を硬直させた。
情太は、そのまま、意識が遠のいた。

ふと気づくと、もう朝。
カグヤは?と隣を見ると、居ない。
はっとして周りを見回すと、カグヤはが食事の支度をしている。
「そんなこと、しなくても良い。おいらが全部するから、何もしなくてもいい」
そう言って、飛び起きた。
「いいの、私がこれから、貴男のためにするわ」
「そんな、もったいない。じゃあ、おいらは何をしたらいい?」
「竹を切って来てくれて、私が竹細工を作るから、売ってきて頂戴」
「ああ・・解った。そうするよ」

彼女の作った食事は、これまで食べたことがないほど美味しく不思議な味がした。
「おいしい?」
「すごっく美味しい!こんな旨いもの食べたことがない。同じ米と味噌とでこんなに違うなんて、信じられない」
「よかった」
嬉しそうに返事をした。

その日は、カグヤの作った竹細工を持って売りに出た。
いつもと同じ大広路の片隅にゴザを広げ、カグヤの作った竹細工を列べると、またたく間に人だかりができた。
竹細工の見事さもさることながら、そこから漂う香りに惹かれるように大勢の男達が集まってくる。
値段は決めていなかったが、男達が勝手に値を付ける。
欲しがる男達はどんどん値を上げていき、またたく間に全て売れてしまった。
全て売り切れても、まだ名残惜しそうに男達は残っている。
「もうこれだけしかありません」と言うと、明日も売りに来てくれと口々に言って帰っていった。
手元には、これまで半年で稼ぐのと同じお金が残っている。
情太は夢を見ているような気持ちだった。
その金で、食べ物や綺麗な着物や寝具そして荷車を買って、急いで家に戻った。

「カグヤ、いま帰ったよ!」
嬉しくてたまらなく、大きな声で呼んだ。
入り口にカグヤが姿を見せる。
「おかえりなさい、まあ、たくさん買ってきたのね」
情太はホッとした。カグヤが居ないのではないかと不安で仕方なかった。
「見てくれ、こんなに売れた!」
懐からお金を取り出して見せた。
カグヤも嬉しそうに「よかったわね、疲れたでしょ?」
そう言いながら、手足を洗う水の入った桶を差し出した。
「こんなに売れるなんて夢みたいだ、カグヤありがとう」
「また作っから、明日も売りにいってね」
奥を見ると、昨日よりもたくさんの竹細工が出来ている。
その見事さはすばらしく、それにもましてその香りはすばらしいものになっている。
思わず、カグヤを抱きしめた。
カグヤの体からは、竹細工と同じ香りがする。
情太はそのままカグヤを押し倒し体を求めた。
カグヤも待っていたかのようにお互いを求め合った。

そんな日々が続いた。
カグヤのおかげで裕福になった情太は、男達にカグヤを見られないように、カグヤと出会った竹藪の奥に新しく家を造った。
三月もするとだんだんカグヤの下腹が大きくなってきた。
自分の子供がカグヤのお腹の中にいるかと思うと情太は嬉しくて仕方がない。

そんなある日、御門の使者が情太の前に現れた。
カグヤの竹細工の噂を聞いた御門が、是非その竹細工を見たいとのことである。
困った情太はカグヤに相談すると、
「仕方ないわね、しかし私のことは絶対に言わないでください」
「わかった、そうするよ」
カグヤはもう判ってたかのように、奥からいつもよりももっとすばらしい竹細工を持ってきた。
情太はそれを持って、使者に連れられ大内裏の門をくぐった。

地面に頭を付けたまま、御門の前でじっとしていた。
「情太と申したな、そちは何とすばらしい竹細工を作るのじゃ。それにこの香りただものではない。夜伽には・・・・・」
「・・・・」
情太は身じろぎもせずじっとしている。
「そんなに硬くならなくともよろしい。これから麻呂の為に竹細工を届けてたもれ」
「はい、もったいないお言葉ありがたくお受け致します」

たくさんの褒美を頂いた情太は、再び使者に案内され門の外に出た。
頭がボーとしたまま立ちつくしている。
思い直して、家路を急いだ。

早く帰ろうと必死に走る情太。
今夜は満月。冷たい光に照らされた山々がよく見える。
自分の後を付ける者が居ることなど知るよしもない。
「ただいま!」
「お帰りなさい、大丈夫なの?そんなに息を弾ませて」
「おまえに早く逢いたくて、急いで走ってきたんだ」
微笑みながらカグヤは情太の持って帰った褒美の品を受け取り床の上に列べた。
「まあ、ずいぶんたくさん頂いたのね、でも無事でよかったわ」
「どうして?」
「御門はとっても我が儘で、自分の欲しいものは独り占めにするくらいだから、貴男を帰さないかも知れない・・」
うれしくなりカグヤを抱きしめる。
カグヤからはいつもよりも強い香りが鼻と心を刺激する。

カグヤをそっと抱き上げ奥の寝屋にいく、お腹の子に気遣いながら愛する。
後をつけてきた男は、その一部始終を声も出さずに覗いている。
見たこともない銀色の女、女があえぎ始めると竹細工から漂うのと同じ香り、男の気持ちを高める香りが、のぞき見している窓まで漂ってくる。
覗き見の男も欲情してきた、興奮しながらも息を殺して見続けている。
女が絶頂に達した瞬間、男は目を疑った。
女の頭から動物のような耳が現れ、二本に分かれた尾が・・
歓喜の表情が・・・・銀色の山猫のような形相に。
それでも情太は愛し続ける。
情太は女の変化にには全く気にもとめない。
先ほどまでの、興奮した気持ちも一瞬に冷め男は思わず、「あっ」と微かに声を上げた。
情太は全く気づかなかったが、カグヤは窓の方ちらっと見た。

男は興奮が恐怖に変わり、音を立てずにその場を離れ、必死で走り去った。
男は、情太を呼びに言った使いで、御門から竹細工職人を調べるように仰せつかっていた。
使者は見たことを全て御門に報告すると、御門も驚き、すぐに武士の家来を連れてその女と男を捕らえてくるように命じた。

情太は、幸せな気持ちに満たされカグヤを抱いている。
「私はもうここを去らねばなりません」とカグヤは言った。
「えっ?何を言っているんだ。そんなこと急に言われてもいやだ!」
「御門の使いに見られてしまった、今、私と貴男を捕らえようとこちらに向かっています」

「え!?」
「貴男だけなら、使者が夢を見ただけということで済むが、私が居ると二人とも捕らえられてしまう。お腹の子供も殺されるかも知れない。後生だから許して。」
「そんなの嫌だ、おまえが居なければ生きている価値はない。一緒に逃げよう!」
「後生だから、そんなこといわないで。貴男と私は住む世界が違うのです」
「じゃあ、この世界ならいいだろ?もっと遠くに逃げればいい」
「もう、追っ手はすぐそこまで来ているわ」
そう言うと、カグヤは外に出ると、空に輝く満月に向かいなにか呪文を唱えた。

たくさんの松明の明かりが竹藪の入り口に見える。
カグヤは山に向かい上り始めた、情太も後を追う。
松明の明かりは数を増し、どんどん近づいて来る。
情太のいえの周りを取り囲み、情太と女が居ないのを確認すると火を付けた。
火は竹藪にも広がった。
いくつかの松明が山のカグヤの後を追って来る。
ついに、カグヤは高い崖の縁に来た。
情太もその後を追う。

追っ手は弓矢を持った武士であった。
その一人が大声で「おのれ妖怪、逃げると射るぞ」と叫んだ。
カグヤは無視して月を見る。
いっせいに弓をつがえた時、満月が急に大きくなり太陽のような明るさとなった。
武士たちは、その明るさで目を開けていることが出来なかった。
その瞬間、空飛ぶ牛車がカグヤの前に現れた。
カグヤは乗り込むと、情太の方を涙を浮かべながら
「さようなら、楽しかった、助けてくれてありがとう。子供は大切に育てます」
「カグヤ、待ってくれ、おいらは、おいらはどうしたらいいんだ」
牛車は黒い雲に隠れて見えなくなった。
情太は、崖に立ち呆然と空を見上げていた。


「おい!おぬし!」
武士の一人が近づいてきた。
情太は一瞬振り返ったが、再び空を見上げた。
次の瞬間、カグヤの名を呼ぶと、月に向かって飛んだ。
情太は自分の体がゆっくりと下に向かって落ちていくのを感じていた。
もう怖くはない。
(これで、俺は死ぬんだ)

そう思うと目を閉じた。

目を閉じると、カグヤに出会ってからの楽しかったひとときが走馬燈のごとくよみがえる。
情太は、自分の体がゆっくりゆっくり落ちている感じがした。

落ちるにつれ、かすかにカグヤの香りがしてくる。

香りは落ちるにつれさらに強くなり、ついには自分を包み込んだ。

もう自分が落ちているのかそれとも昇っているのかさえ判らなくなった。

次の日の朝、武士たちは情太とカグヤが飛び降りた崖下を探したが、二人の姿を見つけることは出来なかった。


15) イメージチェンジ

(1)


部屋に戻り、昨夜のことを思い出す。
彼女には、お世話になっているだけでなく、やはり魅力を感じるから精一杯尽くすことができ、女性を愛することで自分の存在を確認している。
女性の喜ぶ姿、表情が自分を勇気づけ頑張らせてくれる。
自分はちっぽけで弱い存在である、それを強いものへと導いてくれるような気がしてならない。
はたして、この世でどれだけの人が自分自身の存在を認識しているのだろうか?
またどのような方法・手段で、実感・認識しているのだろうか。
少なくとも自分にはまだハッキリとしたものはない。
今の自分は、女性に尽くし、女性から自分の存在を認めてもらうことしかない。
国家試験に合格し医師になれば、新しい自分を見つけられるのだろうか、まだ判らない。

気を取り直してイヤーノートを読み返し、外科と内科の過去問を解き進める。
昼食も冷蔵庫の中にあるあり合わせのもので済ませ、夕方まで勉強する。
雨宮の質問に答えられ教えることができるように、雨宮が喜んでくれる顔を想像しながら、勉強に集中する。


少し疲れたので、ベランダに出て外の空気を吸う。
暑い日が続いている。
太陽に目を向けるとクラクラした感じがする。
室内に戻り、ソファーにもたれながら瞼を閉じ、思いを巡らす。

何故か、雨宮のことが気にかかる。
この勉強も、自分のためでなく雨宮のためにしているのだろうか?
雨宮の喜ぶ顔が見たい。好きになったのかな・・・。
そんな時、いつも高校の頃の高瀬由美の顔が頭の中をよぎる。
今の自分があるのも彼女の存在が大きい。今の自分を見て、認めてもらいたかった。
教師のいった言葉は間違いない事実でしかも正しい。
娘のことを気遣う親として、開業医でPTAの会長でなくとも当然のことだろう。
端から見れば偉ぶっているようにみえるが、親の気持ちとしては偉ぶっているのではないと思う。
当時も今も同じだろう、所詮、職人風情の子では相手にしてもらえるとは思えない。
雨宮もそうだろう、医学部の同級生と言っても親が違う。
結婚となれば親同士の付き合いも出てくるだろう。
高校卒業後2年間の生活や今のアルバイトも秘密にしているので、知られた時は軽蔑されるだろう。
人は色々な経験をして成長している。
下々のことなど全く知らずに生活している人たちには到底理解されるものではない。
自分自身は決して後悔していないし、悪いことをしているとは思っていない。
女性を食い物にしていると思われるだろうが、自分は決して自分から女性には求めない。求められた時は精一杯お応えする、そして喜びと満足を与える。
それは自分の存在を再認識させ、たえず迷っている自分を勇気づけ、生きる方向を与えてくれる。
これまでの経験が今の自分を作っている。それを否定することは今の自分を否定することにもなる。それだけはしたくない。
職業や立場で人を評価するもべきではないと言われるが、人は自分のこととなると冷静に判断できなくなってしまう。
いくら説明しても、その世界を知らない人には本当のことは分かってもらえない。
次から次へとそんな思いが頭の中をかけ巡る。

思い直し
どうしようか、雨宮にはすでに素顔はばれているし、雨宮も内緒にしてくれてるしな。良い子だと思うし、我が儘だが可愛いところがあり、自分の好みの女性でもある。
どことなく高瀬由美に似たとこるもある。
本当の自分を理解してくれるような気もするが・・・。
明日は美容院へ行き、今風に染めてカットしてもらい雨宮を驚かせてみようか・・・。
そう思うと急に楽しくなってきた。
早速、電話で行きつけのBe-Beカッティングサロンに明日の予約を入れる。
急に元気が出てきた。
今夜は千香さんの病院の院長夫人(恵子さん)と同伴で出勤することになっている。
いつもの目城駅近くのホテル・リッチ東京にお迎えに行く予定。
早速、シャワーを浴び、ほかの女性の香りが残らないよう、コロンも少し多めにつけて出かけることにした。



(2)

最近は指名も増え、収入もアルバイトにしては割と多くなり、医者の給料よりも良いかもしれない。

昨夜は恵子さんのお相手で帰りが遅くなり、部屋に帰ったのが午前2時。
彼女は、ご主人に女子大生の彼女がいることを知っていた。
その悔しさもあってかベッドの中では激しく求めてくる。
私もプロ意識をもって満足するまでサービスをする。
女性の喜ぶ姿は美しい。
最近、医者よりもこちらの方が自分に合っているのではないかと思ってしまう


彼女は、ご主人を問いつめればどうなるかは十二分に解っているようで、娘のこともあり、好きにさせているらしい。
院長先生が彼女とレストランアロラブッシュ食事をしていた光景を思い出しながら、腕の中にいる恵子さんの話を聞いていた。
仕事柄余計なことは口にしないことにしている。ましてや佐東病院の知恵さんといたことも秘密である。
知香さんと恵子さんが情報交換しているかどうかは判らないが、もし情報交換しているとしたら、どんな些細なことも口には出来ない。

起きたのは10時半、遅い朝食を済ませ、明日から雨宮との勉強会の準備をする。
午後2時に予約を入れておいたBe-Beカッティングサロンへ行く。
「いつもと同じで良いですか」
「今日はいつもより明るい茶にして、カットもこの雑誌に出ている様にして下さい」
「あら、珍しいですね、どうされたのですか」
「夏休みになったものだから、ちょっと気分転換ですよ」
いろいろ世間話をしながら染めとカットをしてもらっう。
1時間半で終わり、鏡に映った自分の顔を見る。
「ちょっと格好良くなったなかな」
「とっても素敵ですよ。雰囲気が全然違い、今風で格好いいと思います。別人ですよ」
気分を良くしてBe-Beを出て自分のマンションに戻る。

明日は朝9時に犬塚駅前で雨宮と待ち合わせて、雨宮の車で軽見沢の別荘へ行くことになっている。
全身の写る鏡の前で、あれこれと服装を替え、一番無難でお洒落な組み合わせが決まった。
白の綿のジャケットに薄いベージュの綿パンと黄色の綿シャツ。
靴は白のDESMOND DUNK。
コンタクトをつけてサングラスは秘蔵のグッチ1797 にした。
そのあと、3日分の着替えと参考書・問題集をキャリーバッグに詰める。
滅多に使わないが、念のため、コンちゃんをヴィトンのサン・ルイに忍ばせておいた。
夕食も部屋で軽く済ませ、4時間ほど内科と泌尿器科の問題集を解く。
いつもより早めにベッドに入り、明日のことを色々考えていると、いつのまにか眠ってしまった。

14) 吉岡様への奉仕

彼女の部屋はダイアモンドパレス渋屋の最上階にあり4LDKの広さがある。
ここは仕事場としても使用している。
自宅は郊外にあるが仕事で帰りが遅くなる時はここに泊まる。
今夜も彼女のマンションにへ向かうつもりで、右側の助手席に彼女を座らせSLK230を走らせる。

しばらく走ったところで彼女が
「ねえ、今夜はマー君の部屋にしない?」
「散らかってますけどいいですか?」
「構わないわ、男の人の部屋がきれいに片付いていると変よ」
「僕の部屋にみえるのはお久しぶりですね」
「そうね、一年ぶりかしら」
「保証人になって頂き大変助かりました」
「それだけ?」
「いえ、そんなことありません」
「私のこと好き?」
「はい、好きです」
「どれくらい?」
「精神面でも生活面でも頼ることができる、ただ一人の女性です」
「うれしいわ」
・・・・・
マンション近くの駐車場に車を止め、二人並んで歩いてマンションに入る。
エレベーターの中に入ると、防犯カメラに写らないように彼女が手を掴んできた。
管理人に見られてもまずいのでそれ以上のことはしない。
私の部屋は6階の一番東にある広めの4LDK。
家賃は少々高いが、彼女の服飾アドバイザーということで家賃よりも少し多い給料を出して貰っている。勿論、時々仕事のお手伝いや相談にものっている。

部屋にはいると彼女はいきなり首に手を回してきた。
彼女の目を見ながらそっと口づけをすると、濃厚な熟女の香りが漂ってくる。
口吻したまま彼女を横抱きに抱え、寝室にはいる。

そっとベッドに横たえると、彼女は両手を首から離し私の上着を脱がせベッドの下に放り投げた。
彼女の上着とスカートを脱がせ、ピンクのブラウスのボタンをはずし、左手をブラジャーの上から滑り込ませ、左の乳房をゆっくりと円を描くように揉み、人差し指で乳首を軽くさする。
彼女は苦しそうに唇を離し一呼吸すると、真っ赤なルージュの唇からあえぎ声がもれはじめた。

小さく柔らかな下着を脱がせ、右手の手のひらで柔らかな草むらの丘を軽くさすりながら、人差し指と中指で蕾を上下に細かく揺り動かすと指先に粘液の感触が伝わってくる。
さらに蕾を人差し指で軽く転がしながら、中指を谷間の奥から入れたり出したりする。
小刻みに右人差し指を震わせ、動きを止めると「止めないで」と小さな声で哀願してくる。
その姿は一まわり以上離れているとは思えないほど可愛い女に見えてくる。

彼女はスカートとブラウスを脱ぎブラジャーをとると両耳から真っ赤なルビーのイヤリングをはずし枕元に置いた。
左手を右乳房に移しゆっくりと愛撫しながら、唇で左の乳首を挟んだり吸ったり、時には軽く噛んだりを繰り返す。軽く噛むたびに声が大きくなる。
右人差し指と薬指で広げながら中指で愛撫を続ける。
表情を見ながら、強くそして弱く、早めたり遅くしたりする。

彼女の中では快感の風船がどんどんふくらみ続ける、ついに風船が破裂する。
と同時に全身に痙攣が走り四肢は硬直し、瞼を閉じ驚くほど大きな声を張り上げる。
もはや胸の愛撫は必要なく、右指の動きを徐々に強くしていく。
左腕で彼女の体を後ろから抱きしめ左手で左の乳房をわしづかみにしたまま、唇をふさぎながら舌を絡める。
彼女は右指の動きから逃げようと体をよじる。
右指は逃すまいとその動きに合わせ愛撫を続ける。
ついに彼女は体を動かすことを止め、歯を食いしばり苦しそうな声を数秒間続けた。
急に体中の力が抜けたように柔らかくなる。
それでもゆっくり優しく右指の動きは続ける。
時々体が痙攣するのが伝わってくる。
呼吸は荒く、顔は上気に赤らんでいる。
彼女はゆっくりと瞼を開くと、満足したように潤んだ瞳で私の顔をじっと見つめている。
「・・・・・」
「・・・・・」
言葉はいらない。



ベッドに彼女を残し、一人シャワーを浴びていると、不意に背中に彼女の胸の感触が伝わってきた。
シャワーの音でドアを開ける音がかき消され、彼女が入ってきたことに気づかなかった。

「どうしました?」
「ううん」とまるで娘のように甘える声が聞こえる。
「洗いましょう」といい、シャワーを胸の上から下に向かってかける。
「マー君、初めと比べるとホントに成長したわね」
「そんなことないですよ、自分では変わってないと思ってます。ただどうしたら良いのかが分かったような気がします」

「ふー・・、い・い・き・も・ち。洗ってあげるからじっとしててね」
言われるまま立っていると、ボディソープをスポンジにつけて肩から胸と軽く円を描くように動かす。
スポンジの肌を擦る感覚は心地良く、既に硬くなっている物がさらに熱く硬くなってくる。
スポンジが下腹部まで下がってくると、スポンジを手から離し、両手を使って優しく丁寧に洗いはじめる。
彼女は上目づかいで微笑み、泡のついたまま口に含み両手と頭を動かし始めた。
その心地よさは筆舌に尽くしがたい。
先ほどは我慢できたのだが、今はその刺激に耐えられなくなり遂に果てた。

シャワーをかけ洗い流した後も丁寧に優しく、時に強く動かし続ける。
さらに敏感になっているので、すぐに元のような状態になる。
彼女は立ち上がり、泡だらけの体を密着させてきた。
胸は弾力を増し、硬くなった小振りの先端が体を刺激してくる。
唇を合わせ、互いに激しく舌を絡ませる。
ゆっくりと、床に敷いてある滑り防止のマットの上に横たわると、彼女は右手を使いゆっくりと導き入れると深くため息に似た声を発した。
ボディソープで体が滑るので、動いても離れないようにお互いの手足を絡ませ、あたかも二匹の何体動物が絡み合っているようになる。
体を激しく動かし続けると、彼女の頭の中の風船は破裂したり膨らんだりを何回も繰り返した。そのたびに悲鳴に似た声を出し、収縮・弛緩を繰り返すのが伝わってくる。

体中の力が抜け横たわる体を丁寧に洗ったあと、大きなバスタオルで体を拭いていると、焦点の定まらない目で嬉しそうに微笑む。
両腕を首にかけさせ、寝室まで抱えていき、そっとベッドに横たえた。
冷蔵庫から冷たい水を大きめのグラスに入れ持ってきて、飲ませようとすると
「飲ませて」と小声で甘えるので、口に含んだ冷水を流し込む。
グラス一杯分の水を美味しそうに飲むと再び目をつむり、気持ちよさそうな寝息を立て始めた。
そっと彼女の横に裸のまま潜り込むと、急に瞼が重くなり深い眠りについた。


目を覚ますと、彼女はまだ眠っている。
枕元の時計は午前8時を指している。
そっとベッドから離れ、Tシャツとベージュの綿パン姿になりキッチンに向かい朝食の支度をする。
ブルーマウンテンの豆をひきドリップで入れるとコーヒーの芳しい香りが広がってくる。
トーストを焼いている間にハムエッグとソーセージを焼く。
牛乳と野菜ジュースを入れたグラスをテーブルに並べ彼女を起こしに行く。
既に目を覚ましていた。
「おはようございます、朝食の準備ができています」
そう言うと彼女は私が用意したお揃いのTシャツと短パンを身につけた。
彼女用に化粧セットや着替えは寝室のクローゼットの奥の小さな衣装ケースに隠してある。

キッチンテーブルに向かい合って座り朝食を食べる。
「マー君は料理も上手ね、美味しいわ」
「ありがとう。もともと料理を作るのは好きですし、美味しそうに食べてくれるのを見ると自分も嬉しくなります」
「これだけ色々できると、結婚すると女性の立場がなくなってしまうわね。」
「その時は作ってもらいますよ。まだ色々やらなければならないことがたくさん有りますので結婚は当分考えていません。」
「そうね、そうしてね」

食事を済ませたあと、彼女が化粧を終えるのを待ち、彼女のマンションまで送る。
車から降りる時、私に軽くキスをすると
「昨日はホントにありがとう、マー君の力になれて幸せよ。」
と嬉しそうにマンションに入っていった。


運転しながら今日の予定を考える。
(今夜もアカデミアに出勤だが日中はどうしようか)
明後日の月曜から雨宮に付き合って国家試験の勉強をするので、部屋に戻って予習をすることにした。