******研修医MASAYA****** -2ページ目

源 義経 (その一) (小説部屋投稿小説)

美福門院にとりついていた白面金毛九尾の狐は安倍晴明に追われ、鳥羽上皇への思いを抱きつつその魂を三つの玉に分けた。
三つの玉は銀色の光を放ち大内裏の上方に高くのぼった。
一つは南に向かい京の市中に消え、一つは北に向かい鞍馬寺の上で消えた。
そして残る大きめの玉は音もなく東方に向かい、はるか那須野ゲ原まで飛んでいった。


・・・・・・・・・・・・・・・

「これ、起きなさい」
遠くから、美しい声が聞こえてくる。
(まだ眠いなぁ・・・)
「これ、起きなさい。お兄様達はもう起きていますよ」
体が揺らされるのを感じ、ゆっくりと目を開けると、美しい女性が、覗きこみ微笑んでいる。
「母上、おはようございます。兄者は?」
「すでに、お膳についています、早くお支度をして。さあ起きて」
「母上、まだ牛若は眠たい」
「さあさあ、そのようなだらしないことでは、亡くなられたお父上が悲しみます。」


兄の今若と音若は、すでに膳の前に正座している。
今若の隣に座ると
「牛若、遅い!」今若が小声で注意した。
「はい、申し訳ありません」
「お食事中は口を慎みなさいまし」母の注意が聞こえる。
「はい」と三人とも口をそろえて返事をする。

今日の母上は何か様子が変である。よく分からないが、いつもとは違う感じがする。
しばらく無言の食事が続く。
突然、「今日は、六波羅殿にお目通りするから、くれぐれも失礼の無いようになさい」
と母上は厳しい面持ちで口を開いた。
幼い牛若には何のことか全く判らない。


雪の中、常磐御前は三人をつれて六波羅に向かう。
「母上、寒うございます。六波羅殿にお目通りしてどうなるのでしょうか?」
「安心なさい、そなた達3人の為です。何があっても悲しまないで・・・。」
大きな門の前に来ると、門衛は常磐御前と3人の子供を中に入れ、清盛の待つ中庭に案内された。
かねてより評判の美貌麗しき常磐御前の姿を見て、清盛は一目で気に入ってしまった。
清盛は、必死に3人の子供の命乞いをする常磐御前に
「妾になるなら、子供達の命は助けてやろう」と言った。
常磐御前は、憎き敵の清盛ではあるが子供達の命には替えられないので了承した。
そして、今若は醍醐寺に、音若は園城寺に、そして牛若は鞍馬寺に預けらることになった。


鞍馬山に預けられた幼い牛若は体も気も弱く、毎日を母をしのんで泣いていた。
鞍馬寺では、僧兵達には平家の横暴に憤りを感じるものが多く、平家を討ちたいと日々話し合っている。
ある時、僧兵の一人が牛若に、源義朝の子であり、清盛に母上を奪われたことを教えた。
それを聞き僧兵達から武術を教わるようになったが、元々体も弱く気の優しい牛若は、僧兵達の武術の試練になかなかついて行けずに つらい毎日を過ごしていた。
いつまで経っても上達しない牛若は、悲しさのあまり寺を出て山奥に向かった。

山の中をあてもなく彷徨い歩いていると淵に出た。

美しく澄んだ水を見ていると吸い込まれるような心地がする。
(母上に会いたい、平家が無くなれば・・・母上に会える・・・。武術を教わっているが上達しない・・・いっそ谷川に身を投げようか・・)
そう思っていると、淵の底に何か銀色に光るものが見える。
(なんだろう・・・美しい光・・・)
冷たい水を我慢して水に潜りそれを手にした。
銀色に輝く拳ほどの大きさの玉。
(きれいな玉だな、でも冷たい水の中にあったにもかかわらず暖かい不思議な玉。この玉が私の望みを叶えてくれると良いのに・・・)
そう願うと、どこからともなく優しい声が聞こえた。

「そなたの望み叶えてやろうか?」
「え!?」
あたりを見ますが誰もいない。
(気のせいか・・・)
そう思うものの、試しに
「お願いです、私を強い男にしてください」
願いを口にすると、また声が聞こえた。
「玉を胸に当てなさい」
「誰です?」再びまわりを見るが誰もいない。
(この玉の中から聞こえるのかな・・・?)
「胸に玉を押し当てなさい」

母に似た、優しく美しい声が玉の中から聞こえてくる。
言われるまま玉を胸に押し当てると、玉は金色に輝いたかと思うと、音もなく静かに体の中に入った。
また声が聞こえる。今度は、はっきりと頭の中に聞こえてくる。
「どうじゃ、力がみなぎってくるだろう」
確かに身が軽くなったような気がした。
(どうしたというのだ・・・・体が軽くなり力が漲ってくる)


ものは試しと、二間ほど離れた向こう岸の岩に向かって飛んでみる。
すると不思議なことに体は羽が生えたように軽くなり宙を舞った、そして音もなく岩の上に降り立つことができた。
(なんと不思議なこと・・・。母上、ありがとうございます)
「そなたの母上ではないが、ゆかりのあるものじゃ。信じて精進なさい」
「ありがとうございます!」


先ほどまで、あれほど重かった足が軽くなり、上り坂ですら風のように駆け上がることができた。ひと飛びすれば高い木の枝に手が届き、木の枝を天狗のように飛び移ることができる。鞍馬山で一番高い木の上に立ち誓いを立てた。
「牛若は、必ずや清盛を討つ!父上の無念を晴らしてみせる!母上を助け出してみせる!」

35) 鳥羽上皇と玉藻(白面金毛九尾の狐)

コーヒーブレイクの時間に彼女が質問してきた。
「先生、北条政子は駆け落ちするくらい頼朝にお熱だったのね、何がそんなに良かったのかしら。聞くところによれば、頼朝はそれほどいい男じゃないし、反逆者の子供だったのでしょう?それに、義経だってすることが人間業とは思えないし・・・。」
「そうだね、義経の行動は、五条大橋の欄干を飛んだり、一ノ谷の崖から降りる話や、屋島の奇襲、壇ノ浦の八艘飛びなど確かに普通じゃないよね」
「そうよ、普通の人間とは思えないもの」
「じゃあ、ちょっとしたエピソードを話そうか」
「うん、たまには面白いお話ししてよ」

「ちょと詳しい話になるけど・・・。頼朝と義経の父親は義朝だが、頼朝は正妻である熱田神宮大宮司藤原季範の3女由良御前の三男で、義経は愛妾常磐御前の三男なんだ。常磐御前は素性不明だが絶世の美女だった。三人の子供が今若、乙若、牛若ということは知ってるよね?」
「それくらい知ってるわ。義経がハンサムだったのは母親が美人だったのね。」
「そうかもしれないね」
「じゃあ、頼朝は大顔であまりハンサムじゃなかったのに、駆け落ちみたいなことまでした北条政子は頼朝のどこに惚れたのかしら?」
「うーん、男と女の間だからな・・、顔だけじゃなくって、いろいろあるからね。本当のことは政子に聞いてみないと判らないな・・・」
しばらく、宙を見ながら何から話そうかと考える。


「美女と言えば義経の愛妾の静御前もそうとう美人だったと言われているよ」
「知ってるわ、静御前って白拍子だったんでしょう?」
「そうだといわれているが素性は常磐御前と同じでよくわかっていないんだ」
「不思議ね、義経の周りには素性の知れない美人がよくいるのね」
「美人と言えば、伝説なんだけれど、ちょうど同じ頃玉藻の前というやはり素性の知れない美人がいたこと知ってる?」
「知らないわ」
「玉藻の前は妖力を使って鳥羽上皇に気に入られるようにし、契りを結んだ」
「Hをしたのね」興味津々の返事をしてくる。
「そう、その後から鳥羽上皇の体調が悪くなり、いっこうに良くならなかった。」
「Hばかりしていたんじゃないの?」
「そうかも知れないけど、医者がいろいろ考えたがぜんぜん判らなかった。ところが映画でも有名な陰陽師安倍晴明が登場してきて、上皇の体調不良のその原因が玉藻の前で、しかも玉藻の正体は九尾の狐であると見破った。正体を知られた玉藻の前は白面金毛九尾の狐の姿に変わり宮中から逃げ出した。」
「怖いわ・・・・・それで?」
「その後、今の栃木県にある那須野で婦女子をさらったり悪さをしているのが宮中まで伝わり、鳥羽上皇は、九尾の狐討伐軍を編成し安倍晴明も行くように命じた。一回目は失敗したけど、二回目には対策を十分に練っていたので、九尾の狐を退治できた。」
「狐さん、かわいそうね」
「そうだね、九尾の狐は鳥羽上皇のことが本当は好きだっただけなのかも知れない。それを鳥羽上皇がHばかりしすぎて体調不良になっただけ、そして安倍晴明がばらさなければ幸せだったかも知れないね」
「そうよ、鳥羽上皇がスケベだっただけよ!体調不良は自分の所為よ」
「そのあと、九尾の狐は巨大な毒石に変化し、近づく人間や動物等の命を奪ったので殺生石とよばれるようになり、それが今でも栃木県那須郡那須町湯本にあるんだ」
「ふーん、先生って変なことまで知ってるんだ。ねえ、その九尾の狐って何?」


「昔、中国やインドで美しい女性に化けて世を乱し悪行を重ねていた白面金毛九尾の狐のことで、今から八百年程前の鳥羽天皇の時代に日本に来て『玉藻の前』と名乗って日本を亡ぼそうとしたといわれているんだ」
「じゃあ、やっぱり悪い狐だったんだ」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないよ」
「えー?、どうして?」
「うーん、よく解らないけど、玉藻はそんなに悪くないような気がするんだ」
「変なの!じゃあ今でも九尾の狐いるかも知れない?」
「いるかもしれないなぁ・・・・・」
「わたし、そうかも・・・」
「えっ!そんなことないよ」
「ひどいわ、私、美人じゃないの?」
「美人だよ、でも妖力ないからね。妖力あったらもっと勉強できると思う。さあ休憩はこれくらいにして、数学の勉強しよう」
「もっと、先生のお話聞きたいのに。」
「今日はこれくらいにしないと、時間が無くなっちゃうので、また今度にしよう」


なんとか、我が儘を我慢させ、その後は順調に勉強を終え自宅に帰った。
部屋に帰ると、夏風邪でも引いたのか、急に体がだるくなったので寝ることにした。
ベッドに横になり、目を閉じ今日の話を思い返す。

34) 保元・平治の乱

美登里ちゃんの家庭教師で保元・平治の乱の質問があった。
暗記ばかりになるから面白くないとのこと。

「保元の乱から平治の乱、頼朝と義経の所は面白いんだけども、流れをつかまないとごちゃごちゃになるから気をつけようね。義経記や太平記を読んでおくとすごく判りやすいよ、僕は歴史が好きだったので、中学の時に学校推薦図書で義経記と太平記を読んだよ」
「そんな暇ないわ、先生判りやすく教えて」
「しょうがないな、じゃあ順番に鳥羽法皇、保元・平治の乱と説明していくよ。まず白河法皇が待賢門院を鳥羽法皇に与えて妻とさせた。これはいいんだが、その後がいけない。鳥羽法皇は、我が子崇徳天皇を祖父の白河法皇と妻の待賢門院との間にできた子と疑っていたので、崇徳天皇を退位させてしまった。そして崇徳上皇の弟にあたる、自分が愛する美福門院の子を近衛天皇として即位させた。要は自分の子が、実は自分の父親の子だと思ったので退位させ、弟の方は自分の子と確信していたので即位させたと言うことなんだ」
「ひどい話ね」

「そう、ひどい話だが天皇家にまつわるとんでもない話なんかいっぱいあるよ。そして近衛天皇が崩御すると、今度は崇徳上皇が自分の子の重仁親王の即位を望んだが、父の鳥羽法皇はやっぱり崇徳上皇が気に入らなかったので、美福門院の推す、崇徳上皇のもう一人の弟である雅仁親王を後白河天皇として即位させてしまったんだ。」
「ほんとに骨肉の争いね、待賢門院と美福門院との女同士の戦いもすごいわね」
「そう、女の戦いも凄まじいものがあるね。だから崇徳上皇はもの凄く怨んでいたので、鳥羽上皇が崩御すると、 崇徳上皇と後白河天皇の対立はさらに強くなり、そこに源義朝、平清盛が天皇方に味方し、源為朝は上皇方に味方し賀茂川を挟んで戦かったんだ、そして義朝と清盛の天皇方が勝った。これが保元の乱のいきさつさ。そして保元の乱で勝利した後白河天皇は、皇位を二条天皇に譲り、自らは上皇となり院政を始めたんだ。」
「へー、分かりやすくて、面白いわね。先生ホントにすごいなー。予備校の先生でもできるわよ。人気でるかも。」
「ははは、予備校の講師ね、医者がやれなくなったらそうしようかな。でも家庭教師の方がやっぱりいいな。」
「平治の乱は、保元の乱の時に、源義朝は父親の為義と弟の為朝を敵にまわし、二人を殺害したにもかかわらず、平清盛に比べて、冷遇されたことに不満を持ったんだ。そこで上皇の側近である藤原信西が才能豊かな学者で政治力もあったことに目をつけ、義朝は信西と手を組んで清盛を押さえ込もうと思った。そして義朝の娘婿として信西の息子を貰おうとしたが信西に断わられてしまった。逆に信西は清盛の娘に息子を差し出した。これに義朝は腹を立て、清盛を攻撃することにしたんだ。清盛が熊野に出かけ京を離れた隙に、義朝は、信西と対立していた信頼と手を結び謀反を企て、後白河上皇と二条天皇を閉じ込め、同時に信西を殺害した。ところが清盛は急いで京に戻り天皇と上皇を救い出し義朝軍を打ち破った。義朝と長男の義平は鎌倉を目指して落ち延びようとしたが捕らえられ殺された。これが平治の乱さ。天皇家も源氏も骨肉の争いをしていたんだ」

「よく分かったわ、先生ありがとう。歴史なんて恨み辛みの戦いばかりね。人間って醜いものね。」
「そうだよ、でもね人は騙されてもいいから、人を信じて生きることが大事だと思うよ。騙しの人生なんてするものじゃない」こう言って、自分のしていることと言っていることの間に大きな隔たりがあることを思い出し、言葉がつまった。
「先生どうしたの?」
「ん?いや何、ちょっと考え事してた。ごめんね」